糖尿病ケトアシドーシス(DKA)

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)

糖尿病ケトアシドーシス(DKA diabetic ketoacidosis)とは、インスリンが絶対的または相対的に欠乏することで引き起こされる病態です。

その際、血糖値は異常高値を示し、強い脱水状態を伴い、血液中のケトン体濃度が上昇することで、重度の代謝性アシドーシスが生じます。

糖尿病ケトアシドーシスは放置すると昏睡状態に陥る危険性があり、注意が必要です。

目次

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の病型

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、糖尿病における重大な合併症の一つであり、その発症には多様な病型が関わっています。

1型糖尿病におけるDKA

1型糖尿病は、インスリンの完全な不足により発症するため、DKAを引き起こす危険性が高い病型です。

1型糖尿病の患者さんでは、インスリン分泌能力が大幅に低下しているため、体内でのブドウ糖の利用が難しくなり、高血糖状態が継続します。

その結果、代替のエネルギー源としてケトン体が過剰に生成され、酸性化が進むことでDKAが発症。

1型糖尿病に関連したDKAは、発症が急速で重症化しやすいという特徴を持っています。

病型インスリン分泌能DKAリスク
1型糖尿病著しく低下高い
2型糖尿病比較的保たれる中程度

2型糖尿病におけるDKA

2型糖尿病は、インスリン抵抗性が主要な病態であり、インスリン分泌能力は比較的維持されているため、DKAのリスクは1型糖尿病と比較して低いです。

しかしながら、2型糖尿病の患者さんにおいても、感染症やストレスなどの誘因によりインスリンの作用が相対的に不十分になった場合には、DKAを発症してしまう可能性があります。

2型糖尿病に伴うDKAは、1型糖尿病と比べると発症や重症度が緩やかです。

妊娠糖尿病におけるDKA

妊娠糖尿病は、妊娠期間中に発症あるいは発見される糖尿病であり、インスリン抵抗性の増加が主な病態です。

妊娠中は、胎盤から分泌されるさまざまなホルモンの影響でインスリン抵抗性が亢進するため、高血糖状態が引き起こされやすくなります。

妊娠糖尿病の患者さんでは、血糖管理が実施されないケースにおいて、DKAを発症する危険性が高くなります。

妊娠糖尿病に関連したDKAは、母体だけでなく胎児にも深刻な影響を及ぼしかねないため、注意が必要です。

その他の型の糖尿病におけるDKA

上記以外にも、さまざまな要因で発症する糖尿病があり、これらもDKAのリスク要因となり得ます。

  • 膵炎や膵切除後などの膵外分泌疾患に伴う糖尿病
  • ステロイド療法や免疫抑制療法に関連した薬剤性糖尿病
  • 遺伝性の糖尿病(MODY、ミトコンドリア糖尿病など)
病型DKA発症機序
膵外分泌疾患に伴う糖尿病インスリン分泌低下
薬剤性糖尿病インスリン抵抗性増大
遺伝性糖尿病病型により異なる

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の症状

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、糖尿病患者さんにおいて、インスリンが不足することで体内のケトン体という物質が過剰に蓄積し、引き起こされる急性の合併症で、さまざまな症状が現れます。

多尿・多飲・脱水

DKAでは、血糖値が高くなることで尿中へのブドウ糖の排泄が増加し、それに伴って尿の量が増える多尿が起こります。

多尿によって体内の水分が失われるため、喉の渇きを感じて水分摂取が増える多飲となり、多尿と多飲のサイクルによって、脱水症状が引き起こされるのです。

症状説明
多尿尿量が増加する
多飲喉の渇きにより水分摂取が増える
脱水体内の水分が失われる

全身倦怠感・意識障害

ケトン体が蓄積することで、体内の酸性化が進行すると、全身の倦怠感や意識の障害などの神経症状が現れ、重症化すると昏睡状態に陥ってしまうこともあり、生命の危険を伴う可能性があります。

胃腸症状

DKAでは、吐き気や嘔吐、お腹の痛みなどの消化器症状が高い頻度で認められ、これらの症状は、ケトン体の蓄積による代謝性アシドーシスが原因です。

症状頻度
嘔気・嘔吐50-80%
腹痛40-60%

特徴的な呼吸異常

DKAでは、ケトン体の蓄積に伴う代謝性アシドーシスを代償するために、過呼吸となることがあります。 これをクスマウル大呼吸と呼び、DKAに特徴的な所見です。

DKAの主な症状

  • 口渇、多飲
  • 多尿
  • 全身倦怠感
  • 嘔気、嘔吐、腹痛
  • 意識障害
  • クスマウル大呼吸

DKAは、糖尿病患者さんにとって重大な合併症であり、これらの症状が見られた際には速やかに医療機関を受診してください。

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の原因

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、インスリンの絶対的または相対的な不足によって引き起こされる急性の代謝性合併症です。

