胃ポリープ(Gastric polyp)とは、胃の粘膜の表面からイボのように盛り上がった病変です。大半は良性ですが、稀に悪性のものも存在します。
自覚症状はなく、健康診断のバリウム検査や胃カメラ検査で発見されるケースが多いです。
良性ポリープの場合は定期的な経過観察で十分な場合もありますが、大きさが1cmを超える場合や、過形成性ポリープの場合は、内視鏡検査で切除を検討します。
胃ポリープの病型
胃ポリープの肉眼分類として、山田分類が用いられます。
また、胃ポリープにはピロリ菌に感染していない胃にできやすいポリープである「胃底腺ポリープ」と、ピロリ菌感染による慢性胃炎を背景に生じる「胃過形成性ポリープ」などがあります。
山田分類によるポリープの種類
山田分類は、ポリープの形状に着目した分類方法です。
山田分類 | ポリープの形状 |
Ⅰ型 | 表面が滑らかな隆起 |
Ⅱ型 | 茎のない隆起 |
Ⅲ型 | 茎が短い隆起 |
Ⅳ型 | 茎が長い隆起 |
胃底腺ポリープ
胃の一番奥にある胃底部に発生するポリープを、胃底腺ポリープと呼びます。
胃底腺の過形成性変化により生じ、大半は自覚症状がありませんが、大きくなると出血や貧血の原因となる可能性があります。
胃過形成性ポリープ
腺窩上皮の過形成により生じるポリープが、胃過形成性ポリープです。
- 慢性的な刺激(胃炎や胃潰瘍など)が原因となる
- 複数のポリープができやすい
- 大きさは数ミリ〜2センチ程度
その他の胃ポリープ
胃粘膜下腫瘍や、胃がんが原因でポリープ状の隆起ができる場合もあります。
胃ポリープの症状
多くの胃ポリープは無症状であり、検診や他の目的で行われた内視鏡検査で偶然発見されるケースが大半を占めています。
ただし、ポリープの種類や大きさによっては症状が現れることもあります。
ポリープの種類や大きさによって症状が異なる
- 上腹部の不快感や膨満感
- 胸やけや食欲不振
- 貧血症状(顔色不良、めまい、動悸など)
ポリープの種類 | 主な症状 |
過形成ポリープ | 無症状が多い |
腺腫 | 出血、貧血 |
炎症性線維状ポリープ | 上腹部不快感 |
出血や貧血を引き起こすことがある
胃ポリープの表面は正常な胃粘膜よりも脆いため、わずかな刺激で傷つきやすく、出血する場合があります。
良性ポリープの場合では出血量は少ない場合が多いですが、大きさが1cmを超えるポリープや、過形成性ポリープでは出血量が多くなる傾向です。
悪性ポリープ(胃がん)の場合、出血しやすく、血便や吐血などの症状が現れます。
胃ポリープの原因
胃ポリープの原因は多岐にわたり、加齢、慢性胃炎、遺伝的要因などが複合的に関与していると考えられています。
加齢
加齢に伴い、胃粘膜の萎縮や炎症が生じやすくなるため、胃粘膜の一部が隆起してポリープが形成されることがあります。
過形成性ポリープの発生率は、30歳を過ぎると年齢を重ねるにつれて増加していく傾向にあり、特に60歳以上で多くみられます。
慢性胃炎の影響
慢性胃炎は、胃粘膜の炎症が長期間持続する状態です。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染や自己免疫性疾患などが原因となる場合が多く、慢性的な炎症刺激によって胃粘膜の過形成が生じ、ポリープが発生しやすくなります。
遺伝的要因
一部の胃ポリープでは、遺伝的要因の関与が示唆されています。例えば、家族性大腸腺腫症という遺伝性疾患では、大腸だけでなく胃にもポリープが多発します。
また、特定の遺伝子変異を有する人では、胃ポリープのリスク増加が報告されています。
- 家族性大腸腺腫症
- MYH関連ポリポーシス
- Lynch症候群
胃ポリープの検査・チェック方法
胃ポリープの一般的な検査方法は内視鏡検査で、生検や病理学的検査を経て確定診断が下されます。
内視鏡検査・生検
内視鏡検査(胃カメラ)では、口から内視鏡と呼ばれる細い管を挿入して食道、胃、十二指腸の内部を観察します。
ポリープが発見された場合は、同時に組織を採取(生検)し、良性か悪性かを診断します。
胃バリウム検査(上部消化管X線検査)
バリウムと呼ばれる造影剤を飲み、胃のX線写真を撮影する方法です。
胃の形状や粘膜の状態を詳しく調べられますが、ポリープの発見率は胃カメラに比べて低く、組織検査はできません。
胃ポリープの治療方法と治療薬について
胃ポリープの治療は、ポリープの種類や大きさ、位置、症状の有無に応じて、内視鏡的切除、薬物療法、経過観察などを組み合わせて行われます。
ポリープの種類 | 治療方針 |
胃底腺ポリープ | 経過観察 |
過形成性ポリープ | 経過観察または内視鏡的切除 |
腺腫性ポリープ | 内視鏡的切除 |
経過観察
小さく良性のポリープの場合、定期的な内視鏡検査で経過観察となります。
