自己免疫性肝炎(AIH)

自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis:AIH)とは、体の免疫システムが誤って肝臓を攻撃してしまう病気です。

私たちの体には、外部からの侵入者を見つけ出して排除する仕組みがあります。ところが、この病気では自分の肝臓を誤って敵だと認識してしまいます。

本来守るべき肝臓に対して攻撃をするようになると、肝臓の細胞が徐々にダメージを受けていき、長期的には肝機能の低下につながります。

目次

自己免疫性肝炎(AIH)の病型

自己免疫性肝炎(AIH)は、血液中に見つかる特殊なタンパク質(自己抗体と呼ばれます)の種類によって、1型と2型に大別されます。

日本では、ほとんどの患者さんが1型に該当します。

AIHの種類特徴的な自己抗体日本での割合
1型ANA(抗核抗体), SMA(抗平滑筋抗体)95%以上
2型LKM-1, LC-15%未満

1型AIH

  • 主に中年以降の女性に多く見られる
  • 血液検査でANAやSMAという自己抗体が見つかる
  • 血液中のIgG(免疫グロブリンG)という物質の量が増える
  • 遺伝的な要因(HLA-DR3やDR4という遺伝子)との関連が強い

症状がゆっくりと進行するため、病気が進んでから発見されることも少なくありません。

2型AIHの特徴を理解しよう

2型AIHは、1型と比べるとあまり多くない種類です。主に子どもや若い人に見られます。

2型AIHの特徴説明
主な発症年齢子どもから若い大人
自己抗体抗LKM-1抗体、抗LC-1抗体(1型とは異なる種類の抗体)
地域による違いヨーロッパでより多く見られる
病気の進み方急に症状が現れることが多い

2型AIHでは、LKM-1やLC-1という特殊な自己抗体が血液中に見つかります。日本ではとても珍しい種類ですが、ヨーロッパなどでは比較的多く報告があります。

自己免疫性肝炎(AIH)の症状

自己免疫性肝炎(AIH)は、はじめのうちは症状が出ない場合が多いですが、進行すると体のあちこちに影響が現れてきます。

よくある症状

最もよく見られる症状としては、体がだるい、疲れやすい、食べたくないといったものがあります。

症状どんな感じか
だるさ日中の活動がつらい
疲れやすさ体全体がだるだるする
食欲がない体重が減ってしまうかも

肝臓に関係する症状

肝臓の働きが悪くなることで、お腹が痛くなったり、黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなる)が出たり、体がかゆくなったりする症状が代表的です。

体全体に関わる症状

  • 関節痛:複数の関節に痛みを感じる
  • 筋肉痛:体中の筋肉に痛みや硬さを感じる
  • 発熱:微熱から高熱まで様々
  • 皮膚の症状:発疹や蕁麻疹(じんましん)が出ることがある

女性特有の症状

AIHは女性に多い病気で、生理不順や更年期症状(女性ホルモンの変化に伴う体の変化)が悪化するなど、女性特有の症状が起こる場合があります。

症状どんな影響があるか
生理不順生理の周期が乱れる
更年期症状の悪化ほてりや眠れない状態が増える

心の健康に関わる症状

AIHは体の症状だけでなく、うつ状態や不安を感じやすくなることもあります。

症状どんな特徴があるか
うつ状態気分が落ち込む、やる気が出ない
不安感将来が心配になる、過度に心配してしまう

自己免疫性肝炎(AIH)の原因

自己免疫性肝炎(AIH)では、本来ならば私たちの体を外敵から守ってくれるはずの免疫システムが、間違って肝臓の細胞を攻撃してしまいます。この現象を「自己免疫」と呼び、AIHが起こる根本的な原因となっています。

免疫システムの誤作動

通常の免疫反応では、体の中に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を見つけて、それらを排除します。

しかし、AIHでは何らかの理由で、免疫システムが自分自身の肝臓の細胞を「異物」だと勘違いして、攻撃を始めてしまうのです。

誤作動の原因は?

要因どのように影響するか
生まれつきの遺伝的な素質特定の遺伝子が免疫システムの異常を引き起こす可能性がある
周りの環境からの影響ウイルス感染や薬の影響などが免疫システムを刺激してしまう

以前、20歳代の女性の患者さんが風邪のような症状の後にAIHを発症した事例がありました。この場合、ウイルス感染が引き金となり、免疫システムの誤った働きが始まったのではないかと考えられます。

