新生児糖尿病(neonatal diabetes mellitus)とは、生後6ヶ月未満の乳児に発症するまれな疾患です。
通常、新生児の血糖値は出生後に一時的に低下しますが、その後は正常化するところ、新生児糖尿病の場合は、膵臓のインスリン分泌に異常があるため高血糖が続きます。
放置すると脱水や成長障害、さらには重篤な合併症を引き起こす恐れも。
ここでは、新生児糖尿病の原因や症状、診断方法などについて詳しく解説していきます。
新生児糖尿病の病型
新生児糖尿病は、生まれたばかりの赤ちゃんに発症する珍しい病気です。 病型によって症状や治療法が異なるため、正しい診断が大切になります。
新生児一過性糖尿病
新生児一過性糖尿病は、新生児糖尿病の中で最も多い病型です。
この病型は、インスリンという血糖値を下げるホルモンの分泌や作用が十分でないことにより発症しますが、通常は生後数週間から数ヶ月で自然に良くなります。
一時的な高血糖の状態を示すものの、長期的な合併症のリスクは低いです。
新生児永続性糖尿病
病型 | 特徴 |
新生児永続性糖尿病 | インスリンの分泌や作用が不十分なことにより発症 |
一生涯にわたりインスリン治療が必要 | |
遺伝子の異常が原因となることが多い |
新生児永続性糖尿病は、生後6ヶ月以内に発症し、一生涯にわたってインスリン治療が必要となる病型です。
インスリンの分泌不足や作用不足が持続的に見られ、治療を行わないと、重い合併症を引き起こすことがあります。
遺伝子の異常が原因になることが多く、家族に同じ病気の人がいる場合は注意が必要です。
新生児ケトン性低血糖症
新生児ケトン性低血糖症は、糖を作り出す働きの障害により低血糖とケトン体というエネルギー源の蓄積を引き起こす病型です。
肝臓に蓄えられた糖の分解能力の低下が原因とされ、食事療法と必要に応じてコルチゾールというホルモンの補充が行われます。
この病型は、新生児期に適切に治療することで、予後は良好です。
その他の病型
病型 | 特徴 |
ミトコンドリア糖尿病 | ミトコンドリアという細胞内の小器官の機能障害により発症 |
インスリン受容体異常症 | インスリンを受け取る受容体の異常により発症 |
ミトコンドリア糖尿病は、ミトコンドリアという細胞内の小器官の機能障害により発症し、多くの臓器にわたる症状を示すことがあります。
一方、インスリン受容体異常症は、インスリンを受け取る受容体の異常により発症。インスリンが効きにくい状態を示します。
新生児糖尿病の症状
新生児糖尿病は、生まれつき膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンという血糖値を下げるホルモンの分泌に異常があり、血糖値が高くなってしまう病気です。 ここでは、新生児糖尿病の主要な症状について説明します。
過剰な尿量と頻尿
新生児糖尿病の特徴的な兆候の一つが、尿の量が多くなることと、回数が増えることです。 血糖値が高い状態が続くと、腎臓で糖の再吸収が間に合わず、尿に糖が排出されます。
脱水症状
尿の量が多くなることで体内の水分が失われると、脱水症状が現われます。
- 皮膚のハリが失われる
- 口の中が乾く
- 泣いても涙が出ない
- 元気がなくなる
脱水が進んでしまうと、深刻な状態に陥ってしまう危険性があるため、注意してください。
体重増加不良
新生児糖尿病の赤ちゃんは、インスリンの働きが十分でないため、栄養をしっかりと体内に取り入れることができません。
そのため、母乳やミルクを飲んでいても、体重がなかなか増えなかったり、体重が減ってしまったりすることがあります。
新生児糖尿病の主な症状
症状 | 詳細 |
多尿・頻尿 | 高血糖により尿量が増加し、おむつ交換が頻繁になる |
脱水 | 多尿により体内の水分が失われ、脱水症状が現れる |
体重増加不良 | インスリン作用不足により、栄養が十分に吸収されない |
その他の症状
新生児糖尿病のその他の症状
症状 | 詳細 |
嘔吐 | 高血糖により吐き気を伴うことがある |
呼吸の乱れ | 高血糖が進行すると、呼吸が深くなったり速くなったりする |
けいれん | 低血糖によりけいれんを起こすことがある |
尿の量が多い、体重が増えないなどの症状が見られた際は、すぐに医療機関を受診してください。
新生児糖尿病の原因
