ダリエ病(Darier disease)とは、遺伝子の変異によって引き起こされるまれな皮膚疾患です。
皮膚の細胞が正常に成熟できないことが原因で、主に10代から20代の若い年齢で発症し、体や顔に特徴的な発疹や角化性の小結節が現れます。
症状は個人差が大きく軽度から重度までさまざまですが、多くの患者さんにとって生活の質に影響を与える可能性がある慢性的な疾患です。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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ダリエ病の症状
ダリエ病は患者さんごとに症状の現れ方や程度が異なる、複雑な皮膚疾患です。
皮膚症状の特徴
ダリエ病の最も顕著な症状は皮膚の異常です。
主な特徴
- 角化性丘疹 皮膚表面に小さな固い隆起ができる
- 紅褐色の斑 皮膚に赤みがかった茶色の斑点が現れる
- 皮膚の肥厚 特定の部位で皮膚が厚くなる
- 脂漏性の鱗屑 皮膚がうろこ状にはがれ落ちる
好発部位 | 症状の特徴 |
胸部 | 角化性丘疹が密集 |
背中 | 紅褐色の斑が広がる |
顔面 | 額や鼻周りに症状が出やすい |
首 | 皮膚の肥厚が目立つ |
爪と粘膜の症状
ダリエ病は皮膚だけでなく爪や粘膜にも影響を及ぼすことがあります。
部位 | 症状 |
爪 | 縦線や割れ、もろさの増加 |
口腔粘膜 | 小さな白色隆起や潰瘍 |
食道 | 粘膜の異常(まれな例) |
ダリエ病の原因
ダリエ病はATP2A2遺伝子の変異が主な原因で、皮膚細胞の機能に問題が生じ特徴的な症状が現れます。
ATP2A2遺伝子の役割
ATP2A2遺伝子は皮膚細胞内のカルシウムポンプを制御する重要な役割があり、細胞内のカルシウム濃度を調整し、細胞の正常な機能を維持するために不可欠です。
遺伝子変異のメカニズム
ダリエ病の患者さんではATP2A2遺伝子に変異が起こっていて、この変異によりカルシウムポンプの機能が低下し、細胞内のカルシウムバランスが崩れてしまいます。
結果として皮膚細胞の成熟や接着に異常が生じ、特徴的な皮膚症状が現れるのです。
正常な状態 | ダリエ病の状態 |
カルシウムポンプが正常に機能 | カルシウムポンプの機能低下 |
細胞内カルシウム濃度が適切に調整される | 細胞内カルシウム濃度の調整不全 |
皮膚細胞の正常な成熟と接着 | 皮膚細胞の異常な成熟と接着 |
遺伝形式
ダリエ病は常染色体優性遺伝の形式をとり、両親のどちらかから変異遺伝子を受け継ぐと発症する可能性があります。
環境要因の影響
遺伝子変異が基本的な原因ですが、環境要因も症状の発現や悪化に関与することがあります。
ダリエ病の症状に影響を与える可能性のある環境要因
- 紫外線露出
- 高温多湿な環境
- ストレス
- ホルモンバランスの変化
- 特定の薬剤の使用
症状の多様性
ダリエ病の症状は同じ遺伝子変異を持っていても個人によって異なることがあり、これは、遺伝子の発現が環境要因や他の遺伝的要因によって影響を受けるためです。
軽度の症状 | 重度の症状 |
小さな皮疹のみ | 広範囲の皮疹と角化 |
症状が目立たない | 明らかな皮膚の変化 |
日常生活への影響が少ない | 日常生活に支障をきたす |
ダリエ病の検査・チェック方法
ダリエ病の正確な診断は症状の観察、皮膚生検、遺伝子検査などを通して行われます。
臨床症状の観察
ダリエ病の診断で最初に行われるのは臨床症状の詳細な観察です。
- 角化性丘疹の有無と分布
- 皮膚の色調変化
- 爪の異常
- 粘膜病変の有無
症状は体の特定部位に集中して現れる傾向があります。
好発部位 | 特徴的な症状 |
胸部 | 角化性丘疹の密集 |
背中 | 紅褐色の斑 |
顔面 | 毛孔性の丘疹 |
首 | 皮膚の肥厚 |
皮膚生検
臨床症状の観察だけでは確定診断が困難な場合、皮膚生検が実施されます。
皮膚生検の手順
- 局所麻酔の投与
- 病変部位から小さな皮膚片の採取
- 採取した組織の顕微鏡による観察
顕微鏡下で観察される特徴的な所見
組織学的特徴 | 説明 |
表皮内裂隙形成 | 表皮細胞間の結合が弱まり、隙間ができる |
異常角化 | 角化細胞の成熟過程に異常が見られる |
円形体 | 特徴的な異常角化細胞の集塊 |
遺伝子検査
ダリエ病は遺伝性疾患であるため、原因であるATP2A2遺伝子を特定するために遺伝子検査が重要です。
遺伝子検査は血液サンプルや唾液サンプルを用いて行われ、ダリエ病の確定診断だけでなく、家族内での遺伝パターンの把握も可能となります。
鑑別診断
ダリエ病は他の皮膚疾患と症状が類似することがあるため、鑑別診断が大切です。
ダリエ病と鑑別すべき主な疾患
- 尋常性痤瘡(にきび)
- 脂漏性角化症
- 毛孔性紅色粃糠疹
鑑別には詳細な問診や皮膚所見の観察、必要に応じて追加の検査が行われます。
ダリエ病の治療方法と治療薬について
ダリエ病の治療は症状の軽減と生活の質の向上を主な目標としています。
現時点で完治は難しいものの、さまざまな治療法や薬剤を組み合わせることで症状をコントロールすることが可能です。
局所療法
