大腸憩室炎

大腸憩室炎(Colonic diverticulitis)とは、大腸の一部が袋状に飛び出してできた憩室に細菌が侵入し、炎症が引き起こされる病気です。

下腹部の痛みや発熱、吐き気などさまざまな症状が現れ、重症化すると腸管穿孔や膿瘍形成などの合併症を引き起こす可能性もあります。

中高年の方に多く見られる疾患ですが、近年は食生活の欧米化に伴い、若年層でも増加傾向にあります。

目次

大腸憩室炎の病型

大腸憩室炎は発生部位によって左側型、右側型、両側型の3つの病型に分類されます。

左側型大腸憩室炎

左側型大腸憩室炎は、S状結腸や下行結腸など大腸の左側に憩室が発生し、炎症を起こした状態を指します。

この病型は大腸憩室炎の中で最も一般的であり、60〜70%を占めています。

発生部位頻度
S状結腸60%
下行結腸10%

右側型大腸憩室炎

右側型大腸憩室炎は、上行結腸や盲腸など大腸の右側に憩室が発生し、炎症を起こした状態です。

この病型は欧米では比較的まれですが、アジア諸国では多く見られます。

  • 盲腸に発生する頻度が高い
  • 若年者に多い傾向がある
  • 虫垂炎との鑑別が重要

両側型大腸憩室炎

両側型大腸憩室炎は、大腸の左右両側に憩室が発生し、炎症を起こした状態を指します。左側型と右側型の特徴を併せ持っており、診断や治療に注意が必要です。

大腸憩室炎の症状

大腸憩室炎の主要な症状は、左下腹部の疼痛や圧痛、発熱、嘔気・嘔吐などが挙げられます。

左下腹部の痛みと圧痛

大腸憩室炎の特徴的な症状として、左下腹部に限局した疼痛や圧痛が知られています。この痛みは急激に始まり、持続的で強い痛みになりやすい傾向です。

症状特徴
痛みの部位左下腹部
痛みの性質急激で持続的、激しい

発熱

大腸憩室炎では、炎症反応によって発熱が起こる場合があります。発熱は38℃以上が多く、炎症の強さを反映しているといえます。

吐き気・嘔吐

腹部の炎症が原因で、吐き気や嘔吐が生じます。特に腸管の炎症が強いときには、これらの症状が認められるケースが多いです。

その他の症状

  • 腹部膨満感
  • 便秘や下痢
  • 血便
  • 食欲不振

大腸憩室炎の原因

大腸憩室炎は、大腸壁にできた憩室と呼ばれる小さな袋状の突出部に便などが詰まり、炎症を起こす病気です。

高齢化や食生活の変化に伴い、憩室炎の患者数は増加傾向にあります。

大腸憩室の形成

大腸憩室は、大腸の壁が脆弱化し、袋状に突出することで形成されます。

要因説明
加齢加齢に伴い、大腸壁の筋層が徐々に脆弱化する
低繊維食食物繊維不足により、便が硬くなり大腸壁に負担がかかる

大腸壁に過度の圧力がかかると、もろくなった部分が袋状に飛び出し、憩室ができあがるのです。

憩室炎の発症メカニズム

形成された憩室内に便が詰まると、細菌が増殖し炎症を引き起こします。

  • 憩室内の便の停滞
  • 細菌の増殖
  • 炎症の発生

危険因子

以下のような因子が、大腸憩室炎の発症リスクを高めると考えられています。

因子説明
肥満腹腔内圧の上昇により、大腸壁への負担が増大
喫煙血流の低下や炎症の促進により、憩室炎のリスクが上昇

遺伝的素因

大腸憩室炎は、家族内発症が多いため、遺伝的な素因も関与している可能性があります。

大腸憩室炎の検査・チェック方法

大腸憩室炎の診断では、問診や触診に加え、血液検査、腹部CT検査、腹部超音波検査、注腸造影検査、大腸内視鏡検査などが行われます。

身体所見

お腹を触診すると、多くの症例で左下腹部に圧痛や反跳痛を認めます。また、しばしば発熱を伴います。

所見頻度
左下腹部の圧痛高い
反跳痛高い
発熱中程度

血液検査

炎症反応の上昇(白血球増多、CRP上昇)を認めます。

検査項目所見
白血球数増加
CRP上昇

画像検査

  • 腹部CT検査:憩室周囲の炎症所見や膿瘍形成の有無を評価できます。確定診断に有用です。
  • 下部消化管内視鏡検査:憩室の存在と炎症所見を直接観察できます。ただし急性期は穿孔のリスクがあるため避けるべきです。

