腸重積症

腸重積症(Intussusception)とは、腸管の一部分が隣接する腸管内に入り込み、重なり合ってしまう状態を言います。

このような状況が続くと、腸管の血流が悪くなり、壊死してしまう危険性が高まります。腸重積症は乳幼児に多く見られる疾患ではありますが、成人で発症する場合もあります。

主な症状としては激しい腹痛、嘔吐、血便などが挙げられ、早期発見・早期治療が大切な疾患です。

目次

腸重積症の病型

腸重積症は、主に回腸結腸型、回腸回腸結腸型、小腸小腸型、結腸結腸型の4つの病型に分類されます。

回腸結腸型(ileocolic type)

回腸結腸型は腸重積症の中で最も多く見られる病型で、回腸の末端部分が結腸に入り込むことにより発症します。

回腸回腸結腸型(ileoileocolic type)

回腸回腸結腸型は回腸の一部が回腸末端部を伴って結腸に入り込む病型であり、回腸結腸型に次いで多く見られるものです。

小腸小腸型(enteroenteric type)

小腸小腸型は小腸の一部が別の小腸の部位に入り込む病型で、比較的まれな病型だと考えられています。小腸小腸型は空腸空腸型と回腸回腸型に分けられます。

  • 空腸空腸型
  • 回腸回腸型

結腸結腸型(colocolic type)

結腸結腸型は結腸の一部が別の結腸の部位に入り込む病型であり、全体の約5%程度と報告されているまれな病型です。

腸重積症の症状

腸重積症の主要な症状としては、腹痛(特に周期的な激しい痛み)、嘔吐、血便、腹部腫瘤などが挙げられます。

間欠的な腹痛

腸重積症を発症すると、突如として激烈な腹痛が起こります。痛みは間欠的であり、数分から数十分持続した後、一時的に収まるのが特徴です。

痛みが収まったあと、再び痛みが繰り返し起こってくるのが典型的な症状と言えます。

症状特徴
腹痛突然の激しい痛み
間欠性数分から数十分続く

嘔吐

腸閉塞が原因で、嘔吐が生じる場合もあります。症状が進行すると嘔吐の頻度が増加し、脱水や電解質異常を引き起こす危険性があります。

血便

腸重積症が原因で腸管の一部が壊死に陥ったときには、血便が確認されることがあります。血便は、鮮血や暗赤色の血液が混ざった便として排出されます。

症状特徴
血便鮮血や暗赤色の血液混じりの便
重症度腸管壊死の警告サイン

その他の症状

  • 腹部膨満感
  • 体重減少
  • 発熱
  • 不機嫌

腸重積症の原因

腸重積症は、腸管が別の腸管に入り込み発症する、腸や腹膜の疾患の一種です。

原因は乳幼児では不明なことが多いですが、ウイルス感染後のリンパ節腫脹などが誘因として考えられ、成人ではポリープや腫瘍など腸管病変が原因となる場合があります。

ウイルス感染

ロタウイルスやアデノウイルスなどのウイルスは腸管のリンパ組織を肥大させ、腸重積症を引き起こす場合があります。

先天性疾患

ヒルシュスプルング病や腸回転異常症などの先天性疾患は、腸管の構造や機能に異常をきたし、腸重積症を引き起こす可能性があります。

腫瘍

良性腫瘍(ポリープなど)や悪性腫瘍(リンパ腫など)が腸管内に存在すると、腸管の嵌入が起こりやすくなります。

外傷や手術

  • 腹部外傷
  • 虫垂切除術
  • 腸管切除術

腹部外傷や腹部手術後は、腸重積症のリスクが高まります。 これらの要因は、腸管の癒着や瘢痕形成を引き起こし、腸重積症を発症させる可能性があります。

腸重積症の検査・チェック方法

腸重積症の特徴的な症状がみられる場合、超音波検査や注腸造影検査を用いて診断を確定させていきます。

症状の確認

症状特徴
腹痛激しい間欠的な痛み
嘔吐頻繁に見られる
血便ゼリー状の血便

特にゼリー状の血便は、腸重積症を疑う上で重要な手がかりです。 お子さんの場合は不機嫌になったり、激しく無く、活気がなくなるなどの現象もみられます。

身体検査

腸重積が進行した状態では、腹部が板のように硬くなり、圧痛を伴います。 直腸診を行うと、血液の付着や腫瘤を触れることもあります。

画像検査

  • 腹部超音波検査
  • 腹部単純X線検査
  • 腹部CT検査(必要に応じて)

