肝硬変(Liver Cirrhosis:LC)とは、肝臓の組織が長期にわたって傷つき固くなってしまう深刻な病気で、肝機能が徐々に低下していく状態を指します。
主な原因はウイルス性肝炎やアルコールの過剰摂取などですが、初期段階では自覚症状がほとんどありません。
徐々に進行する病気ですが、生活習慣の改善や定期的な検査により進行を遅らせることができます。
肝硬変(LC)の病型
肝硬変の臨床的機能分類には「代償性」と「非代償性」の2つがあります。
代償性肝硬変は、肝臓の働きが低下しているものの、体の調子を整える機能がまだ保たれている状態を指します。症状がほとんどない、または軽度で、日常生活に大きな支障をきたすことは少ないです。
一方、非代償性肝硬変は、肝臓の働きが著しく低下し、体の調子を整える機能が失われた状態を表します。この段階になると様々な症状が現れやすくなり、より慎重な管理が必要です。
重症度の評価方法
肝硬変の重症度を評価する方法として、世界的に用いられているChild-Pugh分類があります。
Child-Pugh分類は、以下の5項目を点数化して評価する方法です。
評価項目 | 内容 | 意義 |
腹水 | お腹に水がたまる状態 | 肝機能低下の指標 |
---|---|---|
肝性脳症 | 肝臓の働きが悪くなることで起こる意識障害 | 脳機能への影響を示す |
血清アルブミン値 | 栄養状態を示す血液検査の値 | タンパク質合成能力の指標 |
プロトロンビン時間 | 血液が固まるまでの時間 | 凝固因子の合成能力を反映 |
血清総ビリルビン値 | 黄疸の程度を示す血液検査の値 | 肝臓の解毒能力を表す |
上記の項目を点数化し、合計点に応じてA、B、Cの3段階に分類します。Aが最も軽度で、Cが最も重度です。
肝硬変(LC)の症状
肝硬変の初期段階では、はっきりとした症状が現れない場合が多いです。
進行するにつれて次第に体に変化が表れ始め、今までにない疲れやすさや食欲が落ちたことに気づいたり、お腹が張る感覚や、吐き気がすることもあります。
症状が進んだ場合
肝硬変が進行すると、より目立つ症状が現れます。
- 腹水‥お腹に水がたまってしまい、おなかが目に見えて膨らみます。
- 息苦しさ
- 食事が取りづらくなる
- 黄疸‥皮膚や白目が黄色くなる。
- 肝性脳症‥意識がぼんやりしたり、言動が不自然になったりするなど、精神面での変化が現れます。
- 手の震え
- 性格の変化
その他の注意すべき症状
肝硬変では、体のあちこちで出血しやすくなる傾向があります。
特に食道静脈瘤という状態では、食道の血管が膨らんで破裂しやすくなり、吐血や下血などが突然起こることがあります。
また、男性では女性化乳房と呼ばれる症状が現れる場合もあります。
症状 | 体に現れる変化 |
腹水 | お腹が水で膨らみ、息苦しくなる |
黄疸 | 皮膚や白目が黄色く変色する |
肝性脳症 | 意識がぼんやりし、行動が不自然になる |
食道静脈瘤 | 食道の血管が膨らみ、突然の出血が起きやすくなる |
肝硬変の症状は人それぞれで異なり、病気の進み具合によっても変わってきます。
次のような体の変化に気づいたら、医療機関を受診することが大切です。
- 原因がはっきりしない疲れが長く続く
- お腹が張る感覚が何日も続く
- 皮膚や白目の色が以前と違う気がする
- ちょっとしたことで出血しやすくなった
肝硬変(LC)の原因
肝硬変の主な原因は、長期間にわたる過度な飲酒、ウイルス性肝炎、脂肪肝などが挙げられます。健康な肝臓の細胞が徐々に傷つき、最終的には正常な機能を失っていきます。
長期間の過度な飲酒
お酒の飲みすぎは、肝臓に大きな負担をかけます。アルコールは肝臓で分解されますが、毎日大量に飲み続けると肝臓の細胞が傷つき、やがて肝硬変へと進行する可能性が高くなります。
日本ではアルコール性肝疾患による死亡者数が年間約5,000人に上り、この数字は決して軽視できないものです。
ウイルス性肝炎
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染し、長期間にわたって肝臓の細胞を傷つけ続けます。
その結果、最終的に肝硬変へと進行することがあります。
脂肪肝
過度の飲酒だけでなく、肥満や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病も肝硬変の原因となります。
特に、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が進行すると、肝硬変に至ることがあります。この病気は、アルコールを飲まない人や適度な飲酒をする人でも発症する可能性があるため、注意が必要です。
その他の原因
- 原発性胆汁性胆管炎
- 自己免疫性肝炎
- 鉄分や銅の過剰蓄積による代謝異常
肝硬変の進行過程
肝硬変は、突然発症するものではありません。長い年月をかけて徐々に進行していく病気です。初期段階では、肝臓の細胞が傷つき炎症が起こります。
そして、傷ついた細胞を修復しようと肝臓に繊維化が進みます。この繊維化が進行すると、最終的に肝硬変となります。
この過程は通常、何年もかけてゆっくりと進行します。
段階 | 状態 | 特徴 |
初期 | 肝細胞の傷害、炎症 | 症状がほとんどない |
中期 | 肝臓の繊維化が進行 | 軽度の症状が現れることも |
末期 | 肝硬変(肝臓全体が硬化) | 様々な合併症が出現 |
肝硬変(LC)の検査・チェック方法
肝硬変の検査では、血液検査や画像診断、必要に応じて肝生検を行います。
診察の流れ
段階 | 内容 |
問診 | 患者さんの症状や生活習慣を詳しく聞き取ります。 |
---|---|
身体診察 | 肝臓の腫れや黄疸などの外見上の変化を確認します。 |
血液検査 | 肝機能や血小板数などの数値を調べます。 |
画像診断 | 超音波検査やCTスキャンで肝臓の状態を詳細に観察します。 |
