腸結核

腸結核(Intestinal tuberculosis)とは、結核菌によって腸に炎症や潰瘍ができる病気です。結核菌は通常、肺に感染しますが、まれなケースとして腸や腹膜にも感染します。

腸結核の典型的な症状には、腹痛、下痢、体重減少、発熱などがあり、これらの症状が現れるまでには数週間から数ヶ月を要する場合もあります。

免疫力が低下している人や、既に結核菌に感染している人は腸結核を発症するリスクが高いため、腸結核を早期に発見と対処が極めて重要です。ただし、症状が非特異的であるため診断が困難な場合もあります。

目次

腸結核の病型

腸結核は、潰瘍型、腫瘤形成型、混合型の3つの病型に分類されます。

潰瘍型

潰瘍型は腸結核の中で最も一般的な病型です。腸管壁に潰瘍が形成されるのが特徴で、潰瘍は輪状あるいは帯状に広がる病態が多いです。

また、潰瘍が腸管の長軸方向に沿って多発するケースもあります。

潰瘍の形状特徴
輪状潰瘍腸管の輪状に形成
帯状潰瘍腸管の長軸方向に沿って形成

腫瘤形成型

腫瘤形成型は、腸管壁の肥厚や狭窄を伴う病型です。 腫瘤は単発または多発し、腸管の狭窄や閉塞を引き起こします。

腫瘤形成型は、腸結核の中でも比較的まれな病型とされています。

混合型

混合型は潰瘍型と腫瘤形成型の特徴を併せ持つ病型で、腸管壁に潰瘍と腫瘤が混在して認められるのが特徴です。

混合型は、潰瘍型と腫瘤形成型のどちらかが優位な場合もあれば、両者がほぼ同等に認められる場合もあります。

病型特徴
潰瘍優位型潰瘍が主体で腫瘤が少ない
腫瘤優位型腫瘤が主体で潰瘍が少ない
同等型潰瘍と腫瘤がほぼ同等

腸結核の症状

腸結核において見られる主要な症状は、長期にわたる下痢、腹部の痛み、顕著な体重の減少、微熱などです。

これらの症状は腸結核に特有のものではなく、他の多くの消化器疾患でも見られるため、診断が難しい場合があります。

慢性的な下痢

腸結核に罹患している患者さんの多くは、慢性的な下痢に悩まされます。下痢は数週間から数ヶ月続き、時に血便を伴う場合もあります。

症状詳細
下痢数週間から数ヶ月続く慢性的な下痢
血便下痢に血液が混ざる場合がある

腹痛

腸結核は腹部の不快感や痛みを引き起こす場合があります。痛みは腹部全体に広がることもあれば、特定の部位に限局することもあります。

体重減少

慢性的な下痢や食欲不振により、体重の著しい減少がよくみられます。急激な体重減少は腸結核の重要な兆候の一つと考えられています。

症状詳細
体重減少慢性的な下痢や食欲不振により起こる
栄養不良体重減少に伴い栄養状態が悪化する

発熱

腸結核患者の多くに発熱がみられます。通常37.5℃から38℃程度ですが、時に高熱を伴う場合もあります。

腸結核の原因

腸結核が発症する主な原因は、結核菌による感染です。

結核菌による感染

結核菌は空気感染によって体内に侵入し、肺などの呼吸器に感染することが一般的ですが、結核菌が血流やリンパ流に乗って腸管に到達すると、腸結核を引き起こす場合があります。

感染経路詳細
空気感染結核菌を含む飛沫核の吸入
血行性感染肺結核から血流に乗って腸管へ
リンパ行性感染腸間膜リンパ節からリンパ流に乗って腸管へ

免疫力の低下

結核菌に感染しても、健康な人の場合は免疫システムが結核菌の増殖を抑えるため、発症しない場合が多いです。

しかし、以下のような状況で免疫力が低下した際には、結核菌が活発に増殖し腸結核を発症するリスクが高まります。

  • HIV感染症
  • 免疫抑制剤の使用
  • 高齢者
  • 栄養不良

腸管への直接感染

まれに、結核菌に汚染された食物や水を介して、直接腸管に感染するケースもあります。この場合、結核菌が口から入り、消化管を経由して腸管に到達し、感染を引き起こします。

