メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)(Ménétrier’s disease, Giant Hypertrophic Gastritis)とは、胃粘膜の異常な肥厚と巨大なヒダ状の隆起を特徴とする珍しい慢性胃疾患です。
この病気の原因は、胃粘膜にあるタンパク質分解酵素の、ペプシノーゲンの過剰分泌だと考えられています。胃酸の分泌量が減少し、低タンパク血症や浮腫などの症状が出る場合もあります。
メネトリエ病は50歳以上の男性に多く見られ、サイトメガロウイルス感染が関係していると示唆されていますが、詳しい発症メカニズムは現在も研究中の段階にあります。
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の症状
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の主な症状としては、腹部の痛み、吐き気や嘔吐、下痢、そして体重の減少などがあげられます。
症状の程度は個人差が大きいものの、重症化すると全身の健康状態に悪影響を及ぼします。
症状 | 特徴 |
腹痛 | 上腹部の痛み、食事後に悪化 |
嘔吐 | 食事後に起こりやすい、食べたものを吐き出す |
下痢 | 消化吸収機能の低下、脱水症状の可能性 |
体重減少 | 食欲低下、栄養吸収の低下、全身の衰弱の恐れ |
腹痛
メネトリエ病の代表的な症状は上腹部の痛みで、食事の後に増強する傾向です。
嘔吐
嘔吐は食事の後に起こりやすく、摂取したものを吐き戻してしまう場合もあります。
この症状は、胃の炎症や浮腫が原因で引き起こされていると考えられています。
下痢
- 水のような便
- 1日に数回から10回以上の下痢
- お腹の痛みを伴う場合もある
下痢は、胃の炎症によって消化吸収機能が低下することで起こります。
また、下痢によって体内の水分や電解質が失われるため、脱水症状を招く危険性もあります。
体重減少
胃の炎症が原因で食欲が落ちたり、嘔吐や下痢によって栄養の吸収が阻害されるため、体重の減少が起こる可能性があります。
体重の減少が顕著な場合は栄養状態が悪化し、全身の衰弱につながってしまう恐れがあります。
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の原因
メネトリエ病は、胃の粘膜が異常に厚くなる非常に珍しい疾患ですが、なぜこのような変化が起こるのかはまだ完全に解明されていません。
遺伝的要因
研究によって、メネトリエ病の発症には遺伝的な要因が関わっている可能性が示されています。
家族内で発症が確認されるケースもあり、遺伝子の変化が原因の1つではないかと推測されています。
遺伝子 | 変異の種類 |
MUC1 | 点突然変異 |
EGFR | 遺伝子増幅 |
感染症
メネトリエ病を引き起こす要因として、サイトメガロウイルス(CMV)やヘリコバクター・ピロリ菌などの感染症が関与しているケースが報告されています。
- CMV感染
- ヘリコバクター・ピロリ菌感染
- その他のウイルス感染
免疫異常
メネトリエ病の患者さんの一部には、自己免疫疾患を合併しているケースがあることから、免疫システムの異常がこの病気の原因となっている可能性も指摘されています。
免疫異常 | 関連する自己免疫疾患 |
T細胞の機能異常 | 関節リウマチ |
サイトカイン産生の異常 | 全身性エリテマトーデス |
成長因子の関与
上皮成長因子(EGF)やトランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-α)といった成長因子が過剰に作られることで、胃粘膜の増殖が促され、メネトリエ病が発症するのではないか、とも考えられています。
これらの成長因子の異常な産生は、先に述べた遺伝的要因や感染症、免疫異常などが関わっている可能性があります。
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の検査・チェック方法
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)を診断する際は、患者さんの症状や身体所見、検査結果を総合的に評価します。
臨床診断は症状や身体所見から疑われますが、確定診断のためには内視鏡検査と病理組織学的検査が必要です。
病歴聴取と身体診察
メネトリエ病が疑われる場合、まず詳しい病歴聴取を行います。 主な症状としては、上腹部の痛み、吐き気や嘔吐、下痢、体重減少などがあげられます。
また、低タンパク血症によって浮腫や腹水が見られる場合もあります。身体診察では、上腹部の圧痛や腫れがないかを確かめます。
血液検査
低タンパク血症や貧血が特徴的な所見です。 炎症反応やヘリコバクター・ピロリ感染の有無も確認します。
検査項目 | 主な所見 |
血清アルブミン | 低下 |
ヘモグロビン | 低下 |
CRP | 上昇 |
H. pylori抗体 | 陽性(感染あり) |
