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ライム病

ライム病

ライム病(Lyme disease)は、マダニが媒介する細菌感染症です。

シカマダニが原因となり、北米や欧州、アジアの特定地域で発生し、感染時には、特徴的な赤い輪状の発疹「遊走性紅斑」が現れます。

初期症状は軽微なことが多いものの、対応を怠ると重篤な合併症に発展するので、早期発見と迅速な対処が鍵です。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

ライム病の症状

ライム病は、マダニが媒介する細菌感染症で、多彩な皮膚症状と全身症状を起こします。

初期症状

ライム病の初期段階で最も注目すべきは、遊走性紅斑と呼ばれる特異的な皮膚変化です。この症状は感染から3〜30日ほどで現れます。

  • 赤い斑点から始まり、次第に拡大
  • 中央部が淡く、周囲が赤い輪状の発疹
  • 直径5cm超に及ぶこともある
  • ほとんど痒みや痛みを伴わない
  • 身体のどの部位にも出現する可能性がある

ただし、遊走性紅斑はライム病の診断において非常に有用な指標ですが、全ての感染者に見られるわけではありません。

全身症状

ライム病では、初期の皮膚症状に続いて感染後数日から数週間で、インフルエンザに似た全身症状が起きます。

症状特徴
発熱軽度の微熱から高熱
倦怠感全身のだるさや疲労感
頭痛持続的な痛みや圧迫感
筋肉痛全身の筋肉の痛みや違和感
関節痛特に大きな関節の痛みや腫れ

症状は一時的なものもありますが、対応がなされないと長引きます。

進行期の症状

ライム病が進行すると様々な臓器に影響を及ぼし、より深刻な症状が現れます。

進行期の症状

  • 神経系への影響
  • 顔面神経麻痺
  • 髄膜炎様症状(激しい頭痛、首の硬直)
  • 末梢神経障害(しびれ、鋭い痛み)

