閉鎖孔ヘルニア

閉鎖孔ヘルニア(へいさこうへるにあ/Obturator hernia)とは、骨盤内の閉鎖孔という小さな穴から腸が飛び出してしまうまれな病気です。

太もも内側の痛みや違和感、腹痛、吐き気などが現れ、時に腸閉塞を引き起こす可能性もあります。

加齢や出産による骨盤底の筋力低下が主な原因とされ、高齢の女性に見られるのが特徴です。

早期発見が難しく診断に時間がかかる場合もあるため、持続する不快症状がある際は専門医への相談をお勧めします。

目次

閉鎖孔ヘルニアの症状

閉鎖孔ヘルニアは、高齢の痩せ型女性に多く見られる比較的まれな疾患です。

主な症状には、腹痛、嘔吐、腸閉塞などがあります。

症状特徴
腹痛下腹部に多く、突然または徐々に発症
嘔吐腸閉塞の進行に伴い出現
Howship-Romberg徴候大腿内側部の痛みやしびれ

閉鎖孔ヘルニアの典型的な症状

閉鎖孔ヘルニアの主な症状は、腹痛と嘔吐です。腹痛は、多くの場合下腹部に現れ、突然発症するケースがある一方で徐々に悪化することもあります。

嘔吐は、腸閉塞が進行した際に見られる症状です。

Howship-Romberg徴候

閉鎖孔ヘルニアに特徴的な症状として、Howship-Romberg(ハウシップ-ロンベルク)徴候があります。

閉鎖神経の圧迫によって生じる症状で、大腿内側部の痛みやしびれが起こります。

Howship-Romberg徴候は閉鎖孔ヘルニアの診断において有用な指標となり、診断を下すための手がかりとなります。

腸閉塞症状

閉鎖孔ヘルニアが進行すると、腸閉塞を引き起こす場合があります。

腸閉塞の症状には以下のようなものがあります。

  • 腹部膨満感
  • 腹部の張り
  • 排便困難
  • 腹鳴亢進

腸閉塞は重篤な状態に発展する可能性があるため、早期の対応が予後を左右する要因となります。

非典型的な症状

閉鎖孔ヘルニアの症状は個々によって異なり、中には明確な症状を示さないケースもあります。

特に高齢者では、症状が曖昧になることがあるため、注意が必要です。

また、以下のような非典型的な症状が現れる場合もあります。

非典型的な症状説明
食欲不振腸の不快感により食事量が減少
体重減少長期的な症状により栄養摂取が不足
倦怠感全身状態の悪化に伴い出現

閉鎖孔ヘルニアの原因

閉鎖孔ヘルニアの主な原因は、加齢に伴う筋肉の脆弱化と閉鎖孔の拡大です。

また、急激な体重減少や出産経験、慢性的な便秘なども発症リスクを高める要因となります。

  • 加齢による筋力低下
  • 急激な体重減少
  • 出産経験
  • 慢性的な便秘
  • 閉鎖孔周囲の解剖学的特徴

加齢と筋肉の脆弱化

閉鎖孔ヘルニアの発症には、加齢による筋肉の衰えが大きく関与しています。

高齢者、特に女性において顕著に見られる筋肉量の減少は閉鎖孔周囲の支持組織を弱めてしまい、腹腔内の臓器が閉鎖孔を通じて脱出しやすくなる環境が整ってしまうのです。

加齢に伴う筋力低下は避けられない現象ですが、適切な運動や栄養管理によってその進行を緩やかにすることは可能です。

閉鎖孔の解剖学的特徴

閉鎖孔は骨盤の前方に位置する比較的小さな開口部であり、通常は筋肉や靭帯によって保護されています。

しかし、特定の条件下ではこの部位が脆弱化し、ヘルニアの発生リスクが高まります。

閉鎖孔の構造特徴
位置骨盤前方
大きさ比較的小さい
保護筋肉、靭帯

体重減少と栄養状態

急激な体重減少は、閉鎖孔ヘルニアの発症リスクを高める要因の一つです。

体重が急速に落ちると閉鎖孔周囲の脂肪組織が減少し、本来ヘルニアの発生を防いでいた自然の「クッション」が失われてしまうのです。

また、栄養不良状態が続くと、全身の筋肉量が減少し閉鎖孔を支える組織の強度が低下します。

出産経験とホルモンバランス

女性において閉鎖孔ヘルニアの発症リスクが高い理由には、出産経験が関係している可能性があります。

出産時の骨盤底筋群への負担や妊娠・出産に伴うホルモンバランスの変化が、閉鎖孔周囲の組織に影響を与えると考えられています。

要因影響
出産経験骨盤底筋群への負担
ホルモン変化組織の弾力性低下

複数回の出産を経験した女性では、特に注意が必要です。

慢性的な便秘の影響

慢性的な便秘により腹圧が繰り返し上昇し、閉鎖孔周囲の組織に過度な負担がかかる場合があります。

