大腸癌(Colorectal cancer)とは、大腸(結腸と直腸)に生じる悪性の腫瘍を指します。日本人に多く見られ、早い段階での発見と対応が非常に大切です。
初期の頃はほとんど症状が現れないのが特徴ですが、進行に伴い便通の変化や血便、お腹の痛みなどが出現します。
大腸癌の病型
大腸癌は、腫瘍の特性や進行の程度に応じて複数の方法で分類されます。
肉眼的分類
大腸癌の肉眼的分類は、腫瘍の外見や形状に基づいて行われます。
主な分類には以下のようなものがあります。
- 隆起型
- 表面型
- 潰瘍型
- 浸潤型
これらの分類は、腫瘍の成長パターンや進行度を示す指標として用いられます。
側方発育型腫瘍(LST)
側方発育型腫瘍(LST)は、大腸癌の特殊な形態の一つです。
LSTは以下の2つのタイプに分けられます。
タイプ | 特徴 |
顆粒型(LST-G) | 表面に顆粒状の隆起がある |
非顆粒型(LST-NG) | 表面が平坦で顆粒状の隆起がない |
Dukes分類
Dukes分類は、大腸癌の進行度を示す古典的な分類方法です。A,B,Cの順に予後不良となります。
分類 | 特徴 |
A | 腫瘍が粘膜下層までにとどまる |
B | 腫瘍が筋層以深に浸潤 |
C | リンパ節転移あり |
D | 遠隔転移あり |
この分類は、治療方針の決定や予後予測に活用されます。
壁深達度
壁深達度は、腫瘍が大腸壁のどの層まで浸潤しているかを示します。
主な分類は以下の通りです。
- M(粘膜内)
- SM(粘膜下層)
- MP(固有筋層)
- SS(漿膜下層)
- SE(漿膜露出)
- SI(他臓器浸潤)
壁深達度は、大腸癌の進行度を評価する上で重要となります。
リンパ節転移
リンパ節転移は、転移したリンパ節の数に基づいて分類されます。
一般的な分類は以下の通りです。
- N0:リンパ節転移なし
- N1:1〜3個のリンパ節に転移
- N2:4個以上のリンパ節に転移
- N3:主リンパ節への転移
遠隔転移
遠隔転移は、Mで表され、以下のように分類されます。
- M0:遠隔転移なし
- M1:遠隔転移あり
遠隔転移の有無は、治療方針の決定や予後予測に関わる要素です。
TNM分類に基づく進行度(stage)分類
TNM分類は、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)の3つの因子を組み合わせて、大腸癌の進行度を総合的に評価する方法です。
この分類に基づき、大腸癌は0期からⅣ期までの5段階に分けられます。
TNM分類は、国際的に標準化された分類方法であり、治療方針の決定や予後予測に広く利用されています。
大腸癌の症状
大腸癌は、初期段階では無症状であるケースが多いです。進行するにつれ、血便、便通の変化(便秘や下痢)、腹痛、貧血などがあらわれます。
症状 | 特徴 |
血便 | 鮮血や暗赤色の血液が混入 |
便の性状変化 | 細い便、リボン状の便 |
腹痛 | 持続的または断続的な痛み |
腹部膨満感 | ガスが溜まりやすい |
血便や便の性状変化
大腸癌で最もよく見られる症状の一つが血便で、便に血液が混入したり、便の色が黒変します。加えて、便の形状や硬さが変わったり、便秘と下痢を交互に繰り返す場合もあります。
腹痛や腹部不快感
腹痛や腹部の不快感も大腸癌の兆候です。 特に、排便時の痛みや、お腹の張り感、ガスが溜まりやすくなるなどの症状が現れます。
全身症状
大腸癌が進行すると、全身に影響を及ぼす症状が現れてきます。
- 原因不明の体重減少
- 疲労感や倦怠感
- 貧血による息切れや動悸
- 食欲不振
直腸癌特有の症状
直腸癌の場合、肛門に近い部位に腫瘍が発生するため、排便時の痛みや出血、便意はあるのに排便できない感覚(テネスムス)など、特有の症状が現れます。
症状 | 説明 |
テネスムス | 便意があるのに排便できない感覚 |
排便時の痛み | 肛門部の違和感や痛み |
肛門からの出血 | 新鮮な赤色の血液が付着 |
大腸癌の原因
大腸癌の原因は、食生活の欧米化、運動不足、肥満、喫煙、飲酒などの生活習慣に加え、遺伝的要因も関係しています。
遺伝的要因
家系内での発症歴や特定の遺伝子異常が、大腸癌の発症リスクを高めることが判明しています。
遺伝性症候群 | 関連遺伝子 |
リンチ症候群 | MLH1, MSH2 |
家族性大腸腺腫症 | APC |
環境要因
