急性腸間膜動脈閉塞症

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう, Acute mesenteric arterial occlusion)とは、腸間膜動脈の突然の閉塞により引き起こされる疾患です。

腸間膜動脈は、腸管に血液を供給する重要な動脈であるため、この動脈が閉塞すると腸管が壊死してしまう危険性があります。

急性腸間膜動脈閉塞症はまれな疾患ですが、発症した場合、致死率が非常に高くなります。そのため、早期発見と迅速な対応が求められる疾患だと言えます。

目次

急性腸間膜動脈閉塞症の病型

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)は、大きく分けると2つのタイプに分類されます。

急性腸間膜動脈塞栓症と急性腸間膜動脈血栓症

急性腸間膜動脈閉塞症の主なタイプには、「急性腸間膜動脈塞栓症」と「急性腸間膜動脈血栓症」があります。

急性腸間膜動脈塞栓症は、心臓や大動脈から飛んできた血栓が、腸間膜動脈を突然詰まらせることによって起こります。

塞栓源割合
心臓60-70%
大動脈30-40%

それに対し、急性腸間膜動脈血栓症は、腸間膜動脈の動脈硬化が進んだ結果、血管の中で血栓ができて発症します。

危険因子
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 高脂血症

非閉塞性腸管虚血(NOMI)

一方、このような血管の閉塞が原因となる腸管虚血とは別に、腸間膜の主要な血管に詰まりがないのに急性の腸管虚血が起こる場合があり、これを非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)といいます。

NOMIは全身の血液循環が悪くなったために腸管への血流が減少することで起こり、急性腸間膜動脈閉塞症の1-2割を占めていると考えられています。

急性腸間膜動脈閉塞症の症状

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)の症状は、突然の激しい腹痛で始まり、進行すると嘔吐、血便、腹部膨満などを伴います。

症状の特徴

  • 腹痛の程度は非常に強く、我慢できないほどになる場合もある
  • 吐き気や嘔吐も高頻度で認められる
  • 腹部膨満感を伴う

急性腸間膜動脈閉塞症は致死率の高い重篤な疾患であり、これらの症状を認めた場合は、速やかな診断と治療開始が求められます。

突発的で激しい腹痛

急性腸間膜動脈閉塞症の最も特徴的な症状は、突然発症する激烈な腹痛です。腸管の血流が遮断されるために引き起こされ、腹部全体に広がることが多いです。

痛みの程度は非常に強く、我慢できないほどになる場合もあります。

症状特徴
腹痛突発的で激しい
吐き気・嘔吐頻繁に伴う

吐き気・嘔吐

急性腸間膜動脈閉塞症では、激しい腹痛に加えて吐き気や嘔吐も高頻度で認められます。

腸管の虚血によって引き起こされる消化器症状の一つであり、腹痛と同様に重要な症状と言えます。

腹部膨満感

急性期には、腸管内のガスや液体貯留によって腹部膨満感を伴います。これは、腸管蠕動運動の低下や麻痺によって生じる症状の一つです。

ショック症状

重症例では、循環不全によるショック症状を呈する場合があります。

急性腸間膜動脈閉塞症は致死率の高い疾患であり、ショック症状を呈した場合は予後不良であることが知られています。

急性腸間膜動脈閉塞症の原因

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)が発症する主な原因は、血栓や塞栓による動脈の閉塞です。腸間膜動脈の血流が突如として遮断されるために発症します。

原因の大部分は、動脈硬化による血栓形成と、心臓や大動脈からの塞栓症です。血管炎や腫瘍などの圧迫も原因となり得ますが、頻度としてはまれです。

動脈硬化のリスク因子を持つ高齢の方や、心房細動などの塞栓源となる疾患のある方は、この疾患を発症するリスクが高いと考えられます。

動脈硬化による血栓形成

動脈硬化が進行すると、動脈壁にコレステロールなどの脂質が蓄積し、血管内腔が狭くなっていきます。このような状態では血流が滞りやすくなり、血液凝固系が活性化されて血栓が形成されやすくなるのです。