内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査では、胃粘膜の肥厚と巨大な皺壁(ひだ)の形成が特徴的な所見です。
ポリープ状の隆起性病変が多発しているケースもあります。
内視鏡所見 | 特徴 |
胃粘膜 | びまん性の肥厚 |
胃壁 | 巨大な皺壁(ひだ)の形成 |
その他 | ポリープ状隆起の多発 |
病理組織学的検査
内視鏡下で胃粘膜の生検を行い、病理組織学的検査で確定診断します。 特徴的な所見は以下の通りです。
- 粘膜上皮の過形成と粘液細胞の増生
- 粘膜固有層の浮腫と炎症細胞浸潤
- 腺窩上皮の過形成と拡張
これらの検査結果を総合的に評価し、他の胃疾患との鑑別を行った上でメネトリエ病と診断されます。
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療方法と治療薬について
メネトリエ病の治療は、症状を和らげ、合併症を防ぐのが目的です。
生活習慣の改善
メネトリエ病の治療では、まず生活習慣の見直しが大切です。刺激の強い食べ物や飲み物を控え、症状に合わせた食事療法を行います。
避けるべき食品 | 推奨される食事 |
アルコール | 低脂肪食 |
香辛料 | 低繊維食 |
カフェイン | 小食頻回食 |
薬物療法
メネトリエ病の治療には、以下のような薬が処方されます。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を抑え、胃粘膜の炎症を改善します。
- H2受容体拮抗薬:胃酸の分泌を抑え、胃粘膜の炎症を改善します。
- 制酸薬:胃酸を中和し、症状を和らげます。
薬剤名 | 作用機序 |
オメプラゾール | プロトンポンプ阻害 |
ラニチジン | H2受容体拮抗 |
水酸化アルミニウムゲル | 制酸作用 |
ピロリ菌の感染が原因の場合には、除菌のための治療を行います。
内視鏡的治療
症状が重い場合や、薬物療法で効果が見られない場合は、内視鏡的治療が検討されます。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によって病変部位を切除し、症状の改善を目指します。
外科的治療
内視鏡的治療でも改善しない難治性の場合は、外科的治療が必要になる場合もあります。胃の一部や全体を切除して病変部位を取り除き、症状の改善を目指します。
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療期間と予後
メネトリエ病の治療にかかる期間と予後は、病状がどの程度重症であるかや、原因によって変わってきます。治療により大半のケースで症状の好転が見込めますが、完治するまでには数ヶ月から数年を要する場合があります。
治療期間
軽症であれば、数週間から数ヶ月が治療期間の目安です。重症の際は、数ヶ月から数年にわたる長期的な治療が必要になるケースもあります。
病状の程度 | 治療期間の目安 |
軽症 | 数週間~数ヶ月 |
重症 | 数ヶ月~数年 |
予後
多くは治療により症状が軽快し、良好な予後が期待できます。しかし、一部では治療に反応せず、慢性的な症状が持続する方もいます。
メネトリエ病の合併症
- タンパク漏出性胃腸症
- 貧血
- 栄養不良
- 胃癌(まれ)
これらの合併症を予防するためにも、定期的な経過観察が重要です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
メネトリエ病の治療を行う際、用いられる治療薬・外科的治療には副作用やリスクが伴います。
胃酸分泌抑制薬の副作用
メネトリエ病の治療で広く使用される胃酸分泌抑制薬は、長期使用による副作用のリスクがあります。
代表的な副作用としては、下痢、悪心、腹部不快感などの消化器症状です。また、骨粗鬆症や感染症のリスクが高まる可能性も指摘されています。
副作用 | リスク |
下痢 | 中 |
悪心 | 中 |
腹部不快感 | 中 |
骨粗鬆症 | 高 |
感染症 | 高 |
外科的治療の合併症リスク
外科的治療(手術)は侵襲性が高く、出血、感染、縫合不全などの合併症リスクが伴います。
- 出血
- 感染
- 縫合不全
- 術後の痛み
- 回復の遅れ
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療は医療保険の適用です。
治療費の目安
メネトリエ病の治療には、内視鏡検査や生検、CT検査などの各種検査にかかる費用が必要です。
また、症状に応じて胃酸分泌抑制薬や成分栄養剤などの薬物療法、内視鏡的粘膜切除術や胃全摘術などの外科的治療の費用も発生します。
検査・治療 | 概算費用 |
内視鏡検査 | 3~5万円 |
生検 | 1~2万円 |
CT検査 | 2~3万円 |
医療費控除
年間10万円の医療費を支払った場合は、確定申告を行うと所得税が控除される医療費控除を受けられます。
控除を受けるためには、確定申告の際に医療費の明細書を添付する必要があります。
以上
参考文献
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