老人性紫斑(senile purpura)とは、主に高齢者の腕や手背などに見られる、紫色から青色のあざのことです。
老人性紫斑は、慢性の紫外線曝露や加齢により皮膚萎縮や血管が脆弱性によって、わずかな外力によっても内出血を起こしやすくなることで発生します。
通常2〜3週間程度で自然に消退しますが、あざが現れる原因は老人性紫斑以外にも多岐にわたるため、正確な診断が必要です。
ここでは、老人性紫斑について詳しく解説していきます。
老人性紫斑の症状
老人性紫斑では、身体の特定の部位に、特徴のある色の斑が現れます。
紫斑・出血斑の特徴
老人性紫斑の最も一般的な症状は、前腕や手背に暗紫色の紫斑や出血斑が現れることです。
紫斑とは、皮膚の下で毛細血管が破れて血液が真皮内に漏れ出た状態で、紅斑と違い指で押しても色が消えません。
好発部位
老人性色素斑は紫外線ダメージや外傷を受けやすい前腕伸側、手背などに好発します。
紫斑の形状・自覚症状
老人性紫斑の紫斑や出血斑は、大小不同で、円形または不整形で、痛みなどの自覚症状はありません。
随伴症状
老人性紫斑では、紫外線曝露が原因であるため、紫斑以外にも皮膚の萎縮や菲薄化、しわ、老人性色素斑(シミ)が混在していることが多いです。
老人性紫斑の原因
老人性紫斑の原因は主に紫外線と加齢です。
皮膚の脆弱化
長年の紫外線曝露や加齢によって、皮膚のコラーゲンやエラスチンなどの結合組織が減少・変性して、皮膚の弾力性や強度が低下し、これにより、皮膚が脆弱になり、血管を支えられなくなります。
血管壁の脆弱化
老化に伴い、皮膚の毛細血管や小血管の壁が脆弱化し、これは血管壁を構成するコラーゲンや弾性線維の減少、基底膜の菲薄化などが原因です。
脆弱化した血管は、容易に破綻し、紫斑や出血斑を形成します。
老人性紫斑の診断・チェック方法
老人性紫斑の診断は、通常問診と視診で行われます。
紫斑の出現時期、拡大傾向、出血傾向の有無、服用薬剤、全身疾患の有無などを詳しく聞き、紫斑の分布や形態、皮膚の状態を観察します。
老人性色素斑との鑑別疾患
- ステロイド紫斑
- 薬剤性紫斑
- ビタミンC欠乏症(壊血病)
- ビタミンK欠乏症
- 原発性アミロイドーシス
通常、皮膚生検などの検査が行われることはほとんどありませんが、老人性紫斑の病理組織では以下のような所見が観察されます。
- 真皮における赤血球の滲出とPerl染色におけるヘモジデリンの沈着
- 日光弾性繊維症(solar elastosis):真皮における変性、断裂した弾性線維
- コラーゲンの減少
- 表皮の菲薄化
- 炎症細胞は見られない
老人性紫斑の治療方法と治療薬
老人性紫斑では、通常2〜3週間程度で症状は自然に治まるため、特別な治療は必要ないことが多いです。最も効果的な対策は「予防」だと言われています。
予防法
老人性紫斑は紫外線曝露が原因であるため、日焼け止めの塗布や長袖の衣服の着用などによる十分なUV対策が大切で、また、ワセリンなどによる皮膚の保護は、関連する乾皮症の治療にもなるため有効です。
トレチノイン(レチノイン酸)外用
ビタミンAの一種で、紫外線による老化(光老化)を改善する作用があります。
また、レチノイン酸には表皮を厚くする作用があり、紫斑形成を予防する効果もあると言われています。
止血療法
出血傾向が強かったり、紫斑が拡大する場合には、止血療法が行われることがあります。
止血両方に使われる薬
- トラネキサム酸(トランサミン):抗線溶薬(抗プラスミン薬)として、内服または外用で使用し、通常1日750mgを3回に分けて服用します。
- カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ):血管強化作用と止血作用を持つ内服薬です。
老人性紫斑の治療期間
老人性紫斑は2〜3週間程度で自然に軽快する疾患ですが、症状が繰り返し出ることが多く、それにより期間は長くなります。
ただし、トラネキサム酸の内服などにより若干治療期間を短くすることも可能です。
薬の副作用や治療のデメリット
老人性紫斑に用いられる治療薬には、いくつかの副作用やデメリットがあります。
- トラネキサム酸(トランサミン)
- 悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状
- まれに血栓症(静脈血栓症、肺塞栓症など)のリスクがある
- カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ)
- 胃部不快感、胸やけ、食欲不振などの消化器症状
- まれにショック、アナフィラキシーのリスクがある
保険適用の有無と治療費の目安について
老人性紫斑の治療で処方されるトランサミンやアドナには保険が適用されます。
薬品名 | 薬価に基づく薬の価格 |
---|---|
トランサミン錠250mg | 10.1円/錠 |
アドナ錠10mg | 5.9円/錠 |
医師の処方箋を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
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