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ツツガムシ病

ツツガムシ病

ツツガムシ病(scrub typhus)とは、ツツガムシの幼虫に刺されることで感染する細菌性の急性熱性疾患です。

主に東アジアや東南アジアの農村部で発生し、日本国内では秋から初冬にかけて多く見られます。

感染者の体には、刺し口と呼ばれる特徴的な皮膚病変が現れ、その後高熱や頭痛、筋肉痛などの症状が続きます。

野外活動後に体に発疹や発熱などの症状が出た場合は、早期発見のために医療機関を受診してください。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

ツツガムシ病の症状

ツツガムシ病は、刺し口という特徴的な皮膚病変から始まり、高熱や全身に及ぶ多様な症状を起こします。

初期症状

ツツガムシ病の初期症状は、感染から1〜2週間の潜伏期間を経て現れます。最も特徴的な症状は「刺し口」と呼ばれる皮膚病変です。

この刺し口は、ツツガムシの幼虫に刺された部位に形成される黒いかさぶたで、直径5〜10mm程度の大きさになります。

刺し口の周囲には赤みや腫れを伴うことが多く痛みはあまりありませんが、かゆみを感じる人もいて、よく見られるのは、脇の下や股間などの柔らかい皮膚や衣服の締め付けの強い部分です。

刺し口の特徴詳細
大きさ直径5〜10mm程度
黒色
形状かさぶた状
周囲の状態赤み、腫れを伴うことが多い
痛みほとんどなし
かゆみ人によってはある

刺し口の形成と同時期に、全身症状が現れます。

  • 高熱(38〜40度)
  • 悪寒
  • 頭痛
  • 全身倦怠感
  • 筋肉痛

進行期の症状

病気が進行すると、さまざまな臓器に影響が及び、症状が深刻化します。

主な症状

  1. 皮膚症状の悪化: 刺し口以外の部位にも赤い発疹が全身に広がり、発疹は点状、斑状、丘疹状など多彩な様相を示す。
  2. リンパ節腫脹: 刺し口の近くのリンパ節が腫れて、触ると痛みを感じる。
  3. 消化器症状: 食欲不振や吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状が現れる。
  4. 呼吸器症状: 咳や息苦しさが現れ、重症化すると間質性肺炎を引き起こすことも。
  5. 神経症状: 頭痛が悪化したり意識障害や錯乱状態になり、まれに髄膜炎や脳炎を併発する場合も。
症状頻度重症度
発熱非常に高い中〜高
発疹高い
リンパ節腫脹中程度低〜中
消化器症状中程度
呼吸器症状低〜中中〜高
神経症状

重症化のサイン

ツツガムシ病は処置を行わないと、重症化するリスクがあります。

医療機関を受診するべき症状

  • 40度を超える高熱が続く
  • 意識レベルの低下や錯乱状態
  • 重度の息苦しさ
  • 持続的な嘔吐や下痢による脱水症状
  • 皮膚の広範囲にわたる紫斑や出血

後遺症と再発

ほとんどの場合ツツガムシ病は治療により完治しますが、まれに後遺症が残ります。

主な後遺症

  • 慢性的な疲労感
  • 筋力低下
  • 集中力の低下
  • 頭痛
  • めまい

症状は時間とともに改善しますが、数か月から1年程度続くこともあります。

一度ツツガムシ病に感染しても完全な免疫は獲得されないため、再び感染する可能性があり、ツツガムシの生息地域に頻繁に出入りする人は注意が必要です。

ツツガムシ病の原因

ツツガムシ病は、ダニの一種であるツツガムシの幼虫が媒介するリケッチア感染症です。

ツツガムシ病の原因生物

ツツガムシ病を起こす病原体は、Orientia tsutsugamushiというリケッチアです。

このリケッチアは、ツツガムシの幼虫が人間の皮膚に付着して吸血する際に体内に侵入します。

ツツガムシの生態と感染経路

ツツガムシは成虫や若虫の時期には植物の汁を吸って生活する一方、幼虫期には動物の血液が必要です。人間がツツガムシの生息地に立ち入ると、幼虫が皮膚に付着して吸血を開始します。

