滲出性(炎症性、腫瘍性)腹水

滲出性(炎症性、腫瘍性)腹水(Exudative ascite)とは、お腹の中に異常な液体がたまる病気の一つです。

肝臓や腹膜に炎症や腫瘍がある場合に体内で過剰に作られた液体が腹腔内に蓄積し、通常の腹水とは異なり、タンパク質を多く含む液体が溜まるのが特徴です。

肝臓や腹膜の問題が原因で起こるため、根本的な原因の診断と対処が重要です。

目次

滲出性腹水の症状

滲出性腹水の主な症状には、腹部膨満感、呼吸困難、食欲不振などがあります。

腹部症状

滲出性腹水の最も顕著な症状は腹部の膨満感です。

腹腔内に過剰な液体が貯留することでお腹が徐々に大きくなり、ズボンやスカートのウエストがきつくなったり、体重が増加します。

腹部膨満感に伴い腹痛や不快感を感じる方も多く、日常生活に支障をきたします。

腹部症状特徴
腹部膨満感徐々に進行
腹痛軽度から中等度
体重増加液体貯留による

消化器症状

滲出性腹水は消化器系にも影響を及ぼし、食欲不振や吐き気、嘔吐といった症状が現れることがあります。

また、便秘や下痢などの排便異常も生じ、消化管の機能に変化がみられます。

消化器症状頻度
食欲不振高い
吐き気・嘔吐中程度
便秘・下痢個人差あり

呼吸器症状

腹水の貯留量が増えると横隔膜が上方に押し上げられ、呼吸困難や息切れが生じます。

特に横になった際に息苦しさを感じ、これは仰臥位呼吸困難と呼ばれる滲出性腹水患者の特徴的な症状です。

咳や胸痛を伴う場合もあり、睡眠の質や日中の活動にも影響を与えます。

全身症状

  • 全身倦怠感
  • 疲労感
  • 発熱
  • 寝汗
  • むくみ(特に下肢)

滲出性腹水の原因

滲出性腹水は、炎症性や腫瘍性の要因によって引き起こされます。

滲出性腹水の基本的な特徴

滲出性腹水は腹腔内に異常な液体が貯留する状態を指し、通常の腹水と異なり、液体中のタンパク質濃度が高いのが特徴です。

特徴滲出性腹水通常の腹水
タンパク質濃度高い低い
原因炎症・腫瘍など肝硬変など

肝臓疾患による滲出性腹水の主な原因

肝臓疾患に関連する滲出性腹水の原因は、大きく分けて炎症性と腫瘍性の二つに分類されます。

炎症性

炎症性の原因としては、肝膿瘍や急性肝炎などが挙げられます。

肝臓内や周囲の組織に炎症が生じ、血管の透過性が亢進することで、タンパク質を多く含む液体が腹腔内に漏出するのです。

腫瘍性

一方、腫瘍性の原因としては、肝細胞がんや転移性肝がんなどが代表的です。

腫瘍細胞のが増殖によって周囲の血管や組織に圧迫や浸潤が起こり、正常な血液やリンパ液の流れが妨げられます。

その結果、液体成分が腹腔内に漏出し、滲出性腹水が形成されます。

その他の要因

滲出性腹水の原因として、肝臓疾患以外にも以下のような要因が関与することがあります。

  • 膵炎
  • 腹膜炎
  • 腸閉塞
  • 胆嚢炎

滲出性腹水の検査・チェック方法

滲出性腹水の診断では、超音波検査、CT、MRIなどの画像診断や腹水穿刺による細胞診・生化学検査を行い、原因疾患の特定と腹水の性状を評価します。

身体診察

視診、触診、打診を通じて腹水を確認し、状態を総合的に評価します。

画像検査

検査方法特徴
腹部超音波検査非侵襲的で簡便、腹水の量や性状を評価
CT検査腹水の分布や周囲臓器の状態を詳細に観察
MRI検査軟部組織のコントラストに優れ、腫瘍性病変の検出に有用

画像検査は、腹水の存在だけでなく、その原因となる病変の特定にも役立ちます。

腹水検査

腹水の性状を直接評価する腹水検査では、腹水穿刺により採取した検体を用いて以下の検査を実施します。

  • 外観観察(色調、混濁の有無)
  • 比重測定
  • 蛋白量測定
  • 細胞数算定
  • 細胞診
  • 培養検査

検査結果をもとに滲出性腹水の確定診断を行うとともに、原因疾患の特定にも役立てます。

鑑別診断

滲出性腹水と漏出性腹水の鑑別は診断の上で大切なポイントであり、治療方針の決定に直結します。

項目滲出性腹水漏出性腹水
蛋白量3.0 g/dL以上3.0 g/dL未満
比重1.016以上1.016未満
LDH血清LDHの2/3以上血清LDHの2/3未満

滲出性腹水の治療方法と治療薬について

滲出性腹水は重篤な肝臓疾患の一症状であり、治療には原因疾患の管理と症状緩和が必要です。

滲出性腹水の治療方針

滲出性腹水の治療では、原因となる肝臓疾患の管理と、腹水そのものの軽減を目指します。

治療法は状態や原因疾患によって異なり、症状や検査結果をもとに個々の状況に応じた治療方針を立てます。

薬物療法

主に使用されるものは利尿薬、アルブミン製剤です。

薬剤分類主な作用
利尿薬尿量を増やし、体内の余分な水分を排出
アルブミン製剤血漿膠質浸透圧を上昇させ、腹水を血管内に引き戻す

腹水穿刺による対症療法

薬物療法で十分な効果が得られない際には、腹水穿刺が行われます。

腹水穿刺の手順と注意点

  1. 超音波ガイド下で穿刺部位を決定する。
  2. 局所麻酔を行い、患者さんの不快感を軽減する。
  3. 滅菌された穿刺針を用いて、腹水を少量ずつ排液する。
  4. 排液後は患者さんの状態を慎重に観察します。

