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麻疹

麻疹

麻疹(measles)とは、極めて強い伝染力を持つウイルス性疾患です。

空気中や飛沫を介して伝播し、感染初期には、高熱や咳嗽、鼻汁など、一般的な風邪と似た症状が現れます。

病状の進行に伴い、口腔内に白色の斑点(コプリック斑)が認められ、その後全身に紅斑が拡大します。

重篤な合併症として肺炎や脳炎を起こし、特に乳幼児や免疫機能が低下している患者さんでは重症化するリスクが上昇するので、注意が必要です。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

麻疹の症状

麻疹は高熱と全身に広がる特徴的な発疹を主症状とする、感染力が非常に強いウイルス性疾患です。

初期症状

麻疹の初期症状は一般的な風邪と似ていて、ウイルス感染から約10日後に以下のような症状現れ、3〜4日持続します。

  • 38℃を超える発熱
  • 乾いた咳嗽
  • 鼻汁
  • 結膜炎様症状(眼の充血・疼痛)
  • 全身倦怠感

コプリック斑

初期症状から2〜3日経過すると、口腔内にコプリック斑と呼ばれる特徴的な白斑が観察されます。この所見は麻疹に特異的で、臨床診断における重要な指標です。

項目詳細
外観微小な白色または灰白色の斑点
発生部位頬粘膜内側
サイズ直径1〜3mm程度
持続時間24〜48時間程度で消失

発疹

コプリック斑出現から1〜2日後、麻疹の代表的な症状である発疹が現れます。

経過特徴
初発耳後部や前頭部髪際から出現
拡大顔面、頸部、体幹へと進展
極期全身に及び、紅斑の程度が増強
消退期出現順に退色・消失

発疹は通常4〜7日間持続し、その後徐々に褪色していきます。

合併症への警戒

麻疹は単純な発疹性疾患ではなく、重大な合併症を引き起こす危険性があるため、十分な注意が必要です。

次のような症状が現れた場合は、速やかに医療機関での診察を受けてください。

  • 遷延する高熱
  • 強度の頭痛
  • 意識レベルの変容
  • 呼吸困難

回復期の症状

発疹消失後も、一定期間以下のような症状が持続することがあります。

  • 倦怠感
  • 食思不振
  • 下痢症状
  • 皮膚の乾燥・落屑

これらの症状は、2〜3週間かけて少しづつ改善します。

麻疹の原因

麻疹の原因はパラミクソウイルス科に分類される麻疹ウイルスの感染で、高い伝染力があり、空気中や飛沫を介して容易に拡散します。

麻疹ウイルスの特性

麻疹ウイルスは一本鎖RNAを遺伝物質とし、外殻(エンベロープ)を持つ球状のウイルスです。このウイルスは、ヒトの細胞内に侵入して増殖し、感染を起こします。

項目内容
分類群パラミクソウイルス科
遺伝子構造一本鎖RNA
形態球状
外殻存在する

伝播経路

麻疹ウイルスの主な伝播経路

  1. 空気感染
  2. 飛沫感染
  3. 接触感染

感染者の咳やくしゃみに含まれるウイルスが空気中を漂い、吸入することで感染が成立します。また、感染者との直接的な接触や、ウイルスが付着した物体を介した間接的な接触によっても感染します。

感染のプロセス

麻疹ウイルスは人体の上気道や肺胞の細胞に侵入し増殖を始め、ウイルスは細胞内で複製され、やがて血流に乗って全身に拡散します。

フェーズ経過
1上気道・肺胞細胞への侵入
2ウイルスの自己複製
3血流を通じた全身拡散
4免疫系の応答

感染リスクの高い環境と条件

麻疹の感染リスクは、以下のような環境や条件下で上昇します。

  • 換気の悪い閉鎖空間
  • 人口密集地域
  • ワクチン接種率の低い地域
  • 海外渡航(特に麻疹流行地域)

予防の必要性

麻疹は非常に強い伝染力を持つため予防が非常に重要で、最も有効な予防策はワクチン接種です。定期的なワクチン接種により、個人の免疫獲得だけでなく、集団免疫の形成にも寄与します。

麻疹の検査・チェック方法

麻疹の診断は特徴的な症状の観察、問診、そして各種検査結果を総合的に評価して行われます。

臨床診断

麻疹の臨床診断は、特有の症状と経過の観察を基に進められます。患者さんの症状、発症のプロセス、および感染源との接触歴を調べることが重要です。

臨床診断で着目される主要症状

  1. 高熱(38℃を超える)
  2. カタル症状(咳嗽、鼻汁、結膜炎)
  3. コプリック斑(頬粘膜内側の白色斑点)
  4. 特徴的な皮疹
症状発現時期特徴
発熱初期段階38℃を超える高体温
カタル症状初期段階上気道炎に類似した症状
コプリック斑皮疹出現前口腔内に現れる白色の斑点
皮疹発熱後3-5日目全身に広がる紅斑性発疹

血清学的検査による診断

抗体検査は現在の感染状況や、過去の免疫獲得状態を確認するために実施されます。

主要な血清学的検査項目

  1. IgM抗体検査:急性期感染の判定
  2. IgG抗体検査:既往感染や予防接種による免疫の評価
  3. ペア血清検査:IgG抗体価の上昇を確認
検査項目目的判定基準
IgM抗体急性期感染の判定陽性の場合、現在の感染を示唆
IgG抗体既往感染や免疫の評価陽性の場合、過去の感染や免疫獲得を示唆
ペア血清IgG抗体価の上昇確認4倍以上の上昇で感染を確定

