052-228-1280 WEB予約 LINE予約

皮膚悪性腫瘍

皮膚悪性腫瘍

皮膚悪性腫瘍(malignant skin tumors)とは、皮膚の細胞が異常に増殖し周囲の組織へ侵入したり、遠隔の器官へ広がったりする悪性の腫瘍のことです。

代表的な疾患として、悪性黒色腫(メラノーマ)、基底細胞癌、扁平上皮癌などが挙げられます。

長期にわたり紫外線を浴びることや遺伝的素因、免疫機能の低下が誘因で、早期発見が予後を大きく左右するため、日頃からの自己観察や定期的な皮膚科受診が大切です。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

運営ソーシャルメディア(SNSでは「こばとも」と名乗ることもあります)

XYouTubeInstagramLinkedin

著書一覧
経歴・プロフィールページ

こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

皮膚悪性腫瘍の病型

皮膚悪性腫瘍は、悪性黒色腫、角化細胞系腫瘍、汗腺癌、脂腺癌、メルケル細胞癌など、多岐にわたる病型があります。

悪性黒色腫(メラノーマ)

悪性黒色腫はメラノサイトから発生する悪性度の高い腫瘍です。

色素性母斑や新たに出現した色素斑に注意を払うことが、早期発見の鍵となります。

角化細胞系腫瘍の種類

角化細胞系腫瘍には基底細胞癌と有棘細胞癌が含まれ、それぞれ異なる特徴を持ちます。

基底細胞癌は発生頻度が最も高く進行が比較的緩やかですが局所破壊性が強く、有棘細胞癌は転移のリスクがあるため、より慎重な経過観察が必要です。

腫瘍タイプ特徴好発部位転移リスク
基底細胞癌局所破壊性が強い顔面、頭部低い
有棘細胞癌進行が比較的速い日光露出部中程度

汗腺癌と脂腺癌

汗腺癌と脂腺癌は、それぞれ汗腺と脂腺から発生する皮膚悪性腫瘍です。

初期段階では良性腫瘍との鑑別が困難な場合があり、診断には病理組織学的検査が欠かせません。

メルケル細胞癌

メルケル細胞癌は神経内分泌系の腫瘍であり、悪性度が高いです。

高齢者や免疫機能が低下した患者さんに多く見られ、早期の段階でも遠隔転移のリスクが高いため迅速な対応を行います。

皮膚悪性腫瘍の症状

皮膚悪性腫瘍はさまざまな症状を示す危険性の高い病気です。

悪性黒色腫(メラノーマ)の症状

悪性黒色腫は、皮膚の色素を作るメラノサイトという細胞から発生する悪性の腫瘍です。

次のような症状が見られたら、できるだけ早く皮膚科を受診してください。

  • 形が左右対称ではない黒っぽいシミ
  • 縁がギザギザしていたり、はっきりしない病変
  • 一つの病変の中に黒、茶、赤、白などの色むらがある
  • 直径が6mmより大きい
  • 形や大きさが変わってきている
症状特徴
非対称
不規則
多彩
大きさ6mm以上

