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ガス壊疽(えそ)

ガス壊疽(えそ)

ガス壊疽(えそ)(gas gangrene)とは、特定の細菌が筋肉や軟部組織に侵入し急速に進行する深刻な感染症です。

原因菌はクロストリジウム属で、酸素のない環境下で増殖し、感染部位では組織が壊死し、ガスが発生。

皮膚の変色や腫れ、激痛といった症状が現れます。

迅速な診断と対応が極めて重要で、放置すれば命に関わる事態に発展します。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

ガス壊疽(えそ)の症状

ガス壊疽の症状には激烈な疼痛、皮膚の変色、腫脹、水疱形成などがあり、進行すると筋肉の壊死や全身症状が現れます。

激烈な疼痛と腫脹

ガス壊疽の初期症状は、感染部位に激烈な疼痛が生じることです。

この痛みは急激に悪化し苦痛をもたらし、同時に、感染部位周辺にかなりの腫れが見られます。

皮膚の変色と水疱形成

感染の進行に伴い初めは発赤が見られ、その後紫色や青黒色へと変化していき、また、皮膚表面に水疱が形成されることもあります。

皮膚の色調変化特徴
初期発赤
中期紫色化
後期青黒色化

筋肉の壊死と気腫

ガス壊疽に特徴的な症状は、感染部位の筋肉が壊死し軟化することです。さらに、細菌が産生するガスにより、皮下に気腫が形成されます。

この気腫のため、皮膚を触診するとパチパチという音(捻髪音)が聞こえます。

全身症状

局所症状に加え、全身症状も出てきます。

  • 高熱
  • 頻脈
  • 血圧低下
  • 意識レベルの低下
  • 多臓器不全

これらの症状は感染の進行とともに悪化していくため、早期の対処が重要です。

症状の進行速度

ガス壊疽の症状は大変速く、初期症状から重症感染まで、わずか数時間から1日程度です。

経過時間症状の進展
初期(数時間以内)局所的な疼痛と腫脹
中期(12-24時間)皮膚の色調変化、水疱形成
後期(24-48時間)筋肉の壊死、全身症状の出現

ガス壊疽(えそ)の原因

ガス壊疽では、外傷や術後の創部から侵入した細菌が低酸素環境下で急速に増殖し、組織を破壊しながらガスを生成します。また、糖尿病や血管疾患などの基礎疾患も発症リスクを高める原因です。

ガス壊疽の主要な原因菌

クロストリジウム属菌が代表的な原因菌ですが、他の細菌も関与しています。

原因菌特徴
クロストリジウム・パーフリンゲンス最多の検出頻度
クロストリジウム・セプティカム癌患者での発症が多い
クロストリジウム・ノビイ土壌由来の感染例が目立つ
大腸菌消化管穿孔に伴う感染で観察される

感染経路と侵入口

ガス壊疽は、細菌が体内への侵入し深部組織に達して増殖することが原因です。

主な侵入口

  • 外傷(特に土壌や金属片による汚染を伴うもの)
  • 手術後の創部
  • 注射部位
  • 慢性的な潰瘍
  • 腸管の穿孔

嫌気性環境の形成過程

ガス壊疽の原因菌は嫌気性菌であり、酸素が乏しい環境を好みます。

要因影響
血流の障害組織への酸素供給を減少させる
組織の損傷局所的な酸素濃度を低下させる
むくみ組織間隙の酸素拡散を妨げる
異物の存在局所的な嫌気性環境を作り出す

ガス産生のメカニズム

細菌の増殖に伴い、組織内でガスが生成されます。

  1. 細菌が組織中の糖分を分解
  2. 発酵過程で水素やメタンなどのガスを産生
  3. 生成されたガスが組織間隙に蓄積
  4. ガスの蓄積により組織が圧迫され、さらに血流が阻害される

リスク要因と素因

ガス壊疽の発症リスクは、特定の条件下で上昇します。

  • 糖尿病:高血糖状態が細菌の増殖を促進する
  • 末梢動脈疾患:組織への血流が低下し、嫌気性環境を形成する
  • 免疫機能の低下:体の防御機構が弱まり、感染への抵抗力が減弱する
  • 悪性腫瘍:腫瘍組織が嫌気性環境を提供し、免疫機能も低下する

多様な要因が複合的に作用することでガス壊疽の発症リスクが高まり、素因を持つ方は、小さな傷でも注意深い経過観察が必要です。

ガス壊疽(えそ)の検査・チェック方法

ガス壊疽の早期発見と確実な診断には、臨床症状の観察、画像診断、血液検査、微生物学的検査を実施します。

臨床症状の観察

ガス壊疽の診断過程において、臨床症状の観察が最初のステップです。

確認する点

  • 激烈な疼痛
  • 皮膚の色調変化(赤色→紫色→青黒色)
  • 急速に進行する腫脹
  • 水疱形成
  • 捻髪音(皮膚を触診する際に聴取されるパチパチという音)

症状が認められた際はガス壊疽の可能性を考慮し、さらなる検査が行われます。

画像診断

画像診断は、ガス壊疽に特徴的な所見を捉えるのに有効です。

検査方法特徴
X線撮影軟部組織内のガス像を確認
CT撮影より詳細なガス像と組織の状態を評価
MRI撮影軟部組織の変化を高解像度で観察

MRI撮影は軟部組織の変化を高解像度で観察できますが、緊急時には時間を要するため、使用頻度は低くなります。

血液検査

血液検査は全身の状態を評価し、感染の重症度を判断するために実施されます。

検査項目

検査項目意義
白血球数感染の程度を反映
CRP炎症の程度を示唆
血小板数凝固機能の異常を評価
電解質代謝異常を把握

白血球数の上昇やCRPの高値は重度の感染を示唆し、血小板数の減少は凝固異常を、電解質の乱れは代謝異常を示します。

微生物学的検査

ガス壊疽の原因菌を同定し抗菌薬を選ぶために、微生物学的検査が行われます。

  1. グラム染色:感染部位から採取した検体を染色し、顕微鏡で観察。
  2. 培養検査:検体を培養し、原因菌を同定。
  3. PCR検査:特定の細菌のDNAを検出し、迅速な診断に寄与。

