漏出性(非炎症性)腹水

漏出性(非炎症性)腹水(Transudative ascites)とは、お腹の中に水がたまる状態を指し、肝臓の機能低下により引き起こされることが多いです。

体内の水分バランスを調整する重要な役割を担う肝臓の機能が損なわれると、過剰な水分が腹腔内にしみ出してしまいます。

その結果、お腹が膨らんだり、体重が増加したりする症状が現れ、日常生活に影響を与えます。

目次

漏出性(非炎症性)腹水の症状

漏出性(非炎症性)腹水は、腹部膨満感や体重増加などさまざまな症状を引き起こします。

腹部膨満感と体重増加

漏出性腹水の最も顕著な症状は、腹部の膨満感と体重の増加です。腹腔内に水分が貯留し、お腹が徐々に膨らんでいきます。

自分自身でお腹の膨らみに気づく場合が多く、短期間で数キログラムの体重増加が見られるケースもあります。

症状特徴
腹部膨満感お腹が徐々に膨らむ
体重増加短期間で数kg増加

呼吸困難と倦怠感

腹水の貯留が進行すると、横隔膜が押し上げられ、呼吸が困難になることがあります。

特に、横になった際や体を動かした時に息苦しさを感じやすくなり、全身の倦怠感も現れやすくなります。

消化器症状

腹水による腹部臓器の圧迫や肝機能の低下により、食欲不振、吐き気や嘔吐、便秘や下痢といった症状が現れる場合もあります。

浮腫と尿量減少

漏出性腹水では、体内の水分バランスが崩れるため全身性の浮腫が生じやすくなります。

特に足首や下肢の浮腫が目立ち、尿量の減少も見られます。

部位浮腫の特徴
足首むくみやすい
下肢圧迫すると凹む

漏出性(非炎症性)腹水の原因

漏出性(非炎症性)腹水の主な原因は、門脈圧亢進症と低アルブミン血症です。

要因影響
門脈圧亢進症腹腔内毛細血管圧上昇
低アルブミン血症血漿膠質浸透圧低下

門脈圧亢進症の影響

肝臓疾患、特に肝硬変では、肝臓内の線維化により血液の流れが妨げられて門脈圧が上昇します。この状態を門脈圧亢進症と呼びます。

門脈圧が上昇すると腸管や脾臓からの血液の還流を困難にし、腹腔内の毛細血管圧を上昇させ、結果として毛細血管から腹腔内へ水分が漏出しやすくなり腹水の形成を促進します。

低アルブミン血症の役割

肝臓疾患では、アルブミンの産生能が低下することがあります。

アルブミンは血漿タンパクの主要成分であり、血液の膠質浸透圧を維持する上で重要な役割を果たします。

アルブミン濃度が低下すると血液の膠質浸透圧が低下し、血管内の水分を保持する力が弱まり、水分が血管外へ漏出しやすくなって腹水の形成を助長します。

腹水形成のメカニズム

門脈圧亢進症と低アルブミン血症に加え、以下の要因も腹水形成に関与します。

  • レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化
  • 抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌増加
  • 腎臓での塩分・水分貯留

