Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群)

Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群, Peutz-Jeghers syndrome)とは、消化管内にポリープと呼ばれる良性の腫瘍が多発し、口唇や口腔粘膜、指などに特徴的な色素斑がみられる遺伝性の疾患です。

この病気の特徴は主に小腸や大腸のポリープ形成ですが、稀に胃や鼻、膀胱などにも発生します。

目次

Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群)の症状

ポイツ・ジェガース症候群の主な症状は、消化管におけるポリープの多発とそれに伴う消化器症状、口唇や口腔粘膜などに見られる特徴的な色素斑です。

消化器症状

Peutz-Jeghers症候群の主な症状は、消化管に関連するものです。

  • 腹痛:急性または慢性の痛みを感じる
  • 嘔吐:特に腸閉塞の際に起こりやすい
  • 下血:ポリープからの出血による
  • 貧血:慢性的な出血によって引き起こされる

これらの症状は、消化管内のポリープが原因で発生します。ポリープは小腸に最も多く見られますが、胃や大腸にも生じる場合があります。

皮膚粘膜の色素沈着

本症候群の特徴的な所見が、皮膚や粘膜に現れる色素沈着です。

  • 口唇周囲:最も一般的な部位
  • 口腔粘膜:頬の内側や歯肉に出現
  • 指趾:特に爪周囲に見られる
  • 鼻周囲:まれに観察される

色素斑は通常2~3mm大の褐色~黒色の斑点として現れ、幼少期から認められるケースが多いです。

腸重積のリスク

Peutz-Jeghers症候群の方にとって、腸重積は注意が必要な合併症の一つです。腸重積は、腸管の一部が隣接する腸管内に陥入する状態を指します。

腸重積が発生すると、激しい腹痛や嘔吐、血便などの症状が急激に出現します。

小腸ポリープに起因する腸重積の発生率は年齢とともに上昇する傾向があり、特に9歳を過ぎると顕著になり、10歳までに15%、20歳までには半数の患者が合併するとされます。

悪性腫瘍発生のリスク

Peutz-Jeghers症候群は、様々な悪性腫瘍の発生リスクが高まります。消化管のみならず、乳腺、膵臓、子宮、卵巣など、多岐にわたる臓器が影響を受けます。

このため、定期的な健康診断や、各種がん検診の受診が不可欠です。

Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群)の原因

ポイツ・ジェガース症候群(PJS)は、STK11(またはLKB1)という遺伝子の変異が原因で引き起こされます。

この遺伝子は、細胞の成長や分裂を制御する役割を担っており、変異が起こるとポリープの発生やがんのリスク増加につながると考えられています。

STK11遺伝子

STK11遺伝子は腫瘍抑制遺伝子としての働きがあり、細胞の増殖と分裂を適切に制御します。

STK11遺伝子に変異が起きると、次のような影響が生じます。

  • 細胞増殖の制御機能が低下します
  • アポトーシス(細胞死)の調整がうまくいかなくなります
  • 細胞極性の維持が困難になります

これらの要因が組み合わさって作用し、Peutz-Jeghers症候群に特徴的な症状である消化管ポリープの形成や、皮膚・粘膜の色素沈着を引き起こします。

常染色体優性遺伝の形式で遺伝します(親のどちらかがPJSの場合、子に50%の確率で遺伝します)が、全症例の約10-20%は新たな変異によるものであり、家族歴がない場合も存在します。

Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群)の検査・チェック方法

Peutz-Jeghers症候群(PJS)の診断は、家族歴や症状の確認に加え、内視鏡検査や画像検査、遺伝子検査などを組み合わせて総合的に行われます。

臨床症状の確認

PJSの特徴的な症状として、口腔粘膜や手指、足趾などに現れる色素沈着斑があり、生後間もなく出現して思春期までに顕著になるケースが多いです。

また、腹痛や腸重積、貧血などの消化器症状はポリープの存在を示唆するため、診断の手がかりとなります。

内視鏡検査と画像診断

臨床症状でPJSが疑われる場合、内視鏡検査や画像診断を行います。

検査方法主な目的
上部消化管内視鏡食道、胃、十二指腸のポリープ確認
大腸内視鏡大腸ポリープの確認
カプセル内視鏡小腸ポリープの確認
CT検査消化管外の腫瘍や転移の確認

内視鏡検査では、PJS特有のハンマー頭状ポリープが確認される場合があります。

遺伝子検査

遺伝子検査において、STK11/LKB1遺伝子の変異を確認することで診断の確実性が高まります。

遺伝子検査の方法には以下のようなものがあります。

  • 直接シークエンス法
  • MLPA法(多重ライゲーション依存プローブ増幅法)
  • 次世代シークエンス法

診断基準

PJSの診断基準は以下の通りです。

診断基準内容
確定診断1. 特徴的な色素沈着斑と2つ以上のPJSポリープ
2. 任意の数のPJSポリープと家族歴
3. 特徴的な色素沈着斑と家族歴
4. STK11/LKB1遺伝子の病的変異
臨床診断1. 3つ以上の組織学的に確認されたPJSポリープ
2. 任意の数のPJSポリープと特徴的な色素沈着斑

Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群)の治療方法と治療薬について

Peutz-Jeghers症候群の治療は、合併症の予防と症状のコントロールを主眼としています。

症状や合併症に応じて、内視鏡的または外科的なポリープ切除、定期的ながん検診、遺伝カウンセリングなどが行われ、根本的な治療法はありません。

内視鏡的ポリープ切除術

PJSに特徴的なハマルトーマ性ポリープには、内視鏡的ポリープ切除術が第一選択です。

内視鏡的ポリープ切除術の利点と注意点は以下の通りです。

利点注意点
低侵襲性再発の可能性
早期回復穿孔のリスク
合併症予防出血のリスク

外科的治療

内視鏡で対応できない大きなポリープや、腸重積などの合併症が起きた際には、外科的治療が必要になる場合もあります。

手術の方法は、病変の位置や大きさ、全身状態などを総合的に判断して決めます。

薬物療法

PJS専用の薬物療法はありませんが、症状の管理や合併症の予防のため、次の薬剤を使用する場合があります。

  • 制酸薬:胃酸過多の症状を和らげる
  • 鉄剤:貧血を改善する
  • 鎮痛剤:腹痛などの痛みをコントロールする
  • 抗凝固薬:血栓を予防する(必要な場合のみ)

がん予防と早期発見

PJS患者は様々ながんのリスクが高いため、定期的ながん検診が欠かせません。主ながん種と推奨されるスクリーニング開始年齢は以下の通りです。

がん種スクリーニング開始年齢
大腸がん25歳
胃がん30歳
乳がん25歳
膵臓がん30歳

Peutz-Jeghers症候群(ポイツ・ジェガース症候群)の治療期間と予後

Peutz-Jeghers症候群(PJS)は個人差が大きく、症状や合併症の程度によって予後は異なります。治療は生涯にわたって継続する必要があり、術後もポリープは再発する可能性があるため、定期的な内視鏡検査が必要です。

治療期間

遺伝性疾患であるため完治はしませんが、管理によって症状をコントロールし、合併症を予防できます。

サーベイランスプログラム

サーベイランスプログラムとは、特定の疾患や健康状態、または環境要因などを継続的に監視し、その発生状況や変化を把握するための体系的な調査活動を指します。

PJS患者さんには、以下のようなサーベイランスプログラムが推奨されます。

  • 2年ごとの上部消化管内視鏡検査
  • 3年ごとの大腸内視鏡検査
  • 1-3年ごとの小腸造影検査
  • 年1回の腹部超音波検査
  • 乳癌や婦人科系腫瘍のスクリーニング

がんリスクと予後

PJSでは、様々な臓器でがんを発症するリスクが高くなります。

がんの種類生涯リスク
大腸がん39%
乳がん32-54%
膵臓がん11-36%
胃がん29%

これらのがんを早期に発見し治療することで、予後を良くできる可能性があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

Peutz-Jeghers症候群の治療におけるデメリットは、ポリープ切除手術に伴う合併症(出血、穿孔、感染など)や、繰り返し手術による短腸症候群のリスクなどが挙げられます。

ポリープ切除術に関連する合併症

ポリープ切除術は、Peutz-Jeghers症候群の主要な治療法ですが、合併症のリスクがあります。

合併症発生頻度
出血1-2%
穿孔0.5-1%
感染1-3%

外科的切除では、手術による身体的負担や合併症のリスク、腸管を切除する場合、短腸症候群(栄養吸収障害)のリスクがあります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

Peutz-Jeghers症候群の治療は、ポリープ切除やがん検診など保険診療でカバーされるものが多いですが、一部の遺伝子検査や高度な検査は自費診療となる場合があります。

また、Peutz-Jeghers症候群は小児慢性特定疾病の対象疾患です。

小児慢性特定疾病とは、0歳から18歳未満で生命を長期にわたって脅かす、または日常生活が著しく制限される病気に対して、医療費の自己負担を軽減する公的制度です。

PJSは、消化管にポリープが多発しがんのリスクが高い病気です。そのため、小児慢性特定疾病に指定されており、認定されれば医療費の自己負担が軽減されます。

診断時と定期検診にかかる費用

初めての診察では約1万円、その後の診察では約3,000円ほどの費用が目安です。

項目概算費用
初診料約1万円
再診料約3,000円
内視鏡検査2〜5万円
遺伝子検査10〜20万円

治療に伴う費用

ポリープを取り除くなどの処置が必要となった場合、入院費用や手術費用が発生します。 入院費用は1日あたり約2〜3万円、手術費用は20〜50万円程度が一般的です。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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