臨床診断と確定診断

臨床所見と血液検査で大腸憩室炎を疑い、画像検査で確定診断します。特に腹部CTは最も有用な検査であり、感度・特異度ともに高いことが知られています。

大腸憩室炎の治療方法と治療薬について

大腸憩室炎の治療は抗菌薬の投与や安静を中心とした保存療法が基本となりますが、重症の場合は外科手術が必要になるケースもあります。

抗菌薬治療

大腸憩室炎の治療で最初に選択されるのは、抗菌薬の投与です。軽症のケースではセフェム系やペニシリン系の内服抗菌薬が使われます。

中等症以上のときは、入院して広域スペクトラムの抗菌薬の点滴治療が行われます。

軽症中等症以上
内服抗菌薬点滴抗菌薬
セフェム系、ペニシリン系広域スペクトラム

安静と食事療法

抗菌薬治療と同時に、腸を休ませることが大切です。絶食や低残渣食で腸への負担を減らし、炎症の改善を促進します。

症状が落ち着いてきたら、徐々に食事を再開していきます。

外科的治療

以下のような重症例や合併症を伴うケースでは、外科手術が検討されます。

  • 腹膜炎を合併した穿孔性憩室炎
  • 膿瘍形成を伴う憩室炎
  • 保存療法で改善しない難治性の憩室炎

手術では、病変部の大腸切除や人工肛門造設などが実施されます。

大腸憩室炎の治療期間と予後

大腸憩室炎の治療期間は、軽症の場合は抗生剤の内服で1週間程度、中等症の場合は入院して絶食と抗生剤の点滴で1~2週間程度が目安です。重症の場合は手術が必要となり、入院期間は長引く可能性があります。

治療を受ければ予後は一般的に良好ですが、再発の可能性もあります。

治療期間の目安

大腸憩室炎の治療期間は患者の状態や重症度によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

重症度治療期間
軽症2~3週間
中等症3~4週間
重症4週間以上

軽症では抗菌薬の投与と食事療法で2~3週間程度で良くなるケースが多いです。一方、中等症や重症では入院治療が必要になる可能性もあり、治療期間が長引く傾向にあります。

合併症の有無による治療期間の違い

大腸憩室炎では、以下のような合併症を伴う場合があり、合併症の有無によって治療期間が変わってきます。

  • 穿孔
  • 膿瘍形成
  • 瘻孔形成
  • 狭窄

合併症がある場合は外科的治療が必要となり、治療期間は長くなる傾向です。たとえば、膿瘍形成を伴うときは抗菌薬投与に加えてドレナージ術が必要となり、治療期間は4週間以上になります。

再発リスクと予防

大腸憩室炎は再発リスクが高い疾患であり、初回発症後の再発率は30~40%前後とされています。再発を予防するためには、以下のような生活習慣の改善が大切です。

  • 食物繊維の摂取
  • 十分な水分補給
  • 適度な運動
  • 便秘の予防

再発を繰り返すときは、予防的な抗菌薬の長期投与や外科的治療を検討する必要があります。

予後

大腸憩室炎の予後は、治療を受けることで良好なものとなります。しかし、重症例や合併症を伴う場合は治療に難渋する場合もあり、予後不良となるリスクが高くなります。

予後割合
良好80~90%
不良10~20%

薬の副作用や治療のデメリットについて

大腸憩室炎の薬の副作用としては、抗生剤による下痢やアレルギー反応が挙げられます。

抗菌薬による副作用

大腸憩室炎の治療に使用される抗菌薬は、腸内細菌叢のバランスを崩してしまう可能性があります。そのため、下痢や腹部不快感といった消化器症状が起こるリスクがあります。

また、アレルギー反応を引き起こし、発疹や呼吸困難などの症状が現れる可能性もあります。

抗菌薬の種類主な副作用
ペニシリン系アレルギー反応、下痢
セファロスポリン系下痢、腹部不快感

外科的治療のリスク

  • 出血
  • 感染
  • 術後の癒着

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

大腸憩室炎の治療は保険適用となります。治療費は症状の程度や入院の有無、手術の必要性などによって異なりますが、高額療養費制度を利用できる場合があります。

検査費の目安

  • 血液検査 3,000円~5,000円
  • CT検査 15,000円~20,000円

処置費の目安

  • 抗菌薬投与 5,000円~10,000円
  • 内視鏡的ドレナージ 30,000円~50,000円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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