これらの要因が相互に作用し、体内の水分・電解質バランスを崩すことで腹水の蓄積が進行します。

肝臓疾患の種類と腹水形成

様々な肝臓疾患が漏出性腹水の原因となり得ますが、その中でも肝硬変が最も一般的です。

肝硬変以外には、以下のような疾患が腹水を引き起こす可能性があります。

疾患腹水形成のメカニズム
急性肝炎一時的な肝機能低下
肝癌門脈圧上昇、低アルブミン血症
うっ血性心不全静脈圧上昇、肝うっ血

漏出性(非炎症性)腹水の検査・チェック方法

漏出性腹水においては、腹部エコー検査、腹部CT検査、または腹水穿刺による検体採取と分析が主な検査方法です。

身体診察

  • 腹部の膨満や波動
  • 下肢の浮腫
  • 肝臓の触診や打診

身体診察所見により、その後の検査の方向性を決めていきます。

画像検査

検査方法特徴
腹部超音波検査非侵襲的で即時性が高い
CT検査詳細な画像が得られる
MRI検査軟部組織の評価に優れる

特に腹部超音波検査は腹水の検出に優れているため、初期評価に適しています。

腹水検査

腹水検査は、漏出性腹水の確定診断に必要な検査です。

腹水穿刺で採取した腹水の性状や成分分析により、漏出性か滲出性かを鑑別し、診断の確実性を高めることができます。

主な腹水検査項目

  • 外観(色調、混濁)
  • 比重
  • 蛋白濃度
  • アルブミン濃度
  • LDH(乳酸脱水素酵素)濃度

臨床診断と確定診断

腹部膨満、波動、下肢浮腫などの特徴的な身体所見に加え、画像検査で腹水の存在が確認されると、漏出性腹水が強く疑われます。

腹水の性状分析にて、漏出性腹水の特徴である低蛋白濃度(一般に3.0 g/dL未満)や低LDH濃度などを確認できれば、最終的な確定診断となります。

漏出性(非炎症性)腹水の治療方法と治療薬について

漏出性(非炎症性)腹水の治療は、塩分制限と利尿薬(主にループ利尿薬とアルドステロン拮抗薬の併用)を中心とし、原疾患の管理と並行して行います。

食事療法と生活習慣の改善

漏出性腹水の治療において、食事療法と生活習慣の改善は基本的かつ不可欠な要素です。

塩分制限は特に重要で、1日の摂取量を6g以下に抑えることが推奨されます。また、水分摂取量の管理も必要となる場合があります。

アルコールの摂取は厳禁であり、完全に控える必要があります。

利尿薬による薬物療法

主に使用される利尿薬には以下のようなものがあります。

薬剤名主な作用
フロセミドループ利尿薬
スピロノラクトンカリウム保持性利尿薬
トルバプタンバソプレシンV2受容体拮抗薬

利尿薬は尿量を増やすことで体内の過剰な水分を排出し、腹水の減少を図ります。

腹水穿刺による直接的な排液

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、腹水が大量に貯留している場合には、腹水穿刺による直接的な排液が検討されます。

この処置は腹部に細い針を刺して腹水を直接排出する方法で、即効性があり症状の速やかな改善が期待できます。

一度に大量の腹水を排出すると循環動態に悪影響を及ぼす可能性があるため、通常は1回の排液量を5〜6Lまでに制限します。

ただし、腹水穿刺は一時的な対症療法であることに留意が必要です。

血管内シャント術(TIPS)

内科的治療に抵抗性の難治性腹水に対しては、経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)が選択肢となります。

