食道憩室

食道憩室(Esophageal diverticulum)とは、食道の壁が外側に向かって膨らみ、袋状になった状態を指す病変です。

無症状の場合もありますが、一部では嚥下困難や胸痛、さらには食べ物が詰まる感覚などの不快な症状が現れる場合があります。

目次

食道憩室の病型

食道憩室にはZenker憩室、Rokitansky憩室、横隔膜上憩室などがあり、いずれも後天的に形成されます。

病型主な臨床的特徴
Zenker憩室嚥下困難、誤嚥のリスク
Rokitansky憩室比較的症状が軽微な場合が多い
横隔膜上憩室逆流症状との関連性

Zenker憩室(咽頭食道憩室)

Zenker(ツェンカー)憩室は、食道入口部の後壁に発生する憩室です。咽頭と食道の境界部分に位置するため、咽頭食道憩室とも呼ばれます。

60歳以上の高齢者に多く見られ、加齢に伴う筋肉の弱化や嚥下圧の上昇、解剖学的な脆弱性などの要因が関与していると考えられています。

特徴詳細
発生部位食道入口部後壁
好発年齢60歳以上
形態嚢状

Rokitansky憩室(中部食道憩室)

Rokitansky(ロキタンスキー)憩室は、食道の中部に発生する憩室です。

他の憩室と比較してまれな形態であり、周囲の組織との癒着による牽引性のものと、食道内圧の上昇による圧出性のものがあります。

特徴詳細
発生部位食道中部
形態嚢状または管状
発生機序牽引性または圧出性

横隔膜上憩室

横隔膜上憩室は、食道の下部、特に横隔膜の直上に位置する憩室です。解剖学的な特徴から、憩室が発生しやすい部位であると言えます。

横隔膜上憩室の特徴
  • 発生部位が横隔膜直上である
  • 多くの場合、圧出性の機序で形成される
  • 食道裂孔ヘルニアとの関連性が示唆されている

食道憩室の症状

食道憩室の中でも、特にZenker憩室は様々な症状を引き起こす可能性があります。

一方で、Zenker憩室以外の食道憩室は、ほとんど無症状であることが多いのが特徴です。

Zenker憩室の一般的な症状

Zenker憩室の最も一般的な症状としては、嚥下困難や胸焼けが挙げられます。

嚥下困難は、食べ物や飲み物を飲み込む際に違和感や痛みを感じる症状です。

食事の際にむせる、喉に食べ物が詰まったような感覚があるなどが特徴で、この症状により食事が苦痛となり、十分な栄養摂取が難しくなる場合もあります。

胸焼けは、胸の奥や喉の辺りに灼熱感や不快感を感じる症状です。

Zenker憩室によって、食道内に食べ物や胃酸が溜まりやすくなることが原因の一つと考えられています。

また、Zenker憩室の症状は、特に食事中や食後に顕著になります。

症状詳細
咀嚼困難食べ物を十分に噛むのが難しくなる
食事時間の延長症状のため食事に時間がかかる
食欲不振症状による不快感から食欲が低下する
むせ食べ物や飲み物でむせやすくなる

