脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折, Vertebral Compression Fractures)とは、背骨の椎体が外部からの圧力によって押しつぶされる形で発生する骨折です。
骨粗鬆症を患っている高齢者に多く見られ、くしゃみや尻もちなど、ちょっとしたはずみで起こることがあります。
激しい痛みや背中が丸くなるなどの症状が現れ、放置すると寝たきりになるリスクも。早期発見・治療が大切です。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の病型
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)は外力や骨粗鬆症などによって椎体が圧潰※1する病態で、損傷の程度や形態によって分類されます。
※1圧潰(あっかい):骨が負荷に耐えられずに押し潰れされて変形してしまう状態。圧壊とも表記される。
脊椎圧迫骨折の重症度分類
脊椎圧迫骨折には重症度分類があり、椎体圧潰の程度によって分類されます。椎体は時間の経過とともに圧潰が進んでいく場合が多いです。
- Mild fracture:圧潰の程度が25%程度までの骨折です。
- Moderate fracture:圧潰の程度が26~40%までの骨折です。
- Severe fracture:圧潰の程度が40%以上になる最も重症度の高い骨折です。
脊椎圧迫骨折の形態による分類
さらに、骨折の形態によっても分類します。病型には、楔状椎や扁平椎などがあり、それぞれに特徴の違いがあります。
病型 | 特徴 |
---|---|
楔状椎 | 椎体の前方部分が圧潰し、くさび形に変形。骨粗鬆症による圧迫骨折で最も多い。 |
扁平椎 | 椎体全体が均等に圧潰し、扁平な形状になる。脊柱の支持性が大きく損なわれる。 |
破裂骨折 | 高エネルギー外傷によって椎体が粉砕。脊髄や神経根を圧迫して重篤な合併症を伴いやすい。 |
骨片転位型骨折 | 椎体の一部が骨片となって転位。転位した骨片が脊髄や神経根を圧迫するリスクが高い。 |
楔状椎
楔状椎(けつじょうつい)は椎体の前方部分が圧潰し、くさび形に変形した病型です。
椎体の後方部分は比較的保たれているため脊柱管の狭窄は軽度で、骨粗鬆症による圧迫骨折で最も多くみられる病型です。
扁平椎
扁平椎(へんぺいつい)は、椎体全体が均等に圧潰して扁平な形状になった病型です。
椎体の高さが全体的に低下するため、脊柱の支持性が大きく損なわれます。
高齢者の骨粗鬆症やステロイド治療による骨脆弱性が原因であるケースが多いです。
破裂骨折
破裂骨折は、高エネルギー外傷によって椎体が粉砕するような骨折です。
椎体の後壁が脊柱管内に突出して脊髄や神経根を圧迫するケースがあります。不安定性が高く、神経学的な合併症を伴いやすい重篤な病型です。
※ここでは分かりやすく破裂骨折を病型の一つとして挙げていますが、脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)は脊柱の前方のみの骨折を指すので、正確には椎体が粉砕される破裂骨折と脊椎圧迫骨折を区別します。
骨片転位型骨折
骨片転位型骨折は、椎体の一部が骨片となって転位する病型です。
転位した骨片が脊柱管内に突出して脊髄や神経根を圧迫する可能性があります。外傷性の圧迫骨折で多くみられて、神経学的な合併症のリスクが高い病型です。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の症状
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の代表的な症状は、背部や腰の痛み、神経症状です。
ただし、人によっては食欲不振や体重減少などの全身症状を伴うケースもあります。
症状 | 特徴 |
---|---|
背部痛・腰痛 | 急性発症、安静時にも持続、体動や荷重で増悪、深呼吸や咳嗽でも誘発 |
神経症状 | 下肢の感覚障害、筋力低下、反射異常、歩行障害、排尿障害など |
体幹変形 | 後弯変形(亀背)、側弯変形(脊柱側弯)、姿勢異常、歩行障害、呼吸機能低下 |
