猩紅熱(しょうこうねつ)(scarlet fever)とは、溶血性連鎖球菌が引き起こす急性の感染症です。
5歳から15歳の小児に発症が多く見られ、高熱や咽頭痛、特徴的な舌の変化、そして全身に発疹が広がります。
発症初期には咽頭痛や38度以上の高熱、頭痛、嘔気などインフルエンザに類似した症状が現れ、その後、舌が赤く腫脹し、いちごのような外観を呈する「いちご舌」と呼ばれる状態になります。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
猩紅熱(しょうこうねつ)の症状
猩紅熱の症状は、高熱、咽頭痛、特徴的な発疹、いちご舌などです。
初期症状
猩紅熱の初期症状は一般的な風邪やインフルエンザと似ていますが、次の症状が見られた際は注意が必要です。
- 急な高熱(38.5℃以上)
- 強い咽頭痛
- 頭痛
- 嘔吐や腹痛
- リンパ節の腫脹
これらの症状は発症後24〜48時間以内に現れることが多く、小児では症状が急速に進行します。
特徴的な発疹
発疹の特徴 | 出現部位 | 触感 |
鮮明な赤色 | 首、胸、腹部から始まる | ザラザラとした粗さ |
小さな点状 | 脇の下、鼠径部へ拡大 | 圧迫すると一時的に退色 |
均一な分布 | 顔面は比較的少ない | 皮膚のしわに濃く現れる |
発疹は発熱から1〜2日後に生じ4〜5日間続き、その後、皮膚の剥離が始まります。
いちご舌
猩紅熱に特徴的な「いちご舌」は、以下のような経過をたどります。
- 発症初期:舌が白っぽく腫れる
- 数日後:舌の表面が赤くなり、いちごのような様相を呈する
- 乳頭の腫大:舌の表面がブツブツとした質感になる
- 色の変化:鮮やかな赤色から徐々に通常の色に戻る
その他の随伴症状
症状 | 特徴 | 注意点 |
ペストンギ線 | 肘や膝の内側の皮膚のしわが濃くなる | 発疹の一種として出現 |
リンパ節腫脹 | 首や顎の下のリンパ節が腫れる | 触診で確認できる |
口腔内の変化 | 口蓋に小さな出血点が生じる | 口腔内の観察が大切 |
猩紅熱(しょうこうねつ)の原因
猩紅熱は、A群β溶血性連鎖球菌が原因の急性感染症です。
A群β溶血性連鎖球菌の特徴
A群β溶血性連鎖球菌は猩紅熱の病原体で、通常、のどや皮膚に存在しており多くの場合は無害ですが、特定の条件下で増殖し感染症が起こります。
特徴 | 詳細 |
学名 | Streptococcus pyogenes |
形状 | 球菌、連鎖状 |
グラム染色 | 陽性 |
溶血性 | β溶血性 |
毒素の作用メカニズム
A群β溶血性連鎖球菌が産生する毒素、特に発疹毒素(エリスロジェニック毒素)は、猩紅熱の症状を起こす要因です。
発疹毒素の作用
- 皮膚の毛細血管を拡張させ、特徴的な発疹を生じさせる
- 体温調節中枢に働きかけ、高熱を引き起こす
- 免疫系を過剰に刺激し、強い炎症反応を引き起こす
感染経路と拡散の仕組み
猩紅熱の感染経路には主に次の2つがあります。
- 飛沫感染:感染者のくしゃみや咳による飛沫を吸入することで感染。
- 接触感染:感染者の分泌物や皮膚病変に直接触れることで感染。
感染力が強いため、集団生活の場での流行が問題です。
感染リスクの高い環境要因
猩紅熱の感染リスクは、いくつかの環境で高まります。
環境 | リスク要因 |
学校・保育施設 | 密接な接触、衛生管理の不十分さ |
医療機関 | 感染者との接触機会の増加 |
家庭内 | 家族間での濃厚接触 |
混雑した公共の場 | 不特定多数との接触 |
季節性と年齢による発症傾向
猩紅熱は冬から春にかけて発症数が増加し、5歳から15歳の子どもに多く見られます。
猩紅熱(しょうこうねつ)の検査・チェック方法
猩紅熱の診断には臨床の観察を始め、迅速抗原検査、細菌培養検査、血液検査があります。
臨床症状の観察
猩紅熱の診察では、以下の点を中心に調べます。
- 発熱の程度と継続時間
- 特徴的な発疹の有無と分布状況
- 咽頭の発赤や腫脹
- いちご舌の有無
- リンパ節の腫れ
迅速抗原検査
検査名 | 所要時間 | 特徴 |
迅速抗原検査 | 約10-15分 | 咽頭拭い液を使用 |
A群β溶血性連鎖球菌の抗原を検出 |
迅速抗原検査は短時間で結果が得られる利点がありますが、偽陰性の可能性もあるため、陰性結果でも症状が続く場合は追加の検査を考慮します。
細菌培養検査
細菌培養検査は、猩紅熱の確定診断に用いられる重要な検査です。
- 咽頭や扁桃の表面から綿棒で検体を採取
- 専用の培地で24-48時間培養
- A群β溶血性連鎖球菌の増殖を確認
培養検査は時間を要しますが、抗生物質の感受性も同時に調べられます。
