052-228-1280 WEB予約 LINE予約

神経線維腫症Ⅰ型

神経線維腫症Ⅰ型

神経線維腫症Ⅰ型(neurofibromatosis type 1)とは、皮膚と神経系に特徴的な症状を引き起こす遺伝性疾患です。

この病気は、体のさまざまな部位に良性の腫瘍(神経線維腫)が発生することが特徴で、また、カフェオレ斑と呼ばれる特徴的な色素斑が皮膚に多く見られます。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

運営ソーシャルメディア(SNSでは「こばとも」と名乗ることもあります)

XYouTubeInstagramLinkedin

著書一覧
経歴・プロフィールページ

こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

経線維腫症Ⅰ型の症状

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)の症状には出生時に見られるカフェ・オ・レ斑と、思春期以降に見られる神経線維腫があります。

カフェ・オ・レ斑

カフェ・オ・レ斑は、NF1患者さんの95%以上に見られる症状で、その名の通りカフェオレの色をしていて、生後数か月以内に現れることが多いです。

特徴詳細
薄い茶色
卵形または不整形
大きさ直径5mm以上
6個以上

カフェ・オ・レ斑は痛みや痒みを伴わず、健康上の問題を起こすことはありません。

神経線維腫

神経線維腫はNF1患者さんの多くに見られる良性の腫瘍で、皮膚や神経の周囲に発生し年齢とともに数が増えます。

神経線維腫の種類

  • 皮膚神経線維腫 皮膚表面に現れる柔らかい腫瘍
  • 皮下神経線維腫 皮下組織に発生する腫瘍
  • 叢状神経線維腫 より大きく、深部に及ぶ腫瘍

その他のNF1に関連する症状

NF1患者さんには、カフェ・オ・レ斑と神経線維腫以外にも症状があります。

症状説明
骨の異常脊柱側弯症や長管骨の湾曲
視覚障害視神経膠腫による視力低下
学習障害注意欠陥や空間認知の問題
高血圧腎動脈狭窄などによる

NF1の症状の進行と変化

NF1の症状は年齢とともに変化し、思春期や妊娠期にはホルモンの変化があるので症状が顕著です。

カフェ・オ・レ斑は幼少期に最も目立ちますが年齢とともに色が薄くなり、神経線維腫は思春期以降に増え始め、成人期を通じて徐々に数が増加します。

神経線維腫症Ⅰ型の原因

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)は、NF1遺伝子の変異による常染色体優性遺伝疾患です。

NF1遺伝子の役割

NF1遺伝子は神経線維腫症Ⅰ型の発症に大きくかかわっています。NF1遺伝子は、ニューロフィブロミンというタンパク質をコードし、細胞の増殖や分化を制御する機能を持っています。

遺伝子変異のメカニズム

NF1遺伝子の変異には特有のメカニズムがあります。

  • 親から受け継いだ遺伝子の変異
  • 新生突然変異(両親からの遺伝ではなく、受精卵または初期胚の段階で発生)
  • 体細胞モザイシズム(一部の細胞のみに変異が存在)

遺伝子の変異によりニューロフィブロミンの機能が損なわれ、細胞増殖の制御が困難になります。

遺伝形式と発症率

遺伝形式特徴
常染色体優性遺伝片方の親から変異遺伝子を受け継ぐだけで発症
浸透率ほぼ100%(年齢とともに症状が顕在化)
新生突然変異率約50%(家族歴のない症例の割合)

ニューロフィブロミンの機能不全

ニューロフィブロミンは、RAS-MAPKシグナル伝達経路を抑制する機能を持っています。

抑制機能が失われると生じる影響

  1. 細胞増殖の制御不全
  2. 神経細胞の分化異常
  3. 腫瘍形成リスクの上昇
  4. メラニン産生細胞の機能異常(カフェオレ斑の形成)