心臓への影響

  • 不整脈
  • 心筋炎

関節への影響

  • 関節炎(膝関節に多い)
  • 関節の著しい腫れや痛み

慢性的な皮膚症状

  • 慢性萎縮性肢端皮膚炎

    皮膚症状は感染から数週間後、数か月後、時には数年後に現れ、診断を困難にする要因です。

    ライム病の原因

    ライム病は、マダニによって媒介されるボレリア属の細菌感染が原因で発生する皮膚障害です。

    マダニによる感染経路

    ライム病の原因は、ボレリア・ブルグドルフェリという細菌の感染です。

    ボレリア・ブルグドルフェリはマダニによって媒介され、マダニが人間の皮膚に付着し吸血する際に、保有している細菌が人体に侵入することで感染が始まります。

    マダニの種類生息地活動時期
    シュルツェマダニ北海道、本州北部春~秋
    ヤマトマダニ本州、四国、九州通年
    タカサゴキララマダニ西日本春~秋

    ボレリア属細菌の特徴

    ボレリア属の細菌はスピロヘータと呼ばれる螺旋状の形態を持つ微生物で、この形状により細菌の移動性が高まり、感染の拡大につながります。

    ボレリア・ブルグドルフェリ複合体には複数の菌種が含まれており、地域によって優勢な菌種が異なります。

    • ボレリア・ブルグドルフェリ sensu stricto
    • ボレリア・ガリニ
    • ボレリア・アフゼリ
    • ボレリア・ミヤモトイ

    感染リスクを高める環境要因

    ライム病の感染リスクは、環境要因によって大きく左右されます。

    森林や草地、藪のような自然環境に頻繁に立ち入る機会があると、マダニに咬まれるリスクが高いです。

    環境要因リスク度注意点
    森林地帯下草が多い場所に注意
    草原長袖・長ズボンの着用が重要
    都市部の公園低~中ペットを介した感染に注意

    気候条件もマダニの活動に影響を与え、温暖で湿度の高い環境は、マダニの繁殖と生存に適しています。

    宿主動物の役割

    ライム病を起こす細菌はマダニだけでなく、野生動物の体内にも存在し、細菌の保有者(リザーバー)として機能し、マダニを介して人間への感染を促進します。

    宿主は、小型哺乳類、特にネズミ類やリス、鳥類です。

    季節性と感染リスク

    ライム病の感染リスクには明確な季節性が見られ、マダニの活動が活発になる春から秋にかけて、感染の危険性が増大します。

    特に、初夏から真夏にかけては、アウトドア活動の増加とマダニの活動ピークが重なるため、最も警戒が必要な時期です。

    屋外活動の際には、長袖や長ズボンの着用、虫除け剤の使用など、防護策を取ることが推奨されます。

    ライム病の検査・チェック方法

    ライム病の診断は、症状や曝露歴の聴取、身体診察、そして血清学的検査を組み合わせて進められます。

    初期評価

    ライム病の診断はまず徹底的問診から始まり、患者さんの症状の経過、マダニ咬傷の可能性がある行動歴、地理的な要因を聴取します。

    押さえるべき点

    • マダニの生息地への立ち入り歴
    • 野外活動の頻度と内容
    • 症状の出現時期と進行パターン
    • 他の疾患の既往

    問診に続いて全身の身体診察が行われ、特に注目されるのは皮膚症状で、遊走性紅斑有無はライム病の初期診断において重要な指標です。

    血清学的検査

    ライム病の確定診断には、血清学的検査が欠かせません。

    検査方法は、2段階のアプローチを取ります。

    1. ELISA(酵素免疫測定法)または IFA(間接蛍光抗体法)
    2. ウェスタンブロット法
    検査段階検査方法特徴
    第1段階ELISA/IFA感度が高く、スクリーニングに適する
    第2段階ウェスタンブロット特異度が高く、偽陽性を除外できる

    第1段階の検査で陽性または判定保留となったときに、第2段階のウェスタンブロット法による確認検査が実施されます。

    ただし、血清学的検査が陰性でも、臨床症状が強く疑わしい場合は、再検査や別の診断の検討が必要です。

    補助的診断手法

    血清学的検査に加えて、特定の状況下では他の診断手法も用いられます。

    診断方法適用場面特徴
    PCR検査関節液、脳脊髄液の分析感染初期や特定症状での検出に有効
    培養検査皮膚生検、体液サンプル確定診断には有用だが、時間を要する

    PCR検査や培養検査は、血清学的検査で結果が曖昧なときや、臓器症状が見られる際に補助的に活用されます。

    自己チェックの意義

    ライム病の早期発見には、自己チェックが大切です。

    マダニの生息地域での活動後は、以下の点に注意して自己点検を行ってください。

    • 全身の皮膚を丹念に観察する
    • 特に暖かく湿った部位(脇の下、鼠径部、膝窩など)を重点的に確認
    • 微小な黒点や赤い斑点の有無をチェック
    • 違和感や疼痛を感じる部位がないか注意深く触診

    ライム病の治療法と治療薬について

    ライム病の治療は経口抗菌薬の投与によって行われ、治療期間は2〜4週間です。

    抗菌薬治療の基本方針

    ライム病の治療において、抗菌薬の使用が最も重要です。

    ボレリア属細菌に効果的な抗菌薬を選択することで、感染を制御し、症状の改善を図ります。

    抗菌薬の選択はライム病の進行段階や患者さんの状態によって異なり、早期のライム病では経口抗菌薬が第一選択ですが、進行した場合や合併症がある際には、静脈内投与が必要です。

    抗菌薬投与経路適応症例
    ドキシサイクリン経口成人、小児(8歳以上)
    アモキシシリン経口妊婦、小児
    セフロキシム経口ペニシリンアレルギーの患者

    治療期間と経過観察

    ライム病の治療期間は2〜4週間ですが、初期段階のライム病では短期間の治療で十分な効果が得られるのに対し、進行した症例では、より長期の治療が求められます。

    治療段階期間目標
    初期治療2〜3週間症状の速やかな改善
    延長治療4週間以上持続症状の解消
    経過観察3〜6ヶ月再発の防止と後遺症の評価

    特殊なケースにおける治療法

    妊婦や小児、高齢者など、特別な配慮が必要な患者群では、治療法を個別に調整します。

    妊婦の場合はドキシサイクリンが禁忌となるため、アモキシシリンやセファロスポリン系抗菌薬が選択されます。

    また、神経系症状や心臓症状を伴う進行したライム病では、より強力な抗菌薬治療や入院管理が必要です。

    • 妊婦:アモキシシリンまたはセファロスポリン系抗菌薬
    • 小児(8歳未満):アモキシシリン
    • 神経症状を伴う場合:セフトリアキソン(静脈内投与)
    • 心臓症状を伴う場合:セフトリアキソンまたはペニシリンG(静脈内投与)