腸間膜動脈に発生する血栓の多くは、この動脈硬化を基盤として発生します。

危険因子概要
高血圧血管壁へのダメージを引き起こす
脂質異常症動脈壁へのコレステロール蓄積を促進
喫煙血管収縮と血液凝固能亢進を誘発

塞栓症による動脈閉塞

心房細動などの不整脈や、大動脈瘤、心臓弁膜症などの疾患があると、心臓内や大動脈内で血栓が形成されやすくなります。

これらの血栓が剥がれて遊離し、血流に乗って飛散したものを塞栓子と呼びます。塞栓子が腸間膜動脈を閉塞すると、急性腸間膜動脈閉塞症が発症するのです。

塞栓源頻度
心房細動40-50%
心筋梗塞20-30%
大動脈瘤10-20%

血管炎による動脈閉塞

頻度は高くありませんが、血管炎によって腸間膜動脈の炎症と閉塞を来す場合があります。血管炎とは、血管壁の炎症性疾患の総称であり、血管壁の肥厚や狭窄を引き起こします。

結節性多発動脈炎、バージャー病、川崎病などが知られていますが、これらの疾患の血管炎が腸間膜動脈に及ぶと、急性腸間膜動脈閉塞症を発症します。

圧迫による動脈閉塞

腹部大動脈瘤や後腹膜腫瘍などの腹腔内の占拠性病変が、腸間膜動脈を圧迫することがあります。圧迫によって動脈が閉塞すると、これも急性腸間膜動脈閉塞症の原因となります。

ただし腫瘍などによる圧迫は比較的ゆっくりと進行するため、側副血行路が発達して血流が代償される場合が多く、必ずしも急性の症状を呈するとは限りません。

急性腸間膜動脈閉塞症の検査・チェック方法

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)の検査・チェック方法は、主に造影CTや血管造影などの画像診断で行い、血液検査で腸管虚血の程度を評価します。

血液検査

急性腸間膜動脈閉塞症では、以下のような血液検査の異常所見がみられます。

  • 白血球増多
  • CRP上昇
  • 代謝性アシドーシス
  • 乳酸値上昇
  • D-ダイマー上昇

ただし、これらの所見は他の急性腹症でも認められるため、確定診断とはなりません。

画像検査

急性腸間膜動脈閉塞症の確定診断には、以下の画像検査が有効です。

  1. 造影CT検査
    • 腸間膜動脈の閉塞や狭窄の描出
    • 腸管壁の肥厚や造影不良、気腫性変化などの虚血性変化の評価
  2. 血管造影検査
    • 腸間膜動脈の閉塞部位の同定
    • 側副血行路の評価

造影CT検査は、体への負担が少なく短時間で実施でき、急性腸間膜動脈閉塞症の診断に最も有用な検査法です。

一方、血管造影検査は体への負担がありますが、閉塞部位を詳しく評価でき、治療方針を決める上で重要となります。

検査法特徴
造影CT検査非侵襲的、迅速、腸管虚血の評価に有用
血管造影検査侵襲的、閉塞部位の詳細な評価が可能

鑑別診断

急性腸間膜動脈閉塞症は、他の急性腹症との区別が大切です。 鑑別が必要な病気には以下のようなものがあります。

急性腸間膜動脈閉塞症の治療方法と治療薬について

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)の治療は、血栓溶解療法や血管内治療、外科的手術などの血流再開療法が中心となり、抗凝固薬や抗血小板薬、鎮痛薬などを併用します。

血栓溶解療法

血栓溶解療法は、閉塞した動脈の血流を回復させるために、血栓溶解剤を投与する治療法です。血栓溶解剤としては、ウロキナーゼやアルテプラーゼなどが使用されます。

これらの薬剤は、血栓を溶解し、閉塞した血管の血流を改善して腸管の虚血状態を解消します。

薬剤名投与経路
ウロキナーゼ動脈内投与
アルテプラーゼ動脈内投与

血管内治療

血管内治療は、カテーテルを用いて閉塞した動脈に直接アプローチし、血栓の除去や血管拡張術を行う治療法です。

血管造影を行いながらカテーテルを閉塞部位まで誘導し、血栓吸引や血管形成術を行います。血管内治療は侵襲性が低く、迅速に血流を改善できる利点があります。

外科的治療

外科的治療は、虚血に陥った腸管を切除し、残存する健常な腸管を吻合する治療法です。腸管壊死が広範囲に及ぶ場合や、血管内治療や血栓溶解療法が奏功しない場合に適応となります。

