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ガングリオン

ガングリオン

ガングリオン(ganglion)は、関節や腱鞘の周辺に発生する良性の嚢胞状腫瘤です。

手首や足首の近くに形成されることが多く、内部には透明度の高いゼリー状の液体があります。

豆粒ほどの微小なものから、ゴルフボールぐらいの大きさのものまで見られます。

ガングリオンの発生メカニズムについては未だ解明されていませんが、関節や腱への過度の負荷が一因です。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

ガングリオンの症状

ガングリオンができても痛みを感じない腫れとして気づくことが多いのですが、中には不快感や日常動作の障害を経験する方もいます。

ガングリオンによくみられる症状

ガングリオンで最も目立つ症状は、皮膚の表面に現れる腫れです。

  • 大きさ:小さな豆くらいから、ゴルフボールほどの大きさまでさまざま
  • 形:丸みを帯びた円形や楕円形で、周りとの境目がはっきりしている
  • 触った感じ:固くて弾力があり、押すとやや跳ね返るような感覚がある
  • 動き:皮膚の下で少し動かせる

腫れは痛みを伴わないため、偶然に気づくことも少なくありません。

ガングリオンが出来る場所による症状の違い

ガングリオンは体のいろいろな部分にでき、場所によって感じる症状が違います。

現れる場所みられる症状
手首腫れ、手首を動かしにくい感じ
足首腫れ、歩くときに違和感がある
腫れ、指の関節が曲げにくい
腫れ、膝を曲げ伸ばしする時に違和感がある

手首や足首にできると関節を動かすのが難しくなり、指に発生すると物をつかむときに不便さを感じるでしょう。

痛みを伴うガングリオンの症状

普通ガングリオンは痛みを感じないものですが、次のような状況では痛みを伴います。

  1. 腫れが神経を押してしまっている場合
  2. 関節を動かすことで腫れが圧迫される場合
  3. 腫れが急に大きくなってしまった場合

痛みの種類はじわじわとした鈍い痛みから鋭く刺すような痛みまであり、常に痛みを感じることもあれば、体を動かしたときだけ痛みを感じる場合もあります。

ガングリオンによる日常生活への影響

ガングリオンの大きさや場所によっては、毎日の生活に支障をきたす機能の障害が起きます。

起こりうる機能障害影響を受ける日常的な活動
関節の動きが制限されるスポーツをする、楽器を演奏する
物をしっかり握れない重いものを持つ、文字を書く
歩きにくくなる長い距離を歩く、走る
靴が履きづらくなる特定の種類の靴を履く

機能障害は、ガングリオンが大きくなるにつれて悪化します。

ガングリオンの経過と時間による変化

ガングリオンの症状は、時間が経つにつれて変化します。

  • 大きさの変化:数日や数週間で大きくなったり小さくなったりする
  • 自然に消える:何もしなくても自然と消えてしまう
  • 再び現れる:一度消えても、また同じ場所や近くに現れる