ツツガムシの生活環特徴
土壌中で孵化
幼虫(チigger)動物の血液を吸う
若虫植物の汁を吸う
成虫植物の汁を吸う

感染リスクの高い環境

ツツガムシ病の感染リスクは、環境によって大きく変動します。

感染の危険性が高い環境

  • 草むら
  • 河川敷
  • 田畑の周辺

また、季節による感染リスクの変動も見られ、日本では秋から初冬にかけて患者数が増加します。

ツツガムシ病の地理的分布

ツツガムシ病の発生場所は、主にアジア太平洋地域です。

国名発生状況
日本全国的に発生、特に西日本で顕著
韓国南部を中心に発生
中国南部地域で発生
インド北部地域で発生
タイ全土で発生

予防策の重要性

ツツガムシ病の予防には、ツツガムシとの接触を回避することが最も効果的です。

  1. 長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を極力抑える
  2. 虫除けスプレーを活用する
  3. 地面に直接座ったり寝転んだりしない
  4. 屋外活動後は迅速にシャワーを浴び、衣服を洗濯する

ツツガムシ病の検査・チェック方法

ツツガムシ病の診断は、患者さんの症状や感染リスクの評価、身体診察、そして血液検査や遺伝子検査などの複数の検査を組み合わせて行います。

初期評価

ツツガムシ病の診断は問診から始まり、患者さんの症状、発症時期、野外活動の有無などを確認します。特に、ツツガムシの生息地域への訪問歴や、草むらでの活動歴は重要な情報です。

問診に続いて、身体診察を行います。この際、注意を払うのが「刺し口」の有無です。

刺し口は、ツツガムシ病に特徴的な皮膚病変で、直径5〜10mm程度の黒いかさぶたとして現れます。

問診での確認事項身体診察の注目点
症状の種類と発症時期刺し口の有無と位置
野外活動の有無発疹の有無と特徴
ツツガムシ生息地域への訪問歴リンパ節の腫れ
虫刺されの自覚発熱の程度

血液検査

身体診察の後、血液検査を行います。

ツツガムシ病の診断に有用な血液検査

  1. 一般血液検査:ツツガムシ病では白血球数の減少や血小板数の減少が見られる。
  2. 肝機能検査:ツツガムシ病では肝機能障害が起こる。
  3. 凝固系検査:DIC(播種性血管内凝固症候群)の可能性を調べるために、PT(プロトロンビン時間)やAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を確認。
  4. 血清学的検査:血清中にツツガムシ病の原因菌(Orientia tsutsugamushi)に対する抗体があるかを調べる。

遺伝子検査

血液検査に加えてより確実な診断のために遺伝子検査を行うことがあり、用いられるのはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法です。

患者さんの血液や皮膚組織からDNAを抽出し、Orientia tsutsugamushiの遺伝子を直接検出します。

PCR法は非常に感度が高く、発症初期でも原因菌を検出できるのが利点です。

検査方法特徴診断的価値
血清学的検査抗体を検出発症後1週間程度で陽性
PCR法菌のDNAを直接検出発症初期から陽性

鑑別診断

ツツガムシ病の症状は、他の感染症と似ていることがあるため、鑑別診断が重要です。

注意すべき疾患

  • デング熱
  • チフス
  • レプトスピラ症
  • 日本紅斑熱

鑑別には問診、身体所見の特徴、そして各種検査結果を総合的に判断します。

ツツガムシ病の治療法と治療薬について

ツツガムシ病の治療は、テトラサイクリン系抗生物質のドキシサイクリンを7-14日間投与し、症状に応じて対症療法を併用します。

ツツガムシ病の標準的治療法

ツツガムシ病の治療で最も効果的な方法は抗生物質療法で、テトラサイクリン系抗生物質のドキシサイクリンが第一選択薬です。

ドキシサイクリンは、ツツガムシ病の原因となるOrientia tsutsugamushiに対して強い殺菌作用を持ち、症状を改善します。

標準的な投与方法

年齢投与量投与回数
成人100mg1日2回
小児2.2mg/kg1日2回

治療期間は、7-14日間です。

代替薬の選択肢

ドキシサイクリンを使用できないケース、妊婦や8歳未満の小児、薬剤アレルギーがある患者さんなどには、代替薬を選びます。

代表的な代替薬

  1. クロラムフェニコール
  2. アジスロマイシン
  3. リファンピシン

対症療法

抗生物質療法と並行して、患者さんの症状を和らげるための対症療法も大切です。

対症療法

  • 解熱鎮痛剤:発熱や痛みを軽減
  • 抗ヒスタミン薬:発疹や痒みを抑制
  • 輸液療法:脱水症状の改善

合併症への対応

ツツガムシ病は治療を行わないと、深刻な合併症を起こすことがあります。

合併症と対応方法

  • 脳髄膜炎:抗生物質の増量や脳圧亢進に対する治療
  • 心筋炎:心機能のモニタリングと必要に応じた循環器系の管理
  • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS):人工呼吸器管理を含む集中治療