経過観察間隔 | ポリープの種類 |
6〜12ヶ月 | 胃底腺ポリープ・過形成性ポリープ |
内視鏡的切除
ポリープを内視鏡を使って切除する方法です。大きいポリープ(2cm以上)で増大傾向のものや、腺腫ポリープなどがん化する可能性があるもの、出血しているものなどは、切除を検討します。
ポリープの大きさや種類によって、様々な切除方法があります。
- 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
手技 | 適応 |
EMR | 小さなポリープ |
ESD | 大きなポリープや癌化リスクのあるポリープ |
過形成ポリープや胃底腺ポリープでは、基本的に切除の必要はありません。
薬物療法
ポリープ切除後の再発予防や、ピロリ菌感染に伴う胃炎の治療には以下の薬剤が使用されます。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を抑制し、胃粘膜の炎症を改善します。
- H2受容体拮抗薬:PPIと同様に胃酸分泌を抑制します。
- 抗菌薬:ヘリコバクター・ピロリ感染が原因である場合に使用されます。
胃ポリープの治療期間と予後
胃ポリープでは、多くの場合で予後は良好です。
治療期間の目安
胃ポリープの治療期間は、ポリープの種類や大きさ、個数などによって異なりますが、おおむね以下のような目安となります。
ポリープの種類 | 治療期間の目安 |
胃底腺ポリープ・過形成ポリープ | 経過観察、1年に一度の検査 |
腺腫性ポリープ | 4~8週間 |
炎症性ポリープ | 2~4週間 |
内視鏡的切除術を受けた場合、術後1~2週間ほどで日常生活に復帰できるケースが多いです。
治療後の経過観察
胃ポリープの治療後は、再発の有無を確認するために定期的な内視鏡検査が必要です。
検査の間隔はポリープの種類や切除範囲などによって異なりますが、一般的には以下のような間隔で行われます。
- 過形成ポリープ:1年ごと
- 腺腫性ポリープ:6ヶ月~1年ごと
- 炎症性ポリープ:3ヶ月~6ヶ月ごと
予後
ポリープの種類 | 予後 |
良性のポリープ | 基本的に予後は良好です。 ただし、ポリープの種類によっては再発の可能性もあるため、定期的な検査が必要です。 |
---|---|
悪性のポリープ(早期胃がん) | 早期発見・早期治療であれば、内視鏡的切除または外科的切除で根治できる可能性が高く、予後は良好です。 進行がんの場合は、抗がん剤治療や放射線治療などを組み合わせた集学的治療が必要となり、予後はがんの進行度によって異なります。 |
胃底腺ポリープや過形成ポリープはがん化のリスクが低く、治療後の予後は良好だと考えられています。
腺腫性ポリープの場合は、放置するとがん化する危険性があるため完全切除が大切ですが、治療が行われれば予後は良好です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
胃ポリープの治療では、合併症や薬物療法による副作用が発生するリスクがあります。
内視鏡的切除術の合併症
内視鏡的切除術は体への負担が少ない治療法ですが、出血や穿孔などの合併症が起こる可能性があります。
合併症 | 頻度 |
出血 | 1~5% |
穿孔 | 0.3~1% |
薬物療法の副作用
ポリープ切除後の再発予防や、ピロリ菌感染に伴う胃炎の治療にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬などが用いられます。
これらの薬剤は比較的安全性が高いものですが、以下のような副作用が報告されています。
薬剤 | 主な副作用 |
PPI | 下痢、頭痛、皮疹 |
H2受容体拮抗薬 | 便秘、眠気、血液障害 |
経過観察中の悪性化リスク
胃ポリープの多くは良性ですが、一部は悪性化する可能性があります。定期的な経過観察を行い、ポリープの増大や形態変化に注意が必要です。
腺腫性ポリープや20mm以上の大きなポリープでは、悪性化のリスクが高いとされています。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
胃ポリープの治療は健康保険が適用されます。具体的な金額は、症状の重篤度、ポリープの大きさ、数、発生位置など、患者さん個人の状態によって大きく異なります。
治療費用の目安
治療法 | 費用目安 |
内視鏡的切除術 | 10万円〜20万円 |
外科手術 | 50万円〜100万円 |
上記は目安となります。また、健康保険適用により、自己負担額は1~3割です。
以上
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