静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫(Venous lake / Bean-Walsh syndrome)とは、血管が異常に広がることで起こる良性の病変です。
年齢を重ねた方の唇や耳に見られ、青みがかった紫色や濃い赤色の小さな盛り上がりとして現れます。
大きさは1センチメートルに満たず指で触ると柔らかく感じられ、押すと色が一時的に薄くなり痛みは伴いませんが、見た目が気になるでしょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫の症状
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫の症状は、青紫色の小さな膨らみ、触ると柔らかい感触、押すと色が変わる性質、出血しやすい傾向、特定の部位に集中して現れやすいということです。
青紫色の小さな膨らみ
静脈湖の最も目立つ症状は、皮膚の表面に現れる青紫色の小さな膨らみです。直径が1センチメートルに満たないくらいの大きさで、周りの健康な皮膚とはっきりと区別できます。
特徴 | 詳細 |
色 | 青紫色から濃い赤色まで幅がある |
大きさ | ほとんどの場合1cm未満だが、まれに大きくなることもある |
形状 | 小さなドーム型の盛り上がり |
境界 | 周りの皮膚とはっきり区別できる |
膨らみは血管が異常に広がって血液がたまることで生じ、小さな水風船が皮膚の下にあるような感じで、見た目にも触った感じにも独特の特徴があります。
触ると柔らかい感触
静脈湖に触れると、柔らかさがあります。
- 指で軽く押すと、ゼリーやグミキャンディーを触っているような柔らかさ
- 周りの普通の皮膚と比べると、柔らかくて弾力がある
- 触っても痛みを感じることはない
悪性腫瘍は硬く感じられるので、柔らかさは良性の証拠とも言えるものです。
押すと色が変わる性質
静脈湖の特徴的な症状の一つに、押すと色が変わるという性質があります。
状態 | 色の変化 |
普段の状態 | 青紫色から濃い赤色 |
押したとき | 色が薄くなるか、ほとんど見えなくなる |
押すのをやめたあと | すぐに元の色に戻る |
出血しやすい
静脈湖は予期せぬ出血を起こし、これは、広がった血管が皮膚のすぐ近くにあるために起こる症状です。
出血が起こりやすい状況
- 服や手などで軽く擦れたり、ぶつけたとき
- 皮膚が乾燥して、ひび割れができたとき
- 無意識のうちに爪で引っかいてしまったとき
出血はそれほど多くありません。
特定の部位に集中して現れやすい
静脈湖は特定の部位に集中して発生しやすいです。
好発部位
- 唇(下唇が多い)
- 耳たぶや周辺
- 顔の皮膚
- 首の部分
これらの部位は長年にわたって日光を浴びたり、摩擦を受けたりしやすい箇所です。
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫の原因
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫が発生する原因は、皮膚の血管壁が弱くなり血管が広がることにあります。年を重ねたり長期間の日光を浴びることが影響しているほか、遺伝や局所的なケガも関係していることがわかってきました。
年齢
年を取るにつれて皮膚の血管壁がだんだん弱くなり広がりやすくなるため、静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫ができやすくなります。
年齢 | 静脈湖ができる可能性 |
20歳代 | 低い |
40歳代 | 中くらい |
60歳以上 | 高い |
日光の浴びすぎ
長い間紫外線を浴び続けると皮膚の構造を変え、血管壁を支えているコラーゲンやエラスチンを壊し、静脈湖ができるリスクが高まります。
- 紫外線A波:肌の奥深くまで届き、血管の壁を直接傷つける。
- 紫外線B波:肌の表面を傷つけ、間接的に血管に負担をかける。
- 紫外線C波:普段は地球を覆う大気の層で止められますが、オゾン層が薄くなると影響が心配される。
遺伝要因
遺伝子に変化があると血管のでき方や維持の仕方に影響を与え、静脈湖ができやすくなります。
遺伝的な要因 | どのくらい影響するか |
血管をつくる遺伝子の変化 | 中程度 |
肌のハリに関係する遺伝子の異常 | 大きい |
血管の周りの筋肉の働きが悪くなる | 小さい |
ケガ
よく唇を噛む癖がある人や同じ場所をずっとこすり続けている人は、血管の壁が弱くなり静脈湖ができる可能性が高まります。
ホルモンのバランス
女性ホルモンのエストロゲンの量が変わると血管が広がったり縮んだりするため、静脈湖に影響を与えます。
ホルモンの種類 | 血管への影響 |
エストロゲン(女性ホルモン) | 血管を広げる |
テストステロン(男性ホルモン) | 血管を縮める |
コルチゾール(ストレスホルモン) | 血管の壁を弱くする |
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫の検査・チェック方法
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫を診断する際は、目で見て確認し手で触って調べ、その後似たような症状を持つ他の皮膚の病気と区別するために、いくつかの検査を実施します。
目で見て行う最初の評価
静脈湖を診断する時まず行うのは、目で見て確認する検査です。
観察するポイント | よくある特徴 |
色 | 青紫色から濃い赤色まで |
大きさ | たいてい1cm未満 |
形 | 小さなドーム型の盛り上がり |
周りとの境目 | はっきりしている |
病変がどこにいくつあるか、周りの皮膚の状態はどうかなども併せて調べます。
手で触っての確認
目で見た後指で病変部を軽く押して、いくつかのことを確認します。
- 柔らかさ:典型的な静脈湖は、水風船を触っているような柔らかい感触