感染源感染経路
汚染された食物口 → 消化管 → 腸管
汚染された水口 → 消化管 → 腸管

既感染者からの再活性化

過去に結核に感染したことがある人の体内では、結核菌が休眠状態で潜伏している場合があります。

免疫力が低下したときにこれらの潜伏している結核菌が再活性化し、腸結核を発症する可能性があります。

腸結核の検査・チェック方法

腸結核の検査・チェック方法には、血液検査、注腸X線造影、大腸内視鏡検査、細菌学的検査などがあり、総合的に判断されます。

病歴聴取・身体診察

腹痛や下痢、体重が減少するといった症状がないかを確認します。また、過去に結核にかかったことがあるのか、結核の患者さんと接触したことがあるのかについても確認します。

身体診察では、お腹を触診して圧痛や腫れものがないかを調べます。

病歴聴取身体診察
症状の確認腹部の圧痛
結核の既往歴腫瘤の有無

画像検査

お腹のレントゲン検査やCT検査を行い、腸の壁が厚くなっていたり、狭くなっていたり、リンパ節が腫れていたりしないかを確認します。

また、小腸造影検査では、小腸が狭くなっていたり、潰瘍や瘻孔ができていたりする所見が見つかることもあります。

内視鏡検査

大腸内視鏡検査では、回盲部や上行結腸に潰瘍や狭窄、瘻孔などの所見がないかを確認します。また、生検を行い、病理組織学的検査により肉芽腫性炎症があるかどうかを調べられます。

検査方法目的
大腸内視鏡検査潰瘍や狭窄、瘻孔の有無を確認
生検肉芽腫性炎症の有無を確認

細菌学的検査

  • 喀痰検査
  • 糞便検査
  • 生検組織の検査

痰や便、生検で採取した組織などの検体を用いて、結核菌の塗抹検査や培養検査、PCR検査を行います。これらの検査で結核菌が検出されれば、腸結核の確定診断となります。

腸結核の治療方法と治療薬について

腸結核の治療は、抗結核薬の服用が中心となります。

抗結核薬による治療

腸結核の治療では、イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、エタンブトール(EB)の4剤を組み合わせて使用するのが一般的です。

最初の2ヶ月間はこの4剤を服用し、その後の4ヶ月間はINHとRFPの2剤を服用するのが標準的な治療方法とされています。

薬剤名略称
イソニアジドINH
リファンピシンRFP
ピラジナミドPZA
エタンブトールEB

外科的治療

腸閉塞や穿孔などの合併症が生じた際には、外科的治療が必要となる場合があります。手術では、病変部の切除や狭窄部の拡張などの処置が行われます。

腸結核の治療期間と予後

腸結核の治療は一般的に6〜9ヶ月を要しますが、治療を受ければ予後は良好です。

治療期間

腸結核の治療の基本は、抗結核薬による化学療法です。 治療期間は通常6〜9ヶ月とされますが、病変の広がりや重症度により個人差が生じます。

病変の程度治療期間
軽症6ヶ月
中等症6〜9ヶ月
重症9ヶ月以上

予後

腸結核は早期発見・治療を行えば一般に予後良好で、 治療により90%以上の患者が治癒するとの報告があります。

ただし免疫力が低下している患者や治療開始が遅れたケースでは、合併症のリスクが高まる可能性があるため注意が必要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

腸結核の薬の副作用には、肝機能障害、視力障害、聴力障害などがあります。

抗結核薬の副作用

抗結核薬の服用により、肝機能障害、視神経障害、末梢神経障害などの副作用が生じるおそれがあります。

副作用症状
肝機能障害食欲不振、嘔気、黄疸
視神経障害視力低下、中心暗点

薬剤耐性結核菌の出現リスク

不適切な治療や服薬の中断により、薬剤耐性結核菌が出現するリスクがあります。薬剤耐性結核菌への感染は治療を困難にし、予後を悪化させるおそれがあるため、注意が必要です。

合併症の発生リスク

腸結核の治療中は、以下のような合併症が発生するリスクがあります。

  • 腸穿孔
  • 腸閉塞
  • 腹膜炎
合併症リスク因子
腸穿孔高度な炎症、潰瘍形成
腸閉塞瘢痕狭窄、癒着

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

腸結核は感染症法に基づき、原則として医療費公費負担制度が適用され、自己負担は軽減されます。ただし、一部自己負担となる検査や薬剤もあります。

保険適用されるもの

  • 入院費
  • 医師の診察費
  • 抗結核薬
  • 手術費用
  • 検査費用(一部自己負担となる場合あり)

自己負担となる可能性があるもの

  • 差額ベッド代
  • 食事療養費
  • 抗結核薬以外の薬剤(副作用を抑える薬など)
  • 一部検査費用(例:CT検査の一部など)

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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