アルコール性肝障害

アルコール性肝障害(Alcoholic liver disease)とは、長年にわたって大量のお酒を飲み続けることで起こる肝臓の病気です。

最初のうちは脂肪肝という形で現れますが、放置すると炎症が起きたり肝臓の組織が硬くなったりと、少しずつ悪化していきます。

最終的には肝硬変や肝不全といった命に関わる病気に進行するおそれがあるため、早めの対策が大切です。

目次

アルコール性肝障害の病型

アルコール性肝障害は軽いものから重いものまで、主に5つの種類に分けられます。お酒を飲む量や期間、その人の体質などによって、少しずつ進行していきます。

  • アルコール性脂肪肝:最初の段階で、お酒をやめると良くなる可能性が高い
  • アルコール性肝線維症:肝臓に線維ができ始めるが、それ以上悪くならないようにできる段階
  • アルコール性肝炎:急に起こったり長く続いたりする炎症があり、重い症状になる危険性がある
  • アルコール性肝硬変:肝臓の働きが大きく低下し、他の病気が起こる危険性が高まる
  • アルコール性肝がん:最も深刻な段階です

アルコール性脂肪肝

アルコール性脂肪肝は、肝臓の細胞に脂肪がたまってしまった状態を指します。

アルコール性肝障害の中でも最初の段階と言えるもので、肝臓の働きを調べる検査では軽い異常として見つかります。

多くの場合、お酒を飲むのをやめると良くなる見込みがあります。

アルコール性肝線維症

肝臓に線維という硬い組織ができてしまった状態です。肝臓に線維ができると、肝臓の働きが悪くなってしまう可能性があります。

この段階でも、早めに気付いて対応をすることで、病気の進行を抑えられる可能性が高いです。

アルコール性肝炎

アルコール性肝炎は、肝臓に炎症が起こっている状態です。

急に起こる「急性」と長い間続く「慢性」の両方があり、症状の程度もさまざまです。ひどい場合は、病院に入院して治療を受けなくてはならない場合もあります。

アルコール性肝硬変

アルコール性肝硬変は、肝臓の線維化がどんどん進んでしまった状態です。肝臓の働きが大きく低下し、門脈という血管の圧力が高くなるなど、他の病気も併発します。

この段階まで進むと、肝臓が自分で回復する力を失ってしまい、元に戻すことが難しくなります。

アルコール性肝がん

アルコール性肝がんは、アルコール性肝障害の中で最も深刻な状態です。肝硬変が進行して発症することが多く、できるだけ早く見つけて治療することが大切です。

アルコール性肝障害の進み方は個人差があります

アルコール性肝障害がどのようなスピードで進行していくかは、人によって大きな違いがあります。

ある患者さんは、20年以上もの間たくさんお酒を飲み続けていても、軽い脂肪肝の状態にとどまっていました。一方で、比較的短い期間お酒を飲んでいただけなのに肝硬変になってしまった方もいます。

このような違いが生まれる理由としては、生まれつきの体質や普段の生活習慣なども関係していると考えられています。

アルコール性肝障害の症状

アルコール性肝障害は初めのうちはなかなか気づきにくく、病気が進むにつれて体にさまざまな変化が現れるようになります。

初期症状

はっきりとした症状が出ないことが多いですが、次のような小さな変化が起こる方もいます。

  • いつもより疲れやすくなる
  • 食べたいと思わなくなる
  • 吐き気がしたり、実際に吐いてしまったりする
  • おなかの右上の方に違和感や痛みを感じる

進行期の症状

病気が進むと、より明らかな症状が出てきます。以下の表は、病気が進んだ時に見られる主な症状をまとめたものです。

症状どんな状態になるか
黄疸皮膚や目の白い部分が黄色くなる
腹水おなかに水がたまる
むくみ手や足がふくらむ
出血しやすくなる鼻血が出やすくなったり、歯を磨いた時に歯ぐきから血が出やすくなったりする

このような症状が現れた時は、肝臓の働きがかなり弱くなっている証拠です。できるだけ早く病院を受診して、治療を始めることが大切です。

体全体に及ぶ影響

肝臓の働きが弱くなると、他の臓器にも影響が出てきます。

影響を受ける臓器どんな症状が出るか
心臓心臓がドキドキする、息切れがする
腎臓おしっこの量が減る、体がむくむ
物覚えが悪くなる、集中力が落ちる
胃や腸下痢や便秘になる

心や神経の症状

  • 不安を感じたりイライラしたりすることが増える
  • 気分が落ち込みやすくなる
  • 眠れなくなったり、睡眠の質が悪くなったりする
  • 手が震えるようになる