ガングリオンの原因

ガングリオンは関節や腱鞘の内圧が高まることで生じる良性の腫瘍で、形成の仕組みは体に加わる負担や組織の変性が関係しています。

ガングリオン発生の要因

関節や腱鞘に必要以上の負担がかかると、中にある滑液が増え内部の圧力が上がります。

この高まった圧力が関節包や腱鞘の弱いところを押し広げ、袋状の突起を作り出すのです。

体に加わる負担の影響

毎日の生活や仕事で繰り返し行う動作が、手首や足首などよく使う部分にガングリオンを作り出すきっかけになります。

リスクの高い活動体への負担
パソコン操作手首を繰り返し動かす
スポーツ関節に急な力がかかる
重いものを持つ腱に強い圧力がかかる

組織の老化と弱まり

年を重ねることやけがの後の組織の変化も、ガングリオンができる原因の一つです。

関節包や腱鞘の組織が弱くなると内部の圧力が高まったときに耐えられなくなり、突き出やすくなります。

  • 年齢とともに結合組織の柔軟性が低下
  • 過去のけがで組織が弱くなる
  • 長期的な炎症で組織が変化する

遺伝的な要素

家族の中で複数の人がガングリオンを経験しているケースが報告されていることから、遺伝的な要因も関係すると考えられます。

遺伝的な要素体への影響
結合組織の性質組織の丈夫さと柔軟性
関節の形力のかかりやすさ
滑液の作られる量内部の圧力が上がりやすいか

ガングリオンの検査・チェック方法

ガングリオンの診断には視診や触診といった身体検査から、超音波検査やMRIなどの高度な画像診断まで、いろいろな方法が活用されています。

視診と触診による初期評価

ガングリオンの診断過程において、最初に実施されるのが視診と触診です。

  • 腫瘤の出現部位と大きさ
  • 皮膚表面の色調や性状
  • 腫瘤の形態と周囲との境界
  • 硬さと動きやすさ

触診では腫瘤の固さや可動性、圧迫時の痛みの有無などを確認していき、また、関節を動かしたときの腫瘤の変化についても観察します。

透光試験

透光試験は、ガングリオンに使われる検査方法の一つです。

実施手順観察のポイント
照明を落とした部屋で行う周囲からの光を遮断する
ペンライトを腫瘤に直接当てる光の透過性を詳細に確認
反対側から注意深く観察透過光の有無と程度を判断

ガングリオンは内部が液体成分で満たされているため、光を通すという特性があります。ただし、壁が厚いガングリオンや大型のものでは、透光性が低下することもあります。

超音波検査(エコー)

超音波検査は、ガングリオンの診断に広く用いる非侵襲的な検査方法です。

  • 腫瘤内部の構造を細部まで観察
  • 周囲組織との位置関係を詳細に把握
  • 血流の存在を評価(カラードップラー法を使用)
  • リアルタイムで動きを含めた評価が実現

超音波検査の特性

  1. 放射線被曝のリスクがない
  2. 比較的短時間で実施可能
  3. 他の画像診断に比べコストが抑えられる
  4. 必要に応じて繰り返し検査が行える

MRI(磁気共鳴画像)検査

MRI検査は、より詳細な画像のために行われます。

MRI検査の利点得られる詳細情報
高解像度の画像取得腫瘤の内部構造を精密に描出
軟部組織の描出能力に優れる周囲組織との関係性を明確化
多方向からの観察が可能立体的な位置関係を把握
造影剤の使用が可能血流評価や悪性腫瘍との鑑別に寄与

MRI検査は体の深部に位置するガングリオンや、他の軟部組織腫瘍との鑑別が必要な症例に役立ちます。

穿刺吸引細胞診

診断を確定させるために穿刺吸引細胞診が実施されることがあります。

穿刺吸引細胞診の実施手順

  1. 局所麻酔を慎重に行う
  2. 専用の細い針を腫瘤に正確に刺入
  3. 内容物を注意深く吸引
  4. 吸引した液体の性状を詳細に確認
  5. 顕微鏡を用いて細胞を精密に観察

ガングリオンの粘液様物質を確認できるだけでなく、他の疾患の可能性を排除できます。

鑑別診断のための追加検査

ガングリオンと類似した症状がある他の疾患との鑑別が必要なときは、追加の検査を行います。

  • X線検査:骨の状態や関節の変形の有無を詳細に確認
  • CT検査:より精密な解剖学的情報を取得
  • 血液検査:炎症マーカーや腫瘍マーカーの値を評価

ガングリオンの治療方法と治療薬について

ガングリオンの治療は、経過観察から外科的処置まで、さまざまな選択肢が提案されます。

経過観察

小さなガングリオンや目立った症状がないときは、しばらく様子を見る経過観察を選ぶことが多いです。

時間の経過とともに自然に縮小したり、完全に消えるケースも珍しくありません。

経過観察のメリット経過観察のデメリット
体への負担がない完治までに長期間を要する
経済的な負担が少ない症状が進行する可能性がある
副作用のリスクがない外見上の問題が持続する

