毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)(pityriasis rubra pilaris)とは、皮膚の角化異常を特徴とするまれな慢性炎症性疾患です。
この病気では、毛孔を中心に赤みを帯びた小さな角化性丘疹が現れ、時間とともに拡大して癒合し、大きな赤い斑となることがあります。
症状は体のさまざまな部位に現れますが、特に手のひらや足の裏、肘、膝などに集中することが多いです。
原因はまだ完全には解明されておらず、自己免疫反応や遺伝的要因が関与している可能性が指摘されています。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)の病型
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)は、発症年齢や症状の特徴、経過などに基づいて、6つの異なる病型に分類されます。
成人型PRPの特徴
成人型PRPは、古典的成人型(I型)と非典型的成人型(II型)の2つがあります。
古典的成人型(I型)は、PRPの中で最も一般的な形態で、主に40~60歳の成人に発症し、全身性の症状を呈することが多いです。
一方、非典型的成人型(II型)は比較的まれで、長期にわたって持続する傾向があります。
両型とも、成人期に発症するという共通点がありますが、症状の進行や持続期間に違いが見られます。
若年型PRPの多様性
若年型PRPは、さらに3つのサブタイプに分けられます。
病型 | 特徴 |
古典的若年型(III型) | 生後から2歳までに発症 |
限局型若年型(IV型) | 前腕や膝に限局して発症 |
非典型的若年型(V型) | 慢性的な経過をたどる |
- 古典的若年型(III型) 幼少期に発症し、多くの場合自然寛解します。
- 限局型若年型(IV型) 症状が特定の部位に限定されるのが特徴です。
- 非典型的若年型(V型) 長期間症状が持続し、管理が難しい場合があります。
HIV関連型PRPの特殊性
HIV関連型(VI型)は、HIV感染者に見られる特殊な型です。
この型は、他の型とは異なる臨床経過を示し、HIV感染の管理と並行してPRPの対応が必要となります。
毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)の症状
毛孔性紅色粃糠疹は、各病型で特殊な症状を示します。
古典的成人型(I型)の症状
古典的成人型は最も一般的な病型です。
主な症状
- 頭部から足底まで広範囲に紅斑が出現
- 毛孔を中心とした赤い丘疹が融合し、鮮やかな赤色の斑を形成
- 手掌と足底に黄色がかった過角化が生じる
- 体の大部分が影響を受けるが、特徴的な「島状の正常皮膚」が残る
- 頭皮に重度の鱗屑(フケのような症状)が見られることがある
この病型は、40〜60歳代で発症することが多く、症状が全身に及びます。
非典型的成人型(II型)の症状
非典型的成人型は、以下のような特徴を持ちます。
症状 | 詳細 |
発症部位 | 主に膝や肘などの限られた部位 |
皮疹の性質 | 局所的な紅斑と鱗屑 |
進行 | ゆっくりとした進行や長期的な持続 |
全身症状 | 通常は見られない |
この病型は、症状が限局的であるため、日常生活への影響は比較的小さいです。
古典的若年型(III型)の症状
古典的若年型は、I型(古典的成人型)と似た症状を示しますが、発症年齢が若いことが特徴です。
- 幼少期や思春期に発症
- 全身性の紅斑と鱗屑
- 毛孔性の角化性丘疹が顕著
- 手掌と足底の過角化
- 頭皮の重度の鱗屑
限局型若年型(IV型)の症状
限局型若年型は、症状が局所的で比較的軽度です。
- 主に肘や膝に限局した紅斑と鱗屑
- 毛孔性の角化性丘疹が見られるが、範囲が限られている
- 進行が遅く、症状が軽度
- 全身症状はほとんど見られない
この病型は、症状が限られているため、日常生活への影響は比較的小さいことが多いです。
非典型的若年型(V型)の症状
非典型的若年型は、若年期に発症し、慢性的な経過をたどります。
- 幼少期や思春期に発症
- 毛孔性の角化性丘疹が特徴的
- 紅斑は比較的軽度
- 手掌と足底の過角化は通常見られない
- 慢性的な経過をたどり、長期間持続することがある
HIV関連型(VI型)の症状
HIV感染症に関連して発症するこの病型は、独特の症状パターンを示します。
症状 | 詳細 |
皮疹の広がり | 広範囲に及ぶことが多い |
毛孔性丘疹 | 顕著で、痒みを伴うこともある |
皮膚の質感 | ざらざらした感触が特徴的 |
爪の変化 | 肥厚や変色が見られる場合がある |
紅斑 | 鮮やかな赤色で、広範囲に及ぶ |
毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)の原因