局所療法は皮膚の症状を直接的に改善することを目的としており、以下のような治療薬が使用されます。
薬剤タイプ | 主な効果 | 使用上の注意点 |
レチノイド外用薬 | 角化の抑制 | 皮膚刺激に注意 |
ステロイド外用薬 | 炎症の抑制 | 長期使用を避ける |
保湿剤 | 乾燥防止 | 定期的な使用が必要 |
薬剤は症状の程度や部位に応じて使い分けられます。
全身療法
局所療法だけでは十分な効果が得られない場合や広範囲に症状がある際は、全身療法が検討され、主に経口レチノイド薬が用いられます。
- アシトレチン
- イソトレチノイン
レチノイド薬は強力な効果を持つ一方で副作用のリスクもあるため、慎重な投与と定期的な経過観察が不可欠です。
抗生物質療法
ダリエ病の患者さんは皮膚の異常により細菌感染のリスクが高まることがあり、感染が認められた場合や予防的な目的で抗生物質が処方されることもあります。
抗生物質の種類 | 主な使用目的 |
テトラサイクリン系 | 広範囲の細菌に効果 |
マクロライド系 | 皮膚感染症に有効 |
生活習慣の改善
薬物療法と並行して次のような点に気を付けることで症状の悪化を予防でき、生活の質の向上につながります。
- 過度な紫外線暴露を避ける
- 清潔な肌を保つ
- 保湿を心がける
- ストレス管理を行う
- バランスの取れた食事と十分な睡眠
ダリエ病の治療期間と予後
ダリエ病は慢性的な皮膚疾患であり完治は難しいものの、治療と自己管理により症状のコントロールが可能です。
治療期間の特徴
ダリエ病の治療は長期的な取り組みが必要です。
- 症状の寛解と再燃を繰り返すため、継続的な治療が重要
- 個人によって症状の程度や治療反応性が異なるため、治療期間も個別化される
- 季節や環境の変化に応じて治療内容を調整する必要がある
治療期間に影響を与える要因
要因 | 影響 |
症状の重症度 | 軽症例は短期間で改善、重症例は長期治療が必要 |
治療への反応性 | 良好な反応は治療期間の短縮につながる |
生活環境 | ストレスや環境要因の管理が治療期間に影響 |
併存疾患 | 他の疾患の有無が治療期間に影響する可能性あり |
短期的な治療目標
短期的には急性症状の緩和と皮膚状態の改善が目標で、この期間は通常数週間から数ヶ月程度です。
- 炎症や痒みの軽減
- 皮膚の乾燥改善
- 二次感染の予防と治療
長期的な管理と予後
ダリエ病の長期的な管理は症状の安定化と再燃防止に焦点を当てます。
予後に影響する要素
- 早期診断と治療開始
- 継続的な自己管理と医療フォローアップ
- 環境因子やストレス管理
- 合併症の予防と早期対応
長期的な予後の傾向
予後要素 | 傾向 |
症状の安定性 | 年齢とともに改善する場合が多い |
生活の質 | 適切な管理により良好に維持できる |
合併症リスク | 皮膚感染症や精神的ストレスに注意 |
社会生活 | 多くの患者が通常の社会生活を送れる |
薬の副作用や治療のデメリットについて
ダリエ病の治療にはいろいろな薬剤や方法が用いられますが、それぞれに副作用やデメリットがあります。
局所療法の副作用
局所療法は比較的安全な治療法ですが、ステロイド外用薬の長期使用には注意が必要です。
薬剤 | 主な副作用 | 注意点 |
ステロイド外用薬 | 皮膚萎縮、毛細血管拡張 | 長期使用を避ける |
レチノイド外用薬 | 皮膚刺激、乾燥 | 徐々に濃度を上げる |
保湿剤 | アレルギー反応(稀) | 成分をチェック |
全身療法のリスク
全身療法、特に経口レチノイド薬の使用にはより重大な副作用のリスクが伴います。
- 肝機能障害
- 血中脂質の上昇
- 骨への影響(長期使用時)
- 催奇形性(妊娠中の使用は禁忌)
副作用に対しては定期的な血液検査や肝機能検査が必要です。
抗生物質使用の問題点
抗生物質の使用は細菌感染の予防や治療に効果がある一方でデメリットもあります。
デメリット | 影響 |
耐性菌の出現 | 治療の難化 |
腸内細菌叢の乱れ | 消化器症状 |
アレルギー反応 | 皮疹、アナフィラキシー |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
ダリエ病の保険適用状況
ダリエ病は厚生労働省が指定する難病の一つとして認定されており、自己負担額が軽減される特定医療費助成制度(指定難病制度)の対象です。
保険適用の範囲
- 外来・入院診療費
- 薬剤費
- 医療機器費
- 在宅医療費
自己負担額は所得に応じて設定され、多くの場合、通常の医療保険よりも低い自己負担額で治療を受けることが可能です。
一般的な治療費の目安
ダリエ病の治療費の目安
治療法 | 概算費用(3割負担の場合) |
外来診察 | 1,000円〜3,000円/回 |
血液検査 | 3,000円〜5,000円/回 |
皮膚生検 | 5,000円〜10,000円/回 |
外用薬 | 1,000円〜3,000円/月 |
内服薬 | 3,000円〜10,000円/月 |
費用は保険適用後の自己負担額の目安です。
以上
参考文献
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