肝生検 | 必要と判断した場合、肝臓の組織を採取して顕微鏡で詳しく調べます。 |
臨床診断
臨床診断では患者さんの症状や身体所見、血液検査の結果を総合的に判断し、肝硬変の可能性を評価します。
肝硬変を疑う主な所見には次のようなものがあります。
- 肝臓の腫れや硬さの変化
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)
- 腹水(おなかに水がたまる状態)
- 食道静脈瘤(食道の血管が膨らむ現象)
血液検査では肝機能を示すAST(GOT)やALT(GPT)の値、血小板数などを調べ、これらの値に異常がある場合は肝硬変の可能性が高くなります。
確定診断
肝硬変の確定診断では、肝生検が最も確実な方法です。肝生検では細い針を使って肝臓の一部を採取し、肝臓の線維化の程度や肝細胞の変性などを調べます。
ただし、肝生検は体に負担がかかる検査なので、必ずしもすべての患者さんに行うわけではありません。血液検査や画像診断の結果から肝硬変が強く疑われる場合は、省略することもあります。
近年では血液検査や画像診断の技術が進歩し、体への負担が少ない方法でも肝硬変の診断精度が向上しています。
例えばフィブロスキャンという機器を使うと肝臓の硬さを数値化でき、肝硬変の進行度を推定できます。
また、血液中のヒアルロン酸やⅣ型コラーゲンなどの物質を測定すると、肝臓の線維化の程度を推測することもできます。
肝硬変(LC)の治療方法と治療薬について
肝硬変の治療では、まず病気の進行を遅らせることが重要となります。アルコールを控えたり、バランスの良い食事を心がけたりするなど、生活習慣の改善が必要です。
また、ウイルス性肝炎が原因の場合は、抗ウイルス薬を使用して肝炎ウイルスを抑え込むことが大切になります。
状態に応じて、肝臓の働きを助ける薬や、合併症を予防する薬を使用していきます。
肝硬変(LC)の主な治療薬
薬の種類 | 主な効果 |
利尿薬 | むくみや腹水の改善 |
抗アンモニア薬 | 肝性脳症の予防・改善 |
β遮断薬 | 食道静脈瘤破裂の予防 |
抗ウイルス薬 | ウイルス性肝炎の治療 |
肝硬変(LC)の治療における注意点
- 定期的な検査と受診が必要です。
- 処方された薬は医師の指示通りに服用しましょう。
- アルコールは厳禁です。
- 塩分や水分の摂取量に気をつけましょう。
- タンパク質の摂取バランスにも注意が必要です。
肝硬変は完治が難しい病気ですが、治療や生活習慣の改善により、病気の進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることができます。
早期発見・早期治療が何より重要になりますので、気になる症状がある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。
肝硬変(LC)の治療期間
肝硬変では、生涯を通じて継続的な管理が必要です。治療開始から5年後の生存率は約70%ですが、治療と生活習慣の改善により、10年以上生存できる方が増えています。
治療の基本的な考え方
肝硬変の治療は、原因となる病気の進行を食い止め、肝臓の機能を維持することが主な目的です。基本的に、治療は一生涯続けていく必要があります。
肝臓は再生能力が高い臓器として知られていますが、一度硬くなってしまった部分を完全に元の状態に戻すのは困難です。
治療の目標は病気の進行を抑え、残された健康な肝臓の部分を守ることに重点を置きます。
治療の経過と予後
肝硬変の予後は、原因となる病気や診断時の肝臓の状態、治療への反応などによって大きく変わります。
一般的に、早期発見・早期治療が行われた場合、多くの患者さんが10年以上生存できるようになっています。
しかし、進行した状態で見つかった場合や合併症が多い場合は、予後が厳しくなる可能性もあります。特に非代償期肝硬変の場合、5年生存率が25%と予後不良です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
肝硬変の治療では、薬の副作用や治療に伴うリスクがあります。治療を行う前には、十分な理解が必要です。
薬物治療による体への影響
- 利尿薬‥電解質のバランスを崩す可能性があるため、定期的な血液検査で状態を確認します。
- 血中アンモニアを減らす薬‥便秘を引き起こす可能性があるので、食事の工夫や適度な運動を心がけることが大切です。
- β遮断薬‥めまいや疲労感を感じることがあるため、日常生活での注意が必要になります。
治療に伴うリスク
治療法 | 主なリスク | 対策 |
内視鏡的静脈瘤結紮術 | 出血、感染 | 術後の安静、抗生物質の投与 |
腹水穿刺 | 感染、出血 | 清潔操作、凝固因子の確認 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
肝硬変の治療は、基本的に健康保険の適用対象です。自己負担は医療費の1~3割となります。高額療養費制度を利用すると自己負担額に上限が設定され、経済的な負担を軽減できます。
具体的な治療費
治療項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
血液検査 | 3,000円~5,000円 |
腹部エコー検査 | 2,000円~4,000円 |
CT検査 | 10,000円~15,000円 |
利尿剤(1ヶ月分) | 2,000円~5,000円 |
肝庇護剤(1ヶ月分) | 3,000円~8,000円 |
内視鏡的食道静脈瘤治療 | 30,000円~50,000円 |
肝硬変の治療費は、病気の進行度や合併症の有無によって大きく異なります。上記の費用は目安となり、検査や投薬の内容によってさらに変動する可能性があります。
以上
参考文献
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