血液検査
検査項目 | 猩紅熱での特徴 | 注意点 |
白血球数 | 増加 | 他の感染症でも上昇 |
CRP | 上昇 | 炎症の程度を反映 |
ASO値 | 2-3週間後に上昇 | 遅発性の指標 |
血液検査は猩紅熱に特異的ではありませんが、炎症の程度や経過観察に役立ちます。
家庭でのチェックポイント
家庭で症状をチェックすることで、早期発見につながります。
- 急な高熱(38.5℃以上)
- 咽頭痛と発赤
- 全身に広がる赤い発疹(サンドペーパーのような触感)
- 舌の変化(白っぽい舌から赤いいちご舌へ)
- 皮膚のしわ(特に肘の内側)の濃い赤色のライン
これらの症状が見られたら、医療機関を受診してください。
猩紅熱(しょうこうねつ)の治療方法と治療薬について
猩紅熱の治療は、抗生物質を用いて原因菌を除去し、症状をやわらげることを目指します。
抗生物質療法
猩紅熱の主な治療法は抗生物質療法で、A群β溶血性連鎖球菌に効果のある抗生物質を使用します。
抗生物質 | 投与方法 | 特徴 |
ペニシリン | 飲み薬または注射 | 最初に選ばれる薬 |
アモキシシリン | 飲み薬 | 子どもに使いやすい |
エリスロマイシン | 飲み薬 | ペニシリンアレルギーがある場合 |
抗生物質による治療は、症状が良くなっても10日間続けます。これは、菌を完全に取り除き、再び症状が出ることを防ぐためです。
症状をやわらげる治療
抗生物質による治療と同時に、症状をやわらげる治療も行います。
- 熱さましや痛み止め(アセトアミノフェンなど)で熱や痛みを抑える
- 水分を十分に取って脱水を防ぐ
- うがいをして喉の痛みを和らげる
- かゆみがある場合は保湿剤を使う
入院治療
症状が重い患者さんや合併症のリスクが高いときは、症状が悪化するのを防ぎ合併症のリスクを最小限に抑えるため、入院して治療を受ける必要があります。
治療内容 | 目的 |
点滴で抗生物質を投与 | 確実に薬を届け、全身の状態を管理する |
電解質のバランスを整える | 水分不足や体内の異常を防ぐ・改善する |
常に状態を観察する | 合併症を早く見つけて対応する |
治療期間
通常治療を始めてから24〜48時間以内に症状が良くなり始めますが、完全に回復するまでには時間がかかります。
注意する点
- 熱が下がるまでの時間
- 発疹が消えていく様子
- 喉の痛みや飲み込みにくさの改善
- 全身の調子の回復
治療の効果が思わしくなかったり合併症が疑われる時は、治療の方針を見直します。
合併症への対応と予防
猩紅熱の合併症にはリウマチ熱や腎炎などがあり、予防には抗生物質による治療を最後まで行うことが欠かせません。
薬の副作用や治療のデメリットについて
猩紅熱の治療では抗生物質が用いられ、胃腸の不調や皮膚の反応がみられます。また、長期的な抗生物質の使用は耐性菌の出現や腸内細菌のバランス崩壊を起こす懸念もあります。
抗生物質によくみられる副作用
猩紅熱の治療に使われる抗生物質では、次のような副作用が起こります。
副作用 | 症状 | 頻度 |
胃腸の不調 | 下痢、腹痛、吐き気 | 比較的多い |
皮膚の反応 | 発疹、かゆみ | ある程度みられる |
アレルギー反応 | じんましん、呼吸困難 | まれだが注意が必要 |
抗生物質耐性菌のリスク
抗生物質を乱用すると、耐性菌が現れる恐れがあります。
耐性菌の発生に対する予防策
- 処方された抗生物質は指示通りに最後まで飲み切る
- 症状が良くなっても自己判断で飲むのをやめない
- 余った抗生物質を勝手に使わない
- 他人の処方薬を使わない
耐性菌が発生すると将来の治療選択肢が限られるので、慎重な対応が必要です。
腸内細菌への影響
影響 | 症状 | 対策 |
善玉菌の減少 | 消化不良、免疫力低下 | プロバイオティクスの摂取 |
悪玉菌の増加 | 下痢、腹痛 | 食事の見直し |
カンジダ症 | 口の中や性器のかゆみ | 抗真菌薬の使用 |
抗生物質は有益な腸内細菌も同時に減らし、一時的に腸内環境のバランスが崩れます。
長期的な抗生物質使用のリスク
抗生物質を長期間使用すると、リスクが伴います。
- 肝臓の機能障害
- 腎臓の機能障害
- 血液の異常(貧血など)
- ビタミンKが不足する症状
- 二次感染(カビによる感染症など)
リスクを最小限に抑えるため、指示に従い定期的に検査を受けることが欠かせません。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
入院治療にかかる費用
猩紅熱が重症化し入院治療が必要になった場合、治療費は外来診療と比べて高額になります。