生まれつきの遺伝子

主要組織適合複合体(MHC)(免疫システムで重要な役割を果たす遺伝子群)という遺伝子の特定のタイプが、AIHのリスクを高めることが分かっています。

例えば、HLA-DR3やHLA-DR4という遺伝子のタイプを持つ人は、AIHになる確率が高くなります。

ただし、これらの遺伝子を持っているからといって必ずAIHになるわけではなく、遺伝的な要因はあくまでもAIHになるリスクを高める一つの原因です。

周りの環境による影響

  • ウイルスによる感染(特に肝炎を引き起こすウイルス)
  • 細菌による感染
  • 薬(一部の抗生物質や漢方薬など)
  • 体内のホルモンバランスの変化
環境からの影響どのように作用するか
ウイルス感染肝臓の細胞の構造を変えてしまい、免疫システムの攻撃を引き起こす
薬の影響肝臓の細胞を直接傷つけ、免疫反応を引き起こしてしまう

自己免疫性肝炎(AIH)の検査・チェック方法

自己免疫性肝炎(AIH)の診断では、血液検査で肝機能や自己抗体の有無を確認します。腹部エコーやCTなどの画像検査で肝臓の状態を調べ、他の肝疾患との鑑別診断を行ってAIHの診断を確定していきます。

初期評価と血液検査

まずは症状、病歴、ご家族の病歴などを確認し、その後、血液検査を実施します。

検査項目主な異常所見
肝酵素AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)上昇
γ-グロブリン上昇
自己抗体ANA(抗核抗体)、ASMA(抗平滑筋抗体)陽性

血液検査では、肝臓の機能を調べる検査に加えて、免疫系の異常を調べる検査も行います。

特に、抗核抗体(ANA)や、抗平滑筋抗体(ASMA)などの自己抗体(体内の正常な組織に対して作られる抗体)の検出が診断に役立ちます。

以前、一見するとAIHとは思えないような症例に出会ったことがあります。中年の男性患者さんで、典型的な症状がなく、お酒を飲む習慣もあったため、最初はアルコールによる肝炎を疑いました。

しかし、詳しい血液検査を行ったところγ-グロブリンという血液中のタンパク質が高値で、自己抗体も陽性であることがわかり、最終的にAIHと診断しました。このように、疑わしい場合には必ず幅広い検査を行うことが大切です。

画像診断

  • 腹部超音波検査(おなかの表面から超音波を当てて内臓の様子を見る検査)
  • CT検査(レントゲンを使って体の断面図を撮影する検査)
  • MRI検査(強い磁気を使って体内の詳細な画像を得る検査)

画像検査では、肝臓の状態や、他の肝臓の病気の可能性を調べることができます。

特に、肝硬変(肝臓が硬くなる病気)がどの程度進んでいるか、肝臓がんがないかどうかを確認します。

肝生検

AIHの確定診断には、肝生検という検査を行います。

肝生検所見特徴
インターフェイス肝炎肝細胞が壊れて、炎症を起こす細胞が集まっている
形質細胞浸潤抗体を作る細胞(形質細胞)がたくさん見られる
線維化進行した場合、肝硬変の特徴が見られる

肝生検は体に負担がかかる検査ですが、診断の確実性を高めることができます。また、病気がどの程度進んでいるか、治療の効果はどうかを判断するためにも使います。

診断基準

AIHの診断には、国際自己免疫性肝炎グループ(IAIHG)という専門家集団が提案した診断基準を用います。診断基準では、それぞれの項目に点数をつけ、合計点数で診断がどの程度確実かを判断します。

スコア診断
15点を超える確実にAIHである
10-15点AIHの疑いが強い
10点未満AIHの可能性は低い

診断基準を正しく使うには専門的な知識が必要であり、消化器の病気を専門とする医師による判断が大切になります。

自己免疫性肝炎(AIH)の治療方法と治療薬について

自己免疫性肝炎(AIH)の治療では、免疫抑制療法を中心に進めていきます。具体的な治療法としては、ステロイドという薬を使う療法と、免疫抑制剤を組み合わせて行います。

