原発性硬化性胆管炎(PSC)

原発性硬化性胆管炎(Primary sclerosing cholangitis:PSC)とは、肝臓内外の胆管に炎症や線維化が進行し、胆管が狭窄や閉塞を起こす慢性的な胆道疾患です。

PSCの発症原因は完全には解明されていませんが、自己免疫系の異常が関与していると考えられています。

炎症性腸疾患(IBD)と関連性があり、PSCと診断された方の多くが潰瘍性大腸炎やクローン病などのIBDを併発します。

目次

原発性硬化性胆管炎(PSC)の病型

原発性硬化性胆管炎(PSC)は、胆管(胆汁を運ぶ管)の炎症や線維化(組織が硬くなること)が起こる部位によって、肝内型、肝外型、肝内外型の3つに分類されます。

特徴・検査

病型主な特徴診断に用いる検査
肝内型肝内胆管に限局MRCP, ERCP
肝外型肝外胆管に限局MRCP, ERCP, 超音波, CT
肝内外型肝内外胆管に広範囲MRCP, ERCP, 肝生検

進行速度・合併症リスク

病型進行速度合併症リスク
肝内型比較的遅い中程度
肝外型中程度やや高い
肝内外型速い高い

肝内型PSC

肝内型PSCは、病変が肝臓内の胆管に限局するタイプです。

肝臓内の小さな胆管から中程度の大きさの胆管まで影響を受け、全PSC症例の中で比較的多く見られます。

肝外型PSC

肝外型PSCは、病変が肝臓外の胆管に限局するものを指します。

総胆管や左右肝管などの太い胆管が主に影響を受け、まれな病型です。

肝内型と肝外型の比較

病型主な病変部位特徴的な所見
肝内型肝内胆管不規則な狭窄、拡張、数珠状変化
肝外型肝外胆管壁肥厚、狭窄、拡張

肝内外型PSC

病変が肝臓内外の胆管に広範囲に及ぶ病型を、肝内外型と呼びます。

全PSC症例の中で最も多く見られる病型であり、小さな肝内胆管から太い肝外胆管まで、胆管系全体が影響を受けます。

進行が速く、合併症のリスクが高いことが知られています。

原発性硬化性胆管炎(PSC)の症状

原発性硬化性胆管炎(PSC)の主な症状は、疲労感、掻痒感(かゆみ)、黄疸(おうだん)、右上腹部痛などです。病気の進行に伴い、様々な合併症を引き起こします。

初期症状と進行期の症状

初期段階では多くが無症状ですが、病気が進行するにつれて症状が顕在化してきます。

初期症状進行期の症状
倦怠感黄疸
掻痒感腹痛
微熱体重減少

特徴的な症状:掻痒感

PSCの特徴的な症状に「掻痒感」があります。胆汁の流れが阻害されることで皮膚にビリルビン(胆汁色素)が蓄積し、皮膚の痒みが現れます。

特に夜間に症状が悪化することが多く、不眠の原因にもなります。

黄疸と関連症状:胆汁うっ滞の兆候

病気が進行すると、黄疸が現れることがあります。黄疸は皮膚や眼の白い部分(強膜)が黄色く変色する症状で、胆汁うっ滞(胆汁の流れが滞ること)の兆候となります。

黄疸に伴う症状

  • 尿の色が濃くなる(ビリルビンが尿中に排泄されるため)
  • 便の色が薄くなる(灰白色、いわゆる灰白色便)
  • 皮膚の掻痒感の悪化

このような症状がある場合、胆汁の流れが著しく阻害されている可能性があるため、医療機関での精密検査が必要です。

消化器系の症状

症状原因
右上腹部痛胆管の炎症や胆石形成による痛み
吐き気・嘔吐胆汁の流れの阻害による消化器への悪影響
食欲不振全身状態の悪化や消化機能の低下に伴う食欲低下

全身症状と合併症

  • 疲労感
  • 倦怠感

また、PSCは他の自己免疫疾患と合併することがあります。特に潰瘍性大腸炎(腸の粘膜に炎症や潰瘍ができる病気)との合併が高頻度で見られ、下痢や血便といった腸管症状が現れることもあります。

原発性硬化性胆管炎(PSC)の原因

原発性硬化性胆管炎(PSC)の正確な原因は現在も不明ですが、自己免疫的機序が関与している可能性が高いと考えられています。

自己免疫的機序

  • PSC患者さんでは、自己抗体が高頻度で検出されます。
  • 他の自己免疫疾患との合併が多く見られます。
  • 免疫抑制剤による治療効果が一部の患者さんで認められます。

自己免疫的機序では、体の免疫システムが誤って胆管を攻撃し、炎症と瘢痕化を引き起こすと考えられています。

関連する要因

PSCの発症には、自己免疫的機序以外にも様々な要因が関与している可能性があります。

要因関連の可能性
遺伝的素因
環境因子
腸内細菌叢
ウイルス感染

PSCの原因解明に向けた研究は現在も進行中です。自己免疫的機序の解明や、それ以外の要因との相互作用の理解が進めば、新たな治療法の開発につながる可能性があります。

原発性硬化性胆管炎(PSC)の検査・チェック方法

原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断では、血液検査、画像診断、胆道造影検査などを行っていきます。