新生児糖尿病は、赤ちゃんが生まれてすぐ血糖値が異常に高くなる疾患で、さまざまな要因が関係しています。
遺伝的要因
新生児糖尿病の多くは、遺伝子の異常が原因で発症すると考えられています。
新生児糖尿病に関連する主な遺伝子と働き
遺伝子 | 働き |
KCNJ11 | インスリンの分泌を調節する |
ABCC8 | インスリンの分泌を調節する |
INS | インスリンを作り出す |
GCK | 膵臓でブドウ糖を感知する |
これらの遺伝子に異常が起こると、インスリンの分泌や働きに問題が生じ、新生児糖尿病を発症する可能性が高くなります。
母体の要因
母親の健康状態も、新生児糖尿病の発症に影響を与えることがあります。
- 妊娠中の糖尿病
- 肥満 ・高血圧
- 自己免疫疾患
特に、妊娠中に糖尿病を発症した母親から生まれた赤ちゃんは、低血糖を起こしやすく、新生児糖尿病を発症するリスクが高いと報告されています。
新生児仮死
新生児仮死とは、赤ちゃんが生まれる時に酸素不足に陥ることで、合併症を引き起こす可能性がある状態のことです。
新生児仮死の重症度分類と特徴
重症度 | アプガースコア | 特徴 |
軽度 | 4-6点 | 皮膚の色が悪い、筋肉の力が弱い、反射が減弱している |
中等度 | 2-3点 | 心拍数が低下、呼吸が弱い、反射がない |
重度 | 0-1点 | 心臓が止まる、呼吸が止まる、蘇生が必要 |
新生児仮死が重度の場合、膵臓の機能に障害が起き、新生児糖尿病を発症するリスクが高まります。
医原性の要因
医療行為に関連した要因も、新生児糖尿病の原因となることがあります。
- 高濃度のブドウ糖を含む点滴の過剰投与
- ステロイド薬の使用
- β遮断薬の使用
- 新生児糖尿病の検査・チェック方法
新生児糖尿病の検査とチェック方法
新生児糖尿病は、早期発見と適切な対応が大切です。ここでは、新生児糖尿病の検査と確認方法について説明します。
新生児糖尿病のスクリーニング検査
新生児糖尿病を早期に発見するため、生まれて数日以内にスクリーニング検査が実施されます。
この検査では、血液中の糖分(血糖値)や尿の中の糖分(尿糖)を測定し、異常な値が見つかった際には追加の検査が必要です。
スクリーニング検査の項目
- 血糖値測定
- 尿糖検査
- ケトン体検査
確定診断のための検査
スクリーニング検査で異常が認められた場合、確定診断のためにさらなる検査が行われます。
検査項目 | 目的 |
遺伝子検査 | 新生児糖尿病の原因となる遺伝子の異常を特定する |
インスリン分泌能検査 | インスリンを分泌する能力を評価する |
膵臓画像検査 | 膵臓の形の異常や機能低下を評価する |
定期的なモニタリング
新生児糖尿病と診断された場合、定期的な経過観察が欠かせません。
血糖値の変動を注意深く観察し、低血糖や高血糖の症状を早期に発見することが大切です。
モニタリングの頻度
モニタリング項目 | 頻度 |
血糖値測定 | 1日数回~数週間に1回 |
成長発達評価 | 1~3ヶ月ごと |
合併症チェック | 3~6ヶ月ごと |
新生児糖尿病の治療方法と治療薬
新生児糖尿病では、早期発見と治療が、赤ちゃんの健康な成長と発達に大切です。
インスリン療法
新生児糖尿病の第一選択治療は、インスリン補充療法です。
赤ちゃんの体重や血糖値に応じて、適量のインスリンを皮下注射します。 治療開始時は頻繁に血糖値を測定し、注意深く監視しながらインスリン量を調整することに。
インスリン種類 | 作用発現時間 | 最大作用発現時間 | 作用持続時間 |
超速効型 | 10〜20分 | 1〜2時間 | 3〜5時間 |
速効型 | 30分 | 2〜3時間 | 5〜8時間 |
経口血糖降下薬
新生児糖尿病の一部のケースでは、飲み薬である経口血糖降下薬が使用されることもあります。 ただし、新生児への投与は慎重に検討する必要があり、副作用や低血糖のリスクを考慮しなければなりません。
主な経口血糖降下薬
- スルホニル尿素薬
- ビグアナイド薬
- αグルコシダーゼ阻害薬
- チアゾリジン薬
栄養管理
新生児糖尿病の治療において、適切な栄養管理は欠かせません。 母乳やミルクの量と間隔を調整し、血糖値を安定化させます。
栄養素 | 1日あたりの推奨量(/kg体重) |
エネルギー | 100〜120kcal |