角化細胞系腫瘍に現れる症状

角化細胞系腫瘍には、基底細胞癌と扁平上皮癌という2種類があり、日光を浴びやすい部分に出来やすいです。

基底細胞癌の症状

  • 真珠のような光沢を持つ、盛り上がった病変
  • 中心部分がくぼんで潰瘍になっていることがある
  • ゆっくりと大きくなり、少し触っただけでも出血しやすい

扁平上皮癌の症状

  • かさぶたやうろこのようなものがついた赤い腫れ物
  • 表面がザラザラしていて、触るとざらつく感じがする
  • 比較的短期間で急に大きくなる傾向がある

まれな皮膚悪性腫瘍の症状

汗腺癌、脂腺癌、メルケル細胞癌などの珍しい皮膚悪性腫瘍もあります。

腫瘍の種類症状
汗腺癌皮膚の下に硬いしこりができる、皮膚が厚くなる
脂腺癌黄色っぽいしこりができ、急に大きくなる
メルケル細胞癌赤紫色で光沢のあるしこりができる

皮膚悪性腫瘍に共通して見られる症状

皮膚悪性腫瘍は種類によって症状が異なりますが、共通のものもあります。

  1. もともとあるほくろや皮膚の変化が急に目立つようになる
  2. 今までなかった場所に新しい変化が現れ、急速に大きくなる
  3. 出血したり、かゆみを感じたりする部分がある
  4. 皮膚の傷や潰瘍がなかなか治らない
  5. 周りの皮膚と比べて色や手触りが明らかに違う部分がある

皮膚悪性腫瘍の原因

皮膚悪性腫瘍は遺伝的な要素、環境からの影響、生活習慣などの複数の要因が絡み合って発生します。

紫外線

皮膚がんの最も大きな原因が、紫外線を浴びすぎることです。

太陽の光に含まれる紫外線の中のUVB波は、皮膚の細胞のDNAを直接傷つけます。

紫外線の種類影響危険度
UVA肌の老化を早めるやや危険
UVB細胞のDNAを直接傷つけるとても危険
UVC普通は大気で止められるので地上には届かないあまり危険ではない

遺伝子

皮膚がんの中には遺伝子が関係しているものもあり、CDKN2Aという遺伝子に変化がある場合、家族の中で悪性黒色腫が発生しやすいです。

免疫力

臓器移植を受けた後に免疫を抑える薬を使っている人や、HIVに感染している人は、皮膚がんになる危険性が高くなります。

免疫システムは体の中で異常な細胞を見つけて取り除く役割がありますが、その働きが弱くなるとがん細胞が増えるのを止められなくなるのです。

化学物質や長引く炎症

化学物質に長い間触れ続けたり皮膚の炎症が長く続いたりすることも、皮膚がんの原因です。

ヒ素やタールは皮膚がんになる危険性を高め、皮膚の炎症が長く続いたり傷跡が残ると細胞が異常に増えやすくなり、がん化するリスクが高まります。

原因影響予防策
紫外線細胞のDNAを傷つける日焼け止めをしっかり塗る
遺伝子がんになるリスクが高まる定期的に検診を受ける
免疫力低下がん細胞が増えやすくなる体調管理に気をつける
化学物質細胞に変異を起こす危険な物質に触れないようにする

日々の生活習慣

喫煙や偏った食生活など、毎日の生活習慣も皮膚がんのリスクに影響を与えます。

特に喫煙は、扁平上皮がんになる危険性を高めることがわかっています。

皮膚がんを防ぐために気をつけること

  • 紫外線を浴びすぎないように気をつけ、外出時は日焼け止めをしっかり塗る
  • 遺伝的にがんになりやすい家系の人は、定期的に病院で検査を受ける
  • 免疫力を高めるために、バランスの良い食事をとり、適度な運動を心がける
  • 有害な化学物質に触れないよう注意する
  • タバコは吸わず、健康的な生活習慣を心がける

皮膚悪性腫瘍の検査・チェック方法

皮膚悪性腫瘍を早期に発見するためには、定期的にチェックを行うことと皮膚科医による検査を受けることが大切です。

自己チェックの必要性

自己チェックは月に1回程度、身体全体の皮膚を観察します。

  • 十分な明るさのある場所で全身が映る鏡を使用
  • 頭皮や耳の裏側、指の間、足の裏など、普段目につきにくい部分も忘れずに確認
  • すでにあるほくろや新しく出現した皮膚の変化に注意を払う
  • ABCDEルールを意識しながら観察
ABCDEルール内容
A (Asymmetry)左右非対称性
B (Border)境界線が不規則
C (Color)複数の色が混在
D (Diameter)直径が6mm超
E (Evolving)大きさや形の変化