PSCの診断に有用な主な血液検査項目

検査項目異常値の特徴
ALP上昇
γ-GTP上昇
ビリルビン上昇(進行例)
IgG上昇

血液検査の結果に加えて、自己抗体検査も診断の参考になります。PSCでは、特にp-ANCA(抗好中球細胞質抗体)の陽性率が高いです。

ただし、血液検査の結果だけでPSCを確定診断することは困難です。そのため、画像診断や胆道造影検査などの追加検査が必要になります。

画像診断

PSCの診断で主に用いられる画像診断法には、超音波検査、CT、MRIなどがあり、胆管の状態を視覚的に評価するために使用します。

特に、MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)では、PSCに特徴的な胆管の多発性狭窄や拡張、数珠状変化などを調べることができます。

PSCの画像診断で観察される主な所見

  • 胆管の多発性狭窄
  • 胆管の拡張
  • 胆管壁の肥厚
  • 胆管の数珠状変化

胆道造影検査による確定診断

主に用いられる胆道造影検査には、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)とPTC(経皮経肝胆道造影)があります。検査では、造影剤を用いて胆管の構造を観察します。

PSCに特徴的な、胆管の多発性狭窄や数珠状変化がみられる場合、確定診断となります。

ERCPとPTCの比較

検査法特徴適応
ERCP内視鏡を用いて行う主に下部胆管の評価
PTC皮膚から穿刺して行う主に上部胆管の評価

※近年では、身体に負担の少ないMRCPの精度が向上しているため、ERCPやPTCの実施頻度は減少傾向にあります。

PSC診断の課題

PSCの初期段階では、明確な症状や検査異常を示さない場合があるため、診断が遅れる可能性があります。

また、他の胆道疾患との鑑別が難しいため、早期発見と治療開始が遅れることもよくあります。

過去には、軽度の肝機能異常を指摘されたものの、数年間診断がつかなかったケースがありました。そのため、持続する原因不明の肝機能異常を認める場合は、積極的に画像診断を行うことが重要となります。

原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療方法と治療薬について

原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療は、症状の緩和と合併症の予防が主な目的です。ウルソデオキシコール酸などの薬物療法や内視鏡的治療、そして最終的には肝移植まで、状態に応じて治療法を選択していきます。

薬物療法

ウルソデオキシコール酸(UDCA)はPSCの治療で処方される主要な薬剤であり、肝臓での胆汁産生を促進し、胆汁の流れを改善する効果があります。

ウルソデオキシコール酸(UDCA)の作用

作用利点
胆汁酸組成の改善肝細胞の保護
胆汁流量の増加胆汁うっ滞(胆汁の流れが滞ること)の軽減
抗炎症作用肝機能の改善
免疫調節作用病態進行の抑制

UDCAは、患者さんの体重1kgあたり13-15mgを1日2-3回に分けて服用します(長期的な服用が必要です)。

内視鏡的治療(狭窄胆管への対応)

薬物療法だけでは十分な効果が得られない場合、内視鏡的治療を検討します。特に、胆管の狭窄が著しい患者さんに適応となります。

内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を用いた胆管拡張術

狭くなった胆管を広げる効果的な方法です。バルーンやステントと呼ばれる医療器具を使用して狭窄部位を拡張し、胆汁の流れを改善します。

内視鏡的治療の主な手技と目的

手技目的
バルーン拡張狭くなった部位の拡張
ステント留置胆管の開存性(開いた状態)の維持
胆石除去合併症の予防
生検悪性化(がん化)の早期発見

内視鏡的治療は、症状の緩和や合併症の予防に効果的ですが、繰り返し行う必要があることや、胆管炎などの合併症のリスクがあることに注意が必要です。

免疫抑制剤

PSCは自己免疫疾患の側面を持つことから、一部の患者さんでは免疫抑制剤の使用が検討されます。

PSCの治療に用いられる主な免疫抑制剤

体の免疫反応を抑制し炎症を和らげ、病気の進行を遅らせることを目指します。

  • プレドニゾロン(ステロイド薬)
  • アザチオプリン(代謝拮抗薬)
  • タクロリムス(カルシニューリン阻害薬)
  • シクロスポリン(カルシニューリン阻害薬)

肝移植(進行したPSCへの最終的な治療選択肢)

PSCが進行し、内科的治療での管理が困難になった場合、肝移植が最終的な治療方法となります。

肝移植の適応

適応条件詳細
肝不全Child-Pugh スコアC(肝機能障害の重症度分類)
難治性掻痒感薬物療法で制御できない強いかゆみ
反復性胆管炎頻繁に入院治療が必要な胆管の炎症
肝内胆管癌の合併早期で外科的切除が可能な場合

