癌性腹膜炎

癌性腹膜炎(cancerous peritonitis / peritonitis carcinomatosa)とは、腹腔内を覆う薄い膜である腹膜にがん細胞が広がった状態を指します。

主に胃がんや大腸がん、卵巣がんなどの進行したがんから発生し、腹水の貯留や腹部の痛み、膨満感、食欲不振などの症状が現れます。

癌がかなり進行していることを示しており、根治(完全に治すこと)は難しい場合が多いです。

目次

癌性腹膜炎の症状

癌性腹膜炎は進行がんに伴う深刻な合併症であり、腹部膨満感や腹痛、食欲不振などの症状を引き起こします。

症状の分類具体的な症状
腹部症状腹部膨満感、腹痛
消化器症状食欲不振、吐き気、嘔吐、便秘、下痢
全身症状倦怠感、疲労感、体重減少、発熱
呼吸器症状呼吸困難感、深呼吸が困難になる

症状は個人差が大きく、がんの種類や進行度によっても異なります。また、全ての症状が同時に現れるわけではなく、時間の経過とともに変化する場合もあります。

腹部症状

腹水の貯留により、お腹が徐々に膨らんでいく感覚や腹部の不快感、圧迫感が主な症状です。

腹痛も頻繁に見られる症状で、痛みの程度や性質は個人差が大きく、鈍痛から激しい痛みまで様々です。

消化器症状

食欲不振は多くのケースで見られる症状の一つで、食べる意欲が低下し、十分な栄養摂取が困難になっていきます。

また、吐き気や嘔吐を伴う場合もあり、栄養状態や体力に影響を与えます。

便秘や下痢といった排便の異常も生じることがあり、腸管の機能障害によって正常な排便が困難になる場合があります。

全身症状

倦怠感や疲労感も代表的な症状です。日常生活に支障をきたすほどの強い疲労や、食欲不振や栄養吸収の低下による体重減少も見られます。

また、腹膜の炎症反応により発熱が生じる場合があります。

呼吸器症状

癌性腹膜炎が進行すると、呼吸器系にも影響が及んでいきます。

腹水の増加により横隔膜が押し上げられ、呼吸困難感を感じたり、深呼吸が困難になる場合もあります。

癌性腹膜炎の原因

癌性腹膜炎は、腹腔内に癌細胞が広がることで起こります。主に消化器系の癌や婦人科系の癌が原因となり、腹膜への転移によって発症します。

癌性腹膜炎の主な原因

癌性腹膜炎の主な原因は、原発巣から腹腔内への癌細胞転移です。

進行した癌の合併症であり、予後不良である場合が多く根本的な治療法は確立されていません。

原発巣癌性腹膜炎を引き起こす頻度
胃癌高い
大腸癌中程度
卵巣癌非常に高い
膵臓癌中程度

転移のメカニズム

癌細胞が腹膜に転移する経路は、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種、浸潤性増殖などが代表的です。

血管やリンパ管を通じて癌細胞が広がったり、直接腹腔内に散布されたりすることで、腹膜に到達し増殖を始めます。

血行性転移血管を通じて癌細胞が広がる
リンパ行性転移リンパ管を通じて癌細胞が広がる
腹膜播種癌細胞が直接腹腔内に散布される
浸潤性増殖隣接する組織に癌細胞が直接広がる

癌細胞の特性と腹膜環境

癌性腹膜炎の発症には、癌細胞自体の特性と腹膜環境が深く関わっています。

癌細胞は正常細胞と比べて増殖能力が高く、周囲の組織に浸潤しやすい性質を持っています。一方、腹膜は豊富な血管網とリンパ管網を有し、癌細胞の増殖に適した環境です。

癌細胞の特性腹膜環境の特徴
高い増殖能力豊富な血管網
浸潤性リンパ管網の存在
転移能力栄養分の豊富さ
免疫回避能力広い表面積

これらの要因が相互に作用し、癌性腹膜炎の発症と進行を促進していきます。

癌性腹膜炎の検査・チェック方法

癌性腹膜炎は、腹部のCT検査、MRI検査、PET検査、腹水検査、腹腔鏡検査などを組み合わせて診断されます。確定診断には、腹水や腹腔内組織の病理検査が必要です。

臨床症状の評価

身体診察で腹部の状態を確認し、腹部の膨満感や圧痛の有無、腹水の貯留などがみられる場合は癌性腹膜炎を疑います。

画像診断

臨床症状の評価に続いて、画像診断を実施します。

検査方法特徴
CT検査腹水の有無や量、腹膜の肥厚を確認
MRI検査軟部組織のコントラストに優れ、腹膜の詳細な評価が可能

画像検査では、腹腔内の状態を視覚的に把握できます。

腹水の分布や腹膜の変化、転移巣の有無などの情報を得ることで癌性腹膜炎の可能性を評価し、さらなる検査の必要性を判断します。

腹水検査の実施

画像診断で腹水の存在が確認された場合、腹水検査を行います。腹水穿刺により採取した検体を用いて、以下の検査を実施します。

  • 細胞診検査
  • 生化学的検査
  • 細菌学的検査

特に、細胞診検査は癌細胞の有無を直接確認できるため診断において有用です。

腹水中のタンパク質濃度や、細胞数などの情報も癌性腹膜炎の診断に役立つ重要な指標となります。

組織生検による確定診断

最終的な確定診断には、組織生検が必要です。

生検方法適応
経皮的生検画像で確認できる腹膜病変がある場合
腹腔鏡下生検びまん性の病変や、経皮的アプローチが困難な場合

生検で得られた組織を病理学的に検査することで、癌細胞の存在を確定的に診断できます。

癌性腹膜炎の治療方法と治療薬について

癌性腹膜炎の治療は原発巣の制御と症状緩和を目指して行われますが、この病気は癌が進行した状態を示しているため、根治(こんち:完全に治すこと)は難しい場合が多いです。

