B型肝炎(Hepatitis B Virus)とは、肝臓に炎症を引き起こすウイルス性感染症です。
このウイルスは血液や体液を介して感染し、母子感染や性行為、医療行為などによって広がります。
B型肝炎ウイルスに感染すると、急性または慢性の肝炎を発症します。急性の場合は短期間で回復することが多いですが、慢性化すると長期にわたって肝臓に炎症が続きます。
B型肝炎の病型(ゲノタイプ)
B型肝炎ウイルスは、遺伝子学的に9つの型(ゲノタイプA~J)に分けられています。
- 地域によって分布が異なる
- 各ゲノタイプで、病気の進行速度や予後が異なる
世界的な分布と日本の状況
B型肝炎ウイルスのゲノタイプは地域によって異なる分布を示しており、欧米ではゲノタイプAとDが多く見られる傾向にあります。
一方、アジア地域ではゲノタイプBとCが主流となっており、日本ではゲノタイプCが最も多く、次いでゲノタイプBが続きます。
地域 | 主要なゲノタイプ |
欧米 | A, D |
アジア | B, C |
日本 | C, B ただし近年ではAが増加傾向 |
ゲノタイプCの特徴
ゲノタイプCは従来から日本で多く見られる型で、Bに比べてHBe抗原陽性維持率が高い特徴があります。
これは、ウイルスが体内で長期間活動し続ける可能性が高いことを意味します。
また、ゲノタイプCは肝細胞がんへの進展が早いという特徴があるため、ゲノタイプCに感染した場合は予後が不良となります。
ゲノタイプAが増加傾向
最近の傾向として、日本国内でもゲノタイプAによる感染が増加してきており、B型急性肝炎の半数以上がゲノタイプAであったとする報告もあります。
ゲノタイプAは急性の水平感染(人から人への感染)であっても慢性化しやすい傾向があるため、ゲノタイプAの感染拡大は公衆衛生上、注意が必要な事態といえます。
B型肝炎の症状・病気の進行
B型肝炎の症状は無症状から重度の肝機能障害まで幅広く、個人差も大きいのが特徴です。
急性B型肝炎の症状
- 全身倦怠感
- 発熱
- 食欲不振
- 吐き気・嘔吐
- 腹痛(特に右上腹部)
- 関節痛
- 筋肉痛
急性B型肝炎では、感染から1〜6ヶ月後に症状が現れるのが特徴です。症状は軽度から重度まで様々で、個人によって大きく異なります。
また、急性期特有の症状として黄疸が挙げられます。
黄疸は皮膚や白目が黄色くなる症状で、肝臓の機能が低下し、ビリルビンという物質が体内に蓄積して生じるものです。
黄疸が現れる際、尿の色が濃くなったり、便の色が薄くなったりする変化が見られることもあります。
慢性B型肝炎の症状と進行
急性B型肝炎から回復せず、6ヶ月以上感染が続く状態を慢性B型肝炎と呼びます。
多くの方が無症状であることが特徴的ですが、肝臓の機能が徐々に低下していくため、定期的な検査が欠かせません。
慢性期に見られる症状としては、以下のようなものあります。
症状 | 特徴 |
倦怠感 | 持続的な疲労感 |
食欲不振 | 食事量の減少 |
右上腹部痛 | 鈍痛や違和感 |
黄疸 | 進行した場合に出現 |
症状は、肝臓の炎症が進行するにつれて現れやすくなります。
また、慢性B型肝炎が長期間続くと、肝硬変や肝細胞癌に進行するリスクが高まります。
肝細胞癌は初期段階では無症状の方が多く、進行すると全身倦怠感、体重減少、腹痛などの症状が現れます。
劇症肝炎のリスク
急性B型肝炎の一部の症例では、劇症肝炎に移行することがあります。
劇症肝炎は、急激な肝不全を引き起こし、以下のような重篤な症状を呈します。
症状 | 説明 |
高度な黄疸 | 皮膚や眼球の著しい黄染 |
意識障害 | 軽度の混乱から昏睡まで |
出血傾向 | 皮下出血や消化管出血 |
浮腫 | 全身のむくみ |
劇症肝炎は生命を脅かす状態であり、迅速な医療介入が必要です。
乳幼児期の感染と無症候性キャリア
B型肝炎ウイルスに乳幼児期に感染すると、90%以上の症例が持続感染(無症候性キャリア)となることが知られています。
無症候性キャリアの方は通常症状を示しませんが、ウイルスを保有し続けるため、他者への感染源となります。
また、無症候性キャリアの方も、将来的に慢性肝炎や肝硬変、肝細胞癌に進行するリスクがあります。
B型肝炎の原因
B型肝炎の原因は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によるものです。
B型肝炎ウイルスの特徴
B型肝炎ウイルスは、ヘパドナウイルス科に属する小型のDNAウイルスです。