腹部超音波検査で「ターゲットサイン」や「偽腎臓サイン」と呼ばれる特徴的な所見が確認できれば、診断の確実性が高まります。

腹部単純X線検査では、腸管の拡張や腹腔内遊離ガス像が認められる場合もあります。

検査方法所見
腹部超音波検査ターゲットサイン、偽腎臓サイン
腹部単純X線検査腸管拡張、腹腔内遊離ガス像

確定診断

画像検査によって腸重積の存在が確認されれば、確定診断となります。

第一に選択されるのは腹部超音波検査ですが、診断が難しいケースでは腹部CT検査が行われる場合もあります。

腸重積症の治療方法と治療薬について

腸重積症の治療は、主に乳幼児では高圧浣腸による整復が第一選択です。効果がない場合や成人の場合は、外科手術が必要となります。

非観血的整復術

多くのケースで、まず非観血的整復術が選択されます。この治療法は、エコーやX線透視下でお尻から空気や生理食塩水を入れ、腸管を元の位置に戻すことを目指します。

治療法概要
空気注入法お尻からチューブを入れ、空気を注入して整復する
生理食塩水注入法お尻からチューブを入れ、生理食塩水を注入して整復する

発症から24時間以内に非観血的整復術を行った場合、70〜90%の高い成功率が期待できます。

外科的治療

もし非観血的整復術がうまくいかなかったり、腸管の壊死、穴があく、腹膜炎などの合併症が見つかったりした場合は、手術による治療が必要です。

手術では、重なり合った腸管を手作業で元に戻し、壊死した腸管があれば取り除きます。

手術方法概要
開腹手術おなかを切開し、直接腸管を整復する
腹腔鏡下手術腹腔鏡を使って、小さな切開口から腸管を整復する

薬物療法

腸重積症の治療では、薬による治療は補助的な役割を果たします。 主に、以下のような種類の薬が使われます。

  • 鎮痛剤:おなかの痛みを和らげるために使用
  • 抗生物質:腸管壊死や穴があくことによる感染予防のために使用
  • 緩下剤:腸管の圧力を下げたり、便を出しやすくしたりするために使用

腸重積症の治療期間と予後

腸重積症の治療期間は、高圧浣腸による整復が成功した場合、入院期間は数日で済みます。ただし、手術が必要な場合や合併症がある場合は数週間かかる場合もあります。

予後は早期発見・治療により良好ですが、再発の可能性や、稀に腸管壊死などの合併症のリスクも考慮する必要があります。

治療期間

腸重積症の治療期間は、重症度や合併症の有無によって異なりますが、一般的に数日から1週間程度です。

軽症のケースでは非観血的整復術で改善する場合が多く、治療期間は比較的短くなります。

重症度治療期間
軽症数日
中等症1週間程度
重症2週間以上

一方、重症例や合併症を伴うときは外科的治療を要するため、治療期間が長引く可能性があります。

予後

腸重積症の予後は、早期発見と治療が行われれば良好です。非観血的整復術で改善した際は再発のリスクは低く、長期的な予後も良好とされます。

しかし、重症例や合併症を伴うケース、特に腸管壊死や穿孔を起こしたときは、予後が悪化する可能性があります。

再発予防

腸重積症の再発予防には、以下の点に注意が必要です。

  • 経過観察
  • 再発リスクの高い基礎疾患の管理
  • 予防接種の徹底

特に、乳幼児では再発リスクが高いため、注意深い経過観察が大切です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

腸重積症の治療における高圧浣腸では、稀に腸穿孔のリスクがあります。

外科手術では一般的な手術のリスク(出血、感染など)に加え、腸管切除が必要な場合は、術後の腸閉塞や短腸症候群のリスクを伴います。

非侵襲的治療の副作用とリスク

初期治療として行われる高圧浣腸や空気注入療法は、比較的安全な手法です。しかし、まれに腸管穿孔などの合併症を引き起こす場合があります。

外科的治療の副作用とリスク

外科的治療では、以下のような副作用やリスクが伴います。

  • 術後の感染症
  • 腸閉塞
  • 癒着性イレウス
  • 術後の出血

再発のリスク

腸重積症は、一度発症すると再発する可能性があります。 特に乳幼児期に発症した場合は再発のリスクが高くなります。

長期的な影響

腸重積症の治療後も、腸管の癒着や狭窄などの後遺症が残ることがあります。これらの後遺症は、慢性的な腹痛や便秘などの症状を引き起こす可能性があります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

腸重積症の治療は保険適用となります。高圧浣腸による整復の場合、入院期間や検査内容によって異なりますが、数万円程度が一般的です。

乳幼児の場合は、乳幼児医療費助成制度により自己負担額がカバーされます。

初診料と再診料

腸重積症の診断や治療のために病院を受診する際には、初診料や再診料が必要です。初診料は2,820円から5,000円ほど、再診料は730円から1,500円ほどが一般的な金額の範囲です。

種類金額
初診料2,820円~5,000円
再診料730円~1,500円

検査費と処置費の目安

超音波検査やCT検査などの画像検査費用は数万円から10万円以上かかる場合もあります。また、非観血的整復術や手術などの処置が必要だと判断された場合は、別途処置費が発生します。

入院費

腸重積症の治療で入院が必要と判断されたケースでは、入院費がかかります。入院費は1日あたり1万円から3万円程度が一般的な金額の目安です。

項目金額
入院基本料(1日あたり)1万円~3万円
食事療養費(1食あたり)360円~460円

以上

参考文献

WASEEM, Muhammad; ROSENBERG, Henrietta Kotlus. Intussusception. Pediatric emergency care, 2008, 24.11: 793-800.

AZAR, Taraneh; BERGER, David L. Adult intussusception. Annals of surgery, 1997, 226.2: 134-138.

JIANG, James, et al. Childhood intussusception: a literature review. PloS one, 2013, 8.7: e68482.

AGHA, Farooq P. Intussusception in adults. American Journal of Roentgenology, 1986, 146.3: 527-531.

SORANTIN, Erich; LINDBICHLER, Franz. Management of intussusception. European Radiology Supplements, 2004, 14: L146-L154.

HONJO, Hirotaka, et al. Adult intussusception: a retrospective review. World Journal of Surgery, 2015, 39: 134-138.

BEGOS, Dennis G.; SANDOR, Andras; MODLIN, Irvin M. The diagnosis and management of adult intussusception. The American Journal of Surgery, 1997, 173.2: 88-94.

YAKAN, Savas, et al. Intussusception in adults: clinical characteristics, diagnosis and operative strategies. World journal of gastroenterology: WJG, 2009, 15.16: 1985.

DONHAUSER, J. Lewi; KELLY, Emerson Crosby. Intussusception in the adult. The American Journal of Surgery, 1950, 79.5: 673-677.

BYRNE, A. T., et al. The imaging of intussusception. Clinical radiology, 2005, 60.1: 39-46.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次