入院費用に含まれる項目
- 入院基本料
- 抗生物質などの薬剤費
- 各種検査費用
- 処置料
- 食事療養費
1週間の入院で20万円から30万円程度です。
治療費の内訳と変動要因
猩紅熱の費用項目
費用項目 | 概算金額(3割負担の場合) |
抗生物質薬剤費 | 500円〜2,000円/日 |
血液検査 | 1,500円〜3,000円 |
咽頭培養検査 | 1,000円〜2,000円 |
入院費(1日あたり) | 3,000円〜10,000円 |
合併症発生時の追加費用
猩紅熱に合併症が生じると追加の治療や検査が必要になり、費用が増加します。
- リウマチ熱:長期的な経過観察や追加の薬物療法
- 腎炎:腎機能検査や尿検査の追加、場合によっては腎生検の必要
- 中耳炎:耳鼻科での診察や治療が追加される
以上
参考文献
Wong SS, Yuen KY. Streptococcus pyogenes and re-emergence of scarlet fever as a public health problem. Emerging Microbes & Infections. 2012 Jul 1;1(1):1-0.
Hurst JR, Brouwer S, Walker MJ, McCormick JK. Streptococcal superantigens and the return of scarlet fever. PLoS Pathogens. 2021 Dec 30;17(12):e1010097.
Rolleston JD. The history of scarlet fever. British Medical Journal. 1928 Nov 11;2(3542):926.
DICK GF, DICK GH. Experimental scarlet fever. Journal of the American Medical Association. 1923 Oct 6;81(14):1166-7.
Basetti S, Hodgson J, Rawson TM, Majeed A. Scarlet fever: a guide for general practitioners. London journal of primary care. 2017 Sep 3;9(5):77-9.
Lamagni T, Guy R, Chand M, Henderson KL, Chalker V, Lewis J, Saliba V, Elliot AJ, Smith GE, Rushton S, Sheridan EA. Resurgence of scarlet fever in England, 2014–16: a population-based surveillance study. The Lancet Infectious Diseases. 2018 Feb 1;18(2):180-7.
Quinn RW. Comprehensive review of morbidity and mortality trends for rheumatic fever, streptococcal disease, and scarlet fever: the decline of rheumatic fever. Reviews of infectious diseases. 1989 Nov 1;11(6):928-53.
Herdman MT, Cordery R, Karo B, Purba AK, Begum L, Lamagni T, Kee C, Balasegaram S, Sriskandan S. Clinical management and impact of scarlet fever in the modern era: findings from a cross-sectional study of cases in London, 2018–2019. BMJ open. 2021 Dec 1;11(12):e057772.
Wong SS, Yuen KY. The comeback of scarlet fever. EBioMedicine. 2018 Feb 1;28:7-8.
Andrey DO, Posfay-Barbe KM. Re-emergence of scarlet fever: old players return?. Expert review of anti-infective therapy. 2016 Aug 2;14(8):687-9.