炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)/Inflammatory Polyposis(inflammatory polyp)とは、腸管内に多数の炎症性ポリープが発生する状態を指します。

これらのポリープは、慢性的な炎症や感染、組織の損傷などによって引き起こされ、長期間にわたって持続する場合もあります。

症状はポリープの大きさや数、発生部位によって異なりますが、腹痛や下痢、血便などが見られます。

重症例では貧血や栄養障害を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。

目次

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の病型

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)は、主に粘膜の炎症や潰瘍、修復過程などによって生じる隆起性病変で、その形成メカニズムによって分類されます。

炎症性ポリープの定義と分類

炎症性ポリープとは、炎症によって形成される粘膜の隆起です。炎症を背景に形成されるものと、炎症自体が構成要素となるものの二つに大別されます。

前者は狭義の炎症性ポリープとして知られており、多発する場合には炎症性ポリポーシスと呼ばれます。

ただし、多発の定義に関する明確な数の規定は存在しません。

炎症性ポリープの形成メカニズムによる分類

炎症性ポリープは、その発生機序によって以下の5つのタイプに分類できます。

  1. 粘膜固有層や粘膜下層の炎症による隆起
  2. 多発潰瘍周囲の相対的隆起(偽ポリープ)
  3. 潰瘍修復時の炎症性肉芽による隆起
  4. 炎症に伴う線維化による相対的隆起
  5. 潰瘍治癒過程での過剰再生粘膜による隆起

各タイプの炎症性ポリープの特徴

タイプ主な特徴
粘膜固有層・粘膜下層の炎症による隆起炎症細胞浸潤や浮腫が主因
多発潰瘍周囲の相対的隆起周囲組織の損傷により見かけ上隆起

粘膜固有層や粘膜下層の炎症による隆起は、炎症細胞の浸潤や浮腫が主な原因となって形成されます。

一方、多発潰瘍周囲の相対的隆起(偽ポリープ)は、実際には隆起していないものの、周囲の組織が損傷を受けることで相対的に隆起しているように見える状態を指します。

潰瘍修復時の炎症性肉芽による隆起は、傷の修復過程で生じる肉芽組織が過剰に形成され起こります。炎症に伴う線維化による相対的隆起は、炎症の結果として腸管が狭窄し、その部分で粘膜がたるんで形成されます。

潰瘍治癒過程での過剰再生粘膜による隆起は、粘膜の再生が過剰に進行し、紐状や複雑な形状の隆起として現れます。

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の症状

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の主な症状は、腹痛、下痢、血便、粘液便などです。症状の程度や持続期間は、個人差が大きいのが特徴です。

腹痛

炎症性ポリポーシスにおける腹痛は、最も一般的な症状の一つです。

痛みの性質や強度は様々ですが、多くの場合、持続的な不快感や鈍痛として感じられるケースが多いです。

腹痛の部位はポリープの発生場所によって異なりますが、下腹部に集中することが多いとされています。

腹痛の持続時間や頻度も患者さんによって異なり、間欠的に生じる場合もあれば、常に痛みを感じる場合もあります。

腹痛の特徴詳細
性質持続的な不快感や鈍痛
主な部位下腹部
頻度高頻度

下痢

腸内の炎症により、正常な水分吸収が妨げられるため、下痢がよく見られます。下痢の頻度や程度は個人差が大きく、軽度のものから重度のものまで様々です。

慢性的な下痢は、体内の水分やミネラルのバランスを崩す恐れがあるため、注意が必要です。

また、頻繁な下痢は肛門周囲の皮膚炎を引き起こす場合もあります。

血便

ポリープの表面が傷つきやすくなっているため、便が通過する際に出血することがあります。

血便を認めた場合、病院で伝えられるように、その色や量、頻度などを記録しておくと診断や経過観察に役立ちます。

血便の特徴詳細
鮮紅色から暗赤色
少量から大量まで様々
頻度個人差が大きい

粘液便

腸内の炎症反応により過剰に分泌された粘液が便に混じり、粘液便が発生します。

粘液便の特徴

  • 便に透明または白っぽい粘液が付着
  • 便の表面がぬめりを帯びる
  • 時に血液が混じる

その他の症状

  • 体重の減少
  • 貧血
  • 疲労感、倦怠感

体重減少は、慢性的な下痢や腹痛による食欲不振が原因となって生じる場合があります。また、貧血も比較的よく見られる症状の一つで、慢性的な出血によって引き起こります。

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の原因

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)は、腸管や腹膜に生じる慢性炎症が原因で発生する腸・腹膜疾患の一種です。

その主な要因には、遺伝的素因、環境因子、免疫系の異常反応などが挙げられます。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異や多型が、炎症性ポリポーシスのリスクを高める可能性があります。