タンパク質 | 2〜3g |
脂質 | 5〜7g |
炭水化物 | 10〜15g |
合併症の予防と管理
新生児糖尿病の赤ちゃんは、低血糖や高血糖に伴う合併症のリスクが高くなります。 定期的な眼科検査や腎臓の機能評価を行い、網膜症や腎臓病の早期発見に努めることが大事です。
また、感染症予防のために適切な予防接種を行うとともに、発熱時の血糖管理に注意が必要となります。
新生児糖尿病の治療期間と予後
新生児糖尿病は、早期発見と治療開始が予後に大きな影響を与えるため、新生児の検査が大切です。
治療期間と予後の関係
新生児糖尿病の治療期間は、原因となる遺伝子の変化のタイプによって異なりますが、多くの場合、一生涯にわたるインスリン治療が必要です。
しかし、早期に適切な治療を始めることで、合併症のリスクを最小限に抑え、良好な予後が期待できます。
遺伝子変異タイプ | 治療期間 | 予後 |
KCNJ11 | 生涯 | 早期治療で良好 |
ABCC8 | 生涯 | 早期治療で良好 |
INS | 生涯 | 合併症リスク高い |
予後に影響する因子
新生児糖尿病の予後は、いくつかの因子によって左右されます。
- 診断時期
- 治療開始時期
- 血糖コントロールの質
- 患者および家族のサポート体制
長期的な合併症のリスク
合併症 | リスク |
網膜症 | 高い |
腎症 | 高い |
神経障害 | 中程度 |
心血管疾患 | 中程度 |
新生児糖尿病の患者さんは、長期的な合併症のリスクが高いため、定期的な検査と予防的な治療が欠かせません。
薬の副作用や治療のデメリット
新生児糖尿病の治療に伴う副作用やデメリットにも注意が必要です。
インスリン療法の副作用
インスリン療法は新生児糖尿病の第一選択治療ですが、低血糖のリスクが高くなります。
副作用 | 症状 |
低血糖 | けいれん、意識障害、発汗、頻脈 |
局所反応 | 注射部位の疼痛、発赤、腫脹、皮下脂肪萎縮 |
経口血糖降下薬の副作用
経口血糖降下薬は、新生児への使用経験が限られており、安全性が十分に確立されていません。
- スルホニル尿素薬:低血糖
- ビグアナイド薬:乳酸アシドーシス
- αグルコシダーゼ阻害薬:下痢、お腹の張り
- チアゾリジン薬:体重増加、むくみ
治療に伴う発育への影響
新生児糖尿病の赤ちゃんは、治療に伴う低血糖や栄養管理の難しさから、発育の遅れのリスクが高くなります。
影響 | 内容 |
身体発育への影響 | 低身長、低体重、骨年齢の遅れ |
精神運動発達への影響 | 運動発達の遅れ、言語発達の遅れ |
保険適用の有無と治療費の目安について
新生児糖尿病は特定疾患に指定されているため、医療費助成制度を利用できることがあります。
保険適用の範囲
新生児糖尿病の治療に関する保険適用は、以下のような項目が対象です。
・インスリン製剤
・血糖測定器および測定strips
・インスリン注入器(ペン型、ポンプ)
・医療機関での診察および検査
ただし、保険適用の範囲は、患者さんの症状や治療方針によって異なる場合がありますので、詳細については担当医師にご確認ください。
医療費助成制度
制度名 | 対象者 | 自己負担額 |
小児慢性特定疾病医療費助成制度 | 18歳未満 | 自己負担上限額あり |
特定医療費(指定難病)助成制度 | 18歳以上 | 自己負担上限額あり |
新生児糖尿病は、小児慢性特定疾病および指定難病に指定されているため、上記の医療費助成制度を利用できます。
一般的な治療費の目安
新生児糖尿病の治療費は、患者さんの症状や治療方針によって異なります。
項目 | 費用目安 |
インスリン製剤 | 月額1~3万円程度 |
血糖測定器および測定strips | 月額5,000~1万円程度 |
インスリン注入器(初回購入時) | 10~20万円程度 |
インスリン注入器(消耗品など) | 月額5,000~1万円程度 |
医療機関での診察および検査 | 月額1~2万円程度 |
これらの費用は、保険適用や医療費助成制度を利用することで、自己負担額を抑えることができます。 ただし、症状や治療方針によっては、上に記載した治療費より高くなることもありますので予めご了承ください。
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