1型糖尿病

1型糖尿病

1型糖尿病(type1 diabetes)とは、自己免疫の仕組みによって膵臓のインスリン分泌細胞が破壊されて発症する慢性の病気です。

インスリンの分泌が不足することで、血糖値が高くなり、さまざまな合併症を引き起こす危険性があります。

ここでは、1型糖尿病の原因、症状、診断、日常生活で気を付けるべき点について詳しく説明していきましょう。

目次

1型糖尿病の病型

1型糖尿病には、いくつかの異なる病型があり、それぞれに特徴があります。

若年発症1型糖尿病(classical type 1 diabetes)

このタイプは、子どもや若者に最もよく見られ、発症すると病気の進行が速く、体がインスリンをほとんどまたは全く生産できなくなり、外部からインスリンを補給する必要があります。

成人発症1型糖尿病(adult-onset type 1 diabetes)

30歳を過ぎてから発症するこのタイプは、若年発症型よりも進行がゆっくりです。しかし、時間が経つにつれて、こちらもインスリンの補給が必要になります。

劇症1型糖尿病(fulminant type 1 diabetes)

この珍しいタイプは、急速に進行し、突然重い症状が現れます。体がほとんどインスリンを生産できなくなり、迅速な治療が必要です。

緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive type 1 diabetes)

成人に見られるこのタイプは、徐々にインスリンの生産が減少しますが、初期段階ではまだある程度のインスリンが生産されています。

1型糖尿病の異なる病型

病型発症年齢経過自己抗体インスリン分泌
若年発症小児期〜青年期急激陽性枯渇
成人発症30歳以降緩徐陽性率低い徐々に枯渇
劇症全年齢超急性陰性急速に枯渇
緩徐進行成人緩徐GAD抗体陽性徐々に低下

1型糖尿病の症状

1型糖尿病は、血中の糖分をコントロールするホルモン、インスリンが不足し、この状態が続くと、さまざまな症状が現れます。

口渇と多尿

1型糖尿病の典型的な初期症状に、強い喉の渇きと頻繁な尿意があります。

血糖値が高まると、腎臓が糖をうまく再吸収できず、結果として尿として排出される糖の量が増え、これが、尿の量が増える原因となり、体は水分を補おうとして喉の渇きを感じるのです。

体重減少と倦怠感

インスリンが不足すると、体の主なエネルギー源であるブドウ糖が細胞に入りにくくなり、その結果、体重が減少し、常に疲れを感じるようになります。

さらに、エネルギーを得るために体は脂肪や筋肉を分解し始めることに。

症状説明
口渇血糖値が上がると、尿に糖が多く排出され、喉の渇きが生じる
多尿尿に排出される糖の量が増えることで、尿の量も増える
体重減少インスリン不足により、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなり、体重が減る
倦怠感エネルギー不足から、体全体の疲れやだるさが生じる

視力障害

血糖値が長期間高い状態が続くと、目の水晶体に影響を及ぼし、視力が一時的に低下することがあります。しかし、血糖値を適切に管理することで、視力は元に戻る可能性が。

感染症のリスク増大

1型糖尿病を持つ人は、高血糖が免疫力を低下させるため、感染症にかかりやすくなります。

リスクのある感染症

  • 皮膚感染症(毛嚢炎や膿痂疹など)
  • 尿路感染症
  • 呼吸器感染症(肺炎など)
感染症の種類リスク因子
皮膚感染症高血糖による皮膚の乾燥や血流障害が原因
尿路感染症高血糖が尿中の糖分を増やし、膀胱の機能が低下
呼吸器感染症免疫力の低下や肺機能の低下が原因

1型糖尿病の原因

1型糖尿病は、遺伝と環境の両方が影響しています。

遺伝的素因の関与

1型糖尿病になりやすい人には、特定の遺伝子が関係しています。HLAという遺伝子群が一例で、特にHLA-DR3やHLA-DR4という遺伝子を持っている人は、糖尿病になるリスクが高いです。

遺伝子1型糖尿病発症リスク
HLA-DR3高い
HLA-DR4高い
HLA-DQ2中程度
HLA-DQ8中程度

環境因子の影響

遺伝子だけでなく、ウイルス感染や食事などの環境因子も、1型糖尿病の発症に関わっています。

  • ウイルス感染:コクサッキーウイルスやサイトメガロウイルスが、膵臓の細胞を攻撃し、インスリンの生産を妨げることが。
  • 食事因子:乳児期に牛乳タンパク質を摂取したり、ビタミンDが不足すると、糖尿病のリスクが上がる。

