伝染性紅斑・リンゴ病(erythema infectiosum)は、パルボウイルスB19が原因となる感染症の一つです。
この病気は主に学童期の子供たちに発症しますが、成人での罹患も報告されています。
両頬に鮮やかな赤い発疹が現れるのが特徴で、見た目からリンゴ病という通称で知られています。
飛沫を介して容易に感染が広がるため、集団生活の場での流行にも注意が必要です。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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伝染性紅斑・リンゴ病の症状
伝染性紅斑(リンゴ病)は、顔面に現れる特徴的な紅斑から始まり、その後全身に独特の発疹が広がります。
初期症状
伝染性紅斑の初期症状として最も目立つのは、両頬に現れる鮮やかな紅斑です。この症状がリンゴのような赤い頬に見えることから、「リンゴ病」という通称で呼ばれています。
紅斑は通常、左右対称に現れ、頬の中心部が赤くなる一方で、口周辺は比較的色が薄いです。
発疹の進展
顔面の紅斑が現れたあと、発疹は体の他の部位へと拡大していき、上腕や大腿部、体幹に出現しやすい傾向が見られます。
この段階での発疹は、網目状や花輪状のパターンを呈することが多く、独特の外観です。
発症部位 | 発疹の特徴 |
顔面 | 両頬の鮮明な紅斑 |
体幹 | 網目状・花輪状の発疹 |
四肢 | まだら模様の発疹 |
症状の変動
伝染性紅斑の症状は、時間の経過とともに変化します。
初期の発疹が消えた後も、一時的に悪化したり、再び現れたりすることがあります。
変化する要因
- 入浴や運動による体温の上昇
- 太陽光への曝露
- 心理的ストレス
- 気温の変動
症状の変動は、病気の経過中に複数回繰り返されることがあります。
随伴症状
発疹以外にも、伝染性紅斑にはさまざまな随伴症状が現れます。
症状 | 出現頻度 | 特徴 |
発熱 | 低い | 通常は軽度 |
倦怠感 | 中程度 | 数日間続く |
関節痛 | 高い(特に成人) | 数週間持続することも |
掻痒感 | 個人差大 | 発疹に伴って出現 |
症状の持続期間と経過
伝染性紅斑の症状は1〜3週間程度で自然に軽快していきますが、関節痛は数週間から数か月続くこともあります。
伝染性紅斑・リンゴ病の原因
伝染性紅斑・リンゴ病の原因はパルボウイルスB19の感染で、ウイルスは強い感染力を持ち、呼吸器を介して人から人へと広がります。
パルボウイルスB19の特性
パルボウイルスB19は、パルボウイルス科に分類される小さなDNAウイルスです。
環境中での生存力が高く、外部でも長期間活性を保ちます。この特徴により、一度感染が始まると集団内で急速に拡大します。
感染経路と拡散方法
リンゴ病は飛沫を通じて広がります。
感染者の咳やくしゃみ、会話中の唾液に含まれるウイルスが空中に放出され、それを他者が吸入することで感染が成立。
また、感染者の体液や分泌物との直接接触でも感染する場合があります。
感染経路 | 例 |
飛沫感染 | 咳、くしゃみ、会話 |
接触感染 | 体液、分泌物との直接接触 |
感染リスクを高める要因
以下の条件下では、感染の危険性が高いです。
- 学校や保育園などの集団生活環境
- 衛生状態が良好でない場所
- 免疫力が低下している状態
- 妊娠中
ウイルスの潜伏期と感染力
パルボウイルスB19は感染から発症までの期間が長いのが特徴です。
4〜14日ほどの潜伏期間を経て症状が現れ、潜伏期間中でも感染力があります。
期間 | 状態 |
0〜14日 | 潜伏期(無症状だが感染力あり) |
14日以降 | 発症(症状出現、感染力最大) |
季節による流行の傾向
リンゴ病には季節性があり、春から初夏にかけて流行しやすいです。
この時期は子どもたちの活動が活発になり、接触機会が増えることが要因の一つで、数年おきに大規模な流行が発生します。
伝染性紅斑・リンゴ病の検査・チェック方法
伝染性紅斑(リンゴ病)の診断は、特徴的な発疹パターンの臨床所見に基づいて行われますが、確定診断には血液検査によるウイルス抗体の検出が必要です。
臨床診断
伝染性紅斑の診断において、最も重視されるのは特徴的な発疹パターンの観察です。
注目する点
- 両頬の鮮やかな紅斑(蝶形紅斑)
- 体幹や四肢の網目状・花輪状の発疹
- 発疹の消退と再燃のパターン
これらの症状が現れている際は、臨床診断のみで伝染性紅斑と診断できます。
血液検査
臨床診断を補完し確定診断を行うために、血液検査が実施されます。
検査項目 | 検査内容 | 診断的意義 |
パルボウイルスB19 IgM抗体 | 急性感染の指標 | 陽性であれば最近の感染を示唆 |
パルボウイルスB19 IgG抗体 | 過去の感染や免疫の指標 | 陽性であれば過去の感染を示唆 |
IgM抗体が陽性だと現在進行中の感染を示し、IgG抗体のみが陽性の場合は、過去に感染したことを意味します。
鑑別診断
伝染性紅斑は他の発疹性疾患と症状が似ていることがあるため、鑑別診断が大切です。
鑑別診断が必要な疾患
- 麻疹(はしか)
- 風疹
- 薬疹
- アレルギー性皮膚炎
鑑別には、発疹の特徴や経過、血液検査結果などを総合的に評価することが不可欠です。
特殊なケース
妊婦が伝染性紅斑に感染すると胎児への影響が懸念されるため、特別な配慮が必要です。
検査項目 | 目的 | 実施時期 |