遺伝子関連する機能
NOD2細菌認識
IL23R免疫応答
ATG16L1オートファジー

これらの遺伝的要因は、免疫系の機能や腸管の恒常性維持に影響を与え、炎症性ポリポーシスの発症に寄与すると考えられています。

ただし、単一の遺伝子だけでなく、複数の遺伝子が相互に作用することで発症リスクが高まると推測されています。

環境因子

食生活や生活習慣の変化、ストレス、喫煙などが、腸内環境に影響を与え、炎症を引き起こす可能性があります。

また、特定の細菌やウイルスへの感染が腸管の炎症を誘発し、ポリープ形成につながることもあります。

免疫系の異常反応

炎症性ポリポーシスの発症には、免疫系の異常反応が深く関わっています。

正常な状態では、腸管粘膜の免疫系は、有害な病原体から体を守りつつ、共生細菌とは共存関係を保っています。

しかし、何らかの理由で免疫系のバランスが崩れると、過剰な炎症反応が起こり、腸管粘膜に持続的な炎症が生じます。

この持続的な炎症が最終的にポリープの形成につながると考えられていますが、その詳細なメカニズムについてはまだ完全には解明されていない部分があり、今後の研究課題となっています。

  • 免疫系の異常反応の要因
    • T細胞の機能異常
    • サイトカインバランスの乱れ
    • 自然免疫系の過剰活性化
    • 腸内細菌叢の変化

基礎疾患との関連

炎症性ポリポーシスは、単独で発症するというよりも、他の炎症性腸疾患に併発するケースが多いです。

潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患患者さんでは、炎症性ポリポーシスが見られることがあります。

これらの疾患では腸管に慢性的な炎症が生じており、その結果としてポリープが形成されやすい状態にあるためです。

大腸憩室疾患でも炎症性ポリポーシスが観察される場合があり、これらの基礎疾患の存在が炎症性ポリポーシスの発症リスクを高める一因となっていると考えられています。

関連疾患炎症性ポリポーシスとの関係
潰瘍性大腸炎高頻度で併発
クローン病併発リスクあり
大腸憩室疾患併発の可能性あり

腸内細菌叢の変化

健康な腸内環境では、多様な細菌が共生し、互いにバランスを保っています。

しかし、何らかの要因で腸内細菌叢のバランスが崩れると、炎症を引き起こす細菌が増殖したり、逆に炎症を抑制する細菌が減少したりする可能性があります。

このような腸内細菌叢の変化が、持続的な炎症状態を引き起こし、炎症性ポリポーシスの発症につながると考えられています。

ただし、どの細菌種がどのように関与しているかについてはまだ不明な点も多く、今後の研究による解明が待たれています。

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の検査・チェック方法

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の診断では、内視鏡検査、画像診断、組織生検などを行います。

内視鏡検査

大腸内視鏡検査は、ポリープの数、大きさ、分布を直接観察できるだけでなく、粘膜の状態や炎症の程度も詳細に評価することができるため、診断に欠かせない検査です。

場合によっては上部消化管内視鏡検査も実施し、胃や小腸のポリープの有無を確認します。

内視鏡所見特徴
ポリープの形状有茎性、無茎性
ポリープの大きさ数mm〜数cm
ポリープの数単発、多発
粘膜の状態発赤、浮腫、びらん

画像診断

CT検査やMRI検査は、ポリープの範囲や深達度、周囲臓器への影響を評価するのに有用です。

特に、CT検査は大腸全体の3D画像を得られるため、内視鏡検査が困難な場合に代替手段となります。

超音波検査も、腹壁から観察可能な範囲で腸管壁の肥厚やポリープの存在を確認できるため、補助的な診断ツールとして活用します。

組織生検と病理診断

確定診断には、内視鏡下での組織生検が必要です。採取した組織を病理学的に詳しく調べ、炎症性ポリープに特徴的な所見を確認します。

病理所見特徴
炎症細胞浸潤リンパ球、形質細胞主体
間質変化浮腫、線維化
血管増生毛細血管の増加
上皮変化再生性変化、過形成

これらの所見を総合的に判断し、炎症性ポリポーシスの確定診断が行われます。

臨床診断と鑑別診断

臨床診断では、問診、身体診察、各種検査結果を総合的に評価します。炎症性ポリポーシスは他の消化管ポリポーシス症候群と類似した症状を呈するため、慎重な鑑別が必要です。

特に、家族性大腸腺腫症若年性ポリポーシスなどとの鑑別が大切となります。

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の治療方法と治療薬について

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の治療では、症状の緩和と粘膜の炎症抑制を目指します。

薬物療法が主体となり、重症度に応じて外科的処置を検討します。治療薬には抗炎症薬や免疫抑制剤が用いられ、個々の状態に合わせて選択されます。

薬物療法の基本方針

炎症性ポリポーシスの薬物療法では、粘膜の炎症抑制と症状の軽減が第一の目標となります。

治療の中心となるのは、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤です。この薬剤は腸管粘膜の炎症を直接抑制する効果があり、多くのケースで処方されます。

5-ASA製剤の効果が不十分な際には、ステロイド薬を併用します。ステロイド薬は強力な抗炎症作用を持ちますが、長期使用による副作用のリスクを考慮し、慎重に使用されます。