ステロイド療法

ステロイド療法では、プレドニゾロンという薬を使います。

最初の治療では比較的多めの量のステロイドを使い、症状が良くなってくるにつれて少しずつ量を減らしていきます。

多くの場合、数週間以内に肝臓の機能を調べる検査の数値が良くなってきます。

ステロイドをどのくらいの量で、どのくらいの期間使うかは、患者さんの状態や薬がどの程度効いているかによって調整します。

長期使用により起こる副作用のことも考えながら、効果がある最小限の量を続けることが大切です。

ステロイド療法の段階使う量 (プレドニゾロンという薬の場合)
最初の治療1日30-40ミリグラム
続ける治療1日5-10ミリグラム

免疫抑制剤を組み合わせて使う療法

ステロイドだけでは効果が十分でない場合や、ステロイドの量を減らすのが難しい場合には、免疫抑制剤という別の薬を一緒に使うことを考えます。

主にアザチオプリンという薬を使います。アザチオプリンは、ステロイドの量を減らすことができるようにし、長期使用で起こる副作用の危険性を減らす効果があります。

ただし、骨髄抑制(骨髄の働きが弱くなる)などの副作用に気をつける必要があります。定期的に血液検査をして、体の状態を確認します。

免疫抑制剤よく使われる量
アザチオプリン1日50-100ミリグラム

自己免疫性肝炎(AIH)の治療期間

自己免疫性肝炎(AIH)の治療は数か月で終わる人もいれば、数年続く人もいます。中には、一生涯治療を続ける必要がある人もいます。

治療期間には個人差があります

AIHの治療にかかる時間は、患者さんによって違います。どのくらい症状が出ているか、肝臓の働きを調べる検査の結果はどうか、顕微鏡で見た肝臓の組織がどのくらい良くなっているかなどを考えて、その人に合った治療期間を決めていきます。

一般的に、治療を始めてから3〜6か月くらいで症状が良くなることが多いですが、その後も治療を続ける場合がほとんどです。

治療を続ける期間は人によって違い、1年から3年、あるいはもっと長く続ける場合もあります。

治療の段階どのくらいの期間か
始めの治療3〜6か月くらい
その後の治療1〜3年以上

良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴

AIHには、良くなったり悪くなったりを繰り返す特徴があります。

良くなっている時期は症状が落ち着いて、肝臓の働きを調べる検査の結果も良くなりますが、悪くなる時期には再び肝臓の炎症が強くなります。

この良くなったり悪くなったりするサイクルは人によって違い、治療期間に大きく影響します。

私が担当した患者さんの中には、5年間の治療で良い状態を保てた方もいれば、10年以上にわたり治療を続けている方もいます。一人ひとりの経過をよく観察し、治療の調整を行うことが大切です。

お薬を少しずつ減らしていく

多くの場合、AIHの治療ではお薬を少しずつ減らしていきます。急にお薬をやめてしまうと、病気が再び悪くなる危険性が高くなるためです。

お薬を減らすペースは、患者さんの状態を見ながら決めていきます。

  • 症状が落ち着いている
  • 肝臓の働きを調べる検査の結果が正常になっている
  • 顕微鏡で見た肝臓の組織が良くなっている

このような条件が満たされた場合、少しずつお薬を減らすことを考えます。しかし、お薬を減らしている間や治療をやめた後も、定期的に病院に来て診てもらう必要があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

自己免疫性肝炎(AIH)の治療には、副作用やリスクも伴います。

ステロイド療法の副作用

ステロイドの主な副作用には以下のようなものがあります。

  • 骨粗しょう症(骨がもろくなる病気)
  • 糖尿病(血糖値が高くなる病気)
  • 高血圧(血圧が高くなる状態)
  • 体重増加
  • 皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなる)

副作用は、お薬の量や使用期間によって起こりやすさが変わってきます。

副作用短期使用長期使用
骨粗しょう症起こりにくい起こりやすい
糖尿病やや起こりやすい起こりやすい
高血圧やや起こりやすい起こりやすい

免疫抑制剤の副作用

免疫抑制剤主な副作用
アザチオプリン骨髄抑制(血液をつくる働きが弱くなる)、吐き気
ミコフェノール酸モフェチル消化器の症状、感染症にかかりやすくなる
タクロリムス腎臓の働きが悪くなる、血糖値が高くなる

免疫抑制剤は免疫機能を抑えるため、感染症にかかりやすくなります。特に日和見感染症(普段は病気を起こさない弱い菌による感染症)には気をつけなければなりません。

肝臓移植に関連するリスク

AIHが重症化した場合、肝臓移植が選択肢となる場合がありますが、手術自体のリスクや移植後の管理に伴う問題があります。

  1. 手術に伴う合併症(出血、血管が詰まるなど)
  2. 拒絶反応(移植した肝臓を体が異物と認識して攻撃する)
  3. 免疫抑制剤を長期間使用することによる副作用
  4. もともとの病気(AIH)が再発する

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

自己免疫性肝炎(AIH)の治療費は、保険適用により負担が軽減されます。標準的な治療薬であるステロイドや免疫抑制剤は比較的安価で、長期的な疾患管理も可能です。ただし、個々の症状や合併症により治療費は変動します。

AIHの治療費の概要

ステロイド治療を主体とする初期治療では、1ヶ月あたりの薬剤費が5,000円から10,000円程度になります。症状が安定してからの維持療法では、さらに費用は抑えられます。

追加で必要となる費用

  • 肝生検などの特殊検査費用
  • 合併症治療のための追加薬剤費
  • 入院費用(症状悪化時)
  • 栄養指導や心理カウンセリングの費用

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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