このウイルスは、人から人へ非常に簡単にうつります。血液や、だ液、汗といった体の液体を通して感染し、体に入ると、肝臓の細胞に侵入します。
そこで急速に増えていった結果、肝臓に炎症が起こり、肝臓の働きが悪くなります。
感染経路
B型肝炎ウイルスの主な感染経路には、以下のようなものがあります。
感染経路 | 具体例 |
母子感染 | 出産時の感染 |
血液感染 | 輸血、針刺し事故 |
性行為感染 | 不特定多数との性交渉 |
B型肝炎のお母さんから赤ちゃんが生まれる時、赤ちゃんがウイルスをもらってしまう可能性があります。これは、赤ちゃんが生まれる時にお母さんの血や体の液体に触れるからです。
また、医療従事者の方々にとっては、針刺し事故による感染にも注意が必要です。
ウイルスキャリアとは
B型肝炎ウイルスに感染しても、必ずしも急性肝炎を発症するとは限りません。
感染者の中には、無症状のまま長期間ウイルスを保有し続ける「キャリア」と呼ばれる方々がいます。
キャリアの方は自覚症状がないにもかかわらず、他の人への感染源となる可能性があるため、感染予防の観点から注意が必要となります。
ウイルスの変異・持続感染
B型肝炎ウイルスは、高い変異率を持つことでも知られています。
変異の種類 | 影響 |
遺伝子変異 | 抗ウイルス薬への耐性 |
エスケープ変異 | 免疫からの回避 |
このような高い変異率はウイルスの持続感染を促進する要因となり、変異したウイルスは宿主の免疫システムから逃れやすくなります。
結果、ウイルスが長期間にわたって体内に留まり続けてしまうことになり、慢性肝炎や肝硬変、さらには肝細胞がんへの進行リスクを高めます。
B型肝炎の検査・チェック方法
B型肝炎かどうかを調べるには、主に血液を検査します。血液を調べることで、肝臓の調子や体の中にウイルスがいるかどうかがわかります。
血液検査
主なB型肝炎関連の血液検査項目は以下の通りです。
検査項目 | 調べられること |
HBs抗原 | B型肝炎ウイルスの存在 |
HBs抗体 | B型肝炎ウイルスへの免疫 |
HBc抗体 | 過去のB型肝炎ウイルス感染 |
HBV-DNA | ウイルスの増殖状態 |
検査結果に基づき、B型肝炎の感染状態や進行度を評価します。
また、肝機能検査も併せて行われます。AST(GOT)やALT(GPT)といった肝酵素の値が上昇している場合は、肝臓の炎症や障害が起こっています。
画像診断
- 腹部超音波検査
- CT(コンピュータ断層撮影)
- MRI(磁気共鳴画像法)
画像検査では、肝臓の大きさや形状、表面の状態、内部の構造などを観察します。
特に、肝硬変や肝がんなどの合併症の有無を確認する際に有用です。
B型肝炎の治療方法と治療薬について
B型肝炎の治療は、抗ウイルス薬(ウイルスと戦う薬)を使います。インターフェロン療法や、核酸アナログ製剤などが一般的です。
B型肝炎の治療方針
B型肝炎の治療の目標は、肝炎の進行を抑え、肝硬変や肝がんへの進展を防ぐことです。
抗ウイルス薬による治療
B型肝炎の治療で主に使用する抗ウイルス薬には、インターフェロン製剤と核酸アナログ製剤の2種類があり、ウイルスの増殖を抑制して肝臓の炎症を軽減する効果があります。
抗ウイルス薬の種類 | 特徴 |
インターフェロン製剤 | 体内で自然に産生されるタンパク質を模倣 |
核酸アナログ製剤 | ウイルスの遺伝子複製を直接阻害 |
インターフェロン療法
インターフェロン療法は、体内で自然に産生される抗ウイルスタンパク質を利用した治療法です。
一定期間の投与(通常、6か月から1年程度続けます)で完治が見込める点が特長ですが、副作用として、発熱やだるさなどのインフルエンザ様症状が現れることがあります。
核酸アナログ製剤による治療
核酸アナログ製剤はウイルスの増殖に直接作用し、その複製を阻害する薬剤です。経口投与が可能ですが、長期間の服用が必要となります。
副作用が比較的少ないものの、耐性ウイルスの出現に注意が必要です。
- エンテカビル
- テノホビル
- ラミブジン
治療の経過と管理
B型肝炎の治療は長期にわたることが多く、定期的な経過観察が必要です。
定期的な血液検査や画像診断を通じて、薬剤の効果や副作用、肝機能の状態を継続的に評価し、必要に応じて薬剤の変更や用量の調整を行っていきます。
経過観察項目 | 頻度 |
血液検査 | 1-3か月ごと |
画像診断 | 6-12か月ごと |