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)の原因は、遺伝的要因、免疫系の異常、環境因子など、複数の要素が関与しています。
遺伝的要因の役割
PRPの発症には遺伝的な傾向が認められていて、CARD14遺伝子の変異がPRPの発症と関連していることが明らかになっています。
遺伝子 | 機能 | PRPとの関連 |
CARD14 | 炎症シグナル伝達 | 変異が炎症を増強 |
KRT1 | 表皮角化細胞の構造維持 | 異常が角化異常を引き起こす |
免疫系の異常と炎症反応
PRPの発症には、T細胞の機能異常や、サイトカインのバランス崩壊が指摘されています。
免疫因子 | 正常機能 | PRPでの異常 |
T細胞 | 皮膚免疫の調整 | 過剰活性化 |
IL-17 | 炎症反応の調整 | 過剰産生 |
免疫系の異常は、PRPの症状の増悪や慢性化に関与している可能性が高いです。
環境因子の影響
環境因子もPRPの発症や増悪に関与しています。
- 感染症(特にウイルス感染)
- 紫外線暴露
- ストレス
- 外傷や手術
- 特定の薬剤の使用
環境因子は、遺伝的素因や免疫異常と相互作用し、PRPの発症のトリガーとなる可能性があります。
代謝異常と栄養因子
PRPの一部の症例では、ビタミンAの代謝異常が関与している可能性が示唆されていて、PRPの患者さんでは、ビタミンAの代謝や利用に何らかの異常があります。
また、栄養因子の不均衡も、PRPの発症や進行に影響を与える可能性があります。
毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)の検査・チェック方法
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)の正確な診断には、綿密な検査とチェックが不可欠です。皮膚科専門医による詳細な診察と複数の検査方法を組み合わせることで、確実な診断が可能になります。
臨床診断と問診
PRPの診断プロセスは、まず詳細な問診と臨床診断から始まります。
- 皮疹の特徴(色、形状、分布)
- 症状の経過と進行速度
- 家族歴
- 全身症状の有無
皮膚生検
臨床診断だけでは確定診断が難しい場合、皮膚生検が行われることがあります。
検査項目 | 目的 |
表皮の観察 | 角化の程度や型を確認 |
真皮の観察 | 炎症細胞浸潤の有無を確認 |
特殊染色 | 特定のタンパク質や細胞の存在を確認 |
血液検査
PRPの診断そのものには直接関係しませんが、全身状態の評価や他の疾患との鑑別のために血液検査が行われることがあります。
- 炎症マーカー(CRP、ESR)の測定
- 肝機能・腎機能検査
- ビタミンA値の測定
- HIV検査(VI型の疑いがある場合)
画像診断
重症例や全身症状を伴う場合、画像診断が行われることがあります。
検査方法 | 目的 |
胸部X線 | 肺の異常の有無を確認 |
CT/MRI | 内臓への影響を評価 |
超音波検査 | 関節や腱の状態を確認 |
毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)の治療方法と治療薬について
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)の治療は、症状の軽減と長期的な管理を目指して行われます。現在、完治させる確実な方法はありませんが、さまざまな治療法や薬剤を組み合わせることで、症状のコントロールが期待できます。
全身療法
PRPの治療において、アシトレチンやイソトレチノインなどの経口レチノイド製剤は、角化異常の改善や炎症の抑制に効果があります。
薬剤名 | 主な作用 | 使用上の注意点 |
アシトレチン | 角化抑制、抗炎症 | 妊娠中禁忲、肝機能モニタリング必要 |
イソトレチノイン | 皮脂分泌抑制、角化正常化 | 乾燥副作用、定期的な血液検査が必要 |
局所療法
局所療法では、ステロイド外用薬や保湿剤、角質軟化剤などが主に使用されます。
局所療法の種類 | 主な効果 | 使用上の注意 |
ステロイド外用薬 | 抗炎症作用 | 長期使用による副作用に注意 |
タクロリムス軟膏 | 免疫調整作用 | 刺激感に注意 |
保湿剤 | 皮膚バリア機能改善 | 頻回塗布が必要 |
局所療法は、全身療法と併用することで、より効果的な症状コントロールが期待できます。
免疫抑制剤
従来の治療に抵抗性を示す難治例に対しては、免疫抑制剤の使用が検討されます。
メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制剤は、PRPの背景にある免疫系の異常を抑制することで、症状の改善を図ります。