日々の食事内容や運動量などの生活習慣が、発症リスクと密接に関連することが明らかになっています。
- 脂肪分が多く繊維の少ない食事
- 赤身肉や加工肉の摂りすぎ
- 日常的な運動の欠如
- たばこの習慣的な使用
- アルコールの多量摂取
炎症性腸疾患
慢性的な腸の炎症も、大腸癌のリスクを上げる一因となります。
例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病などの長期罹患は、大腸の細胞に悪影響を与える可能性があります。
年齢との関係
加齢は大腸癌発症の主要な要因の一つです。特に50歳を超えると、発症のリスクが顕著に高まります。
年齢層 | 発症リスク |
40歳未満 | 低リスク |
50-75歳 | 中〜高リスク |
75歳以上 | 高リスク |
大腸癌の検査・チェック方法
大腸癌の検査は、便潜血検査で陽性の場合や症状がある場合は、大腸内視鏡検査やCT検査などの精密検査を行います。
スクリーニング検査:便潜血検査
スクリーニング検査とは、症状がない人を対象に、病気の可能性を早期に見つけるための検査です。
大腸がんのスクリーニング検査には、主に便潜血検査があります。目では見えないごくわずかな血液を見つけることができ、大腸癌の兆候を示す大事な手がかりとなります。
便潜血検査で陽性の場合、精密検査として大腸内視鏡検査を行います。
検査名 | 特徴 |
便潜血検査 | 体への負担が少なく、簡単 |
大腸内視鏡検査 | 直接見ることができ、組織採取も可能 |
精密検査:大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査では大腸の中を直接観察でき、異常がある部分から組織を取ること(生検)もできます。
また、CTやMRIの検査は腫瘍の場所や大きさ、周りへの広がり具合を調べるのに用いられます。
確定診断
大腸癌を確実に診断するには、組織を顕微鏡で調べる検査が必要です。
内視鏡検査で取った組織を詳しく観察し、癌細胞があるかどうか、どのような特徴があるかを判断します。
診断段階 | 主な評価項目 |
臨床診断 | 症状、検査結果 |
確定診断 | 組織を顕微鏡で観察した結果 |
診断後の対応
確定診断が出た後は、癌がどの程度進行しているか(ステージ)を評価し、治療方針を検討していきます。
大腸癌の治療方法と治療薬について
大腸癌の治療は、手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療、分子標的薬などを組み合わせ、進行度や状態に合わせて行われます。
手術療法:根治的切除を目指して
大腸癌の基本的な治療方法は手術です。腫瘍の位置や進行度に応じて、適切な手術方法が選択されます。
例えば、早期の場合は内視鏡的粘膜切除術(EMR)が、進行した症例では腹腔鏡下手術や開腹手術が必要となります。
また、状況によっては人工肛門造設術が検討される場合もあります。
化学療法:がん細胞の増殖を抑制
手術後の再発予防や転移がんの治療に化学療法が用いられます。
主な抗がん剤
薬剤名 | 主な作用 |
フルオロウラシル(5-FU) | DNA合成阻害 |
オキサリプラチン | DNA損傷誘導 |
イリノテカン | トポイソメラーゼI阻害 |
分子標的薬
近年、がん細胞の特定の分子を標的とする薬剤が開発されています。代表的な分子標的薬には以下のようなものがあります。
薬剤名 | 標的 |
ベバシズマブ | VEGF |
セツキシマブ | EGFR |
パニツムマブ | EGFR |
これらの薬剤は、従来の抗がん剤と比較して副作用が少ない点が特徴です。
放射線療法:局所制御と症状緩和
直腸がんの術前治療や、手術が困難な症例に対しては放射線療法が実施されます。
放射線治療は、がん細胞のDNAを損傷させることで増殖を抑制する効果があります。
免疫チェックポイント阻害薬:自己免疫力を活用
免疫チェックポイント阻害薬とは、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みを阻害し、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を促進する薬です。
これらの薬剤には、次のような効果があります。
- がん細胞が免疫系から逃れるのを防ぐ
- 体の免疫力を高める
- がんと闘う力を引き出す