アルコール性肝障害の原因

アルコール性肝障害の主な原因は、その名の通りアルコールの過剰摂取です。

肝臓でのアルコール代謝過程で生じる有害物質、慢性的な栄養バランスの崩れ、個人の遺伝的背景などにより、症状が悪化していきます。

お酒の代謝と肝臓への影響

お酒は肝臓で分解されますが、その過程で様々な有害物質が作られます。

アルコール分解の主な経路生成される有害物質
アルコール脱水素酵素経路アセトアルデヒド
ミクロソーム酵素系経路活性酸素

長年にわたる飲酒によって有害物質がどんどん蓄積していき、肝臓の働きを低下させたり、組織を傷つけたりします。

また、大量のお酒を飲むと肝臓での脂肪酸の代謝がうまくいかなくなり、脂肪肝の原因になります。

遺伝的な原因

アルコール性肝障害の発症には、その人の体質(生まれ持った遺伝的な特徴)も大きく関わっています。

中でも、アルコールを分解する酵素である「アルコール脱水素酵素(ADH)」や「アルデヒド脱水素酵素(ALDH)」という酵素の遺伝子に変異があると、お酒やその分解産物の処理能力に違いが出てきます。

  • ADH1B*2遺伝子:アルコールの分解を早める
  • ALDH2*2遺伝子:アセトアルデヒドの分解を遅くする

このような遺伝子変異を持っている人はお酒に対する反応が敏感で、少量の飲酒でも顔が赤くなったり頭痛がしやすくなります。

一方で、アルコールの分解が速すぎるのも問題です。アルコールの分解が速い遺伝子型を持つ場合はお酒をたくさん飲む方が多く、結果としてアルコール性肝障害のリスクが高まってしまうこともあります。

アルコール性肝障害の検査・チェック方法

アルコール性肝障害の診断では、血液検査や画像検査によって病気がどのくらい進行しているかを調べていきます。

診断の流れ
  1. 問診、身体観察
  2. 血液検査で肝臓の働きを確認する
  3. 画像検査で肝臓の形や状態を調べる
  4. 必要な場合は肝生検を行う

診察のポイント

  • 皮膚や目の白い部分が黄色くなっていないか(黄疸)
  • お腹に水がたまっていないか(腹水)
  • 肝臓の大きさや押したときの痛み
  • クモの巣のような血管の模様(クモ状血管腫)がないか
  • 手のひらが赤くなっていないか(手掌紅斑)

体の変化を確認し、肝臓の働きがどの程度低下しているかを判断していきます。

血液検査で分かること

検査項目何が分かるか
AST, ALT肝臓の細胞がどのくらい傷ついているか
γ-GTPアルコールによる肝臓への影響の度合い
ALP胆汁の流れが滞っていないか
血清アルブミン肝臓でタンパク質を作る力が落ちていないか
プロトロンビン時間血液が固まりやすくなっていないか

画像検査

超音波検査やCT、MRIといった画像検査は、肝臓の形や大きさの変化、脂肪がどのくらい蓄積しているかを調べるために使います。

肝生検

肝生検は、肝臓の一部を採取して顕微鏡で調べる検査です。アルコール性肝障害の確定診断のために行います。

肝生検で見られる変化どのような特徴か
脂肪変性肝臓の細胞の中に脂肪のしずくがたまっている
炎症細胞の集まり主に好中球という白血球が集まっている
マロリー小体アルコールによる肝炎に特徴的な構造物
線維化中心静脈の周りから始まる傷跡のような変化

ただし、肝生検は体への負担が大きい検査なので、実施するかどうかは慎重に判断します。

アルコール性肝障害の治療方法と治療薬について

アルコール性肝障害の治療で最初に行うべきは、お酒を完全に控えることです。お酒をやめると肝臓への負担が減り、傷ついた肝細胞が回復しやすくなります。

ただし、長年お酒を飲み続けてきた方にとって、急にお酒をやめるのは難しいことがあります。そういった場合は専門の先生と相談しながら、少しずつお酒の量を減らしていく方法を選ぶ場合もあります。

以前、毎日2リットルのビールを20年以上飲み続けていた50歳くらいの男性がいらっしゃいました。この方の場合、急にお酒をやめるのは難しそうだったので、2週間ごとに350mlずつ減らしていく計画を立てました。

結果、半年後には完全にお酒をやめることができ、肝臓の検査結果もとてもよくなりました。

薬による治療

アルコール性肝障害の治療によく使われる主な薬は以下の通りです。

薬の名前主な働き
ウルソデオキシコール酸肝臓の働きを良くし、胆汁の分泌を促す
グリチルリチン製剤炎症を抑え、肝細胞を守る
ビタミンB1製剤神経の障害を防ぎ、体の代謝を助ける
抗酸化剤肝細胞の酸化ストレスを減らす