治療中はアルコールを控えるなど、肝臓に負担をかけない生活習慣も重要です。
B型肝炎の治療期間と予後
B型肝炎は治療により症状の改善や肝機能の正常化が期待できますが、完全な治癒は難しく、基本的に生涯にわたる管理が必要です。
治療期間の個人差
大人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、70~80%の確率で自然に治癒します。急性肝炎を発症した場合でも、90%以上が自然回復します。
幼少期に感染した場合、90%以上が持続感染者(キャリア)となり、自然治癒は困難です。
持続感染の場合、抗ウイルス薬による治療が有効ですが、完全にウイルスを体外に排出することは難しいです。
治療薬の投与期間
薬剤の種類 | 一般的な投与期間 |
核酸アナログ製剤 | 1年以上~生涯 |
インターフェロン製剤 | 6か月~1年 |
核酸アナログ製剤は長期にわたる服用が基本となり、場合によっては生涯にわたって継続する必要があります。
インターフェロン製剤は通常6か月から1年程度の期間で投与しますが、効果が不十分な場合は治療期間を延長する場合もあります。
予後
治療の継続により、多くのケースで良好な予後が期待できます。
早期発見・早期治療により、肝硬変や肝がんへの進行リスクを大きく低減させることができます。
治療後の経過と再活性化のリスク
B型肝炎の治療後もウイルスが完全に排除されることは稀で、多くの場合、体内にウイルスが潜伏した状態が続きます。
免疫力が低下した際にウイルスが再活性化するリスクがあるため、長期的な経過観察が重要となります。
特に、がん治療や臓器移植後の免疫抑制療法を受ける際には注意が必要です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
B型肝炎の治療薬は長期的な服用が必要で、薬剤耐性や腎機能低下などの副作用リスクがあります。
治療薬の主な副作用
B型肝炎の治療に用いられる薬剤の主な副作用として、以下のようなものが挙げられます。
- 倦怠感
- 頭痛
- 吐き気
- 下痢
- 食欲不振
- 筋肉痛
副作用の症状は多くの場合一時的なものですが、治療開始後にこれらの症状が強く現れた際には、担当医に相談するようにしてください。
長期治療に伴うリスク
薬剤耐性 | 長期投与により、ウイルスが薬に耐性を持つ |
---|---|
骨密度低下 | 一部の薬剤で報告がある副作用 |
腎機能障害 | 特定の抗ウイルス薬で起こりうる合併症 |
免疫系への影響
B型肝炎の治療薬の中には免疫系に影響を与えるものがあり、免疫機能が一時的に低下します。
免疫機能が低下すると、他の感染症にかかりやすくなるなど健康上のリスクを高める要因となるため、治療中は感染予防に特に注意を払う必要があります。
妊娠・授乳への影響
B型肝炎の治療薬の中には、妊娠中や授乳中の使用に注意が必要なものがあります。
状況 | 考慮すべき点 |
妊娠中 | 胎児への影響 |
授乳中 | 母乳を通じた薬物移行 |
肝機能への影響
一部のB型肝炎治療薬は、稀に肝機能を悪化させるリスクがあります。
これは薬剤性肝障害と呼ばれ、重篤な場合は治療の中断が必要となる場合もあります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
B型肝炎の治療費は、保険適用となります。具体的な金額は治療内容や期間によって異なります。
B型肝炎治療の保険適用
B型肝炎の治療は健康保険が使えるため、自己負担額は通常3割となります。
高額療養費制度を利用すると一定額を超えた分が払い戻されるため、さらに負担は軽減されます。
抗ウイルス薬治療の費用
代表的な薬剤の月額費用(3割負担の場合)は以下の通りです。
薬剤名 | 月額費用(3割負担) |
エンテカビル | 約4,000円 |
テノホビル | 約5,000円 |
長期間にわたって服用する必要があるため、治療費は継続的にかかります。
検査・診察にかかる費用
B型肝炎の治療中は、定期的な血液検査や画像検査が欠かせません。一般的な検査費用の目安は次のとおりです。
- 血液検査(肝機能、ウイルス量など)約2,000円~3,000円
- 腹部超音波検査約3,000円~4,000円
- CT検査約8,000円~10,000円
以上
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