家族性大腸腺腫症(FAP)(家族性腺腫性ポリポーシス)

家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis:FAP)とは、遺伝子の変異が原因で起こる病気で、大腸に多数の良性腫瘍(腺腫)が発生する症状を引き起こします。

APC遺伝子に異常があるために、大腸内に100個を超える腺腫が形成されるのが特徴です。

これらの腺腫を放置すると、がん化する可能性が極めて高くなるため、注意が必要です。

目次

家族性大腸腺腫症(FAP)の病型

家族性大腸腺腫症(FAP)は、主に密生型FAPと非密生型FAPの2つに分類されます。これらの病型は、腺腫の数や発生部位により区別されます。

密生型FAP

密生型FAPは、大腸全体に数百から数千個もの腺腫が発生するのが特徴です。

腺腫の数が極めて多いため、大腸粘膜がカーペットのように腺腫で覆われるケースもあります。

特徴詳細
腺腫の数100個以上
発症年齢10代後半から20代

非密生型FAP

非密生型FAPは、密生型FAPと比べると腺腫の数が少ない病型です(大腸に発生する腺腫の数が100個未満)。

腺腫の発生部位が、大腸の一部に限局されているケースもあります。

特徴詳細
腺腫の数100個未満
発症年齢20代後半から40代

非密生型FAPは、密生型FAPと比較すると症状の進行が緩やかな傾向があります。ただし、定期的な検査と経過観察は必須です。

その他の病型

先述の2つの主要な病型以外に、いくつかの亜型や関連する病型が知られています。

  • Gardner症候群:FAPに加え、骨腫や歯牙異常、軟部組織腫瘍を併発する
  • Turcot症候群:FAPと脳腫瘍が合併する
  • 腺腫症関連結腸癌(AFAP):腺腫の数が少なく、発症年齢が遅い

これらの亜型は、FAPの基本的な特徴に加え、特定の症状や合併症を伴うことが特徴です。

家族性大腸腺腫症(FAP)の症状

家族性大腸腺腫症(FAP)の多くは無症状ですが、進行すると下血や腹痛などを伴います。

大腸ポリープの特徴

FAP患者の大腸には、数百から数千個ものポリープが生じます。

これらのポリープは一般的に10代後半から20代にかけて現れ始め、年齢が上がるにつれてポリープの数が増え、サイズも大きくなる傾向です。

消化器系の症状

  • 腹痛
  • 下痢
  • 便秘
  • 血便
  • 粘液便

これらの症状は、ポリープの数や大きさ、位置によって異なります。

腸管外症状

FAPは大腸以外の臓器にも影響を与える場合があります。腸管外症状として、以下のようなものが知られています。

症状関連する部位
歯牙異常口腔
網膜色素上皮肥大
デスモイド腫瘍腹壁、腸間膜
甲状腺癌甲状腺

症状の進行と合併症

FAPの症状は時間とともに徐々に進行します。放置すると重大な合併症を引き起こす恐れがあり、最も注意すべき合併症は大腸癌の発症です。

放置した場合は、40歳までにほぼ100%の確率で大腸癌を発症するリスクがあります。

家族性大腸腺腫症(FAP)の原因

家族性大腸腺腫症(FAP)はAPC遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の疾患で、両親のどちらかから、変異遺伝子を受け継ぐことで発症します。

APC遺伝子の機能

APC遺伝子は、細胞の増殖や分化を制御する役割を担っています。この遺伝子に変異が起こると、細胞の増殖が過剰になり、大腸に多数のポリープが発生します。

APC遺伝子の機能

  • 細胞増殖の抑制
  • アポトーシス(プログラムされた細胞死)の促進
  • 細胞接着の調整
  • 染色体分離の制御

FAP患者の約7割は、両親のどちらかから変異したAPC遺伝子を受け継いでいます。残りの約3割は、両親には変異がなかったにもかかわらず、新たに遺伝子変異が起こって発症したケースです(新生突然変異)。