薬の副作用や治療のデメリットについて

ツツガムシ病の治療には抗菌薬を使用し、薬の種類や患者さんの状態によっては様々な副作用やリスクが生じます。

主な治療薬と副作用

ツツガムシ病の治療には、テトラサイクリン系抗菌薬を使用します。

中でもミノサイクリンやドキシサイクリンが第一選択薬ですが、高い有効性を示す一方で、いくつかの副作用があります。

テトラサイクリン系抗菌薬の最もよく見られる副作用は、消化器系の症状です。

    • 吐き気
    • 嘔吐
    • 腹痛
    • 下痢

    症状は軽度から中等度で、薬の服用を中止すると改善します。

    また、テトラサイクリン系抗菌薬には光線過敏症を起こすリスクがあります。

      • 日光に当たった部分の発赤
      • かゆみ
      • 腫れ
      • 水疱形成

      光線過敏症を予防するために、薬物療法中は日光や紫外線への露出を最小限に抑えてください。

      副作用症状対処法
      消化器系症状吐き気、嘔吐、腹痛、下痢食事と一緒に服用、医師に相談
      光線過敏症発赤、かゆみ、腫れ、水疱日光遮断、日焼け止め使用

      特定の患者群におけるリスク

      ツツガムシ病の治療において、特定の患者群では追加的なリスクや注意点があります。

      妊婦への投与

      テトラサイクリン系抗菌薬は胎盤を通過し、胎児に影響を与えます。

        • 胎児の歯の着色や発育不全
        • 胎児の骨格形成への影響

        妊娠後期(妊娠28週以降)の投与は特に注意が必要で、可能な限り避けます。代替薬としてアジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬を検討することもありますが、独自のリスクがあるため、慎重な判断が必要です。

        小児への投与

        8歳未満の小児にテトラサイクリン系抗菌薬を投与することは、推奨されません。

          • 永久歯の着色リスク
          • 歯のエナメル質形成不全の可能性
          • 骨成長への潜在的影響
          患者群リスク代替策
          妊婦胎児への影響(歯、骨格)マクロライド系抗菌薬の検討
          小児(8歳未満)永久歯の着色、骨成長への影響クロラムフェニコールの検討

          薬物相互作用と注意点

          ツツガムシ病の治療に用いる抗菌薬は他の薬剤と相互作用を起こし、薬の効果が減弱したり、副作用のリスクが高まったりします。

          • 制酸薬(胃酸を中和する薬)と同時に服用すると吸収が阻害されるので、服用時間を2〜3時間以上空ける。
          • 経口避妊薬の代謝に影響を与えるため、抗菌薬治療中および治療終了後1週間は、追加の避妊方法を併用。
          • 抗菌薬の使用により、ワルファリン(血液凝固阻害薬)の抗凝固作用が増強され、より頻繁なモニタリングが必要。

          保険適用と治療費

          お読みください

          以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

          ツツガムシ病の標準的な治療費用

          標準的な治療では、テトラサイクリン系抗生物質のドキシサイクリンを7-14日間投与します。

          項目概算費用(保険適用前)
          抗生物質(ドキシサイクリン)5,000円 – 10,000円
          入院費用(1日あたり)15,000円 – 30,000円
          血液検査5,000円 – 10,000円
          画像診断(胸部X線など)5,000円 – 15,000円

          保険適用による自己負担の軽減

          ツツガムシ病は保険適用の対象疾患であるため、自己負担額は軽減します。

          治療期間概算総費用保険適用後の自己負担額(3割負担の場合)
          1週間10万円 – 20万円3万円 – 6万円
          2週間20万円 – 40万円6万円 – 12万円

          合併症による追加費用

          ツツガムシ病が重症化し合併症が発生した場合、追加の治療が必要です。

          • 脳髄膜炎:追加の抗生物質投与、脳圧モニタリング、頭部CT/MRI検査など(約10万円 – 30万円)
          • 心筋炎:心電図モニタリング、心エコー検査、集中治療室での管理など(約20万円 – 50万円)
          • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS):人工呼吸器管理、集中治療室での長期滞在など(約50万円 – 100万円以上)

          以上

          参考文献

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          大垣中央病院・こばとも皮膚科

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