TIPSは以下のような特徴を持つ治療法です。

  • 門脈圧を低下させる
  • 腹水の再貯留を抑制する
  • 長期的な効果が期待できる

ただしTIPSには肝性脳症のリスクがあるため、適応は慎重に判断されます。

アルブミン製剤の投与

低アルブミン血症を伴う患者さんには、アルブミン製剤を投与します。

アルブミンの効果

効果説明
膠質浸透圧の維持血管内の水分保持を促進
血漿量の増加循環動態の改善

アルブミン製剤の投与は他の治療法と組み合わせて行われる場合が多く、投与量や頻度は血清アルブミン値や臨床症状に基づいて決定します。

漏出性(非炎症性)腹水の治療期間と予後

漏出性(非炎症性)腹水の治療には個人差があり、数週間から数か月、時には長期にわたる管理が必要です。

予後は原因疾患の重症度や治療への反応性によって大きく異なりますが、治療と生活習慣改善により、多くのケースで症状の改善が期待できます。

治療期間の個人差

漏出性腹水の治療期間は、軽度の場合は数週間から数か月程度で改善が見られますが、重度の場合や原因疾患の進行が著しい際にはより長期の治療が必要となる場合があります。

治療期間に影響を与える要因

要因影響
原因疾患の重症度重症度が高いほど長期化
患者の全身状態良好な場合は短期化の傾向
治療への反応性良好な反応で短期化
合併症の有無合併症がある場合は長期化

予後

早期発見と治療介入が行われた場合、多くの患者さんで良好な予後が期待できますが、進行した肝硬変など重度の肝機能障害を伴う場合は予後が厳しくなることがあります。

予後に影響を与える主な要因

  • 原因疾患の進行度
  • 肝機能の状態
  • 治療への反応性
  • 患者さんの年齢や全身状態
  • 合併症の有無と程度

薬の副作用や治療のデメリットについて

漏出性腹水の治療では、利尿薬や血管拡張薬による電解質異常、腎機能障害、低血圧などの副作用と、過剰な水分制限による栄養不良や生活の質の低下が主なデメリットです。

利尿薬治療に関連する副作用

利尿薬は漏出性腹水の治療で広く用いられますが、その使用には注意が必要です。

電解質異常は利尿薬使用時に生じやすい副作用の一つです。特に低ナトリウム血症や低カリウム血症が問題となることがあり、めまいや筋力低下などの症状が現れる場合があります。

腎機能障害も利尿薬使用に伴うリスクとして挙げられます。過度な利尿作用により、腎血流が減少し、腎機能が悪化する場合があります。

また、むくみや尿量減少などの症状が出現する可能性もあります。

副作用主な症状
電解質異常めまい、筋力低下
腎機能障害むくみ、尿量減少

腹水穿刺に伴うリスク

感染症のリスクは腹水穿刺に伴う重要な懸念事項です。穿刺部位から細菌が侵入して腹膜炎を引き起こす可能性があるため、無菌操作の徹底が必要となります。

出血も腹水穿刺時に注意すべきリスクの一つです。特に肝機能障害による凝固異常がある患者さんでは、穿刺部位からの出血が止まりにくくなることがあるため、凝固能の事前確認が大切です。

リスク予防策
感染症無菌操作の徹底
出血凝固能の事前確認

低アルブミン血症に関連する問題

漏出性腹水の治療過程では低アルブミン血症が問題となる場合があり、その影響は全身に及びます。

血液中のアルブミン濃度が低下すると体内の水分バランスが崩れ、全身性の浮腫が生じやすくなり、患者さんのQOLに影響を与えます。

また、創傷治癒の遅延も低アルブミン血症によって引き起こされる可能性があります。

アルブミンは組織修復に不可欠なタンパク質であるため、その不足は傷の治りを遅らせ、感染リスクを高める要因となります。

低アルブミン血症の対策

  • 栄養状態の改善
  • アルブミン製剤の投与
  • 原因となる肝疾患の管理

肝性脳症のリスク

漏出性腹水の治療中は、肝性脳症のリスクに注意を払う必要があります。

気をつけたい肝性脳症の症状

意識障害

意識障害は肝性脳症の代表的な症状です。軽度の錯乱から昏睡まで、様々な程度の意識レベルの変化が見られます。

行動異常

行動異常も肝性脳症に伴って現れる症状の一つで、性格変化や不適切な行動が観察される場合があります。

肝性脳症のリスクを管理するためには、アンモニア値の定期的なチェックや、タンパク質摂取量の調整などが重要です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

漏出性腹水の治療は通常、健康保険が適用され、自己負担は医療費の10~30%程度です。

外来での治療費

外来での治療費は、主に利尿薬の処方や腹水穿刺などの処置にかかる費用が中心です。

項目費用(3割負担の場合)
腹水穿刺約3,000円~5,000円
利尿薬(1ヶ月分)約2,000円~5,000円
超音波検査約2,000円~3,000円

入院での治療費

症状が重度の場合や、頻繁な処置が必要な場合は入院が必要となります。入院費用は滞在日数や実施する処置によって大きく変動しますが、一般的な費用の目安は以下のとおりです。

項目費用(3割負担の場合)
入院費(1日あたり)約5,000円~10,000円
腹水濾過濃縮再静注法約30,000円~50,000円
CT検査約10,000円~15,000円

長期的な管理にかかる費用

漏出性腹水の管理は長期にわたることが多く、定期的な検査や処置が必要です。長期的な管理にかかる費用には以下のようなものがあります。

  • 定期的な血液検査(月1回程度)
  • 超音波検査(2~3ヶ月に1回程度)
  • CT検査(半年に1回程度)
  • 栄養指導(必要に応じて)

検査や指導は、症状の程度や経過によって頻度が変わります。

医療費の詳細については、担当医や医療機関で直接ご確認ください。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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