これらの薬剤は強力な効果が期待できる一方で、副作用のリスクも高いため、注意が必要です。
生物学的製剤
TNF-α阻害薬や IL-17阻害薬などが、難治性PRPに対して効果を示すことが報告されています。
生物学的製剤は、PRPの病態に関与する特定のサイトカインを標的とすることで、より選択的な治療効果を発揮します。
光線療法
光線療法は、主にUVB療法やPUVA療法が行われ、皮膚の炎症抑制や過剰な角化の改善に効果があります。
ただし、光線療法の効果は個人差が大きく、長期的な副作用のリスクもあるため、使用にあたっては慎重な検討が必要です。
毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)の治療期間と予後
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)の治療期間と予後は、患者さんごとに大きく異なりますが、多くの場合、長期的な管理が必要です。
治療期間
PRPの治療期間は、病型や症状の程度によって大きく異なります。
病型 | 一般的な治療期間 |
I型(古典的成人型) | 数ヶ月〜数年 |
II型(非典型的成人型) | 数週間〜数ヶ月 |
III型(古典的若年型) | 数ヶ月〜数年 |
IV型(限局型若年型) | 数週間〜数ヶ月 |
V型(非典型的若年型) | 数ヶ月〜数年 |
VI型(HIV関連型) | HIV治療と並行して長期的に管理 |
予後に影響を与える要因
PRPの予後は、以下のような要因によって左右されることがあります。
- 早期診断と治療開始
- 治療法の選択
- 患者さんの治療への協力度
- 合併症の有無
- 全身状態や免疫機能の状態
薬の副作用や治療のデメリットについて
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)の治療にはいろいろな薬剤や方法が用いられ、それぞれに副作用やデメリットがあります。
全身療法の副作用
レチノイド製剤は、PRPの治療において中心的な役割を果たしますが、重大な副作用のリスクがあります。
副作用 | 症状 | 注意点 |
催奇形性 | 胎児の奇形 | 妊娠中・妊娠予定の女性は使用禁止 |
肝機能障害 | 肝酵素上昇 | 定期的な肝機能検査が必要 |
高脂血症 | 血中脂質上昇 | 食事制限や併用薬の調整が必要 |
副作用は、長期使用によってさらにリスクが高まる可能性があります。
局所療法のデメリット
ステロイド外用薬や他の局所療法にも、長期使用による皮膚への悪影響があります。
ステロイド外用薬の長期使用のリスク
- 皮膚萎縮
- 毛細血管拡張
- ステロイド依存性
- 皮膚感染症の誘発
免疫抑制剤のリスク
免疫抑制剤の使用は、難治性PRPに対して効果的な場合がありますが、重大なリスクも伴います。
薬剤 | 主な副作用 | 長期的リスク |
メトトレキサート | 骨髄抑制、肝毒性 | 感染症リスク増加 |
シクロスポリン | 腎機能障害、高血圧 | 悪性腫瘍発症リスク |
生物学的製剤の課題
生物学的製剤は、PRPの新たな治療選択肢として注目されていますが、いくつかの課題があります。
- 高額な治療費
- 長期使用の安全性データの不足
- 投与方法(注射)による不便さ
- 稀な重篤な副作用(過敏症反応など)のリスク
光線療法のデメリット
光線療法は、PRPの補助的治療として用いられ、次のようなデメリットがあります。
- 皮膚がん発症リスクの増加
- 光老化の促進
- 治療のための通院負担
- 効果の個人差が大きい
特に長期的な使用では、皮膚への累積的なダメージに注意が必要です。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
保険適用の基本
PRPの診断と治療の多くは、日本の健康保険制度下で保険適用となっています。
- 初診・再診料
- 検査費用(血液検査、皮膚生検など)
- 一般的な内服薬や外用薬の処方
- 光線療法
ただし、すべての治療法が保険適用となるわけではなく、新しい治療法や特殊な薬剤は、保険適用外となる可能性があります。
治療法別の保険適用状況
PRPの治療法によって、保険適用の状況が異なります。
治療法 | 保険適用状況 | 一般的な自己負担額(3割負担の場合) |
外用療法 | 適用 | 1,000円〜3,000円/月 |
内服療法(一般薬) | 適用 | 2,000円〜5,000円/月 |
光線療法 | 適用 | 1,000円〜3,000円/回 |
生物学的製剤 | 条件付き適用 | 10,000円〜50,000円/月 |
漢方療法 | 一部適用 | 3,000円〜10,000円/月 |
以上
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