補助的検査

ガス壊疽の診断をさらに確実なものにするため、補助的検査が行われます。

  • 組織生検:感染組織の一部を採取し、病理学的に精査。
  • 超音波検査:軟部組織内のガスや液体の貯留を確認。
  • 血液ガス分析:組織の酸素化状態を評価。

ガス壊疽(えそ)の治療方法と治療薬について

ガス壊疽の治療には、外科的デブリードマン、高圧酸素療法、抗生物質投与があります。

外科的デブリードマン

外科的デブリードマンは、ガス壊疽治療の中心です。

手順目的
感染組織の切除細菌の温床を取り除く
壊死組織の除去健全な組織への感染拡大を食い止める
創部の洗浄残存細菌を減らす
ドレーンの設置浸出液や残存ガスの排出を促進する

外科的処置は感染の進行を止め、健康な組織を守るのに効果的です。ただし、症状によっては、複数回の処置が必要になることもあります。

高圧酸素療法

高圧酸素療法は、補助的に行われます。

  • 組織の酸素分圧を引き上げる
  • 嫌気性菌の増殖を抑える
  • 白血球の殺菌能力を高める
  • 組織の修復と再生を後押しする

治療は1日2〜3回、各90〜120分間です。

抗生物質療法

抗生物質の投与は、ガス壊疽の治療において必須です。

抗生物質特徴
ペニシリンG第一選択薬として幅広く使用
クリンダマイシン嫌気性菌に対して強い効果
メトロニダゾール嫌気性菌に特化した抗菌力
バンコマイシンMRSA等の耐性菌にも効く

抗生物質は大量に静脈内投与され治療効果を見ながら、薬剤の組み合わせや投与期間が調整されます。

全身管理

ガス壊疽は全身状態に深刻な影響を及ぼすため、総合的な管理が必要です。

  1. 循環動態の維持:輸液療法や昇圧剤の使用
  2. 電解質バランスの調整:必要に応じて電解質補充
  3. 痛みのコントロール:鎮痛薬の使用
  4. 栄養サポート:経腸栄養や静脈栄養の実施

治療効果の評価と経過観察

治療開始後は、定期的な評価と経過観察が重要となります。

  • 臨床症状の変化:痛み、腫れ、発赤の軽減
  • 血液検査値の推移:炎症マーカーの低下
  • 画像検査:ガス像の消失や感染範囲の縮小
  • 創部の状態:肉芽形成や傷の治りぐあい

薬の副作用や治療のデメリットについて

ガス壊疽の治療の副作用として、抗生物質による消化器症状や過敏反応、高圧酸素療法による気圧外傷などが挙げられます。また、外科的処置に伴う合併症や長期的な機能障害もリスクです。

抗生物質療法の副作用

ガス壊疽の治療では、強力な抗生物質が投与されます。

薬剤の副作用

副作用症状
消化器症状吐き気、嘔吐、下痢
過敏反応発疹、掻痒感、アナフィラキシー
腎機能障害尿量減少、むくみ
肝機能障害黄疸、倦怠感

高用量や長期間の使用では副作用のリスクが増大し、また、抗生物質の使用により、腸内細菌叢のバランスが乱れ、二次感染や抗生物質関連下痢症を起こすこともあります。

高圧酸素療法に伴うデメリット

高圧酸素療法は嫌気性菌の増殖を抑え、組織の酸素化を改善する効果がありますが、デメリットがあります。

  • 気圧外傷:中耳、副鼻腔、肺に損傷を与える。
  • 酸素中毒:中枢神経系や肺に悪影響を及ぼす。
  • 閉所恐怖症:治療室の狭さにより、不安や恐怖を感じる。
  • 時間的制約:1回の治療に長時間を要し、緊急時の対応が遅れる可能性。

外科的処置に付随するリスク

ガス壊疽の治療では、緊急の外科的処置が必要です。

外科的処置のリスク

リスク内容
出血大量出血や輸血の必要性
感染術後感染や創傷治癒の遅延
機能障害切除範囲によっては永続的な機能障害
麻酔合併症呼吸器系や循環器系の問題

広範囲の組織切除が必要な場合、長期的な機能障害や整容的問題が生じます。

長期的な合併症

ガス壊疽の治療後、以下のような長期的な合併症が起こることもあります。

  1. 慢性痛:神経障害性疼痛や幻肢痛
  2. 瘢痕形成:皮膚の変形や拘縮
  3. リンパ浮腫:四肢の腫脹
  4. 筋力低下:広範囲の筋肉切除による

合併症が生じると、長期的なリハビリテーションや継続的な医療ケアが必要となることが多いです。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

治療費の内訳

ガス壊疽の治療費

  • 入院費用:1日あたり約30,000円〜50,000円
  • 手術費用:約300,000円〜1,000,000円(複数回必要な場合も)
  • 抗生物質投与:1日あたり約10,000円〜30,000円
  • 高圧酸素療法:1回あたり約15,000円〜25,000円

長期治療における総費用の目安

ガス壊疽の治療は長期化することが多く、総費用は高額になります。

治療期間推定総費用自己負担額(3割の場合)
2週間約150万円約45万円
1ヶ月約300万円約90万円
2ヶ月約500万円約150万円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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