自己免疫機序

1型糖尿病は、自分の免疫システムが膵臓の細胞を間違って攻撃してしまう自己免疫疾患です。この攻撃には、いくつかの要素が関係しています。

自己免疫因子役割
自己抗体膵島関連自己抗体が膵臓の細胞を攻撃
T細胞自己反応性T細胞が細胞を直接破壊
サイトカインIL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインが関与

β細胞の破壊と機能低下

自己免疫反応が進むと、膵臓の細胞が徐々に壊れ、インスリンを作る能力が落ちていき、血糖値を正常に保つことができなくなり、結果として血糖値が上がり続けます。

  1. β細胞のアポトーシス:自己免疫反応によって細胞が死んでしまう。
  2. β細胞の機能低下:炎症性サイトカインの影響で、細胞のインスリン分泌能力が落ちる。
  3. インスリン抵抗性の増大:血糖値が高い状態が続くと、体の他の部分もインスリンに反応しづらくなる。

1型糖尿病の検査・チェック方法

1型糖尿病は、早期に見つけてしっかりと対応することが、患者さんの生活の質を守るためには欠かせません。ここでは、1型糖尿病を見つけ出し、状態を把握するための検査方法について説明します。

血糖値測定

血糖値を測ることは、1型糖尿病の診断と日々の管理において、とても大切な検査です。ランダムまたは空腹時の血糖値をチェックすることで、血糖が高い状態かどうかを知ることができます。

グリコヘモグロビン(HbA1c)検査

HbA1cは、過去数ヶ月の血糖の平均値を示す指標です。この検査を定期的に行うことで、血糖がどの程度コントロールされているかを把握できます。

検査項目目的
血糖値測定血糖の高低をチェックし、日々の血糖管理を理解
HbA1c検査数ヶ月にわたる血糖の平均値を知り、血糖コントロールの状態を確認

自己抗体検査

自己抗体を調べることで、1型糖尿病かどうかを判断できます。

  • 膵島細胞抗体(ICA)
  • グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体
  • インスリン自己抗体(IAA)
  • IA-2抗体
  • ZnT8抗体

眼底検査と腎機能検査

1型糖尿病の患者さんは、目や腎臓の合併症を発症しやすいため、定期的にチェックします。

検査項目チェック内容
眼底検査目の奥の状態を見て、網膜症がないかを確認
腎機能検査尿の中のタンパク質の量や腎臓の働きを調べる

1型糖尿病の治療方法と治療薬

1型糖尿病の治療は、体内で不足しているインスリンを外から補うインスリン療法が中心です。

さらに、日々の血糖管理や食事の工夫も、大切になってきます。

インスリン療法の種類と特徴

インスリン療法の種類

療法特徴
強化インスリン療法食事の前に速効型インスリンを、就寝前には長時間作用型インスリンを使用することで、血糖管理がしやすく
持続皮下インスリン注入療法(CSII)インスリンポンプを使って、一日中インスリンを小分けにして体内に送り込み、自然なインスリンの分泌に近い状態を作り出す

血糖自己測定の重要性

1型糖尿病患者さんにとって、自分で血糖値をチェックすることは治療の基本です。血糖値を定期的に測ることで、インスリンの量を調整し、血糖値を安定させることができます。

測定のタイミング

  • 食事の前後
  • 運動の前後
  • 低血糖の兆候がある時
  • 体調が悪い時

食事療法のポイント

1型糖尿病の治療において、食事の管理も欠かせません。以下の点に注意して、食事計画を立てましょう。

  • 炭水化物の量を把握し、インスリンの量に合わせる
  • 栄養バランスの良い食事を心がける
  • 食物繊維を多く含む食品を積極的に取り入れる
  • スナックの量とタイミングに気をつける