閉鎖孔ヘルニアの検査・チェック方法

閉鎖孔ヘルニアの検査は、医師による問診、触診に加え、超音波検査やCT検査が主な方法です。

身体診察

まずは腹部の視診と触診を行い、特に鼠径部や大腿部の腫脹や圧痛の有無を注意深く確認します。

ハウシップ・ロンベルグ徴候の確認も診断の手がかりとなるため、股関節を屈曲・内転・内旋させた際に痛みが誘発される現象に注目します。

臨床診断のポイント

  • 高齢の痩せ型女性に多い傾向
  • 間欠的な腹痛や嘔吐などの消化器症状
  • 大腿内側部の痛みや違和感
  • 腸閉塞症状の有無

これらの臨床所見を総合的に評価し、閉鎖孔ヘルニアの可能性を検討します。

画像診断

CT検査は特に有用で、ヘルニア嚢や嵌頓した腸管を明瞭に描出できるため、診断精度が高いとされています。

診断方法診断基準
CT検査閉鎖管内のヘルニア嚢の同定
超音波検査閉鎖管周囲の異常所見の検出
腹腔鏡検査直接的な観察による確認

CT検査で閉鎖管内にヘルニア嚢が確認されれば、ほぼ確定診断となります。

診断が困難な場合は腹腔鏡検査が考慮される場合もあります。

閉鎖孔ヘルニアの治療方法と治療薬について

閉鎖孔ヘルニアの治療は手術が基本であり、緊急性の高い場合は即時手術が行われます。

手術方法には開腹手術と腹腔鏡手術があり、状態に応じて選択されます。

手術による治療

閉鎖孔ヘルニアの根本的な治療には外科的介入が必要です。手術の主な目的は、ヘルニア内容物を腹腔内に戻し、ヘルニア門を閉鎖することにあります。

緊急性の高い症例では、腸管虚血や壊死のリスクを回避するために即時手術が実施されます。

手術方法の選択

閉鎖孔ヘルニアの手術には、主に開腹手術と腹腔鏡手術の2つがあります。手術方法の選択は、患者の全身状態、ヘルニアの大きさ、腸管の状態などを総合的に評価して決定します。

高齢者や併存疾患がある患者では全身麻酔のリスクを考慮し、局所麻酔下での修復術が選択されることもあります。

手術方法特徴
開腹手術従来の方法、広い視野
腹腔鏡手術低侵襲、回復が早い

術後の痛み管理

術後の痛み管理には、主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、オピオイド系鎮痛薬(必要に応じて)が使用されます。

感染予防と抗生物質

手術部位感染(SSI)のリスクを低減するため、周術期に抗生物質が投与される場合があります。

抗生物質は、アレルギー歴や院内の耐性菌の状況などを考慮して決定されます。

抗生物質使用目的
セファゾリン一般的な予防投与
バンコマイシンMRSA保菌者など

閉鎖孔ヘルニアの治療期間と予後

閉鎖孔ヘルニアの治療期間は、手術方法や患者の状態によって異なりますが、一般的には数日から数週間程度です。

予後は良好な場合が多いですが、嵌頓や腸管損傷などの合併症が生じた場合は長期化する可能性もあります。

治療期間の概要

閉鎖孔ヘルニアの治療には通常、外科的介入が欠かせません。手術後の入院期間は、患者さんの年齢や全身状態、合併症の有無などにより変動しますが、おおよそ1週間から2週間程度となる場合が多いです。

退院後も自宅での静養期間が必要となり、通常の日常生活に戻るまでには3週間から6週間ほどかかります。

回復過程と注意点

手術直後は安静が求められますが、早期離床によって合併症のリスクを軽減し回復を促進できるため、段階的に活動を再開していきます。

回復過程での注意点

  • 創部の清潔保持
  • 過度な腹圧上昇の回避
  • バランスの取れた食事摂取
  • 適度な運動の実施
  • 定期的な通院と経過観察

長期的な予後

閉鎖孔ヘルニアの手術後の長期予後は多くの場合良好であり、再発のリスクは比較的低いとされています。

しかしながら、高齢者や全身状態が不良な患者さんでは術後の回復に時間がかかり、合併症のリスクも高くなる傾向があるため、より慎重な経過観察が求められます。

年齢層平均回復期間再発リスク
65歳未満4-6週間低い
65-80歳6-8週間やや高い
80歳以上8週間以上高い

術後の経過観察

手術後は定期的な経過観察が必要です。通常、術後1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年といったタイミングで外来診察が行われ、症状の再発や合併症の有無をチェックします。