従来の抗がん剤とは異なり、免疫細胞を活性化させることでがん細胞を攻撃するため、効果が期待できるがんの種類や進行度が広がっています。
大腸癌の治療期間と予後
大腸癌の治療期間と予後は、病期や治療法によって異なります。早期発見の場合は手術のみで完治するケースもありますが、進行がんの場合は長期にわたる抗がん剤治療や放射線治療が必要となり、予後も厳しくなります。
治療期間の目安
大腸癌の治療にかかる時間は、がんの広がり具合や選ばれる治療方法によって異なります。
ステージ | 主な治療法 | 平均治療期間 |
0-I | 内視鏡的切除 | 1-2週間 |
II-III | 手術+化学療法 | 6-12か月 |
IV | 化学療法+分子標的薬 | 1-2年以上 |
早い段階で見つかった場合は、内視鏡を使った切除だけで治るケースもあり、治療期間は比較的短くて済みます。
一方で、進行してしまった大腸癌の場合、手術の後に抗がん剤治療を組み合わせることが多く、治療期間は長引く傾向です。
抗がん剤治療は通常、2週間か3週間を1回として、何度も繰り返し行われます。
予後に影響を与える要因
- がんの広がり具合(ステージ)
- がんの性質(遺伝子の変化など)
- 患者さんの年齢や体の調子
- 治療の効き目
これらの要素を全体的に見て、それぞれの患者さんに合った治療を進めます。
ステージ別の5年生存率
ステージ | 5年生存率 |
I | 91.6% |
II | 84.8% |
III | 72.0% |
IV | 約20% |
薬の副作用や治療のデメリットについて
大腸癌の薬の副作用には、吐き気、下痢、食欲不振、脱毛、感染症のリスク増加などがあります。また、手術には感染や出血などのリスクが伴います。
手術療法に伴う副作用とリスク
手術療法は大腸がん治療の中心的な選択肢ですが、副作用やリスクを伴います。
腹腔鏡手術や開腹手術など術式によって異なりますが、代表的なリスクとしては疼痛、術後感染、出血などが挙げられます。
加えて、手術後には腸閉塞や縫合不全などの合併症のリスクもあります。頻度は低いものの、発生した場合には追加的な治療が必要です。
化学療法の副作用
化学療法は正常細胞にも影響を及ぼすため、さまざまな副作用が現れます。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 嘔気、嘔吐、下痢 |
骨髄抑制 | 貧血、免疫力低下 |
脱毛 | 頭髪や体毛の脱落 |
放射線療法のリスク
放射線療法は周囲の健康な組織にも影響を与える可能性があり、主なリスクには次のようなものがあります。
- 皮膚の炎症や色素沈着
- 排尿・排便障害
- 倦怠感の増強
- 性機能障害
これらの症状は、治療終了後も長期間持続する場合もあります。
免疫療法の副作用
免疫療法は比較的新しい治療法で、体の免疫系を活性化してがん細胞を攻撃しますが、この治療法にも副作用があります。
副作用 | 説明 |
自己免疫反応 | 正常組織への攻撃 |
皮膚症状 | 発疹、掻痒感、乾燥 |
内分泌障害 | ホルモン分泌異常 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
大腸がんの治療は、手術、抗がん剤治療、放射線治療など、さまざまな治療法がありますが、これらの治療は基本的に健康保険が適用されます。
自己負担額は1~3割となり、入院中の食事代や差額ベッド代、先進医療など、保険適用外の費用も発生する可能性があります。
初期治療の費用内訳
初期段階では、主に手術や化学療法が選択されます。手術を選択する際、腹腔鏡下手術なら約100万円、開腹手術なら約150万円ほどの費用が必要となります。
化学療法の場合、使用薬剤や治療期間により変動しますが、1クールあたり20万円から50万円程度の費用がかかります。
治療法 | 概算費用 |
腹腔鏡下手術 | 約100万円 |
開腹手術 | 約150万円 |
化学療法(1クール) | 20万円~50万円 |
検査・診断にかかる費用
検査項目 | 概算費用 |
大腸内視鏡検査 | 2万円~3万円 |
CT検査 | 1万5千円~2万円 |
腫瘍マーカー検査 | 5千円~1万円 |
入院時の費用
入院費用は、一般的な大部屋では1日あたり1万5千円から2万円、個室を選択すると3万円から5万円程度が目安です。
以上
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