検査の種類

皮膚科による詳しい検査は、自己チェックでは気づきにくい変化を発見するのに役立ちます。

  1. 視診と触診:身体全体の皮膚を目で確認し、必要に応じて指で触れて状態を確認
  2. ダーモスコピー検査:特殊な拡大鏡を用いて、肉眼では見えないような皮膚表面の微細な構造を観察
  3. 生検:疑わしい部分の一部または全体を採取し、顕微鏡を使って詳しく調べることで、確定診断を行う

画像診断

より詳細な検査が必要と判断された場合、画像診断が実施されます。

検査方法特徴と利点
CT検査X線を使って体内の詳細な断層画像を撮影し、腫瘍の広がりや転移の有無を確認
MRI検査強力な磁気を利用して軟部組織を詳細に観察し、腫瘍の位置や大きさを正確に把握
PET検査特殊な薬剤を用いてがん細胞の代謝活性を検出し、全身のがんの広がりを評価

血液検査と遺伝子検査

血液検査や遺伝子検査も、皮膚悪性腫瘍の診断や進行度の評価に役立ちます。

  • 血液検査:腫瘍マーカーの測定や全身の健康状態の確認を行い、病状の把握や経過観察
  • 遺伝子検査:遺伝子変異の有無を調べることで、治療方針の決定

皮膚悪性腫瘍の治療方法と治療薬について

皮膚悪性腫瘍の治療には、外科的切除、放射線療法、化学療法、免疫療法、分子標的療法があります。

外科的切除

外科的切除は、多くの皮膚悪性腫瘍に対して最初に検討される治療法です。

腫瘍を周囲の組織とともに完全に切除することで再発のリスクを最小限に抑え、根治を目指します。

近年ではモース手術などの技術が発展し、美容的に重要な部位において可能な限り皮膚を温存しつつ、確実に腫瘍を除去することが可能です。

手術法特徴適応となる状況
通常切除広範囲の切除が可能大型腫瘍や体幹部の腫瘍
モース手術組織温存性が高い顔面や機能的に重要な部位の腫瘍

放射線療法

放射線療法は手術が困難な部位に発生した腫瘍や、全身状態により手術のリスクが高い高齢者の患者さんに対して有効な治療選択肢です。

高エネルギーのX線を用いて腫瘍細胞にダメージを与えます。

化学療法

化学療法はすでに転移が認められる皮膚悪性腫瘍や、局所治療では抑えるのが難しい進行期の腫瘍に対して用いられる治療法です。

抗がん剤を全身に投与することで、体のあらゆる部位にあるがん細胞の増殖の抑制と破壊を試みます。

用いられるのは、5-フルオロウラシル(5-FU)やシスプラチンです。

薬剤名作用のメカニズム注意すべき副作用
5-FUDNAの合成を阻害する骨髄機能の抑制
シスプラチンDNAに結合して架橋を形成する腎機能への悪影響

免疫療法

免疫療法は患者さん自身の免疫系を活性化させることで、がん細胞を効果的に攻撃する画期的な治療法です。

チェックポイント阻害薬や樹状細胞療法など次々と治療法が開発され、臨床応用されています。

悪性黒色腫に対して非常に高い効果を示すケースが多いです。

分子標的療法

BRAF阻害剤やMEK阻害剤などの分子標的療法が特定の遺伝子変異を持つ腫瘍に対して使われ、従来の抗がん剤と比較して副作用が軽度であることが多いです。

皮膚悪性腫瘍に対する治療法

  • 外科的切除:腫瘍を物理的に完全に除去することを目指す
  • 放射線療法:高エネルギー放射線による非侵襲的な腫瘍破壊
  • 化学療法:全身に投与する薬剤によるがん細胞の増殖抑制
  • 免疫療法:患者自身の免疫系を活性化させてがん細胞を攻撃
  • 分子標的療法:がん細胞特有の分子を標的とした精密な治療

薬の副作用や治療のデメリットについて

皮膚悪性腫瘍に対する治療法は高い効果が期待できる一方で、副作用やデメリットがあります。

外科的切除に伴う副作用とデメリット

外科的切除は皮膚悪性腫瘍に対する第一選択の治療法であるものの、デメリットもあります。

  • 手術部位の痛みや腫れが一定期間持続
  • 術後の感染リスクが若干増加
  • 切除範囲によっては、目立つ傷跡や形態の変化が残る
  • 神経を損傷することによって感覚異常が生じることがある
術後合併症発生頻度
創部感染2-5%
術後出血1-3%
傷跡形成ほぼ全例