遺伝子変異の多様性

NF1遺伝子の変異にはいろいろなパターンがあります。

変異タイプ特徴
点変異1つの塩基対の変化
欠失遺伝子の一部または全体の欠損
挿入余分な塩基対の挿入
スプライシング異常mRNAの正常な処理の妨害

変異の種類や位置によって、症状の重症度や表現型が異なってきます。

二段階発がん仮説

神経線維腫症Ⅰ型における腫瘍形成は、ときに「二段階発がん仮説」として説明されます。

  1. 第一段階:生まれつきのNF1遺伝子の片方の変異
  2. 第二段階:残りの正常なNF1遺伝子の後天的な変異または喪失

二段階のプロセスで腫瘍抑制機能が完全に失われ、腫瘍形成が促進されるのです。

環境要因の影響

遺伝的要因が原因であると同時に、環境要因も症状の現れ方や進行に影響を与えます。

関係する環境要因

  • ホルモンの変化(思春期や妊娠時)
  • 外傷や手術による組織損傷
  • 紫外線曝露

神経線維腫症Ⅰ型の検査・チェック方法

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)の診断には、複数の検査とチェック方法が用いられます。

臨床診断

NF1の診断は臨床症状に基づいて行われ、診断基準のうち2つ以上を満たすとNF1と診断されます。

診断基準詳細
カフェ・オ・レ斑6個以上(思春期前は直径5mm以上、思春期以降は15mm以上)
神経線維腫2個以上、または1個の叢状神経線維腫
腋窩・鼠径部の雀卵斑小さな色素斑の集簇
視神経膠腫視神経の腫瘍
虹彩小結節虹彩のLisch結節(2個以上)
特徴的な骨病変蝶形骨異形成や長管骨皮質の菲薄化
第一度近親者のNF1親、兄弟、子供のいずれかがNF1

遺伝子検査

臨床診断が困難な際に遺伝子検査が実施されます。

  • 血液サンプルからDNAを抽出
  • NF1遺伝子の変異を解析
  • 結果の解釈と遺伝カウンセリング

遺伝子検査はNF1の確定診断だけでなく、家族内で遺伝性があるかどうかを見つけるのに有用です。

画像診断

NF1患者さんの症状の進行度や合併症を見つけるために、画像診断が使われます。

検査方法主な目的
MRI脳腫獰、視神経膠腫、脊髄腫瘍の検出
CT骨病変の評価、肺病変の検出
X線脊柱側弯症や長管骨の湾曲の確認
超音波腹部腫瘍や血管病変の検査

眼科検査

NF1患者さんには視覚に関連する症状が見られることがあるため、定期的な眼科検査が行われます。

眼科検査の項目

  • 視力検査
  • 眼底検査(視神経膠腫の確認)
  • 細隙灯顕微鏡検査(虹彩Lisch結節の確認)
  • 眼圧測定

検査をすると視神経膠腫や緑内障などの早期発見ができ、視力低下を減らせます。

神経線維腫症Ⅰ型の治療方法と治療薬について

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)の治療は、症状の管理と合併症の予防に焦点を当てた多面的なアプローチが必要です。

症状別の治療

NF1の治療はそれぞれの患者さんの症状や合併症に合わせることが大切です。

症状と治療法

症状治療法
皮膚神経線維腫外科的切除、レーザー治療
視神経膠腫化学療法、放射線療法
学習障害特別支援教育、認知行動療法
骨異常整形外科的治療、リハビリテーション

薬物療法の進展

最近、NF1の治療薬開発が急速に進んでいて、注目されているのは、RAS-MAPK経路を標的とする分子標的薬です。

  • セルメチニブ:2020年に米国FDAで承認された小児NF1患者の叢状神経線維腫治療薬
  • MEK阻害剤:トラメチニブやコビメチニブなど、臨床試験が進行中
  • mTOR阻害剤:シロリムスやエベロリムスが一部の症状に効果を示す可能性

分子標的薬剤は腫瘍の増殖を抑制し、症状の緩和が目標です。

外科的治療

外科的治療はNF1の治療で依然としてよく用いられる方法です。

手術の種類適応
腫瘍切除術美容的問題や機能障害を起こす腫瘍
脊柱側弯症矯正術進行性の脊柱変形
眼窩減圧術視神経圧迫を伴う眼窩内腫瘍

放射線療法と化学療法

悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)や視神経膠腫に対して、放射線療法や化学療法が行われます。ただし、NF1患者さんは放射線誘発癌のリスクが高いため、放射線療法の使用は十分に検討したうえで実施されます。

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)の治療期間と予後

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)は生涯にわたる管理が必要な遺伝性疾患です。

NF1の治療期間

NF1の治療はNF1が進行性のため、年齢とともに新たな症状が現れたり、既存の症状が変化するので一生続きます。

年齢層主な注目点
小児期発達の監視、学習障害の早期介入
思春期神経線維腫の増加、心理的サポート
成人期合併症の監視、生活習慣病の予防
高齢期悪性腫瘍のリスク評価、全身管理

治療期間中は定期的な皮膚症状や神経学的なチェック、眼科検査、整形外科的評価などが行われます。

症状別の管理

NF1の主要症状に対する管理は、症状の種類によって違ってきます。

  • カフェ・オ・レ斑:経過観察
  • 神経線維腫:必要な際には外科的切除
  • 視神経膠腫:定期的な眼科検査と治療
  • 骨病変:整形外科的評価と治療
  • 高血圧:定期的な血圧測定と薬物療法