呼吸器系に関連する症状

食道と気管は解剖学的に近接しているため、Zenker憩室の存在が呼吸器系の症状を引き起こす可能性もあります。

具体的な症状は、慢性的な咳や喘鳴、呼吸困難感などです。

これらの症状は、Zenker憩室内に溜まった食べ物や唾液が気管に誤って入ることで生じます。

全身症状と二次的な影響

Zenker憩室の症状が長期間続くと、十分な栄養が摂れないことによる体重減少や、慢性的な不快感によるストレスの増加などが起こる可能性があります。

全身症状二次的な影響
体重減少栄養不良のリスク
倦怠感日常生活の質の低下
不眠集中力や作業効率の低下
ストレス増加精神的健康への悪影響

他の食道憩室の特徴

Zenker憩室以外の食道憩室、例えば中部食道憩室や下部食道憩室などは、ほとんどの場合無症状です。多くの場合、検査で偶然発見され、特別な治療を必要としません。

ただし、稀に以下のような症状が現れる場合があります。

  • 軽度の嚥下困難
  • 胸やけ
  • 胸痛

これらの症状が現れた場合でも、Zenker憩室ほど顕著ではなく、日常生活に大きな支障をきたすことは少ないとされています。

食道憩室の原因

食道憩室の原因は、完全には解明されていません。年齢、食道運動機能の低下、食道への圧力上昇、遺伝的素因、食道炎などが関連していると考えられています。

食道憩室の基本的な原因

食道憩室の発生には、主に二つの要因が関与していると考えられています。

一つ目は、食道壁の脆弱化です。

加齢や先天的な要因により食道壁の筋層が弱くなり、内圧の上昇に耐えきれず、食道壁の一部が外側に押し出されやすくなります。

二つ目は、食道内圧の上昇です。

嚥下障害や食道運動異常により食道内の圧力が高まると、この圧力が食道壁の弱い部分に集中し、憩室が形成される可能性が高まります。

要因メカニズム
食道壁の脆弱化筋層の薄化や結合組織の減少
内圧上昇嚥下障害や食道運動異常による圧力集中

食道憩室の種類別原因

食道憩室は、その発生部位によって異なる原因を持ちます。

ツェンカー憩室食道入口部近くに発生し、咽頭収縮筋の機能不全が関与
中部食道憩室気管分岐部付近に生じ、牽引性と圧出性の二種類がある
下部食道憩室食道胃接合部近くに発生し、胃食道逆流症との関連が示唆される

年齢と性別による影響

食道憩室は高齢者に多く見られる傾向があり、加齢に伴う食道壁の筋力低下や、結合組織の弾力性低下が関係していると考えられます。

また、性別による発生頻度の違いも報告されており、一部の研究では男性にやや多い傾向が示されています。

食道憩室の検査・チェック方法

食道憩室は、問診や身体診察に加え、バリウムを用いた食道造影検査や内視鏡検査を行い、憩室の位置や大きさ、形態などを確認することで診断されます。

食道憩室の診察における問診と身体診察

  • 症状
  • 経過
  • 生活習慣
  • 頸部や胸部の触診や聴診
  • 頸部の腫瘤の有無
  • 肺音の異常 など

これらの基本的な診察により食道憩室の可能性を検討し、さらなる検査の必要性を判断します。

食道憩室の画像診断

食道憩室の診断には、様々な画像診断法が用いられます。

検査方法特徴
食道造影検査バリウムを使用し、憩室の形状や位置を確認
CT検査憩室の詳細な構造や周囲組織との関係を評価
MRI検査軟部組織の描出に優れ、合併症の評価に有用