遺伝形式

FAPは常染色体優性遺伝の形式をとります。これは、変異したAPC遺伝子のコピーを1つ受け継ぐだけで発症する可能性があることを意味します。

親の遺伝子型子供が遺伝子を受け継ぐ確率
片親がFAP50%
両親がFAP75%

その他の遺伝子変異

稀に、MUTYH遺伝子の変異によっても類似した症状が引き起こされるケースがあります。

この場合、MUTYH関連ポリポーシスと呼ばれ、常染色体劣性遺伝の形式をとります。

家族性大腸腺腫症(FAP)の検査・チェック方法

家族性大腸腺腫症(FAP)の診断では、遺伝子検査で大腸がんの原因となる遺伝子変異の有無を調べ、大腸内視鏡検査でポリープの有無や状態を確認します。

内視鏡検査による腺腫の評価

大腸内視鏡検査により、大腸内の腺腫の数や分布を直接観察できます。典型的なFAPの場合、大腸全体に100個以上の腺腫性ポリープが見られます。

内視鏡所見臨床的意義
100個以上のポリープFAPの可能性が高い
ポリープの大きさと分布重症度の評価に有用
悪性化の兆候がんリスクの評価

上部消化管内視鏡検査も実施される場合があり、十二指腸や胃のポリープの有無を確認します。

遺伝子検査による確定診断

FAPの確定診断には、APC遺伝子の変異を検出する遺伝子検査が用いられます。

遺伝子検査の結果、APC遺伝子に病的変異が確認されればFAPの確定診断となります。

診断のタイミングと追加検査

FAPの診断は、できるだけ早期の実施が重要です。

年齢推奨される検査
10-12歳大腸内視鏡検査の開始
25-30歳まで1-2年ごとの定期検査
30歳以降個別の状況に応じて検査間隔を決定

また、FAPに関連する他の症状や合併症を評価するため、以下の追加検査が検討される場合があります。

  • 腹部CT検査:デスモイド腫瘍の検出
  • 眼底検査:網膜色素上皮肥大(CHRPE)の確認
  • 甲状腺超音波検査:甲状腺がんのスクリーニング

家族性大腸腺腫症(FAP)の治療方法と治療薬について

家族性大腸腺腫症(FAP)の治療では、大腸がん予防のため大腸切除術が基本です。

ポリープが少ない場合では、内視鏡的ポリープ切除やアスピリンなどの薬物療法が検討される場合もあります。

外科的治療:予防的大腸切除術

大腸がんのリスクを減らすため、予防的大腸切除術が推奨されます。この手術には主に2つの選択肢があります。

  1. 大腸全摘出術と回腸嚢肛門吻合術(IPAA)
  2. 大腸亜全摘術と回腸直腸吻合術(IRA)

大腸全摘術は、大腸全体と直腸を切除する方法です。FAPでは大腸全体にポリープが発生するため、大腸全摘術を行うことで、大腸がんのリスクをほぼ完全に排除できます。

年齢、ポリープの数と分布、家族歴などを考慮して手術方法を決定していきます。

薬物療法

アスピリンなどのNSAIDsは、ポリープの発生や増殖を抑制する効果が期待されています。

しかし、NSAIDsだけでは大腸がんのリスクを十分に下げることはできないため、外科手術と併用される場合があります。

COX-2阻害薬

薬剤名主な効果
スリンダクポリープの成長抑制
セレコキシブ炎症抑制、ポリープ形成抑制

これらの薬剤は、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害する効果が期待されています。

家族性大腸腺腫症(FAP)の治療期間と予後

家族性大腸腺腫症(FAP)は、早期発見と治療によって大腸がんのリスクを大幅に減少できます。大腸全摘術を行った場合は、大腸がんのリスクをほぼ完全に排除できます。

手術療法

入院期間は、大腸全摘術の場合は約2週間、結腸切除術の場合は約1週間が一般的です。

個人差がありますが、日常生活に戻れるまでには約1ヶ月程度かかります。

手術後の経過観察期間

手術が終わった後も、定期的な経過観察が必要です。一般的な頻度は次の表の通りです。

観察項目頻度
内視鏡検査6ヶ月〜1年ごと
血液検査年1回
画像診断1〜2年ごと

FAPを放置した場合の予後

  1. 癌発生率:
    • 40歳頃: 約50%が大腸癌を発症
    • 60歳頃: ほぼ100%が大腸癌を発症
  2. 主な死因:
    • 大腸癌: 全体の60%
    • その他の比較的頻度の高い癌:
      • 十二指腸癌
      • デスモイド腫瘍

平均死亡年齢は46歳(±15.6歳)であるとされます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

家族性大腸腺腫症(FAP)の治療には、副作用やリスクが伴います。

手術療法のリスク

大腸全摘出術では大腸全体を切除するため、排泄物を体外に排出するためのストーマという人工肛門を永久的に造設する必要があります。

ストーマの管理には装具の交換や皮膚のケアが必要となり、生活上の制限が生じます。

手術に関連する主なリスク

  • 感染症
  • 出血
  • 腸閉塞
  • 麻酔関連の合併症

また、手術後には以下のような長期的な影響が生じる場合があります。

影響詳細
排便機能の変化頻繁な排便や下痢
栄養吸収の問題ビタミンやミネラルの欠乏
性機能障害勃起障害や射精障害

薬物療法の副作用

FAP の進行を遅らせるために使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、以下のような副作用が生じる可能性があります。

副作用発生頻度
胃腸障害高頻度
腎機能障害中頻度
心血管系リスク低頻度

内視鏡検査に伴うリスク

  • 腸管穿孔
  • 出血
  • 感染

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

家族性大腸腺腫症(FAP)の治療費は、2022年度から内視鏡によるポリープ切除手術が保険適用となり、従来の全摘出手術と比較して負担が大幅に軽減されました。

また、家族性大腸腺腫症(FAP)は小児慢性特定疾病に指定されています。この制度により、18歳未満の児童は医療費の自己負担額の全額または一部が公費で負担されます。

※18歳到達後も引き続き治療が必要と認められる場合には、20歳未満まで対象です。

検査費用の目安

検査項目概算費用
大腸内視鏡検査20,000円~
遺伝子検査100,000円~
※遺伝子検査の費用は保険適用外となる場合があります。

内視鏡的ポリープ切除術

定期的な内視鏡検査とポリープ切除術が保険適用となります。

3割負担の場合、1回あたり数万円程度が目安です。

手術費用の目安

手術名概算費用
大腸全摘出術100万円~
回腸嚢肛門吻合術150万円~

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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