胃アニサキス症(Gastric anisakiasis)とは、アニサキスという寄生虫が原因で起こる病気です。
アニサキスは、サバ、イカ、カツオ、サンマなどの海洋生物に寄生する寄生虫で、この寄生された魚介類を生、または不十分な加熱で食べると感染します。
感染したアニキサスは胃壁内に侵入し、激しい上腹部の痛みや吐き気、嘔吐などの消化器症状を引き起こします。
胃アニサキス症の病型
胃アニサキス症は、症状の程度により劇症型と緩和型の2つに分類されます。
劇症型(急性)の特徴
劇症型は、アニサキスに感染してから数時間以内に激しい上腹部の痛みを伴って発症します。多くの場合、吐き気や嘔吐を伴い、重症化すると腸閉塞や腹膜炎を引き起こす可能性があります。
発症までの時間 | 数時間以内 |
---|---|
症状 | 激しい上腹部痛、吐き気、嘔吐 |
重症化のリスク | 腸閉塞や腹膜炎を併発する可能性あり |
緩和型(慢性)の特徴
一方、緩和型は感染後数日から数週間経過してから緩やかに発症します。
上腹部の不快感や膨満感が主な症状であり、劇症型ほど激しい症状は見られません。 特徴的なのは、症状が慢性的に継続することです。
発症までの時間 | 数日から数週間後 |
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症状 | 上腹部の不快感、膨満感 |
経過 | 慢性的に症状が持続 |
胃アニサキス症の症状
胃アニサキス症で現れる主な症状は、腹痛、吐き気、嘔吐です。
強い腹痛
胃アニサキス症の最も特徴的な症状は、突然発症する強い腹痛です。この腹痛は上腹部に限局しているケースが多く、激しい痛みを伴います。
痛みは持続的で、数時間から数日間続きます。
吐き気・嘔吐
アニキサスによる胃や十二指腸の炎症が原因で、吐き気や嘔吐を伴います。嘔吐物には、アニサキスの虫体が混じっていることもあります。
その他の消化器症状
- 胸やけ
- 胃もたれ感
- 食欲不振
- 下痢
アレルギー症状
まれに、アニサキスに対するアレルギー反応によって、じんましんや呼吸困難などのアレルギー症状を伴う場合があります。
胃アニサキス症の原因
胃アニサキス症は、アニサキスという寄生虫の幼虫が原因となって発症する疾患です。
アニサキスとはどのような寄生虫か
アニサキスは、海にすむ哺乳類を終宿主とする線虫の一種です。多くの海水魚や頭足類に寄生していて、これらを生で食べることによって人間の体内に入り込みます。
アニサキスの種類 | 寄生する主な魚介類 |
アニサキス属 | サバ、イワシ、アジなど |
シュードテラノーバ属 | タラ、カレイ、イカなど |
アニサキスはどのように感染するのか
アニサキスに感染する主な原因は、以下の通りです。
- 寄生虫がついた魚介類を生食したり、加熱が不十分だったりすること
- 調理器具やまな板などを介しての二次感染
- 感染した魚の内臓を処理する際の手指からの感染
感染経路 | リスクの高い食べ方 |
経口感染 | 生食、加熱不十分な調理 |
経皮感染 | 調理時の手指からの感染 |
胃アニサキス症の検査・チェック方法
胃アニサキス症が疑われる場合は、内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
問診
- 症状 (いつ頃から、どのような症状があるか)
- 食事内容 (最近、魚介類を食べたかどうか、種類、調理方法など)
- 過去の病歴 (アレルギー、胃腸の病気など)
内視鏡検査(胃カメラ)
胃カメラを挿入して胃の内部を直接観察し、アニサキス幼虫を見つけた場合はその場で除去できます。
- 粘膜下の線状の隆起
- 粘膜下の白色の虫体
※胃カメラ検査は、検査前に鎮痛剤を飲んで喉の麻酔を行うため、多少の痛みや吐き気を感じる場合があります。
胃アニサキス症の治療方法と治療薬について
胃アニサキス症の治療では、内視鏡を用いてアニサキス幼虫を直接取り除きます。また、症状に応じた薬物療法を併用し、消化器症状の緩和を図ります。