インスリン分泌の低下・欠如

DKAの最も一般的な原因は、1型糖尿病患者におけるインスリン分泌の欠如、または2型糖尿病患者におけるインスリン分泌の著しい低下です。

インスリンは、血糖値を調整し、脂肪やタンパク質の代謝を制御する上で欠かせないホルモン、不足してしまうと、高血糖とケトン体の蓄積を招くため、DKAを発症する危険性が高くなります。

インスリン分泌の低下・欠如の原因1型糖尿病2型糖尿病
自己免疫反応による膵β細胞の破壊
遺伝的要因
膵β細胞の機能低下

インスリン抵抗性の増大

2型糖尿病患者では、インスリン抵抗性の増大もDKAの原因となる可能性があります。

インスリン抵抗性とは、筋肉、肝臓、脂肪組織などのインスリン標的組織がインスリンに適切に反応しないことです。

その結果、高血糖状態が持続し、DKAを引き起こすことがあります。

インスリン抵抗性を増大させる主な要因

  • 肥満
  • 運動不足
  • 炎症性サイトカインの増加
  • 遺伝的素因

ストレスによるインスリン拮抗ホルモンの増加

感染症、外傷、手術などの身体的ストレスや、精神的ストレスは、インスリンに拮抗するホルモン(コルチゾール、グルカゴン、カテコラミンなど)の分泌を促進します。

これらのホルモンは、肝臓での糖新生を亢進させ、末梢組織でのインスリン感受性を低下させるため、高血糖とケトン体の産生を助長し、DKAの発症リスクを高めます。

ストレス因子インスリン拮抗ホルモンへの影響
感染症コルチゾール、グルカゴン、カテコラミンの分泌増加
外傷・手術コルチゾール、グルカゴン、カテコラミンの分泌増加
精神的ストレスコルチゾールの分泌増加

不適切な食事療法と運動不足

糖尿病患者が適切な食事療法を守らず、過剰なカロリー摂取を続けると、高血糖とインスリン抵抗性が悪化し、DKAのリスクが高まることに。

また、定期的な運動は、インスリン感受性を改善し、血糖コントロールに役立ちますが、運動不足はインスリン抵抗性を増大させ、DKAの発症につながる恐れがあります。

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、インスリンの不足や抵抗性、ストレス、不適切な生活習慣など、複数の要因が絡み合って発症する重篤な急性合併症です。

DKAを予防するためには、インスリン療法、血糖コントロール、ストレス管理、食事療法、運動習慣が大切になります。

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の検査・チェック方法

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、糖尿病患者さんにおいて検査とモニタリングを行うことで早期発見・早期介入が可能な合併症です。

血糖値の測定

DKAの診断において、血糖値の測定は最も基本的かつ重要な検査でDKA、では、インスリン不足により高血糖を呈するため、随時血糖値が250mg/dL以上であることが多いです。

検査項目DKAでの典型的な値
随時血糖値250mg/dL以上
HbA1c高値(7.0%以上)

血液ガス分析

DKAでは、ケトン体の蓄積により代謝性アシドーシスを呈します。

血液ガス分析で認められる所見

  • pH:7.30未満(正常値:7.35-7.45)
  • 重炭酸イオン(HCO3-):15mEq/L未満(正常値:22-26mEq/L)
  • アニオンギャップ:12mEq/L以上(正常値:8-12mEq/L)

尿ケトン体の測定

DKAでは、尿中へのケトン体排泄が増加するため、尿ケトン体の測定は簡便かつ有用な検査です。 尿試験紙を用いた定性検査で、中等度以上の陽性所見が得られます。

尿ケトン体DKAでの典型的な所見
アセト酢酸(2+)以上
β-ヒドロキシ酪酸(2+)以上

血清ケトン体の測定

血清ケトン体の測定は、DKAの重症度評価や経過観察に有用です。 DKAでは、以下の血清ケトン体が高値を示します。

  • アセト酢酸:正常上限の2倍以上
  • β-ヒドロキシ酪酸:正常上限の10倍以上

DKAが疑われる患者さんには、以下の検査を実施します。

  • 血糖値の測定
  • 血液ガス分析
  • 尿ケトン体の測定
  • 血清ケトン体の測定

これらの検査結果を総合的に判断することで、DKAの早期診断と重症度評価が可能です。

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の治療方法と治療薬について

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の治療は、主に輸液、インスリン投与、電解質補正の3つの柱で成り立っています。