放射線療法の副作用

放射線療法は手術が困難な症例や補助療法として用いられますが、副作用があります。

  1. 照射部位の皮膚に炎症や発赤が生じる
  2. 皮膚の乾燥感や痒みが現れる
  3. 照射部位の色素沈着が変化する
  4. 長期的には、照射部位の皮膚が脆弱化する

化学療法による全身性の副作用

進行期の皮膚悪性腫瘍に対して行われる化学療法は、全身に影響を及ぼします。

副作用症状
骨髄抑制貧血、感染リスクの上昇
消化器症状吐き気、下痢、食欲不振
脱毛一時的な毛髪の脱落
全身倦怠感持続的な疲労感

免疫療法に関連する特有の副作用

免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法は、従来の治療法とは異なる独特の副作用があります。

  • 自己免疫反応が増強し、いろいろな臓器に影響
  • 皮膚炎や全身性の発疹が出る
  • 内分泌機能に変化が生じ、ホルモンバランスが乱れる
  • 肺炎や大腸炎など、各種臓器に炎症が生じる

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

健康保険が適用される標準的治療

皮膚悪性腫瘍の標準的な治療法の多くは、健康保険の適用対象です。

治療法保険適用概算治療費(3割負担の場合)
外科的切除適用5万円〜20万円
放射線療法適用10万円〜30万円
化学療法適用10万円〜50万円/月

先進医療と保険適用外治療

一部の最新の治療法は先進医療として位置づけられ、免疫チェックポイント阻害薬や一部の分子標的薬は、特定の条件下でのみ保険適用されます。

以上

参考文献

Otsuka F, Someya T, Ishibashi Y. Porokeratosis and malignant skin tumors. Journal of cancer research and clinical oncology. 1991 Jan;117:55-60.

Ricotti C, Bouzari N, Agadi A, Cockerell CJ. Malignant skin neoplasms. Medical Clinics. 2009 Nov 1;93(6):1241-64.

Rongioletti F, Margaritescu I, Smoller BR. Rare malignant skin tumors. Springer; 2014 Dec 1.

Lindelöf B, Eklund G. Incidence of malignant skin tumors in 14 140 patients after grenz-ray treatment for benign skin disorders. Archives of dermatology. 1986 Dec 1;122(12):1391-5.

Forae GD, Olu-Eddo AN. Malignant skin tumors in Benin City, south-south, Nigeria. Oman Medical Journal. 2013 Sep;28(5):311.

Gerger A, Koller S, Weger W, Richtig E, Kerl H, Samonigg H, Krippl P, Smolle J. Sensitivity and specificity of confocal laser‐scanning microscopy for in vivo diagnosis of malignant skin tumors. Cancer: Interdisciplinary International Journal of the American Cancer Society. 2006 Jul 1;107(1):193-200.

Kawaguchi M, Kato H, Noda Y, Kobayashi K, Miyazaki T, Hyodo F, Matsuo M. Imaging findings of malignant skin tumors: Radiological–pathological correlation. Insights into Imaging. 2022 Mar 22;13(1):52.

Varan A, Gököz A, Akyüz C, Kutluk T, YalçIn B, Köksal Y, Büyükpamukçu M. Primary malignant skin tumors in children: etiology, treatment and prognosis. Pediatrics international. 2005 Dec;47(6):653-7.

Yun MJ, Park JU, Kwon ST. Surgical options for malignant skin tumors of the hand. Archives of plastic surgery. 2013 May;40(03):238-43.

BECKER SW, KAHN D, ROTHMAN S. Cutaneous manifestations of internal malignant tumors. Archives of Dermatology and Syphilology. 1942 Jun 1;45(6):1069-80.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次