腹水穿刺は一時的な症状緩和に有効ですが、頻回に行うと栄養状態の悪化や感染リスクの上昇につながるため、注意が必要となります。

原因疾患に対する治療

滲出性腹水の根本的な治療には、原因となる肝臓疾患への対応が必要です。

原因疾患主な治療アプローチ
ウイルス性肝炎抗ウイルス薬による治療
アルコール性肝硬変禁酒指導と栄養療法
自己免疫性肝炎免疫抑制剤による治療

滲出性腹水の治療期間と予後

滲出性腹水の治療期間は、一般的に炎症性の場合は比較的短期間で改善する傾向がありますが、腫瘍性の場合は長期的な管理が必要となる場合が多いです。

治療期間

原因一般的な治療期間
炎症性数週間~数か月
腫瘍性数か月~数年以上

治療の効果や患者さんの全身状態に応じて治療期間は変動するため、定期的な経過観察が欠かせません。

予後

滲出性腹水の予後は、原因疾患や治療への反応性によって大きく異なります。

原因疾患一般的な予後
悪性腫瘍不良
結核性腹膜炎治療により改善可能
膵炎急性期を脱すれば改善傾向
細菌性腹膜炎適切な治療で改善可能

悪性腫瘍に起因する滲出性腹水の場合、予後は一般的に不良です。

特に進行期のがんでは腹水の管理が困難になることが多く、原発巣や転移の状況、全身状態、治療への反応性などが予後を左右する因子となります。

一方、結核性腹膜炎や細菌性腹膜炎などの感染性疾患による滲出性腹水は、抗菌薬治療により改善が期待できます。

膵炎による滲出性腹水の場合、急性期を脱すれば徐々に改善することが多いですが、重症例や慢性化した場合は長期的な管理が必要となる可能性があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

滲出性腹水の治療薬や治療法は、肝機能障害、腎機能障害、電解質異常、感染リスクの増加など、様々な副作用やデメリットを伴う可能性があります。

利尿薬治療のリスク

利尿薬は滲出性腹水の治療によく用いられますが、副作用には十分な注意が必要です。

副作用具体的な症状
電解質異常低ナトリウム血症、低カリウム血症
腎機能障害血中クレアチニン上昇、尿量減少
脱水めまい、口渇、血圧低下

利尿薬の使用により体内の水分バランスが崩れることがあるため、定期的な血液検査や尿検査を行うことが大切です。

特に、高齢者や腎機能が低下している方は副作用のリスクが高まる傾向にあるため、より慎重な経過観察が必要となります。

腹水穿刺のリスク

腹水穿刺には以下のようなリスクが伴います。

  • 出血
  • 感染
  • 腸管損傷
  • 低血圧

大量の腹水を一度に排出すると急激な血圧低下を引き起こす恐れがあるため、注意が必要です。

また、頻繁な腹水穿刺は栄養状態の悪化につながるため、全身状態を考慮しながら実施する必要があります。

肝性脳症のリスク

滲出性腹水の治療過程で、肝性脳症が発症または悪化するリスクがあります。

要因影響
利尿薬使用電解質異常、脱水
腹水穿刺急激な血圧低下
タンパク質喪失栄養状態悪化

肝性脳症は意識障害や異常行動を引き起こすため、治療中は常に肝性脳症の兆候に注意を払い、早期発見・早期対応に努める必要があります。

感染リスク

滲出性腹水の患者さんは免疫機能が低下している方が多く、感染のリスクが高まっています。

腹水穿刺などの侵襲的な処置を行う際には、細菌性腹膜炎などの重篤な感染症を引き起こすおそれがあるため、細心の注意が必要です。

また、利尿薬の使用による脱水や電解質異常も感染リスクを高める要因となるため、全身状態を総合的に評価しながら治療を進めることが大切です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

滲出性腹水の治療費は症状の程度や原因となる肝臓疾患によって大きく異なりますが、一般的に入院治療が必要となるため高額になる傾向があります。

ただし健康保険が適用されるため、実質的な負担は軽減されます。

入院時の治療費の目安

滲出性腹水の治療では、入院期間や検査・治療内容によって費用が変わりますが、一般的な入院期間と治療費の概算は以下の通りです。

入院期間概算治療費(3割負担の場合)
1週間10万円〜15万円
2週間20万円〜30万円
1ヶ月40万円〜60万円

その他の治療費用

代表的な治療法である腹水穿刺の費用は、1回あたり約5,000円〜10,000円程度で、3割負担の場合1,500円〜3,000円となります。

また、原因となる肝臓疾患の治療も並行して行われるため、総合的な治療費はさらに高額になる可能性があります。

治療項目概算費用(3割負担の場合)
腹水穿刺1,500円〜3,000円/回
CT検査3,000円〜6,000円/回
超音波検査1,500円〜3,000円/回

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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