    薬の副作用や治療のデメリットについて

    ライム病の治療は抗生物質を用いて行われますが、薬剤には様々な副作用やリスクが伴い、長期治療に関連する問題もあります。

    抗生物質治療の基本と副作用

    ライム病の治療では、ドキシサイクリン、アモキシシリン、セフトリアキソンなどの抗生物質が使用され、薬剤は効果的ですが、同時に副作用のリスクも伴います。

    抗生物質副作用
    ドキシサイクリン光線過敏症、胃腸障害、めまい
    アモキシシリン発疹、下痢、悪心
    セフトリアキソンアレルギー反応、胆石形成、血液障害

    副作用は多くの場合一時的で軽度ですが、時に重篤な症状を起こします。

    • アレルギー反応:薬疹や、稀にアナフィラキシーショック
    • 腸内細菌叢の乱れ:抗生物質による善玉菌の減少と、それに伴う消化器症状
    • 耐性菌の出現:長期使用による耐性菌の発生リスク

    静脈内投与に伴うリスク

    重症例や特定の症状を持つ患者さんでは抗生物質の静脈内投与が必要になることがあり、いくつかのリスクがあります。

    リスク詳細
    カテーテル関連感染症長期留置カテーテルによる細菌感染
    血栓症カテーテル周囲の血栓形成
    投与ミス薬剤の誤投与や投与量の誤り

    リスクは入院管理や専門的なケアによって軽減できますが、完全に排除することは難しいです。

    薬物相互作用と併存疾患への影響

    ライム病治療に用いられる抗生物質は、他の薬剤と相互作用を起こすことがあります。

    注意が必要な薬剤

    • 経口避妊薬の効果減弱
    • 抗凝固薬(ワルファリンなど)の効果増強
    • 制酸剤によるテトラサイクリン系抗生物質の吸収阻害

    また、既存の健康問題がある患者さんでは、抗生物質治療が状態を悪化させることもあります。

    • 肝機能障害のある患者での肝毒性リスク増大
    • 腎機能障害のある患者での薬物排泄遅延
    • 自己免疫疾患患者での症状悪化

    妊婦と小児への特別な配慮

    妊婦や小児のライム病治療には、特別な注意が必要です。

    妊婦の場合

    • テトラサイクリン系抗生物質の使用制限(胎児の歯や骨の発育に影響)
    • アモキシシリンやセファロスポリン系抗生物質の優先使用

    小児の場合

    • 8歳未満の子どもへのドキシサイクリン使用制限(歯の変色リスク)
    • 年齢や体重に応じた慎重な投与量調整

    保険適用と治療費

    お読みください

    以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

    ライム病治療の費用

    ライム病の治療費は、主に診断検査費用と抗菌薬治療費用です。

    項目保険適用後の費用(円)
    血液検査3,000 ~ 5,000
    PCR検査10,000 ~ 15,000
    抗菌薬治療(2週間)5,000 ~ 10,000
    抗菌薬治療(4週間)10,000 ~ 20,000

    重症度による治療費

    ライム病の症状が進行するとより複雑な治療を行い、神経系症状や心臓症状を伴う場合は、入院治療になります。

    • 外来治療(軽症~中等症):2万円 ~ 5万円
    • 入院治療(重症):10万円 ~ 30万円以上

    長期的な治療と経過観察にかかる費用

    ライム病の中には慢性的な症状が残ったり再発するケースがあり、長期的な治療や定期的な経過観察が必要です。

    項目頻度保険適用後の費用(円)
    定期検査3~6ヶ月ごと5,000 ~ 10,000
    追加治療必要に応じて10,000 ~ 30,000
    リハビリテーション週1~2回1回あたり 3,000 ~ 5,000

    以上

    参考文献

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    大垣中央病院・こばとも皮膚科

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