保存的治療

症状を伴うガングリオンに対しては、まず保存的な治療法が試みられます。

  • 固定具の使用:関節の動きを制限し、痛みの軽減を図る
  • アイシング:腫れや痛みを和らげる効果が期待できる
  • 消炎鎮痛薬の服用:炎症や痛みを抑制し、日常生活の快適さを向上させる

穿刺吸引

穿刺吸引はガングリオン内部の液体を細い針を用いて吸引する方法で、即効性があり症状の速い改善が期待できますが、再発率は高いです。

穿刺吸引のメリット穿刺吸引のデメリット
即時的な症状の緩和再発の可能性が高い
局所麻酔で実施可能感染のリスクがある
日帰りで処置が完了完全な除去が困難な場合がある

ステロイド注射

穿刺吸引の後にステロイド薬を注入することで、炎症を抑制し再発を予防する効果が期待できます。ただし、ステロイド薬の使用には副作用のリスクが伴うので注意が必要です。

外科的切除

保存的治療や穿刺吸引による改善が見られない患者さんには外科的切除が選択され、ガングリオンを根元から完全に切除するため、再発の可能性は低いです。

薬の副作用や治療のデメリットについて

ガングリオンの治療には薬物療法や手術がありますが、それぞれに副作用やデメリットが伴います。

薬物療法に伴う副作用

ガングリオンの治療に用いられる薬物には副作用があり、使用に際しては慎重な経過観察が必要です。

    使用薬物副作用
    局所ステロイド剤皮膚の萎縮、色素沈着、毛細血管の拡張
    NSAIDs胃腸障害、腎機能の低下、出血傾向の増加
    硬化剤局所的な疼痛、炎症反応、神経組織への損傷

    局所ステロイド剤を長期間使用すると、皮膚の脆弱化や感染リスクの上昇につながります。

    穿刺吸引法に伴うリスク

    穿刺吸引法は低侵襲な治療法ですが、以下のようなリスクがあります。

    • 感染症の発生
    • 神経や血管組織への損傷
    • 不完全な吸引による再発
    • 持続的な疼痛や腫脹

    穿刺吸引後の再発率は高く、複数回の処置を要する症例も少なくありません。

    手術療法のデメリット

    手術による完全切除はガングリオンに対する最も確実な治療法であるものの、デメリットもあります。

    1. 手術に付随する一般的なリスク(出血、感染症の発生など)
    2. 麻酔に関連するリスク
    3. 術後の瘢痕形成
    4. 関節可動域の制限
    5. 神経損傷による感覚異常や運動機能の低下
    手術対象部位特有のリスク要因
    手首部手根管症候群の発症、腱組織の損傷
    足首部歩行機能の障害、浮腫の発生
    指部関節の拘縮、指の変形

    手術後も約5-10%の確率で再発し、完全な予防は難しいです。

    治療後に生じうる機能障害

    手術療法を受けた場合、機能障害が生じる可能性があります。

    • 関節の動きの制限や硬直
    • 筋力の低下
    • 握力の減退
    • 疼痛による日常動作の制限

    保険適用と治療費

    お読みください

    以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

    保険適用の基本的な考え方

    ガングリオンの治療は健康保険が適用されますが、美容目的と判断された場合は自費診療になります。

    外来診療における保険適用と治療費

    外来での診察や保存的治療は、保険適用です。

    治療法治療費(3割負担)
    経過観察1,000円~3,000円
    穿刺吸引3,000円~7,000円
    ステロイド注射5,000円~10,000円

    入院や手術の保険適用と治療費

    ガングリオンの外科的切除が必要になると、入院や手術の費用が発生します。

    • 日帰り手術:30,000円~50,000円(3割負担の場合)
    • 入院を伴う手術:100,000円~200,000円(3割負担、3日間入院の場合)

    自費診療の治療費

    美容目的と判断されたり、患者さんの希望で保険適用外の治療を選択した場合は、全額自己負担です。

    治療法自費診療の場合の費用
    レーザー治療50,000円~100,000円
    高周波治療30,000円~80,000円

    以上

    参考文献

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    大垣中央病院・こばとも皮膚科

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