肝アミロイドーシス・アミロイド肝(Hepatic amyloidosis, amyloid liver)とは、肝臓(からだの中で代謝を担う重要な臓器)にアミロイド(異常なタンパク質)が過剰に蓄積することで起こる珍しい病気です。
この病気では、肝臓の細胞と細胞の間にアミロイドが少しずつ溜まっていき、時間の経過とともに肝臓本来の働きを阻害します。
症状の現れ方は患者さんごとに大きく異なりますが、肝臓の腫れや肝機能の低下などが見られ、進行すると全身に影響を及ぼす深刻な病気です。
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の症状
肝アミロイドーシスの代表的な症状は、肝臓の肥大と肝機能の低下です。右上腹部の不快感や痛み、体のだるさや食欲がなくなる、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状が現れます。
肝臓の肥大と関連する症状
肝アミロイドーシスでは、アミロイドが蓄積することで肝臓が通常よりも大きくなるため、お腹の痛みや息苦しさなどの症状が現れます。
症状 | 症状の詳細 |
お腹が張る感覚 | 肝臓が大きくなることで、腹部に膨満感を感じる |
右上腹部の痛み | 肥大した肝臓により、右上腹部に痛みや圧迫感が生じる |
息苦しさ | 大きくなった肝臓が横隔膜を押し上げ、呼吸が苦しくなる |
肝機能の低下による症状
肝臓にアミロイドがたまると、肝細胞の働きが悪くなり、様々な症状が出てきます。
- 体がだるい(倦怠感)
- 食べる気が起きない(食欲不振)
- 吐き気がする・吐いてしまう
- 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
- 体がかゆくなる
全身性アミロイドーシスに伴う症状
肝アミロイドーシスは、体全体にアミロイドがたまる全身性アミロイドーシスの一部として現れることがあります。この場合は肝臓以外の臓器にもアミロイドが蓄積し、不整脈や蛋白尿などの症状も出てきます。
影響を受ける臓器 | 現れる可能性のある症状 |
心臓 | 不整脈(心臓の拍動が乱れる)、心不全(心臓の働きが悪くなる) |
腎臓 | 尿に蛋白が出る(蛋白尿)、腎臓の機能が低下する |
神経系 | 手足のしびれ(末梢神経障害)、自律神経の働きが乱れる |
消化管 | 下痢や便秘、栄養の吸収が悪くなる |
症状の進み方と起こりうる合併症
肝アミロイドーシスの症状は、通常ゆっくりと進行していきます。
しかし、アミロイドの蓄積が進むにつれて、肝臓の働きが完全に止まってしまう肝不全や、肝臓の血管の圧力が高くなる門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)などの合併症が起こる場合があります。
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の原因
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の根本的な原因は、通常であれば溶解するはずのタンパク質が、不溶性の線維状構造を形成し、組織に沈着することです。
肝臓では、このアミロイド線維が少しずつ蓄積していくことで、組織の構造や機能に影響を与えていきます。
原発性アミロイドーシスと続発性アミロイドーシスの違い
アミロイドーシスは、大きく原発性と続発性に分類されます。
原発性アミロイドーシスは、形質細胞(抗体を産生する血液細胞の一種)の異常増殖によって起こります。一方、続発性アミロイドーシスは、慢性炎症性疾患や長期にわたる透析治療などが原因となって発症します。
分類 | 主な原因 |
原発性 | 形質細胞の異常増殖 |
続発性 | 慢性炎症性疾患、長期透析 |
遺伝的要因が関与するケース
家族性アミロイドポリニューロパチーと呼ばれる遺伝性疾患では、変異したトランスサイレチン(TTR)というタンパク質が肝臓で産生され、全身の臓器に沈着します。
この遺伝子変異は常染色体優性遺伝形式をとるため、親から子へと受け継がれる可能性が高いとされています。
年齢と性別による影響の違い
肝アミロイドーシスは、一般的に高齢者に多く見られます。この理由としては、加齢に伴いタンパク質の代謝機能が低下することが一因として考えられています。
また、特に原発性アミロイドーシスにおいては、男性の発症率がやや高いことが知られています。
年齢層 | 発症リスク |
若年層 | 低い |
