劇症肝炎

劇症肝炎(Fulminant Hepatitis)とは、肝臓の機能が急激に低下し、重篤な状態に陥る深刻な病気です。

症状の進行が極めて速く、発症からわずか数日から数週間という短期間で肝不全に至る危険があります。

初期症状は一般的な肝炎と似ていますが、急激に悪化するため、注意が必要です。

目次

劇症肝炎の病型

劇症肝炎は「急性型」と「亜急性型」に分けられ、肝不全の進行速度や症状の現れ方によって区別します。

急性型は症状が急速に進行するのが特徴で、亜急性型は比較的ゆっくりと症状が進みます。

急性型と亜急性型の特徴と違い

急性型は、発症から肝性脳症という深刻な症状が現れるまでの期間が8日以内と非常に短く、迅速な対応が必要です。

一方、亜急性型は、発症から肝性脳症出現までの期間が9日以上56日以内の場合を指します。急性型に比べると進行スピードはやや緩やかですが、通常の肝炎よりは速いペースで症状が悪化します。

病型肝性脳症出現までの期間進行速度対応の特徴
急性型8日以内非常に速い24時間体制の監視が必要
亜急性型9日以上56日以内やや緩やか慎重な経過観察が重要

病型に応じて医療対応が異なる

急性型の場合は症状の進行が非常に速いため、早期発見と迅速な治療開始が必要です。24時間体制で状態を監視し、必要に応じて集中治療を行います。

亜急性型では比較的に時間的余裕があるものの、急性型と同様に迅速な治療が重要となります。

劇症肝炎の症状

劇症肝炎は肝機能が急速に悪化し、意識障害や出血傾向など重篤な症状が短期間で現れる深刻な病気です。

初期症状から重症化への進行

劇症肝炎の症状は、通常の肝炎と似た症状から始まることがほとんどです。

初期には疲労感や食欲不振といった一般的な症状が現れますが、これらは他の多くの病気でも見られるため、気付きにくいことが多いです。

しかし、病状が進行すると深刻な症状が急速に現れ、全身状態が急激に悪化していきます。

特徴的な症状

劇症肝炎に特徴的な症状には、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、腹水(おなかに水がたまる)、出血傾向(鼻血が止まりにくい、あざができやすいなど)、意識障害(錯乱や昏睡など)があります。

症状が急激に悪化することが劇症肝炎の大きな特徴で、特に意識障害は注意が必要な症状です。

症状特徴
黄疸皮膚や白目が黄色くなる
腹水おなかが膨らむ感覚がある
出血傾向出血が止まりにくい
意識障害ぼんやりした状態から昏睡まで

見逃せない警告サイン

劇症肝炎の進行は非常に速いため、早期発見が生命を左右します。

突然の強い倦怠感、吐き気や嘔吐が続く、皮膚や白目の黄染、尿の色が濃くなる、意識がぼんやりするなどの症状が現れたら、直ちに医療機関を受診してください。

日本における発症状況

日本では年間約400人程度が劇症肝炎を発症しているとされており、この数字は決して多くはありませんが、発症した場合の重症度を考えると、軽視できない病態といえるでしょう。

劇症肝炎は、早期に治療を開始できなかった場合は致命的になることもあるため、症状の早期認識と迅速な医療機関の受診が大切です。

劇症肝炎の原因

劇症肝炎の主な原因は、ウイルス感染、薬物、自己免疫疾患などによる、急激な肝細胞の破壊と免疫系の過剰反応です。

原因特徴
ウイルス性肝炎B型肝炎ウイルスが最多、A型・E型も稀に発症
薬物性肝障害医薬品や健康食品による、稀だが重篤な副作用
自己免疫性肝炎免疫システムの異常による肝臓への攻撃

ウイルス性肝炎

劇症肝炎はウイルス性肝炎が最も一般的な原因とされており、特に、日本ではB型肝炎ウイルスによる急性感染が多いです。

B型肝炎ウイルスは劇症化しやすく、急性感染や慢性感染の急性増悪により発症します。

また、A型やE型肝炎ウイルスもまれに劇症化することがあり、特に高齢者や基礎疾患のある方は注意が必要です。

C型肝炎ウイルスによる劇症肝炎は非常にまれですが、発生する可能性はあります。

薬物性肝障害

一般的な鎮痛薬や解熱薬、抗生物質などでも、稀に重篤な肝障害を引き起こす場合があります。

特に注意が必要なのは、複数の薬を併用する場合や、長期間にわたって服用する場合です。

また、健康食品や漢方薬も安全とは限らず、肝臓に負担をかける成分が含まれていることがあります。

自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎は、体の免疫システムが誤って肝臓を攻撃することで起こる病気です。通常は慢性的に進行しますが、急性増悪により劇症化することがあります。

劇症肝炎のリスクを減らすための注意点

  • B型肝炎ワクチンの接種を検討する
  • 薬を使用するときは医師や薬剤師の指示に従い、適切な用量を守る
  • 健康食品は信頼できる情報源から製品の安全性を確認する
  • 肝機能検査を含む健康診断を受ける
  • 過度な飲酒を控える

劇症肝炎は非常に深刻な病態です。日頃から肝臓の健康に気を配り、少しでも異常を感じた場合は早めに医療機関を受診することが大切です。

劇症肝炎の検査・チェック方法

劇症肝炎の診断では、血液検査や画像診断を行い全身状態を総合的に評価していきます。

診察の流れ

  • 全身状態の観察
  • 血液検査(肝機能を示す数値や凝固機能を調べる)
  • 画像診断(超音波検査やCTスキャンで肝臓を検査する)