全身症状 | 食欲不振、体重減少、全身倦怠感、深部静脈血栓症、肺塞栓症など |
背部痛・腰痛
脊椎圧迫骨折の最も一般的な症状は、背部や腰部の痛みです。骨折部位に一致して急性発症する人が多く、安静にしていても持続します。
また、身体を動かしたり荷重をかけたりしたときに悪化する特徴があり、深呼吸や咳嗽(がいそう、せき)でも誘発されます。
痛みの性質は、鋭痛、鈍痛、締め付けられるような痛みなどさまざまです。
神経症状
脊椎圧迫骨折が脊髄や神経根を圧迫しているときは、神経症状が現れます。
具体的には、下肢の感覚障害、筋力低下、反射異常などが生じて歩行障害や排尿障害が認められます。
重篤な場合には、対麻痺(両下肢に起こる対称性の運動麻痺)や膀胱直腸障害など重大な後遺症を残す恐れがあるため、注意が必要です。
体幹変形
脊柱の変形は、脊椎圧迫骨折が進行すると認められるようになる症状です。
後弯変形(亀背や円背)や側弯変形(脊柱側弯)が代表的で、体幹のバランスが崩れて姿勢異常や歩行障害を引き起こします。
転倒の危険性が増す原因となり、変形が高度になると肺機能の低下や消化器症状などにも発展します。
全身症状
脊椎圧迫骨折では、局所の症状だけでなく全身症状を伴うケースがあります。
食欲不振、体重減少、全身倦怠感などは骨粗鬆症や悪性腫瘍による脊椎圧迫骨折でしばしばみられる症状です。
また、長期臥床(長期間ベッドや布団などに身体を横たえた動作を続ける)による合併症として、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの重篤な症状にも気をつけなければなりません。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の原因
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の主な原因は、骨粗鬆症や外傷、悪性腫瘍などです。
さらに、ステロイド薬の長期使用や代謝疾患も原因と考えられ、生活習慣も脊椎圧迫骨折のリスクを高める要因として挙げられます。
原因 | 特徴 |
---|---|
骨粗鬆症 | 骨量の減少と骨質の劣化により、軽微な外力でも椎体が圧潰しやすくなる。閉経後女性や高齢者で多い。 |
外傷 | 交通事故、転落事故、スポーツ外傷などの強い外力によって椎体が圧潰する。若年者では高エネルギー外傷、高齢者では軽微な外傷でも生じる。 |
悪性腫瘍 | 脊椎原発の悪性腫瘍や転移性骨腫瘍による骨破壊が進行し、椎体が圧潰する。乳癌、前立腺癌、肺癌、腎癌などで多い。 |
ステロイド性骨粗鬆症 | 長期的なステロイド薬の使用による骨量減少と骨質劣化により、脊椎圧迫骨折が起こる。関節リウマチ、気管支喘息、膠原病などの患者で要注意。 |
代謝性疾患 | 代謝性疾患が骨代謝に影響を及ぼして骨脆弱性が増大するため、脊椎圧迫骨折が起こる。副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症、糖尿病、慢性腎不全などで生じる。 |
生活習慣 | 不適切な生活習慣が骨粗鬆症を助長して脊椎圧迫骨折を引き起こしやすくなる。喫煙、過度なアルコール摂取、低栄養状態、運動不足、日光浴不足も危険因子となる。 |
年齢と性別で調整した発生率に基づくと、50歳以上の女性の25%が少なくとも1つの椎体骨折を有していると推定されています。
また、最近の報告では、椎体圧迫骨折の60~75%が胸腰部接合部(すなわち、T12~L2)、30%がL2~L5で発症しています。
脊椎圧迫骨折の病態生理
病態生理として、脊柱は転倒や外傷の際に軸を中心に回転します。この脊柱の屈曲/伸展によって椎体が許容できる以上の力が加わると最初は圧迫骨折が生じ、より大きな力が加わると破裂骨折が生じます。
圧迫骨折の結果として生じる脊椎の前方への屈曲変形は、脊椎のバイオメカニクスを変化させ、他の脊椎レベルにさらなるストレスをかける可能性があります。
バイオメカニクスが変化すると、さらに骨折や変形が進行する危険性があります。
また、骨粗鬆症性圧迫骨折の発生は、さらなる圧迫骨折のリスクを高める原因です。
骨粗鬆症