妊婦の血清検査 | 母体の感染状況確認 | 発症時または接触後 |
胎児の超音波検査 | 胎児水腫の有無確認 | 定期的に実施 |
フォローアップ検査
伝染性紅斑は自然に治癒する疾患ですが、一部の患者さんでは関節症状が長引き、検査が必要になります。
- 関節のX線検査
- 血液検査(炎症マーカーの確認)
- 関節エコー検査
伝染性紅斑・リンゴ病の治療方法と治療薬について
伝染性紅斑・リンゴ病は主に対症療法で管理され、特効薬はなく、2〜3週間で自然治癒します。
対症療法の基本方針
リンゴ病への対応は、患者さんの苦痛を軽減することが中心で、ウイルス性疾患のため抗生物質の投与は効果がありません。
発熱や痒みといった不快症状をやわらげる対症療法を行います。
症状別の治療戦略
熱が出た際は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が選択されます。
皮疹や痒みに対しては、抗ヒスタミン薬や外用ステロイド薬が有効です。
症状 | 推奨薬剤 |
発熱 | アセトアミノフェン、イブプロフェン |
皮疹・痒み | 抗ヒスタミン薬、外用ステロイド薬 |
合併症への対処法
まれに関節痛や貧血といった合併症が発生します。
関節痛には NSAIDs が効果的で、深刻な貧血がある方には、輸血が検討されます。
特殊な患者群への対応
妊婦や免疫機能が低下している患者さんは、特別な配慮が必要なケースがあります。
妊婦の感染では胎児への影響が心配されるため、経過観察が欠かせません。
免疫機能が低下している患者さんでは重症化するリスクが高く、入院での管理が必要です。
患者群 | 治療方針 |
妊婦 | 綿密な経過観察、必要に応じて胎児モニタリング |
免疫機能低下患者 | 入院管理、重症化の予防 |
回復期の留意点
症状がやわらぎ始めても、完治するまでは無理をしないことが大切です。
気を付ける点
- 十分な睡眠時間の確保
- こまめな水分摂取
- 強い日差しを避ける
- 激しい身体活動を控える
薬の副作用や治療のデメリットについて
伝染性紅斑(リンゴ病)の治療は主に対症療法であり、使用される薬剤の副作用や治療に伴うリスクは比較的軽微ですが、患者さんの状態によっては注意を要することがあります。
対症療法の基本と潜在的リスク
伝染性紅斑の治療は主に症状緩和を目的とした対症療法が中心です。
用いられる薬剤とリスク
薬剤 | 目的 | 潜在的な副作用 |
解熱鎮痛剤 | 発熱・痛み緩和 | 胃腸障害、肝機能障害 |
抗ヒスタミン薬 | かゆみ軽減 | 眠気、口内乾燥 |
外用ステロイド剤 | 炎症抑制 | 皮膚萎縮、色素沈着 |
これらの薬剤は一般的に安全性が高いものの、長期使用や過剰使用にはが注意が必要です。
解熱鎮痛剤使用時の注意点
解熱鎮痛剤は伝染性紅斑の症状緩和に効果的ですが、以下のようなリスクがあります。
- 胃腸障害(胃痛、消化不良)
- 肝機能障害(まれに重篤な場合も)
- アレルギー反応(発疹、呼吸困難)
- ライ症候群(特に小児のアスピリン使用時)
抗ヒスタミン薬のデメリット
かゆみを抑えるために使用される抗ヒスタミン薬には、いくつかの副作用が見られます。
副作用 | 頻度 | 対処法 |
眠気 | 高 | 就寝前の服用を検討 |
口内乾燥 | 中 | 水分摂取を増やす |
便秘 | 低 | 食事療法、運動 |
めまい | 低 | 用量調整、医師に相談 |
副作用は一時的なものが多く、薬の中止により改善します。
ステロイド外用薬の長期使用リスク
重症例や難治性の症例ではステロイド外用薬が処方されることがありますが、長期使用にはリスクがあります。
- 皮膚萎縮
- 毛細血管拡張
- 皮膚感染症の誘発
- 色素沈着・脱色素
副作用を避けるため、ステロイド外用薬の使用は指示に従い、必要最小限にとどめることが大切です。
特殊なケース
妊婦が伝染性紅斑に罹患した場合、胎児への影響を考慮しながら治療を行う必要があります。
注意する点
- 一部の薬剤は胎児に悪影響を与える可能性があるため、使用を控える
- 解熱鎮痛剤の使用は慎重に行い、アセトアミノフェンを優先する
- 抗ヒスタミン薬の使用は極力避ける
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
治療費の内訳
リンゴ病の治療費は、主に診察料と薬剤費で構成されます。
1回の受診で3,000円から5,000円程度で、治療期間中2〜3回の受診が必要となるケースが多いです。
項目 | 概算費用(自己負担額) |
診察料 | 1,000円〜2,000円 |
血液検査 | 1,000円〜3,000円 |
薬剤費 | 1,000円〜2,000円 |
合併症がある場合の追加費用
関節痛や貧血などの合併症が発生した場合追加の検査や治療が必要で、貧血の治療のために輸血を行うと、10,000円から20,000円程度の追加費用が発生します。
長期化した場合の費用
リンゴ病は2〜3週間で自然治癒しますが、症状が長引くケースがあります。
長期化した場合の追加費用は、1ヶ月あたり10,000円から20,000円程度です。
治療期間 | 概算総費用(自己負担額) |
通常(2〜3週間) | 6,000円〜15,000円 |
長期化(1ヶ月以上) | 16,000円〜35,000円 |
以上
参考文献
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