これらの検査を組み合わせ、食道憩室の存在や特徴をより正確に把握していきます。

内視鏡検査

内視鏡検査は、食道憩室の直接的な観察を可能にする検査方法です。

評価するポイント

  • 憩室の位置と大きさ
  • 憩室内部の粘膜状態
  • 食道本管との関係
  • 合併症の有無

必要に応じて生検を行うなど、より高度な診断にも対応できるという利点があります。

食道憩室の治療方法と治療薬について

食道憩室の多くは無症状であり、特に治療を必要としないのが一般的です。

しかし、Zenker憩室など一部の症例では症状が現れるケースがあり、その場合には治療が検討されます。

食道憩室の治療方針

食道憩室の大半は無症状で経過するため、積極的な治療を要しないケースが多いです。

軽度の症状がある場合、生活習慣の改善や食事指導などの保存的治療が中心となります。一方、重症例や合併症のリスクが高い場合には、外科的治療が検討されます。

保存的治療

症状のある食道憩室、特にZenker憩室に対して、軽度から中等度の場合には保存的治療が行われます。

保存的治療では、食事や生活習慣の改善を通じ、症状の緩和や憩室の拡大防止を目指します。

保存的治療の内容

  • 食事の工夫(小分けにして頻回に摂取する、よく咀嚼する)
  • 食後の体位調整(座位を保つ、就寝前の食事を避ける)
  • 禁煙・節酒
  • 体重管理

保存的治療により、症状のある患者さんの多くで改善が見られます。

ただし、効果が不十分な場合や症状が進行する場合には、より積極的な治療法の検討が必要です。

外科的治療

Zenker憩室などで症状が重度である場合や、保存的治療で改善が見られない場合には、外科的治療が検討されます。

外科的治療の主な目的は、憩室の切除または縮小により症状を改善し、合併症のリスクを低減することです。

代表的な外科的治療法には、以下のようなものがあります。

治療法特徴
憩室切除術憩室を完全に切除する方法
憩室縫縮術憩室を縫い縮める方法
内視鏡的治療内視鏡を用いた低侵襲な治療法

薬物療法による症状管理

症状のある食道憩室、特にZenker憩室の患者さんに対して、症状緩和や合併症予防のために薬物療法が用いられる場合があります。

主に使用される薬剤には、以下のようなものがあります。

薬剤分類主な効果
制酸薬胃酸の逆流を抑制
消化管運動改善薬食道の蠕動運動を促進
抗菌薬感染症の治療や予防

ただし、薬物療法はあくまでも対症療法であり、根本的な治療ではありません。長期的な使用にあたっては、定期的な経過観察と副作用のモニタリングが大切です。

食道憩室の治療期間と予後

食道憩室は、軽度の場合は保存的治療で数週間から数か月程度で改善が見られるケースが多いです。

重症例では外科的治療が必要となり、回復に半年以上かかる場合もあります。

予後は概ね良好ですが、合併症のリスクや再発の可能性があるため、長期的な経過観察が重要となります。

治療期間

食道憩室では、症状の程度や憩室の大きさ、さらには患者さんの年齢や全身状態などが治療期間に影響を与えます。

軽度の食道憩室の場合、食事療法や薬物療法などの保存的治療を行うケースが多く、通常は数週間から数か月程度で症状の改善が見られます。

一方、重症例や合併症を伴う場合には外科的治療が選択される場合があり、手術を受けたケースでは術後の回復期間を含めると、半年以上の治療期間を要することもあります。

治療法一般的な治療期間
保存的治療数週間~数か月
外科的治療3か月~1年以上

長期的な経過観察

症状の再発や新たな合併症の発生を早期に発見し、対応するため、食道憩室の治療後は長期的な経過観察が欠かせません。

経過観察の頻度や期間は、状態や治療内容によって異なりますが、以下のような頻度が一般的です。

経過観察期間診察頻度
治療後3か月月1回
4~9か月後2か月に1回
1年後以降半年に1回

定期的な診察では、問診や身体診察に加え、必要に応じて内視鏡検査や造影検査などの画像診断を行います。

再発のリスクと対策

食道憩室の治療後、一定の確率で再発のリスクがあります。

再発率は治療法や患者さんの状態によって異なりますが、保存的治療後の再発率が比較的高いとされています。

外科的治療後の再発率は一般的に低いですが、ゼロではありません。再発を予防するためには、以下のような生活習慣の改善が効果的です。

  • 食事をゆっくりよく噛んで食べる
  • 過度の飲酒や喫煙を控える
  • 就寝前の食事を避ける
  • 適度な運動を心がける

薬の副作用や治療のデメリットについて

食道憩室の薬には、腹痛、下痢、便秘、吐き気、胸焼けなどの副作用があります。また、手術によるリスクとしては、感染症、出血などがあります。

手術療法に伴うリスク

手術に伴う主なリスクには以下のようなものがあります。

  • 感染症
  • 出血
  • 麻酔合併症
  • 縫合不全

手術後の回復期間中も注意が必要です。食事の再開には時間がかかる場合があり、一時的に経管栄養が必要になる場合もあります。

内視鏡的処置のリスク

リスク発生頻度
穿孔
出血
感染

内視鏡的処置のリスクは手術に比べて一般的に低いとされていますが、患者さんの状態や憩室の特徴によっては、予期せぬ合併症が生じる可能性があります。

また、再発のリスクも考慮する必要があります。内視鏡的処置は憩室を完全に除去するわけではないため、長期的には再発の可能性が手術療法よりも高くなる傾向です。

治療後の長期的なリスク

長期的リスク対策
再発定期的な検査
狭窄必要に応じた拡張術
逆流性食道炎生活習慣の改善、投薬

治療後も食道の機能に影響が残る場合があり、日常生活に制限が生じる可能性があります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

食道憩室の治療は、症状や憩室の種類によって保険適用と治療費が異なります。

Zenker憩室(咽頭食道憩室)に対するZ-POEMは2014年に保険適用となり、他の治療法は症状や病院によって保険適用が判断されます。

保存的治療の費用

保存的治療は主に食事療法や薬物療法が中心となり、食事指導や生活習慣の改善に関する指導料は、1回あたり数千円程度が目安です。

また、症状を緩和するための薬剤費用は1か月あたり5,000円から10,000円程度が一般的ですが、使用する薬剤の種類や量によって変動する可能性があります。

治療内容概算費用
食事指導3,000円~5,000円/回
薬物療法5,000円~10,000円/月

内視鏡的治療の費用

Zenker憩室(咽頭食道憩室)に対するZ-POEMは、2014年4月から保険適用となりました。

これは、従来の開腹手術や内視鏡手術と比べて、低侵襲で安全、かつ有効性の高い治療法として評価されたためです。

保険適用の対象となる方

  • 咽頭食道憩室が進行し、症状が日常生活に支障をきたしている方
  • 他の治療法で効果が得られなかった方
  • Z-POEMが適切と判断された方

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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