栄養バランスを整える

アルコール性肝障害の患者さんは、体の栄養状態が悪くなっている方が多いです。栄養バランスを整えるように気を付けると、肝臓の回復を助ける力になってくれます。

  • タンパク質をバランスよく摂る
  • ビタミンやミネラルを十分に補う
  • 糖質や脂質を適度に摂る
  • 水分をしっかり取る

特に、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の摂取は、肝臓の回復を助けるために効果的です。

肝臓を守る治療の実施

肝臓の働きを保護し、回復を促進していきます。 具体的には次のような方法があります。

治療法効果
強力ネオミノファーゲンCの点滴肝臓の働きを良くし、体内の毒素を取り除く
チオプロニンの服用酸化を防ぎ、肝細胞を守る
ラクツロースの服用腸内環境を整え、アンモニアの吸収を抑える
肝臓温熱療法肝臓の血流を増やし、代謝機能を改善する

長期的な経過観察を行います

アルコール性肝障害の治療は、長い期間にわたって経過を見守ります。定期的に肝臓の検査や画像診断を行い、治療の効果を確認しながら、必要に応じて治療内容を調整していきます。

また、再びお酒を飲まないようにすることも大切な課題です。

アルコール性肝障害の治療期間

お酒の飲みすぎで起こる肝臓の病気を治すには、とても長い時間がかかります。患者さんの状態によって違いますが、症状が良くなったり肝臓の働きが回復したりするまでに、数か月から数年もの時間が必要な場合も多いです。

治療期間は人それぞれ、完全に治すのは難しい

肝臓の病気の程度治療にかかりそうな期間目指す回復の目標
軽い脂肪肝1〜3か月肝臓の働きを正常に戻す、脂肪肝を良くする
中くらいの肝炎3〜6か月炎症を抑える、肝臓の硬くなるのを止める
重い肝硬変1年以上他の病気が出るのを防ぐ、生活の質を保つ

残念ながら、肝臓を「完全に元通りにする」のは難しいです。特に病気が進んでしまった場合、ある程度肝臓が硬くなったままになることがあります。

治療の目標は「できるだけ肝臓の働きを良くする」「病気がこれ以上悪くならないようにする」「日常生活を快適に過ごせるようにする」といったことに置かれます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

アルコール性肝障害の治療には、副作用やリスクもあります。

薬による治療に伴う副作用

肝臓の働きを改善する薬の一種であるウルソデオキシコール酸を服用すると、まれに下痢や腹痛などのお腹の不快な症状が現れることがあります。

また、ビタミンB1を注射で投与する場合、重い呼吸困難や血圧低下などの深刻なアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を引き起こす可能性があります。

禁酒に伴うリスク

長年にわたり大量の飲酒を続けてきた患者さんが急にお酒を断つと、アルコール離脱症候群という状態を引き起こす危険性があります。

アルコール離脱症候群は、軽い場合は不安感や眠れない、汗をかきやすいなどの症状が出ますが、重症化すると意識がもうろうとしたり、けいれんを起こしたりする場合もあります。

アルコール離脱症候群の症状症状の程度
不安感、不眠、多汗軽度
心拍数増加、血圧上昇、嘔吐中等度
意識障害、けいれん重度

肝性脳症のリスク

アルコール性肝硬変まで進行した患者さんでは、肝性脳症という状態になるリスクがあります。

肝性脳症は、肝臓の機能低下によってアンモニアなどの体に有害な物質が血液中に増え、脳の働きに影響を与える状態です。

軽い場合は集中力が低下したり少し混乱したりする程度ですが、重症化すると意識がなくなることもあります。

肝性脳症の程度主にみられる症状
軽度集中力が落ちる、性格が少し変わる
中等度混乱する、時間や場所がわからなくなる
重度意識がなくなる

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

アルコール性肝障害の治療費は、軽度の場合は外来での投薬治療が中心となり自己負担は少なく済みますが、重度になると入院治療が必要となり、治療費は高額になります。

治療費の概要

治療形態概算費用
外来診療1回5,000円〜15,000円
入院治療1日30,000円〜70,000円

保険適用と自己負担

アルコール性肝障害の治療には健康保険が適用されるため、自己負担は軽減されます。年齢や所得によって自己負担率は変動します。

具体的な治療項目と費用

  • 血液検査 8,000円〜12,000円
  • 腹部超音波検査 8,000円〜20,000円
  • CT検査 20,000円〜40,000円
  • 肝生検 80,000円〜150,000円
治療項目概算費用
肝機能改善薬(1ヶ月分)10,000円〜30,000円
ビタミン剤(1ヶ月分)5,000円〜15,000円
利尿剤(1ヶ月分)3,000円〜10,000円

以上

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