脊椎圧迫骨折の最も一般的な原因は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。
骨粗鬆症では、骨量の減少と骨質の劣化が原因で骨の強度が低下します。その結果、軽微な外力でも椎体が圧潰しやすくなります。
閉経後の女性や高齢者では、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折のリスクがとくに高いです。
外傷
強い外力が脊椎に加わった際にも、脊椎圧迫骨折が起こり得ます。
交通事故や転落事故、スポーツ外傷などが代表的な例で、若年者ではこのような高エネルギー外傷が脊椎圧迫骨折の主な原因です。
一方、高齢者では転倒などの比較的軽微な外傷でも椎体が圧潰するときがあり、年齢ごとの圧迫骨折の発生は二峰性分布を示します。
悪性腫瘍
脊椎に発生した悪性腫瘍や他の部位からの転移性骨腫瘍は、脊椎圧迫骨折の原因の一つです。
乳癌、前立腺癌、肺癌、腎癌などは、とくに脊椎転移をきたしやすい腫瘍として知られています。
腫瘍は椎体の骨破壊を引き起こし、進行すると軽微な外力でも椎体が圧潰します。
ステロイド性骨粗鬆症
ステロイド薬は骨芽細胞の活性を抑制し、骨吸収を促進することで骨量の減少と骨質の劣化を引き起こします。その結果、ステロイド性骨粗鬆症を発症させて脊椎圧迫骨折が起きる場合があります。
関節リウマチや気管支喘息、膠原病などでステロイド薬を長期使用している患者さんは、ステロイド性骨粗鬆症からの脊椎圧迫骨折が起こる可能性がとくに高くなります。そのため、定期的な骨密度検査や骨粗鬆症の予防的治療が大切です。
代謝性疾患
代謝性疾患は、脊椎圧迫骨折の原因となる場合があります。代表的な代謝性疾患は、副甲状腺機能亢進症です。
副甲状腺ホルモンの過剰分泌によって骨吸収が亢進して骨量が減少するため、脊椎圧迫骨折が起こりやすくなります。
その他、甲状腺機能亢進症や糖尿病、慢性腎不全なども、骨代謝に影響を及ぼして脊椎圧迫骨折を生じる可能性があります。
生活習慣
不適切な生活習慣は骨粗鬆症を助長し、脊椎圧迫骨折が起きやすくなる危険因子です。
喫煙や過度のアルコール摂取、低栄養状態などは、骨代謝に悪影響を及ぼして骨量の減少を促進します。また、運動不足や日光浴不足は骨形成を抑制して骨脆弱性を増大させます。
骨粗鬆症の予防と脊椎圧迫骨折の危険性を軽減するために、生活習慣の見直しと改善が重要です。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の検査・チェック方法
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の診断には、詳細な問診と身体診察に加えて、各種の画像検査や血液検査が必要不可欠です。
検査方法 | 特徴 |
---|---|
問診と身体診察 | 症状の出現時期や性質、程度、外傷の有無、既往歴、薬物使用歴などを評価して、脊椎の変形や圧痛、可動域制限、神経学的異常所見などを確認する。 |
単純X線検査 | 椎体の圧潰や変形、骨粗鬆症の有無などを評価する。早期の骨折や軽度の圧潰は描出されにくい。 |
CT検査 | 骨折線や骨片の位置、椎体の圧潰率、脊柱管内への骨片の突出などを詳細に評価する。 |
MRI検査 | 脊髄や神経根の圧迫、椎間板の損傷、脊椎周囲の血腫などの軟部組織の評価に優れる。骨折の新旧の判定や悪性腫瘍による病的骨折の鑑別にも有用。 |
骨密度検査 | 腰椎や大腿骨近位部の骨密度を測定して骨粗鬆症の診断と重症度の評価を行う。 |
血液検査 | 貧血や電解質異常、腎機能障害や骨粗鬆症、悪性腫瘍などの有無を確認する。 |
問診と身体診察
脊椎圧迫骨折の診断では、まず問診と身体診察を行います。
問診では症状の出現時期や性質、程度、外傷の有無、既往歴、薬物使用歴などを詳しくお聞きします。
身体診察は脊椎の変形や圧痛、可動域制限、神経学的異常所見などを細かく評価するのが目的です。
高エネルギー圧迫骨折の多くは腹部、大脳、四肢の損傷を伴っており、これらすべてを評価する必要があります。感覚や反射だけでなく筋力も評価すべきで、背部の皮膚を検査して触診による圧痛の有無を記録するのも重要です。
単純X線検査
単純X線検査は、脊椎圧迫骨折の初期評価に用いられる基本的な画像検査です。