肝移植後のPSC再発率は約20-25%とやや高いですが、多くの患者さんで生活の質が著しく改善します。

原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療期間

原発性硬化性胆管炎(PSC)は慢性進行性の疾患であるため、治療は生涯にわたって継続する必要があります。

治療の主な目的は症状の緩和と合併症の予防であり、病気の進行を遅らせることが医学的に重要です。

治療の段階と期間

治療段階期間主な対応
初期治療3〜6ヶ月薬物療法、内視鏡的治療
維持療法数年〜数十年定期検査、薬物療法継続
合併症対応状況に応じて個別の治療計画
肝移植後管理生涯免疫抑制療法、定期検査

肝移植と術後管理の期間

項目期間主な管理内容
術後集中治療1〜2週間全身管理、合併症予防
術後回復期3〜6ヶ月リハビリテーション、免疫抑制療法調整
免疫抑制療法生涯薬物療法、副作用モニタリング
定期検査生涯血液検査、画像検査、拒絶反応チェック

肝移植後は、免疫抑制剤の服用と定期的な検査が生涯にわたって必要となります。また、PSCが移植肝に再発するリスクもあるため、長期的な経過観察が欠かせません。

薬の副作用や治療のデメリットについて

原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療薬は、肝機能障害、感染症、消化器症状などの副作用があります。

薬物療法による副作用

PSCの治療に広く用いられるウルソデオキシコール酸(UDCA)の副作用には、以下のようなものがあります。

副作用の種類主な症状
消化器系下痢、腹部不快感、吐き気
皮膚系掻痒感、発疹、蕁麻疹
神経系頭痛、めまい、倦怠感
代謝系肝機能異常、高脂血症

免疫抑制剤使用に伴うリスク

PSCの治療において免疫抑制剤を使用する際は、感染症のリスク増加に注意が必要です。免疫機能が低下することで、通常では問題にならない病原体による感染症を発症する可能性が高まるためです。

特に警戒が必要な感染症

  • 日和見感染症(通常は無害な微生物による感染)
  • 帯状疱疹(水痘ウイルスの再活性化による皮膚症状)
  • 結核の再燃(潜伏していた結核菌の再活性化)
  • 侵襲性真菌感染症(カンジダ症やアスペルギルス症など)

内視鏡的治療に伴うリスク

合併症発生頻度重症度
胆管炎5-10%中~重度
急性膵炎3-5%中~重度
出血1-2%軽~中度
穿孔<1%重度
鎮静関連合併症1-3%軽~中度

肝移植に関連するリスクと長期的な問題

移植後の主な問題点として、免疫抑制剤の長期使用に伴う副作用が挙げられます。具体的には、腎機能障害、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などの発症リスクが上昇します。また、PSCが再発するリスクもあります。

移植後合併症発生率影響
急性拒絶反応30-50%短期的な肝機能低下、追加治療の必要性
PSC再発20-30%長期的な肝機能悪化、再移植の可能性
慢性拒絶反応5-10%緩徐な肝機能低下、長期予後への影響
日和見感染症15-25%重症化のリスク、入院治療の可能性

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

原発性硬化性胆管炎(PSC)は指定難病の一つであり、医療費の助成が受けられます。詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。

PSCの治療費の概要

PSCの主な治療費用には、血液検査、画像診断、内視鏡検査、薬物療法、そして外科的処置などがあります。初期の診断段階では複数の検査が必要となるため、治療費が高額になります。

検査項目概算費用(保険適用後)
血液検査3,000円〜5,000円
MRI/MRCP15,000円〜20,000円
内視鏡検査20,000円〜30,000円
肝生検30,000円〜50,000円

薬物療法にかかる費用

ウルソデオキシコール酸(UDCA)、免疫抑制剤、抗生物質などにかかる薬剤費用は、月額10,000円から30,000円程度が目安です。長期服用が必要なため、継続的に治療費がかかります。

合併症対策と追加治療の費用

PSCは様々な合併症を起こす可能性があるため、追加の治療や検査が必要になることがあります。特に、胆管炎や門脈圧亢進症などの合併症が生じた際は、入院治療が必要です。

  • 胆管炎治療:抗生物質投与、胆道ドレナージなど(50,000円〜100,000円)
  • 門脈圧亢進症管理:内視鏡的静脈瘤治療(200,000円〜300,000円)
  • 肝硬変関連治療:利尿剤、アルブミン製剤など(月額30,000円〜50,000円)
  • 定期的な画像検査:CT、MRIなど(1回あたり20,000円〜40,000円)

高度医療と移植に関する費用

肝移植は高度な医療技術を要するため、高額な治療となります。高額療養費制度を利用すると、医療費の自己負担を軽減することができます。

治療内容概算総費用患者負担(3割負担の場合)
生体肝移植2,000万円〜3,000万円600万円〜900万円
脳死肝移植3,000万円〜4,000万円900万円〜1,200万円
移植後の免疫抑制剤(年間)200万円〜300万円60万円〜90万円
高額療養費制度について

高額療養費制度は、1カ月の医療費が一定額を超えた場合、その超えた部分について国が払い戻しを行う制度です。肝移植のような高額な医療費がかかる場合、高額療養費制度の利用により経済的な負担を軽減できます。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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