運動療法の効果と注意点

運動は、血糖値をコントロールするのに役立ちますが、注意が必要な点もあります。

注意点対策
低血糖のリスク運動の前後で血糖値を測り、必要に応じてインスリンの量を調整
運動強度の急な変更徐々に運動量を増やす

1型糖尿病の治療期間と予後

1型糖尿病は、一生付き合っていく必要がある病気ですが、適切な対応をすれば、合併症のリスクを減らし、元気に過ごすことができます。

生涯にわたる治療の必要性

1型糖尿病は、体がインスリンをうまく作れなくなる病気なので、インスリンを外から補う治療が一生必要になります。

治療をやめてしまうと、血糖値が上がりすぎ、体に悪影響を及ぼすので、医師の指示に従い治療を続けることが大切です。

早期発見と治療開始の重要性

1型糖尿病の治療結果をよくするためには、病気を早く見つけてすぐに治療を始めましょう。

症状が出始めてから診断まで時間がかかると、合併症のリスクが高まるため、もし症状が現れたらすぐに病院へ行ってください。

発症年齢治療期間予後
小児期生涯早く治療を始めれば健康に過ごせる
青年期生涯合併症に注意しながら治療を続ける
成人期生涯健康的な生活習慣で予後を良くする

合併症のリスクと予防

1型糖尿病の患者さんは、いくつかの合併症に注意が必要です。

  • 網膜症
  • 腎症
  • 神経障害
  • 心血管疾患

合併症を防ぐためには、血糖値をしっかりと管理すること、定期的に目や腎臓の検査を受けること、そして禁煙や適度な運動を心がけることが大切です。

インスリン療法と血糖管理

インスリン療法特徴
頻回注射1日に何回もインスリンを注射する必要
持続皮下インスリン注入療法 (CSII)インスリンポンプを使って、常にインスリンを体内に送り続ける

インスリン療法は1型糖尿病治療の中心です。患者さんのライフスタイルや好みに合わせて、最適な方法を選びます。また、自分で血糖値を測り、結果に基づいてインスリンの量を調整することで、血糖値を適切に管理しましょう。

薬の副作用や治療のデメリット

1型糖尿病の治療にはインスリン注射が中心ですが、この治療法には副作用やいくつかのデメリットが伴います。

低血糖の危険性

インスリン治療で最もよくある副作用は低血糖です。インスリンの量が多すぎると、血糖値が急に下がり、めまいや震え、発汗、意識がもうろうとするなどの症状が出ることがあります。

ときには、昏睡状態になることもあるので、注意が必要です。

体重増加のリスク

インスリン治療をしている人の中には、体重が増える人もいます。

インスリンは細胞が糖を取り込むのを助けるため、体内にエネルギーが蓄積しやすくなるのです。そのため、食事の管理と運動が必要になってきます。

注射部位の問題

長期にわたるインスリン注射は、注射部位にいろいろな問題を引き起こすことがあります。

注射部位に関連する副作用とデメリット

副作用・デメリット説明
脂肪萎縮同じ場所への繰り返し注射により、脂肪組織が小さくなる
皮下出血注射で血管を傷つけると、皮下出血が起こることがある
硬結注射部位に硬い塊ができ、インスリンの吸収が悪くなることがある

インスリンアレルギー

まれに、インスリン製剤に対してアレルギー反応を示すことがあります。可能性のある症状は、注射部位の赤みや腫れ、かゆみ、全身のアレルギー反応です。

アレルギー反応が疑われるときは、すぐに医療機関を受診してください。

インスリン抵抗性の発現

長期間のインスリン治療によって、体がインスリンに反応しづらくなり、血糖コントロールが難しくなることがあります。定期的な血糖のチェックと治療法の見直しが必要です。

インスリン治療の副作用・デメリット対策
低血糖血糖値を定期的にチェックし、インスリンの量を適切に調整
体重増加食事の管理と運動を心がける
注射部位の問題注射部位を変えることや正しい注射方法を学ぶ
インスリンアレルギーアレルギー反応が出たらすぐに医師に相談
インスリン抵抗性定期的に血糖をチェックし、必要に応じて治療法を見直す

保険適用の有無と治療費の目安について

1型糖尿病の治療は保険が適用されます。

インスリン療法の保険適用

インスリン製剤や注射器、ペン型注入器の費用は保険でカバーされますが、インスリンポンプなどの特別な機器には自己負担が必要なこともあります。

血糖自己測定の保険適用

血糖測定器やセンサー、穿刺器具などの血糖自己測定に必要な器具や消耗品は、保険の適用を受けられます。ただし、保険適用には条件があるため、詳細は医師に相談してください。

1型糖尿病の一般的な治療費

1型糖尿病の治療費は、患者さんの状態や選択する治療方法によって変わります。

治療にかかる一般的な費用の目安

項目費用(月額)
インスリン製剤5,000円~20,000円
注射器具1,000円~3,000円
血糖自己測定器具3,000円~10,000円
医療機器(インスリンポンプなど)10,000円~50,000円

これらは保険適用後の自己負担額です。さらに、定期的な診察や検査、合併症の管理にも費用がかかります。

1型糖尿病の治療に関わるその他の費用

1型糖尿病の治療では、追加の費用がかかることがあります。

  • 糖尿病教育入院や療養指導の費用
  • 低血糖対策のための補食用品
  • シックデイ対策のための備品や食品

これらの費用については、保険の適用状況や自己負担額が異なるため、医療機関で確認してください。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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