正面像と側面像を撮影して椎体の圧潰や変形、骨粗鬆症の有無などを評価します。ただし、早期の骨折や軽度の圧潰は描出されにくいデメリットがあります。
CT検査
CT検査は、脊椎圧迫骨折の詳細な評価に有用な検査法です。
骨折線や骨片の位置、椎体の圧潰率、脊柱管内への骨片の突出などをとくに明瞭に描出できます。三次元再構成画像を用いると、より立体的な損傷の評価が可能です。
MRI検査
MRI検査は、脊椎圧迫骨折に伴う軟部組織の評価に優れた検査法です。
脊髄や神経根の圧迫、椎間板の損傷、脊椎周囲の血腫、後縦靭帯の破綻などの評価に有用で、骨折の新旧の判定や悪性腫瘍による病的骨折の鑑別にも役立ちます。
骨密度検査
骨粗鬆症が疑われる患者さんでは、骨密度検査(DXA法)を実施します。
具体的には、腰椎や大腿骨近位部の骨密度を測定して骨粗鬆症の診断と重症度の評価を行います。骨密度の低下は脊椎圧迫骨折の危険因子であり、今後の治療方針の決定にも重要な情報です。
血液検査
血液検査は、脊椎圧迫骨折の原因検索や全身状態の評価のために行われる検査です。
血算や生化学検査、骨代謝マーカーや腫瘍マーカーなどを測定して、貧血、電解質異常、腎機能障害、骨粗鬆症、悪性腫瘍などの有無を確認します。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の治療方法と治療薬、リハビリテーション
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の治療は、原因となる疾患や症状の程度、全身状態などを総合的に評価して決定されます。
治療方法 | 内容 |
---|---|
保存的治療 | 安静臥床、体幹装具の装着、鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs)、骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート製剤、テリパラチド)など |
経皮的椎体形成術(BKP) | 局所麻酔下で経皮的に椎体内にバルーンを挿入して圧潰した椎体を拡張した後、骨セメント(PMMA)を注入する手技 |
観血的手術 | 後方固定術、前方固定術、腫瘍切除と脊椎再建術など |
リハビリテーション | 安静臥床による合併症予防、体幹筋の訓練、離床の促進、ADLの拡大、体幹筋力の強化、姿勢指導、バランス訓練など |
保存的治療
安定した脊椎圧迫骨折では保存的治療が選択され、安静臥床と体幹装具の装着によって骨折部位の安定化と疼痛管理を行います。大体4~12週間ほど装着しますが、骨折部位の圧痛がなくなった時点で装具中止の検討が可能です。
中部胸椎および上部腰椎のVCFは胸腰仙骨装具(TLSO)で治療できますが、下部腰椎のVCFでは、適切な固定を行うために腰仙骨コルセットが必要になる場合があります。
また、樽胸や肺機能障害、肥満の患者さんでは固定が困難なケースがあります。
鎮痛薬は疼痛コントロールのために使用され、骨粗鬆症治療薬は骨粗鬆症が原因の脊椎圧迫骨折に用いられる薬です。
経皮的椎体形成術(BKP)
保存的治療で改善しない難治性の疼痛や、著明な椎体の圧潰がある際には、経皮的椎体形成術(BKP)が適応となります。
BKPは局所麻酔下で経皮的に椎体内にバルーンを挿入し、圧潰した椎体を拡張した後、骨セメント(PMMA)を注入する手技です。即時的な疼痛緩和と椎体高の回復が期待できます。
観血的手術
高度な脊柱変形や神経症状を伴う不安定型の脊椎圧迫骨折では観血的手術が検討されますが、手術の選択肢は骨折の特徴と神経学的損傷に大きく依存します。
観血的手術では、後方固定術や前方固定術によって脊椎の再建と安定化を図ります。腫瘍性の脊椎圧迫骨折では、腫瘍の切除と脊椎再建術が行われることもあります。
観血的手術は侵襲性が高いため、全身状態や予後を考慮して慎重に適応を判断しなければなりません。
リハビリテーション
脊椎圧迫骨折の治療では、早期からのリハビリテーションが重要です。
急性期には安静臥床による合併症の予防と、適度な体幹筋の訓練を行います。疼痛の改善に合わせて徐々に離床を進め、日常生活動作(ADL)の拡大を図ります。