予後に影響を与える要因

NF1の予後は人によってかなりの違いがあります。

影響のある要因

要因予後への影響
遺伝子変異の種類症状の重症度に関連
早期診断と介入合併症リスクの軽減
定期的なフォローアップ新たな症状の早期発見
患者の生活習慣全身健康状態への影響

長期的な予後

NF1患者さんの多くは定期検診や治療をすることで症状をコントロールできますが、患者さんによっては合併症が見られます。

長期的な予後に影響を与える要因

  • 悪性腫瘍の発生リスク
  • 心血管系の合併症
  • 神経系の症状進行
  • 骨病変による機能障害

薬の副作用や治療のデメリットについて

神経線維腫症Ⅰ型(NF1)の治療に使われる薬剤には、副作用やデメリットもあります。

分子標的薬の副作用

NF1の治療に使用される分子標的薬には、いくつかの異なる副作用があります。

薬剤名主な副作用
セルメチニブ発疹、下痢、吐き気、肝機能障害
トラメチニブ皮膚炎、心機能低下、眼の問題
シロリムス口内炎、感染リスク増加、高脂血症

外科的治療のリスク

腫瘍の除去や症状の改善と目的とする外科的介入は、リスクを伴います。

  • 手術部位の感染
  • 神経損傷による機能障害
  • 麻酔に関連する合併症
  • 術後の瘢痕形成

神経に関連する腫瘍の摘出では、神経機能を失う危険性があります。

放射線療法の長期的影響

NF1患者さんに対する放射線療法は二次癌の心配性があるため、いろいろな要素を検討する必要があります。

放射線療法の影響説明
二次癌のリスク増加NF1患者さんは放射線誘発癌に対して感受性が高い
組織の線維化照射部位の組織が硬化し、機能障害を引き起こす可能性
成長障害小児患者さんの場合、照射部位の成長が阻害される可能性

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

NF1は、厚生労働省によって指定難病に認定されているので、患者さんは医療費助成を受けられます。

保険適用と自己負担の内訳

NF1の治療に関する保険適用と自己負担は、症状や治療内容によります。

治療内容保険適用自己負担の目安
外来診察適用3割負担
画像検査(MRI等)適用3割負担
神経線維腫切除術適用3割負担
薬物療法適用(一部例外あり)3割負担
遺伝子検査条件付き適用全額自己負担の場合あり

指定難病の認定を受けると自己負担額に上限が設けられ、それ以上の費用は公費で賄われます。

治療費の目安

NF1の治療費は治療内容によって大きく変わります。

  1. 定期的な外来診察と検査: 年間約10万円~20万円(3割負担の場合)
  2. 神経線維腫の切除手術: 入院費用を含め、30万円~100万円程度(3割負担の場合)
  3. 視神経膠腫の治療: 数百万円(長期治療の場合)

以上

参考文献

Gutmann DH, Ferner RE, Listernick RH, Korf BR, Wolters PL, Johnson KJ. Neurofibromatosis type 1. Nature Reviews Disease Primers. 2017 Feb 23;3(1):1-7.

Boyd KP, Korf BR, Theos A. Neurofibromatosis type 1. Journal of the American Academy of Dermatology. 2009 Jul 1;61(1):1-4.

Williams VC, Lucas J, Babcock MA, Gutmann DH, Korf B, Maria BL. Neurofibromatosis type 1 revisited. Pediatrics. 2009 Jan 1;123(1):124-33.

North K. Neurofibromatosis type 1. American journal of medical genetics. 2000 Jun;97(2):119-27.

Cimino PJ, Gutmann DH. Neurofibromatosis type 1. Handbook of clinical neurology. 2018 Jan 1;148:799-811.

Anderson JL, Gutmann DH. Neurofibromatosis type 1. Handbook of clinical neurology. 2015 Jan 1;132:75-86.

Shen MH, Harper PS, Upadhyaya M. Molecular genetics of neurofibromatosis type 1 (NF1). Journal of medical genetics. 1996 Jan 1;33(1):2-17.

Friedman JM. Epidemiology of neurofibromatosis type 1. American journal of medical genetics. 1999 Mar 26;89(1):1-6.

Ferner RE, Gutmann DH. Neurofibromatosis type 1 (NF1): diagnosis and management. Handbook of clinical neurology. 2013 Jan 1;115:939-55.

Reynolds RM, Browning GG, Nawroz I, Campbell IV. Von Recklinghausen’s neurofibromatosis: neurofibromatosis type 1. The lancet. 2003 May 3;361(9368):1552-4.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次