内視鏡的治療
胃や十二指腸に寄生するアニサキス幼虫の除去が治療の第一選択肢です。多くの症例で、治療後の速やかな症状の改善がみられます。
薬物療法
- 制酸薬:胃酸の分泌を抑え、症状を緩和する
- 胃粘膜保護薬:胃粘膜を保護し、症状を和らげる
- 鎮痙薬:胃や腸の痙攣を抑え、疼痛を軽減する
これらの薬剤を状態に応じて組み合わせ、症状のコントロールを行います。
薬剤 | 作用 |
H2受容体拮抗薬 | 胃酸分泌を抑制 |
プロトンポンプ阻害薬 | 胃酸分泌を強力に抑制 |
粘膜保護薬 | 胃粘膜を保護し、損傷を防ぐ |
外科的治療
内視鏡的治療が奏功しない症例や、重篤な合併症を伴う場合には外科的治療も検討されます。 しかし、外科的介入が必要となるケースはまれです。
胃アニサキス症の治療期間と予後
胃アニサキス症の治療期間は症状の重さによってさまざまですが、たいていは数日から数週間ほどで回復に向かいます。
治療を受ければ後遺症を残さずに治すことができるため、予後は全般的に良好だと言えます。
治療期間の目安
症状の重さ | 治療期間の目安 |
軽症 | 数日~1週間 |
中等症 | 1~2週間 |
重症 | 2週間以上 |
軽症の場合は数日~1週間程度で軽快しますが、症状が重くなったり、合併症を伴ったりした場合は入院治療が必要な場合もあります。
予後
胃アニサキス症の予後は、全般的に良好です。早い段階で治療を受ければ、ほとんどの場合で後遺症を残さずに完治できます。
ただし、まれに消化管出血や消化管穿孔などの合併症を起こす場合もあるため、注意が必要です。
再発防止
胃アニサキス症の再発を防ぐには、生魚や冷凍処理が十分でない魚介類を避けましょう。
特に、サバやサンマ、イカなどはアニサキス幼虫が寄生している可能性が高い魚種です。しっかりと加熱調理するか、冷凍処理されたものを選ぶようにしましょう。
- 魚介類を十分に加熱する(中心部の温度が60℃以上で数分間)
- 魚介類を冷凍する(-20℃以下で24時間以上)
- 調理器具やまな板は洗浄・消毒を徹底する
- 魚の内臓を取り扱う際は手袋を着用する
- サバ
- イワシ
- アジ
- サンマ
- イカ
- タラ
薬の副作用や治療のデメリットについて
内視鏡的摘出術は胃アニサキス症の標準的治療法ですが、まれに出血、穿孔、感染などの合併症が起こる可能性があります。
合併症 | 頻度 |
出血 | 0.1~0.5% |
穿孔 | 0.01~0.1% |
感染 | 0.1~1% |
薬物療法の副作用
胃アニサキス症に対する薬物療法として、アルベンダゾールなどの駆虫薬が用いられることがありますが、これらの薬剤には以下のような副作用が報告されています。
- 嘔気
- 嘔吐
- 腹痛
- 下痢
- 発疹
- 頭痛
アレルギー反応のリスク
アニサキス抗原に対するアレルギー反応を持つ患者さんは、治療中や治療後にアナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー反応が起こるリスクがあります。
このような患者さんでは、治療前にアレルギー検査を行い、慎重に治療方針を決定する必要があります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
胃アニサキス症の治療費用は症状の重さや治療法によってさまざまですが、通常は保険が適用されるため、負担は少なくなります。
治療費の内訳
- 診察料
- 検査費(内視鏡検査、血液検査など)
- 投薬費(抗アレルギー薬、制酸薬など)
- 入院費(重症例の場合)
項目 | 概算費用 |
診察料 | 5,000円〜10,000円 |
検査費 | 20,000円〜50,000円 |
保険適用について
胃アニサキス症は食中毒の一種として扱われるため、健康保険が適用されます。 これにより、自己負担額は通常は30%となります。
以上
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