治療の主な目的は、症状を緩和し患者の生活の質を向上させること、生存期間を延ばすことです。

主な治療法には、化学療法や手術療法、腹腔内化学療法などがあります。

化学療法による全身治療

全身に投与される抗がん剤により、腹膜に転移した癌細胞の増殖を抑制し症状の改善を図ります。

使用される薬剤は原発巣によって異なりますが、一般的にはプラチナ製剤やタキサン系薬剤が用いられる場合が多いです。

治療効果や副作用の程度を見ながら投与量や間隔を調整し、状態に合わせた治療を行います。

抗がん剤の種類主な使用例
プラチナ製剤卵巣癌
タキサン系薬剤胃癌
フッ化ピリミジン系大腸癌

腹腔内化学療法

腹腔内化学療法は抗がん剤を直接腹腔内に投与する方法で、高濃度の薬剤を腹膜に直接作用させることができるため局所的な効果が期待できます。

腹腔内投与用のカテーテルを留置し、定期的に抗がん剤を注入することで継続的な治療が可能となり、全身化学療法と併用されるケースも多く相乗効果が期待されています。

手術療法

手術療法は状況によっては有効な治療選択肢となり、腹膜播種巣の切除や原発巣の摘出により腫瘍量を減らすことができます。

ただし、広範囲に転移が及んでいる場合や全身状態が良くない場合は適応とはなりません。

症状緩和のための処方薬

癌性腹膜炎に伴う痛みに対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイド系鎮痛薬が処方されます。

また、腹水貯留に対しては利尿薬が用いられる場合があります。

主な症状と対応する処方薬

症状主な処方薬
痛みNSAIDs、オピオイド系鎮痛薬、モルヒネ
腹水利尿薬(フロセミドなど)
悪心制吐剤(オンダンセトロン、メトクロプラミドなど)
食欲不振食欲促進剤(メゲストロール酢酸エステルなど)

癌性腹膜炎の治療期間と予後

癌性腹膜炎の予後は進行度や原発巣によって大きく変わりますが、多くの場合は厳しい状況となります。

治療期間中は患者さんのQOLに配慮しつつ、症状緩和と生存期間の延長を目指します。

治療期間

癌性腹膜炎では、原発巣の種類や進行度、全身状態、治療への反応性などが、治療期間を左右する要因となります。

原発巣の手術を行う場合は術後の回復期間を含めて、数ヶ月から半年程度、局所療法を行う場合は数週間から数ヶ月、緩和療法は患者さんが亡くなるまで継続します。

予後に影響を与える要因

  • 原発巣の種類と進行度
  • 腹膜播種の程度
  • 患者さんの全身状態と年齢
  • 治療への反応性
  • 合併症の有無

予後

癌性腹膜炎の予後は一般的に厳しいとされていますが、近年の治療法の進歩により、生存期間の延長が期待できるようになってきました。

癌性腹膜炎の原発巣別の生存期間中央値

原発巣生存期間中央値
胃癌3-6か月
大腸癌6-12か月
卵巣癌12-24か月

薬の副作用や治療のデメリットについて

癌性腹膜炎の治療には様々な副作用やリスクが伴います。化学療法や手術は生活の質に影響を及ぼす可能性があるため、十分な理解と対策が必要となります。

化学療法による副作用

化学療法は癌性腹膜炎の主要な治療法の一つですが、多くの副作用を引き起こす場合があります。

抗がん剤の投与により生じる副作用

  • 吐き気や嘔吐
  • 食欲不振
  • 脱毛
  • 倦怠感
  • 骨髄抑制(白血球減少、貧血など)

特に骨髄抑制は感染症のリスクを高める恐れがあるため、注意が求められます。

腹腔内化学療法のリスク

腹腔内化学療法は、腹腔内への薬剤投与に伴い腹痛や腹部膨満感が生じる可能性があります。

また、カテーテル留置に関連した合併症として感染や閉塞のリスクがあります。

リスク対応
腹痛鎮痛剤の使用
腹部膨満感腹部マッサージ
カテーテル感染抗生剤投与、カテーテル交換
カテーテル閉塞カテーテル交換、洗浄

手術療法に伴うリスク

腹膜切除を伴う広範囲な手術では、出血や感染のリスクが高まります。また、腸管の切除が必要となった際には、短腸症候群や吸収障害といった合併症が生じる可能性があります。

さらに手術後の癒着形成により、イレウス(腸閉塞)のリスクも増加します。

免疫療法のリスク

近年、癌性腹膜炎に対する新たな治療法として免疫療法が注目されていますが、この治療法にも独自のリスクが存在します。

免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれる副作用が生じる場合があり、皮膚症状や内分泌障害、肺炎などが報告されています。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

癌性腹膜炎の治療は、健康保険が適用されます。また、高額療養費制度の活用により自己負担額を大幅に軽減できます。

保険適用と自己負担

癌性腹膜炎の治療は健康保険が適用され、自己負担は医療費の10~30%となります。

治療費は主に入院費、抗がん剤治療、検査費用などがあり、症状の程度や治療方針によって大きく異なります。

治療費の目安

項目概算費用(1ヶ月あたり)
入院費15万円〜30万円
抗がん剤治療20万円〜50万円
検査費用5万円〜10万円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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