慢性期には体幹筋力の強化や姿勢指導、バランス訓練などを行い、再骨折の予防と身体機能の維持・向上を目指します。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の治療期間と予後
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の治療期間は4週間~6カ月程度と人によって大きな幅があります。
予後は原因疾患や症状の程度などによって、良好な人もいれば、新規骨折や合併症を引き起こしやすくなる人もいます。
治療方法 | 治療期間の目安 | 予後 |
---|---|---|
保存的治療 | 4~12週間 | 多くの人が良好な経過をたどる。骨粗鬆症による圧迫骨折では治療期間が長引く傾向がある。 |
経皮的椎体形成術(BKP) | 入院1~2週間、外来通院2~3カ月 | 即時的な疼痛緩和とADLの向上が得られる。骨粗鬆症による新規骨折に注意が必要。 |
観血的手術 | 入院2~4週間、外来通院3~6カ月 | 多くの場合で良好な結果が得られる。高齢者や全身状態不良例では合併症のリスクが高い。 |
保存的治療の治療期間と予後
安定した脊椎圧迫骨折に対する保存的治療の治療期間は、通常4~12週間程度です。この間は安静臥床と体幹装具の装着を継続し、徐々に活動性を高めていきます。
骨粗鬆症による圧迫骨折では骨癒合に時間を要することが多く、治療期間が長引く傾向があります。
保存的治療の予後は損傷の程度や患者さんの全身状態によって異なりますが、症状に合った治療が行われれば多くの人で良好な経過をたどります。
経皮的椎体形成術(BKP)の治療期間と予後
BKPは即時的な疼痛緩和と椎体高の回復が期待できる手技ですが、治療後も一定期間の安静と体幹装具の装着が必要です。
通常は治療後1~2週間程度の入院加療を要し、その後も2~3カ月程度の外来通院が必要となります。
予後は良好で、多くの患者さんで疼痛の改善と日常生活動作(ADL)の向上が得られます。
ただし、骨粗鬆症が背景にある場合は新規の圧迫骨折を生じるときがあるため、継続的な骨粗鬆症治療が大切です。
観血的手術の治療期間と予後
観血的手術が必要となる重度の脊椎圧迫骨折では、術後の回復に長期間がかかる人が多いです。
手術の侵襲度によって異なりますが、通常2~4週間程度の入院加療とその後3~6カ月程度の外来通院が必要です。
手術の予後は損傷の程度や手術方法、合併症の有無などによって左右されますが、多くの人で良好な結果が得られます。
ただし、高齢者や全身状態が不良な患者さんでは合併症を併発する可能性が高くなりますので、慎重な経過観察が必要です。
日常生活動作(ADL)の予後
脊椎圧迫骨折の予後において、日常生活動作(ADL)の回復は重要な目標の一つです。
骨折の状態に合った治療とリハビリテーションを行うと、受傷前のADLレベルまで回復できる人が多いです。
ただし、高齢者や全身状態の不良な患者さんではADLの回復に時間を要するときがあり、骨折の重症度や部位によっては、ADLの回復が不完全となるケースもあります。
ADLの回復には一人ひとりに合ったリハビリテーションプログラムの立案と実施が重要で、患者さんの心理的サポートや社会的サポートも欠かせません。
再発の予後
脊椎圧迫骨折の予後において、再発の予防は重要な課題の一つです。
骨粗鬆症による脆弱性骨折ではとくに再発の可能性が高くなりますので、再発予防のための骨粗鬆症に対する適切な治療と管理が重要となります。
再発が疑われる際は、速やかに専門医の診察を受けて検査と治療を行いましょう。
再発を繰り返すと脊柱変形が進行し、日常生活動作(ADL)の低下や全身状態の悪化につながるため注意が必要です。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の薬や治療の副作用とデメリット
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の治療は症状の改善に効果的ですが、その一方で副作用やデメリットも存在します。
治療方法 | 副作用・デメリット |
---|---|