- 押したときの色の変化:指で軽く押すと一時的に色が薄くなったり、ほとんど見えなくなったりする(ブランチング)が
- 痛みの有無:普通、静脈湖は押しても痛みを感じない
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーという検査を使うと、目で見ただけでは分からないような小さな構造まで観察できます。
ダーモスコピーで見える症状 | その意味 |
一様な赤紫色の領域 | 血管が異常に広がっている部分 |
白っぽいベール | 皮膚の表面が少し厚くなっている |
赤い小さな丸い部分 | 血液が固まっている場所 |
血管造影検査
血管の状態を詳しく確認するために血管造影検査が行われることがあり、造影剤を注射して、病変部の血管の構造を目で見えるようにします。
血管造影検査の利点
- 血管がどのように走っていて、どのように分布しているかを細かく知れる。
- 他の血管が関係する病気と区別するのに役立つ。
- 今後の対処方法を考えるうえで役立つ情報を得られる。
血液造影検査は体に負担がかかるので、本当に必要かどうかよく考えてから行います。
生検
普通の症例では必要ありませんが、診断が難しいときや悪性腫瘍との区別が必要な際には、生検が行われることがあります。
生検で確認できる静脈湖の症状
- 異常に広がった血管の空間
- 血管の内側を覆う細胞が一層に並んでいる様子
- 場合によっては、血液が固まっている部分の存在
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫の治療方法と治療薬について
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫の治療法は、レーザーや手術で取り除く方法が使われます。
レーザー治療
レーザーを患部に当てて、広がった血管を狙い撃ちで壊します。
レーザーの種類 | どんな特徴があるか |
Nd:YAGレーザー | 皮膚の深いところにある血管にも効く |
KTPレーザー | 皮膚の表面近くにある血管を治すのに向いている |
ダイオードレーザー | 痛みが少なく、治った後の回復が早い |
レーザー治療の良いところは傷跡があまり残らないことと、病院に通って短い時間で治療できることです。
手術で取り除く
手術で取り除く方法は、大きな静脈湖があったりレーザー治療が効果的でないときに選ばれます。
- 完全に取り除ける
- 1回の治療で終わる
- 傷跡が残る可能性
- 傷口から菌が入るリスク
凍結療法
凍結療法は液体窒素を使い病変を凍らせて壊す方法で、小さな静脈湖に効果があり痛みは少ないです。
治療する回数 | どのくらい効果があるか |
1回 | 100人中60人くらいの人で良くなる |
2回 | 100人中80人くらいの人で良くなる |
3回以上 | 100人中95人以上の人で良くなる |
一時的に水ぶくれができますが、1〜2週間で治ります。
硬化療法
硬化療法は、血管を固まらせる硬化剤を静脈湖に注射して、血管をふさぐ方法です。小さな静脈湖や、他の治療法が使えない場所にある静脈湖を治すのに効果があります。
薬の副作用や治療のデメリットについて
静脈湖(VL)・ビーン・ウォルシュ血管腫を治療する方法はいくつかありますが、どの方法にも副作用やデメリットがあります。
手術の危険性
手術で静脈湖を完全に取り除くのは効果的ですが、いくつか気をつけなければならないことがあります。
危険性 | 詳しい説明 |
傷跡が残る | 切った部分に目立つ傷跡が残る |
細菌感染 | 手術した部分に細菌が入って感染する |
出血が多い | 予想以上に出血したり、血の塊ができたりする |
また、麻酔を使うことによる危険性も考えなければなりません。
レーザー治療の副作用
レーザーを使う治療は体への負担が比較的少ない方法ですが、以下のような副作用があります。
- 皮膚が赤くなったり、腫れたり
- 一時的に皮膚の色が濃くなったり、逆に薄くなったり
- やけどのようになったり、傷跡が残ったり
硬化療法のデメリット
硬化療法にもデメリットがあります。
デメリット | 説明 |
痛み | 注射をする時や治療の後に痛みを感じる |
炎症反応 | 注射した部分が腫れたり、赤くなったりする |
皮膚の色が変わる | 治療した部分の色が一時的に変わる |
まれですが、注射する薬にアレルギー反応を起こしたり、周りの健康な組織にも影響が出ることもあります。
凍結療法の危険性
液体窒素を使って病気の部分を凍らせる方法には次のような危険性があります。
- 治療した部分に水ぶくれができる
- 皮膚の色が薄くなったり、濃くなったりする
- 傷跡が残る
- 神経を痛めてしまう
治療後の再発リスク
どの治療法を選んでも、完全腫瘍が戻ってこないようにすることは難しいのが現状です。
治療法 | 戻ってくる確率 |
手術で切り取る | 比較的低い |
レーザーを使う | 中くらい |
薬を直接注射する | やや高い |
冷やして固める | 中くらい |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
保険適用の基準
静脈湖の治療では保険適用されるかどうかは症状の程度や部位によって判断され、単なる美容上の問題ではなく、出血や痛みなどの機能的な問題があると保険診療の対象です。
治療法別の保険適用状況
レーザー治療は、多くの場合自費診療です。ただし機能的な問題がある場合は、例外的に保険適用されることもあります。
治療法 | 保険適用の可能性 | 一般的な治療費(自費診療の場合) |
レーザー治療 | 低い | 1回あたり20,000円〜50,000円 |
外科的切除 | 中程度 | 100,000円〜300,000円 |
凍結療法 | 低い | 1回あたり10,000円〜30,000円 |
硬化療法 | 低い | 1回あたり15,000円〜40,000円 |
以上
参考文献
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