ウイルス検出手法

ウイルス検出法は麻疹ウイルスの存在を直接証明する手法で、PCR法や培養法などが用いられ、確定診断に有用です。

麻疹の治療方法と治療薬について

麻疹の治療は症状緩和を目的とした対症療法が中心で、解熱剤や鎮咳薬の投与、十分な休養と水分補給を行い、2〜3週間で寛解に至ります。

対症療法

麻疹ウイルスに直接作用する抗ウイルス薬は現在のところ開発されていません。そのため、治療の中心は患者さんの症状をやわらげ体力を温存しつつ、自然な免疫応答を支援することにあります。

対処療法

  1. 解熱鎮痛薬の処方
  2. 咳を抑える薬剤の使用
  3. 水分の積極的な摂取
  4. 十分な休息の確保
症状対応する治療法
高熱アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬
デキストロメトルファンなどの鎮咳薬
体液損失経口補水液や輸液による水分・電解質補給

合併症への対策と治療

麻疹に伴う深刻な合併症として肺炎や脳炎があり、予防と早期発見・迅速な治療介入が大事です。

合併症対策・治療方針
細菌性肺炎適切な抗生物質の投与
ウイルス性肺炎対症療法、状況に応じて人工呼吸器による呼吸管理
脳炎抗痙攣薬、ステロイド薬の適用

ビタミンA補充療法

WHO(世界保健機関)は、栄養状態が芳しくない患者さんや重症例に対し、ビタミンAの補充を推奨しています。

ビタミンAには免疫機能を増強し、合併症のリスクを軽減する効果があります。

入院治療の判断基準

次のような状況では、入院での治療が検討されます。

  • 顕著な脱水症状
  • 呼吸困難の出現
  • 意識レベルの低下
  • 重篤な合併症の発症

入院下では、より集中的な症状管理や合併症への対応が可能です。

麻疹の治療では、迅速な診断と症状に応じた対処が患者さんの予後を大きく左右し、また、合併症の予防と早期介入が重症化を防ぎます。

多くの症例は、2〜3週間程度で回復傾向を示します。

薬の副作用や治療のデメリットについて

麻疹の治療では、症状の緩和や合併症の予防を目的として多様な薬剤が投与されますが、副作用やリスクを伴うことがあり、患者さんの状態を考慮した使用が求められます。

解熱鎮痛薬の副反応

麻疹患者の発熱や疼痛を軽減するために用いられる解熱鎮痛薬では、いくつかの副反応が生じます。

解熱鎮痛薬の副反応

  1. 消化器障害(胃部不快感、消化不良)
  2. 過敏症状
  3. 肝機能異常
  4. 腎機能障害
薬剤名副反応留意点
アセトアミノフェン肝機能異常過剰投与に注意
イブプロフェン消化器障害食事と共に服用が望ましい
アスピリン胃腸症状、出血傾向小児への投与は避ける

抗ウイルス薬の懸念事項

重症例や合併症のリスクが高い患者さんに投与される抗ウイルス薬には、固有の副反応や懸念事項があります。

ビタミンA補充療法の留意点

ビタミンA補充療法は、開発途上国での麻疹治療に活用されますが、過剰摂取には注意が必要です。

ビタミンA過剰摂取の弊害

  • 頭痛
  • 嘔気
  • 視覚異常
  • 骨密度減少

抗生物質使用の課題

麻疹に随伴する細菌性合併症の治療や予防に抗生物質が処方されることがありますが、不適切な使用は薬剤耐性菌の出現を招くリスクがあります。

抗生物質副反応使用上の注意点
ペニシリン系過敏反応アレルギー既往歴の確認
マクロライド系胃腸症状肝機能への影響に留意
セフェム系下痢腸内細菌叢の変化に注意

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

公費負担制度の適用

麻疹は感染症法に基づく五類感染症に指定されているため、特定の条件下では公費負担制度が適用されます。

制度名対象者負担割合
感染症予防法に基づく公費負担感染症のまん延防止のため入院が必要と判断された患者さん自己負担なし
小児慢性特定疾病医療費助成制度18歳未満の慢性疾患を持つ児童世帯の所得に応じて一部自己負担あり

外来診療の一般的な治療費

麻疹の外来診療における治療費は、症状の程度や必要な検査、処方薬の種類によって変動します。

外来診療の費用

  • 診察料:数千円〜1万円程度
  • 血液検査:5,000円〜1万円程度
  • 処方薬(解熱剤、鎮咳薬など):数千円〜1万円程度

入院治療が必要な場合の治療費

重症化した場合や合併症が発生した場合、入院治療が必要になることがあります。

入院日数概算治療費(3割負担の場合)
1週間10万円〜20万円程度
2週間20万円〜40万円程度
3週間以上30万円〜60万円以上

予防接種の費用

麻疹の予防には、MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)の接種が有効です。

予防接種の費用

  • 1歳児および小学校入学前1年間の幼児:原則無料(公費負担)
  • 任意接種(上記以外の年齢):8,000円〜12,000円程度

以上

参考文献

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