薬剤名主な作用
5-ASA製剤腸管粘膜の炎症抑制
ステロイド薬強力な抗炎症作用

重症例や難治性の場合、免疫抑制剤や生物学的製剤の使用を検討します。これらの薬剤は免疫系の働きを調整し、炎症を抑える効果が期待されます。

外科的治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、合併症が生じた際には外科的治療が選択肢となります。

手術の方法は、ポリープの大きさや数、位置によって異なりますが、一般的には内視鏡的切除や腹腔鏡下手術が行われます。

内視鏡的切除は比較的低侵襲で、小さなポリープの除去に適しています。患者さんの負担が少なく、短期間での回復が期待できるため、可能な限り内視鏡的アプローチが選択されます。

大きなポリープや多発性のポリープの場合は、腹腔鏡下手術や開腹手術による腸管切除が必要です。

手術の際は、できるだけ腸管機能を温存することが大切です。そのため、必要最小限の切除範囲にとどめるよう配慮されます。

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の治療期間と予後

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の治療には個人差がありますが、一般的に、長期的な管理が必要です。

治療期間の個人差

炎症性ポリポーシスの治療期間は患者さんによって大きく異なり、症状の程度や病変の範囲、治療への反応性などが影響要因となります。

一般的に、軽度の場合は数か月程度で症状の改善が見られる場合がありますが、重度の場合は1年以上の治療を要するケースもあり、長期的な対応が求められます。

症状の程度一般的な治療期間
軽度数か月
中等度6か月〜1年
重度1年以上

長期的な管理の必要性

炎症性ポリポーシスは再発のリスクが高い疾患であるため、症状が改善した後も定期的な経過観察が欠かせず、多くの場合、数年にわたる長期的な管理が必要です。

経過観察の頻度は状態に応じて決定されますが、一般的に以下のようなスケジュールで行われます。

  • 初期治療後3〜6か月ごとの受診
  • 症状安定後は6か月〜1年ごとの受診
  • 再発や新たな症状が見られた際は速やかに受診する

予後に影響を与える要因

炎症性ポリポーシスの予後は一般的に良好ですが、個々の症例によって異なります。

予後良好因子予後不良因子
早期発見発見の遅れ
迅速な治療開始治療開始の遅れ
良好な全身状態全身状態の悪化
合併症がない重度の合併症あり

多くの場合、治療により症状の改善が見られます。ただし治療後も再発の可能性があるため、定期的な経過観察が重要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の薬物療法や外科的治療は症状の緩和に効果的ですが、薬剤によっては副作用(吐き気、下痢など)の可能性があります。

また、外科的治療では、再発のリスクや合併症の可能性も考慮する必要があります。

薬物療法に関連する副作用

薬剤分類主な副作用
抗炎症薬胃腸障害、頭痛
ステロイド骨粗鬆症、体重増加
免疫抑制剤感染リスク上昇、肝機能障害

これらの副作用は、投与量や投与期間によって異なります。

内視鏡治療に伴うリスク

内視鏡治療の主なリスクには、以下のようなものがあります。

  • 出血
  • 穿孔(腸壁に穴が開く)
  • 感染

栄養療法における注意点

栄養療法は炎症性ポリポーシスの管理に有効ですが、長期的な実施には注意が必要です。

リスク対策
栄養不足バランスの取れた食事設計
体重減少定期的な体重モニタリング
食事制限によるストレス心理的サポートの提供

手術療法のリスク

  • 麻酔合併症
  • 感染
  • 腸閉塞 など

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

炎症性ポリポーシス(炎症性ポリープ)の治療は保険適用です。薬物療法や内視鏡的ポリープ切除術など、治療内容によって自己負担額は異なり、高額療養費制度の利用も検討できます。

保険適用される標準的な治療費

炎症性ポリポーシスの標準的な治療は、多くの場合健康保険が適用されます。

外来での診察や基本的な検査、薬物療法などは、3割負担の場合、1回あたり数千円から1万円程度の自己負担が目安です。

ただし、症状が重度で入院が必要になると、入院費用や高度な検査、処置などにより負担額が増加します。

項目自己負担額(3割負担の場合)
外来診察1,000円〜3,000円
基本的な検査2,000円〜5,000円
薬物療法3,000円〜10,000円

内視鏡的治療にかかる費用

内視鏡的ポリープ切除術も保険適用されますが、ポリープの数や大きさ、複雑さによって費用が変動します。

一般的に、3割負担の場合、1回の処置で2万円から10万円程度の自己負担となります。

長期的な管理にかかる費用

炎症性ポリポーシスは再発のリスクがあるため、長期的な経過観察が必要です。定期的な内視鏡検査や画像検査が必要となり、長期的に治療費用がかかります。

長期管理項目年間自己負担額(概算)
定期検査5万円〜10万円
薬物療法3万円〜8万円
予防的処置2万円〜5万円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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