フォローアップ時期主な確認事項
術後1週間創部の状態、全身状態
術後1ヶ月日常生活への復帰状況
術後3ヶ月腹部症状の有無、活動状況
術後6ヶ月再発の兆候の有無
術後1年長期的な経過評価

薬の副作用や治療のデメリットについて

閉鎖孔ヘルニアの治療には手術が必要ですが、主な副作用には感染症や出血、麻酔に関連する問題などがあり、高齢者や併存疾患のある患者さんではリスクが高まります。

手術に伴う一般的な副作用

閉鎖孔ヘルニアの手術は、他の腹部手術と同様に一定の副作用リスクを伴います。

手術部位の痛みや腫れはほとんどの患者さんに見られる一般的な症状であり、通常一時的なものですが、長引く場合もあります。

手術創の感染や出血も起こりうる副作用の一つで、感染症は抗生剤投与や創部管理により予防できますが、完全に防ぐことはできません。

出血については、術中や術後早期に発見され対処されることがほとんどですが、稀に再手術が必要となる場合もあります。

麻酔に関連するリスク

閉鎖孔ヘルニアの手術では全身麻酔や局所麻酔が用いられますが、一定のリスクが伴います。特に高齢者や心肺機能に問題がある患者さんでは、リスクが高くなる傾向です。

リスク症状
呼吸器系合併症肺炎、無気肺
循環器系合併症不整脈、血圧変動
神経系合併症一過性の認知機能低下

再発のリスク

閉鎖孔ヘルニアの再発率は比較的低いとされていますが、高齢、栄養状態不良、慢性的な咳嗽、便秘、肥満などの要因により高まる可能性があります。

高齢者や併存疾患のある患者さんのリスク

閉鎖孔ヘルニアは高齢者に多い疾患であり、他の慢性疾患を併存している患者さんでは、手術や麻酔に伴うリスクが高くなる傾向です。

併存疾患増大するリスク
心疾患周術期心筋梗塞
糖尿病創傷治癒遅延
慢性肺疾患術後呼吸不全

腸管損傷のリスク

閉鎖孔ヘルニアの手術中、ヘルニア内容物である腸管を損傷してしまうリスクがあります。特に嵌頓を伴う緊急手術の際には、腸管の血流障害や壊死により、リスクが高まります。

腸管損傷が生じた際には腸管切除や一時的な人工肛門造設が必要となる場合もあり、術後の回復に影響を与える可能性があります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

閉鎖孔ヘルニアは、健康保険が適用される疾患です。 治療費は手術方法や病院によって異なりますが、一般的には数万円~数十万円程度です。

手術方法による費用の違い

手術方法概算費用
腹腔鏡下手術50万円〜80万円
開腹手術40万円〜70万円

腹腔鏡下手術は開腹手術と比べて傷が小さく回復が早いため、入院期間が短くなる傾向です。そのため、総合的な治療費用は腹腔鏡下手術のほうが低くなる場合もあります。

ただし、状態や手術の難易度によっては開腹手術が選択されることもあるため、医師との十分な相談が必要です。

入院期間と関連費用

閉鎖孔ヘルニアの手術後は、通常1週間から10日程度の入院が必要です。入院費用は病室のタイプや入院日数によって変動します。

病室タイプ1日あたりの概算費用
一般病室5,000円〜10,000円
個室10,000円〜30,000円

入院中は食事代や投薬費用なども発生します。これらの費用も含めると、入院にかかる総額は10万円から30万円程度になる場合が多いです。

健康保険の適用と自己負担額

閉鎖孔ヘルニアの治療は健康保険の適用対象となります。健康保険を利用すると、治療費の70%から90%が保険でカバーされます。

自己負担額は年齢や所得によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

  • 70歳未満  30%
  • 70歳以上75歳未満  20%(現役並み所得者は30%)
  • 75歳以上  10%(現役並み所得者は30%)

高額療養費制度を利用すると自己負担額の上限が設定され、それを超えた分は後日還付されます。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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