劇症肝炎の診断では血液検査を基本とし、肝機能を示す酵素(ALT、ASTなど)の値を測定することで、肝細胞の損傷の程度を評価します。

主な検査項目目的
プロトロンビン時間肝臓の合成能を反映する指標
総ビリルビン値黄疸の程度を示す重要な値となります
アンモニア値肝性脳症の進行度を判断する指標
血小板数肝不全の進行度が分かります

また、ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎などの原因を特定するために、ウイルス検査や自己抗体検査も行います。画像検査では、肝臓の大きさや形状、構造などを調べます。

発症から8週間以内に重度の肝機能障害が進行し、昏睡状態に至る場合を劇症肝炎と定義します。

劇症肝炎の治療方法と治療薬について

劇症肝炎の治療は、肝臓移植や集中的な内科的治療を中心に行います。

治療の基本方針

劇症肝炎の治療は、非常に緊急性の高いものです。症状が出始めてから急速に悪化することが多く、数日間のうちに肝不全に陥ることもあります。

主な治療方法には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療では、肝臓の機能を支える薬物療法や、合併症を予防・治療する方法によって体調改善を目指します。

外科的治療としては肝臓移植が代表的で、内科的治療で改善が見られない場合に検討します。

内科的治療

血漿交換療法血液中の有害物質を除去し、正常な血漿と入れ替える治療法で、肝機能の改善を目指します。
持続的血液濾過透析腎臓の機能を補助し、体内の老廃物を除去する治療法で、全身状態の安定化を図ります。
抗凝固療法血液凝固を防ぐためにヘパリンなどの薬剤を使用し、血栓形成のリスクを軽減します。

また、肝性脳症や出血傾向などの合併症に対しても治療を行い、全身状態の管理が重視されます。

主な処方薬と効果

薬剤名主な効果
抗ウイルス薬ウイルス性肝炎の原因となるウイルスの増殖を抑制し、肝臓の回復を促す
副腎皮質ステロイド肝臓の炎症を抑制し、免疫反応を調整する
肝庇護薬肝臓の機能を保護し、回復を促進する
抗凝固薬血液凝固を防ぎ、血栓形成を予防することで合併症のリスクを減らす

肝臓移植について

内科的治療で改善が見られない場合、肝臓移植を検討します。

日本では年間約400例の肝移植が行われており、急性肝不全に対する肝移植数は年40例前後となっています。

年間の劇症肝炎患者数が400名程度であることを考えると、そのうち約10%が肝移植を受けていると考えられます。

急性肝不全に対する肝移植の治療実績

出典:後藤邦仁; 小林省吾; 江口英利. 急性肝不全に対する肝移植医療の現状と課題. 日本消化器病学会雑誌, 2020, 117.9: 772-778.

▼脳死肝移植を受けた症例の累積生存率

1年90%
3年89%
5年84%
10年84%

▼生体肝移植を受けた症例の累積生存率

1年77%
3年73%
5年72%
10年69%

肝臓移植後は、免疫抑制剤の服用や定期的な検査が必要となりますが、多くの患者さんが日常生活に復帰できるようになっています。

劇症肝炎の治療期間

劇症肝炎の治療期間は通常2~4週間程度を要しますが、発症から1週間以内に治療を開始できた場合、生存率は約80%に達します。

治療の段階と期間の目安

劇症肝炎の治療は、大まかに次の3段階に分けられます。

  1. 初期治療(約1週間)
  2. 集中治療(1~2週間)
  3. 回復期(1~2週間)

各段階で実施される主な治療と管理について、以下の表にまとめました。

治療段階主な治療内容期間の目安
初期治療原因の特定と除去、肝庇護療法約1週間
集中治療人工肝補助療法、合併症対策1~2週間
回復期リハビリテーション、退院準備1~2週間

ただし、治療期間は患者さん個々の状態や回復の進み具合によって変動します。医師の判断により、期間の延長や短縮が行われる可能性もあります。

また、治療が終了した後も、定期的な検査や経過観察が必要です。完全な回復までには数か月から1年程度の時間がかかる場合もあります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

劇症肝炎の治療では、肝臓の機能を補助するために人工肝臓や血漿交換療法などを使いますが、体に負担をかけることがあります。

治療法主な副作用やリスク
人工肝臓出血、血圧低下
血漿交換療法アレルギー反応、感染症
免疫抑制剤感染症リスクの上昇
抗ウイルス薬腎機能障害、血液障害

人工肝臓を使用する際には血液を体外に循環させるため、出血や血圧低下などのリスクが伴います。また、血漿交換療法ではアレルギー反応や感染症のリスクが存在します。

薬物療法に関連するリスク

劇症肝炎の治療で使用する薬剤は、副作用を引き起こす場合もあります。

免疫抑制剤は肝臓の炎症を抑える効果がありますが、感染症のリスクが高くなります。抗ウイルス薬は腎臓への負担や血液障害などの副作用を引き起こす可能性があります。

また、治療中に使用した薬剤の影響で免疫機能が低下する場合があるため、感染症には特に注意が必要です。

注意したいポイント
  • 日常生活の制限(過度な運動や飲酒の禁止など)
  • 感染症予防の徹底(手洗い、マスク着用など)
  • 定期的な肝機能検査の実施
  • 肝臓に負担をかけない食生活

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

劇症肝炎の治療は健康保険の適用対象で、自己負担は通常3割です。高額療養費制度を利用すると月々の医療費に上限額が設定され、それを超えた分は払い戻しを受けられます。

治療費の目安

治療内容概算費用(3割負担の場合)
入院費(1日あたり)3,000円~5,000円
血液検査(1回あたり)1,500円~3,000円
画像診断(CT、MRIなど)5,000円~15,000円
薬剤費(抗ウイルス薬など)10,000円~30,000円/月

金額はあくまで目安となり、重症例では人工肝補助療法や肝移植が必要となる場合があるため、総治療費は上記よりも高額になります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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