輸液療法

脱水と電解質異常を正常化するために、生理食塩水や乳酸リンゲル液などの等張液を用いた大量輸液が実施されます。

循環血液量が回復したら、5%ブドウ糖液に切り替え、血糖値を適切な範囲に保つことが大切です。

輸液の種類使用目的
生理食塩水初期の脱水補正
乳酸リンゲル液初期の脱水補正
5%ブドウ糖液血糖値の維持

インスリン療法

血糖を下げ、代謝異常を正常化するために、速効型インスリンの持続静注を行います。 血糖値を1時間に50~75mg/dL程度下げるペースでコントロールすることが重要です。

血糖値が250mg/dL程度まで低下したら、インスリンの投与速度を落とし、低血糖を避ける必要があります。

電解質補正

DKAでは、カリウムやリンなどの電解質が尿中に多量に排泄されるため、補正が欠かせません。 特にカリウム補正は、不整脈を予防する観点からも重視されます。

ただし、腎機能が悪い場合は慎重に行う必要があります。

電解質補正方法
カリウム輸液に混合して投与
リンリン酸ナトリウムを投与
マグネシウム硫酸マグネシウムを投与

その他の治療

  • 感染症が疑われる時は、抗菌薬を使用します。
  • 意識障害がある際は、気道確保や人工呼吸管理が求められることもあります。
  • 基礎疾患である糖尿病に対しては、退院後の血糖コントロールが欠かせません。

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の治療期間と予後

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、治療を行えば予後良好な疾患ですが、治療が遅れてしまった場合や重症例では死亡リスクが高くなります。

治療期間

DKAの治療期間は、重症度や合併症の有無により異なります。

軽症から中等症の治療期間

重症度治療期間
軽症2-3日
中等症3-5日

一方、重症のDKAや合併症を有する症例では、治療期間が長期化する傾向があります。

重症度治療期間
重症5-7日以上
合併症あり7-14日以上

短期予後

DKAの短期予後は、早期診断と治療介入により大きく改善します。

治療された症例の死亡率

  • 軽症から中等症:1%未満
  • 重症:5%未満

ただし、高齢者や合併症を有する患者さんでは、死亡リスクが高くなる傾向があります。

長期予後

DKAの長期予後は、基礎疾患である糖尿病のコントロール状況に大きく影響され、血糖コントロールが不良な患者さんでは、DKAの再発リスクが高くなります。

DKAの再発率

  • 1年以内:10-20%
  • 5年以内:30-50%

適切な血糖コントロールを維持することが、DKAの長期予後改善に大切です。

予後改善のポイント

DKAの予後を改善するためには、以下の点に注意します。

  • 早期診断と迅速な治療開始
  • 適切な輸液と電解質管理
  • インスリン治療の適正化
  • 合併症の早期発見と対応
  • 血糖コントロールの維持

薬の副作用や治療のデメリットについて

糖尿病ケトアシドーシスの治療は、生命を守るために不可欠ですが、薬の副作用や治療そのもののデメリットにも十分な注意が必要です。

インスリン治療の副作用

インスリン治療は、DKAの主要な治療法ですが、低血糖などの副作用のリスクがあります。

副作用症状
低血糖めまい、震え、空腹感
体重増加インスリンによる脂肪蓄積

過剰なインスリン投与は危険を伴うため、慎重なモニタリングが必要です。

輸液療法の注意点

DKAの治療では、大量の輸液が行われます。

輸液療法の注意点

  • -電解質バランスの乱れ
  • 肺水腫や脳浮腫のリスク

特に、カリウムの補正には細心の注意が必要です。

合併症のリスク

DKAの治療中は、さまざまな合併症のリスクがあります。

合併症リスク因子
急性腎不全脱水、感染症
呼吸不全肺水腫、感染症

長期的な影響

DKAを繰り返すと、長期的な影響が懸念されます。

  • 認知機能の低下
  • 血管合併症のリスク増加

DKAを予防し、良好な血糖コントロールを維持することが、長期的な健康のために欠かせません。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

DKAの治療費は、重症度や合併症の有無、治療期間などによって大きく異なりますが、一般的に高額になる傾向があります。

入院治療費の内訳

DKAの治療は、主に入院での集中治療を必要とします。

入院治療費の内訳

項目費用(目安)
入院基本料1日あたり5,000円〜10,000円
検査費10,000円〜50,000円
投薬料5,000円〜20,000円
処置料5,000円〜20,000円

費用は、病院や治療内容によって異なります。

重症度による治療費の違い

DKAの治療費は、重症度によって大きく異なります。

重症度別の平均的な治療費

重症度治療費(目安)
軽症30万円〜50万円
中等症50万円〜100万円
重症100万円〜200万円以上

重症例では、長期入院や合併症の治療が必要となるため、治療費が高額になります。

医療費助成制度の活用

医療費助成制度

  • 高額療養費制度
  • 限度額適用認定証
  • 医療費控除

これらの制度を利用することで、自己負担額を抑えられます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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