手術では、壊死した腸管を可能な限り切除し、残存腸管の長さの確保が重要です。

手術名概要
腸管切除術虚血に陥った腸管を切除し、残存する健常な腸管を吻合する
二期的手術初回手術で壊死腸管を切除し、二期的に残存腸管を吻合する

抗凝固療法

抗凝固療法は、血栓形成を予防し再発を防ぐために行われる治療法です。 以下の薬剤が使用されます。

  • ヘパリン:急性期の抗凝固療法に使用される。
  • ワルファリン:長期的な抗凝固療法に使用される。
  • 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC):ワルファリンの代替薬として使用される。

急性腸間膜動脈閉塞症の治療では、早期診断と迅速な治療開始が予後を左右します。

血管内治療や外科的治療と並行して抗凝固療法を行うことで、再発リスクを減らし、患者の生命予後の改善を目指していきます。

急性腸間膜動脈閉塞症の治療期間と予後

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)は早期診断と迅速な治療が重要で、予後は腸管壊死の範囲や合併症によって大きく左右されます。

早期に治療が施されないと、命に関わる重大な疾患となります。

早期発見・早期治療の重要性

急性腸間膜動脈閉塞症の治療では、早期発見と早期治療が予後に大きな影響を与えます。発症後、できるだけ早く診断をつけ、治療を始めることが大切です。

時間が経つにつれ、腸管の壊死が進み、敗血症や多臓器不全を引き起こすリスクが高くなります。

発見までの時間予後への影響
6時間以内比較的良好
12時間以上不良

治療期間と予後

急性腸間膜動脈閉塞症の治療期間は、病状の重症度によって変わってきます。比較的軽症だと、2〜3週間ほどの入院治療で良くなる場合もありますが、重症の場合は数ヶ月に及ぶ長期の治療が必要です。

病状の重症度平均治療期間
軽症2〜3週間
中等症1〜2ヶ月
重症3ヶ月以上

予後に関しても、早期発見・早期治療がなされれば比較的良好ですが、診断・治療が遅れると不良となります。

また、治療が行われたとしても、腸管壊死が広範囲に及んでいるようなケースでは予後が悪くなります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)の治療薬の副作用としては、出血傾向やアレルギー反応などが考えられます。

治療のデメリットとしては、腸管壊死が進行している場合は広範囲の腸管切除が必要となり、術後の合併症や後遺症のリスクも伴います。

血栓溶解療法の副作用とリスク

副作用リスク
出血脳出血や消化管出血などの重篤な出血が起こる可能性がある
アレルギー反応使用する薬剤に対するアレルギー反応が起こる可能性がある

外科的手術の副作用とリスク

急性腸間膜動脈閉塞症の治療における、壊死した腸管の切除を伴う外科的手術には以下のような副作用やリスクがあります。

  • 感染症
  • 術後の癒着
  • 吻合部の縫合不全
  • 短腸症候群
リスク説明
感染症手術部位の感染や、敗血症などの全身性感染症が起こる可能性がある
短腸症候群大量の腸管切除により、吸収不良や下痢などの症状が起こる可能性がある

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

急性腸間膜動脈閉塞症(きゅうせいちょうかんまくどうみゃくへいそくしょう)の治療は、健康保険が適用されます。具体的な治療費は手術内容や入院期間によって異なり、高額療養費制度の利用により自己負担額を抑えられます。

検査費の目安

急性腸間膜動脈閉塞症の診断には、血液検査、CTやMRIなどの画像検査、血管造影などの専門的な検査が必要です。検査費の目安は以下のとおりです。

検査項目費用目安
血液検査数万円
CT・MRI10万円以上
血管造影20万円以上

処置・手術費の目安

急性腸間膜動脈閉塞症の治療では、血栓除去術や腸切除術などの高度な手術が必要です。手術費用は高額となり、100万円以上の費用がかかる場合もあります。

処置・手術費用目安
血栓除去術50万円以上
腸切除術100万円以上

入院費

急性腸間膜動脈閉塞症は重篤な疾患であるため、集中治療室での管理や長期の入院が必要です。入院費は1日あたり3万円以上かかる場合もあります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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