高齢者 | 高い |
環境因子と生活習慣が及ぼす影響
- 長期の透析治療による影響
- リウマチ性関節炎などの慢性炎症性疾患
- 慢性的な感染症の存在
- 栄養状態の悪化が続く状況
- 持続的なストレスにさらされること
長期間にわたって透析治療を受けている患者さんの場合、β2-ミクログロブリンという物質が体内に蓄積しやすくなります。
この物質がアミロイド線維を形成することで、アミロイドーシスのリスクが高まることが分かっています。
また、慢性的な炎症状態や感染症も続発性アミロイドーシスのリスク因子となります。
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の検査・チェック方法
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の診断では、血液検査、画像検査、肝生検などにより、肝臓の機能評価、形態学的変化の評価、アミロイド沈着の確認、および原因疾患の特定を行います。
初期評価と臨床診断のポイント
初期評価項目 | 確認ポイント |
問診 | これまでの病歴、ご家族の病歴、今の症状 |
身体診察 | 肝臓の腫れ、痛み、黄疸(皮膚や目が黄色くなること) |
身体診察では、肝臓が腫れていないか、押すと痛みがないか、皮膚や目の白いところが黄色くなっていないかなどを診ます。
血液検査と画像診断
血液検査では、肝臓の働きを調べる検査(AST、ALT、ALP、γ-GTPなど)や、血液中のタンパク質の状態を詳しく調べる検査(血清蛋白電気泳動、免疫固定電気泳動など)を行います。
画像診断では、お腹の超音波検査、CT、MRIなどを使って肝臓の形や内部の様子を調べます。
肝臓が腫れていたり、超音波で見た時の肝臓の模様が普通と違っていたりすると、アミロイドーシスの可能性を疑います。
肝生検と病理診断
肝アミロイドーシスを確実に診断するには、肝臓の組織を少し取って調べる「肝生検」という検査が必要です。
肝生検では、超音波を見ながら細い針を使って肝臓の一部を採取し、顕微鏡で調べます。
採取した組織は、コンゴレッドという特別な染料で染めて、偏光顕微鏡という特殊な顕微鏡で観察します。もしアミロイド(異常なタンパク質の塊)が溜まっていれば、リンゴの皮のような緑色に光って見えます。
病理診断手順 | 内容 |
組織採取 | 超音波を見ながら肝臓の一部を採取 |
染色 | コンゴレッドという特別な染料で染める |
観察 | 偏光顕微鏡という特殊な顕微鏡で確認 |
アミロイドの種類を調べる
肝アミロイドーシスの診断後は、アミロイド(異常なタンパク質の塊)の種類を調べ、治療方法を決定します。
アミロイドの種類を調べるには、以下のような方法を使って、AL型、AA型、トランスサイレチン型など、様々な種類のアミロイドを見分けていきます。
- 免疫組織化学染色(特殊な染色方法)
- 質量分析法(物質の重さを精密に測る方法)
- 遺伝子解析(遺伝子の情報を調べる方法)
また、アミロイドは肝臓以外の臓器にも溜まることがあるので、心臓や腎臓など他の臓器の検査も併せて行います。
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の治療方法と治療薬について
現時点では肝アミロイドーシスに対する特効薬は存在しませんが、治療により症状の改善や進行を抑制できます。
原因となる疾患への治療
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の原因となる病気の種類により、治療方法が大きく変わってきます。
例えば、AL型アミロイドーシスの場合、異常な形質細胞(抗体を作る細胞の一種)の増殖を抑えるために、ボルテゾミブやダラツムマブといった薬を使用した化学療法を行います。
一方、AA型アミロイドーシスでは、原因となっている慢性的な炎症性疾患をコントロールしていきます。
原因疾患 | 主な治療方法 |
AL型アミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖が関与) | 化学療法、造血幹細胞移植 |
AA型アミロイドーシス(炎症性疾患が関与) | 抗炎症療法、生物学的製剤 |
家族性アミロイドーシス(遺伝子変異が関与) | 肝臓移植、TTR安定化薬 |
症状を和らげるための治療
原因となる病気の治療と並行し、肝臓の機能障害や全身に現れる症状を和らげるための治療も行います。
- 利尿薬(おなかに水がたまる腹水や体がむくむ浮腫を軽くする)