鎮痛薬 | アセトアミノフェン:肝障害 NSAIDs:胃腸障害、腎機能障害、心血管系のリスク増加 |
骨粗鬆症治療薬 | ビスホスホネート製剤:上部消化管障害、筋肉痛、関節痛、顎骨壊死(まれ) テリパラチド:注射部位の疼痛、頭痛、めまい、下肢のけいれん |
経皮的椎体形成術(BKP) | 合併症(感染、出血、セメント漏出など)、隣接椎体の新規骨折、長期的な効果や再発率に関するエビデンスの不足 |
観血的手術 | 合併症(感染、出血、神経損傷など)、長期間の入院と回復期間、高齢者や全身状態不良例では合併症のリスクが高い |
鎮痛薬の副作用
- アセトアミノフェン:大量投与により重篤な肝障害を引き起こす可能性がある。
- NSAIDs:胃腸障害、腎機能障害、心血管系のリスク増加などの副作用がある。
脊椎圧迫骨折の疼痛管理に使用されるアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の副作用には、肝障害や胃腸障害、腎機能障害などが挙げられます。
副作用は患者さんの全身状態や併用薬によって増強されるケースがありますので、定期的な診察と用量調整が必要です。
骨粗鬆症治療薬の副作用
- ビスホスホネート製剤:上部消化管障害、筋肉痛、関節痛、顎骨壊死(まれ)などの副作用がある。
- テリパラチド:注射部位の疼痛、頭痛、めまい、下肢のけいれんなどの副作用がある。
脊椎圧迫骨折の予防と治療に用いられるビスホスホネート製剤やテリパラチドには、上部消化管障害や筋肉痛、頭痛やめまいなどの副作用があります。
また、まれな例ではありますが、ビスホスホネート製剤では顎骨壊死が報告されています。
副作用が強いときは、薬剤変更や中止の検討が必要です。
経皮的椎体形成術(BKP)のデメリット
- 手技に伴う合併症(感染、出血、セメント漏出など)
- 隣接椎体の新規骨折
- 長期的な効果や再発率に関するエビデンスの不足
経皮的椎体形成術(BKP)は即時的な疼痛緩和と椎体高の回復が期待できる手技ですが、合併症や隣接椎体の新規骨折のリスクなどがある点がデメリットです。
デメリットは患者さんの全身状態や骨粗鬆症の重症度によって異なり、適応の判断には慎重な評価が必要です。
観血的手術のデメリット
- 手術侵襲による合併症(感染、出血、神経損傷など)
- 長期間の入院と回復期間を要する
- 高齢者や全身状態不良例では、合併症のリスクが高い
重度の脊椎圧迫骨折に対して有効な観血的手術は、長期入院と回復期間を要するデメリットがあります。
手術療法の適応は慎重に判断する必要があり、患者さんの年齢や全身状態、予後などの総合的な評価が重要です。
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)の治療費と保険適用について
脊椎圧迫骨折(椎体圧迫骨折)治療費は治療内容や期間によって大きな差がありますが、ほとんどの場合で健康保険の適用対象となります。
保険適用になる治療
- 診察や検査などの診断に関わる医療行為
- 安静臥床や体幹装具の処方などの保存的治療
- 鎮痛薬や骨粗鬆症治療薬などの薬物療法
- 理学療法や作業療法などのリハビリテーション
脊椎圧迫骨折の検査や治療は、原則として健康保険の適用対象です。
治療を受ける際は、医療機関の窓口で保険証を提示することで自己負担分のみの支払いで済みます。通常の自己負担分は、医療費の10~30%です。
保険適用外の治療
- 先進医療として認められていない最新の治療法(例:一部の経皮的椎体形成術)
- 美容目的の治療(例:骨粗鬆症の予防目的の薬物療法)
- 自費診療として設定されている特別な検査や治療
- 入院時の差額ベッド代や、病衣レンタル代の付加的なサービス
多くの治療が保険適用になる一方で、保険適用外となる治療もあります。保険適用外の治療を受ける場合は、全額が自己負担です。
1カ月あたりの治療費の目安
治療内容 | 保険適用 | 1カ月あたりの自己負担額の目安 |
---|---|---|
保存的治療 | あり | 5,000~10,000円程度 |
薬物療法 | あり | 5,000~20,000円程度 |
リハビリテーション | あり | 10,000~30,000円程度 |
経皮的椎体形成術 | 一部あり | 10,000~50,000円程度 |
観血的手術 | あり | 50,000~200,000円程度 |
ただし、これはあくまでも目安であり、実際の治療費は医療機関や治療内容によって異なります。
1カ月あたりの治療費が高額になった際には、高額療養費制度※2が受けられます。
※2高額療養費制度:1カ月の医療費の支払いが上限額を超えた際に、超過分が払い戻される制度。上限額は年齢や所得に応じて異なる。
高額療養費制度については各自治体へ、詳しい治療内容や治療費については各医療機関へお問い合わせください。
参考文献
Old JL, Calvert M. Vertebral compression fractures in the elderly. American family physician. 2004 Jan 1;69(1):111-6.
McCARTHY JA, Davis A. Diagnosis and management of vertebral compression fractures. American family physician. 2016 Jul 1;94(1):44-50.
Alexandru D, So W. Evaluation and management of vertebral compression fractures. The permanente journal. 2012;16(4):46.
Silverman SL. The clinical consequences of vertebral compression fracture. Bone. 1992 Jan 1;13:S27-31.
Hoyt D, Urits I, Orhurhu V, Orhurhu MS, Callan J, Powell J, Manchikanti L, Kaye AD, Kaye RJ, Viswanath O. Current concepts in the management of vertebral compression fractures. Current Pain and Headache Reports. 2020 May;24:1-0.
Wong CC, McGirt MJ. Vertebral compression fractures: a review of current management and multimodal therapy. Journal of multidisciplinary healthcare. 2013 Jun 17:205-14.
Goldstein CL, Chutkan NB, Choma TJ, Orr RD. Management of the elderly with vertebral compression fractures. Neurosurgery. 2015 Oct 1;77:S33-45.
McKiernan F, Jensen R, Faciszewski T. The dynamic mobility of vertebral compression fractures. Journal of Bone and Mineral Research. 2003 Jan 1;18(1):24-9.
Lau E, Ong K, Kurtz S, Schmier J, Edidin A. Mortality following the diagnosis of a vertebral compression fracture in the Medicare population. JBJS. 2008 Jul 1;90(7):1479-86.
Parreira PC, Maher CG, Megale RZ, March L, Ferreira ML. An overview of clinical guidelines for the management of vertebral compression fracture: a systematic review. The Spine Journal. 2017 Dec 1;17(12):1932-8.