- 肝庇護薬(肝臓の機能を守る)
- 栄養療法(栄養が足りていない状態を改善する)
- 抗凝固療法(血液が固まりやすくなる血栓を予防する)
最近開発された新しい治療薬
近年、アミロイドーシスの治療薬の開発が進んでおり、肝アミロイドーシス・アミロイド肝の治療にも新しい選択肢が増えつつあります。
薬の名前 | どのように働くか | どんな種類のアミロイドーシスに使うか |
パティシラン | siRNA(小さなRNA分子)を使ってアミロイドの元になるタンパク質の生成を抑える | 家族性アミロイドーシス |
イノテルセン | アンチセンスオリゴヌクレオチド(特定の遺伝子の働きを抑える物質)を使う | 家族性アミロイドーシス |
タファミジス | TTR(アミロイドの原因となるタンパク質の一種)を安定させる | 家族性アミロイドーシス |
新しく開発された治療薬は、特に家族性アミロイドーシスに対して効果的です。ただし、他の種類のアミロイドーシスに対する効果はまだ十分にわかっておらず、さらなる研究が進められています。
肝アミロイドーシス・アミロイド肝の治療期間
肝アミロイドーシスの治療は原発性のものか、他の疾患が原因のものかによって、治療期間が大きく変わります。数か月から数年、場合によっては生涯にわたることもあります。
治療は段階的に進めていきます
最初の段階では、病気の原因となっている問題を治したり、つらい症状を和らげたりすることに力を入れます(数週間から数か月)。
次に、アミロイド(異常なタンパク質)が溜まるのを抑える治療を行います。治療への反応によって違いますが、多くの場合治療期間は6か月から1年以上です。
また、生涯にわたり病気の管理と、定期的な経過観察を行います。
- 最初の治療:数週間〜数か月
- 病気の進行を抑える治療:6か月〜1年以上
- 経過観察:6か月〜1年(状況により延長)
- 治療後の定期確認:一生涯
治療効果の評価と調整
治療がどれくらい効果があるかを定期的に確認し、必要に応じて治療内容を変更します。
最初の治療後に症状がよくなり6か月で治療を終えられると思われた患者さんが、1年後に症状が再び悪化し、結果的に3年以上の治療が必要になった事例もあるため、一度よくなったように見えても長い間経過を見守ることが大切です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
肝アミロイドーシスのそれぞれの治療法には、副作用やリスクがあります。
治療法 | 主な副作用 |
化学療法 | 骨髄抑制、脱毛、悪心 |
免疫調節薬 | 血球減少、末梢神経障害 |
臓器移植 | 拒絶反応、感染症 |
全身性アミロイドーシスに関連するリスク
肝臓以外の臓器にもアミロイドが沈着し、合併症を起こす可能性があります。心臓へのアミロイド沈着は特に注意が必要で、心不全や不整脈のリスクが増加します。
また、腎臓や神経系への影響も見られることがあり、多臓器にわたる慎重な管理が重要となります。
治療関連合併症
合併症 | 主な症状 |
感染症 | 発熱、倦怠感 |
出血傾向(血が止まりにくくなる) | 皮下出血、鼻出血 |
電解質異常(体内のミネラルのバランスが崩れる) | 筋力低下、不整脈 |
栄養障害 | 体重減少、貧血 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
肝アミロイドーシスの治療費は、病状や治療法によって大きく変わります。保険適用される治療もありますが、高額になることも多いです。
保険適用される治療と自己負担額の目安
治療項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
MRI検査 | 15,000円〜25,000円 |
肝生検 | 30,000円〜50,000円 |
薬物療法(月額) | 10,000円〜30,000円 |
入院費(1日) | 5,000円〜10,000円 |
治療費が高額になる場合、高額療養費制度を利用できます。この制度により、月ごとの自己負担額に上限が設定されます。
肝移植に関する費用
重症化した場合、肝移植が必要になります。肝移植は高額な医療費がかかる治療法の一つです。
項目 | 概算費用 |
脳死肝移植手術 | 2,000万円〜3,000万円 |
術後の免疫抑制剤(月額) | 10万円〜20万円 |
以上
参考文献
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