蕁麻疹治療薬ゾレア(オマリズマブ)は、花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)、気管支喘息、慢性蕁麻疹などのアレルギー症状に対する注射薬です。
この薬はアレルギー反応の根本的な原因であるIgEという物質に対して直接作用し、その活動を抑えることにより症状を軽減させることを目指します。
特に、従来の治療方法では効果が不十分だった患者さんに対して、大きなメリットをもたらすことが期待されているところです。
この記事では、ゾレアについて詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ゾレア(オマリズマブ)の有効成分と効果、作用機序
有効成分
ゾレアの有効成分である「オマリズマブ」は、人工的に作られたモノクローナル抗体です。
モノクローナル抗体とは、特定のターゲットに対して高い特異性を持つ抗体で、オマリズマブは特に、体内でアレルギー反応の主要な原因となる物質であるIgEに対して作用します。
作用機序
オマリズマブが作用するIgEは、アレルギー反応を引き起こす主要な因子です。IgEが過剰にあると、マスト細胞が活性化され、活性化されたマスト細胞からヒスタミンなどの炎症性物質が放出されます。
このヒスタミンが花粉症や蕁麻疹、喘息などの症状を引き起こす要因です。
オマリズマブはIgEと結合し、マスト細胞を活性化するのを防ぎます。マスト細胞からヒスタミンが放出されなくなるので、結果的に鼻水や咳、蕁麻疹などのアレルギー症状の発生を抑制することに。
効果
ゾレアは、花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)や喘息、蕁麻疹(特に慢性蕁麻疹)に対する治療で顕著な効果を示し、12歳以上で従来の治療による効果が不十分な患者さんに適応となります。
ゾレア(オマリズマブ)の使用方法と注意点
ゾレアの使用方法
ゾレアは適応疾患によって投与方法が異なります。
- 特発性慢性蕁麻疹:通常、1回300mgを4週間ごとに皮下に注射。対象は成人及び12歳以上の小児。
- 気管支喘息・季節性アレルギー性鼻炎:通常、1回75〜600mgを2または4週間毎に皮下に注射。1回あたりの投与量と投与間隔は、初回の投与前に採血を行い、血清中の総IgE濃度と体重に基づいて算出。
注意点
ゾレアを使用する際の注意点
- ゾレアは既存の治療で効果が不十分な蕁麻疹や気管支喘息、季節性アレルギー性鼻炎に対して適応となる薬ですが、必ずしも適応とならないことも。
- 注射後1時間はアレルギー反応が出ないかどうか、医療機関で経過観察を受ける。
- 体調に変化、特に呼吸困難や蕁麻疹の悪化が見られるときは、速やかに医療機関に連絡。
- 予定されている注射を欠かさず受け、定期的なフォローアップを怠らない。
適応対象となる患者さん
ゾレアの主な適応対象
ゾレアが適応になる患者さん
- 気管支喘息(既存治療で症状のコントロールができない難治の患者に限る)
- 季節性アレルギー性鼻炎(既存治療で効果が不十分な重症または最重症患者に限る)
- 特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果が不十分な患者に限る)
気管支喘息の方は、事前に呼吸機能検査や、血液検査、アレルギーの検査を行い、以下の条件を満たしている必要があります。
- 高用量の吸入ステロイド薬に加えて、複数の喘息のお薬を使っている
- 症状がコントロールできない(下記のいずれか)
- 毎日喘息症状
- 呼吸機能が低下
- 週1回以上夜間症状
- 血清中総IgE濃度が30~1,500 IU/mLの範囲
- アレルギー抗原(ハウスダスト、ダニなど)に対して陽性反応
- 体重が20~150kgの範囲
季節性アレルギー性鼻炎の方は、既存治療薬での治療、血液検査(アレルギーの検査等)をしたうえで、以下の条件を満たしている必要があります。
- 重症または最重症の季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)で前スギ花粉シーズンでも重症な症状(過去の治療内容や症状により判断)があった
- スギ花粉のアレルギー検査(血液検査)の結果が陽性(血液検査で基準があります)
- 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の既存治療を1週間以上行っても、効果不十分
- 12歳以上
- 血清中総IgE濃度が30~1,500IU/mLの範囲
- 体重が20~150kgの範囲
慢性蕁麻疹の方は、以下のような特定の条件を満たしている必要があります。
- 今までの治療で効果が不十分
- 12歳以上
- 原因不明
- ゾレアに対して過敏症の既往がない
これらの条件は、ゾレアを使用する際の主要な判断基準となりますが、最終的な適応の可否は、主治医による詳細な診断と評価にもとづき決定されます。
特定の背景を有する方への使用
ゾレアを投与する際、注意が必要な患者さんもいらっしゃいます。
ラテックス過敏症の既往、または可能性のある方
アレルギー反応を起こすことがあります。既往がある方は必ず事前に申し出てください。
妊娠または妊娠している可能性のある方、授乳中の方への使用
胎盤移行の危険性があるので、妊娠中や妊娠している可能性のある方は、治療上の有益性が危険性を上回ると医師が判断したときのみ使用できます。
また、授乳中の方への使用は、治療上の有益と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討したうえで処方することもあります。
お子さまへの使用
気管支喘息においては、6歳未満の小児に関して、季節性アレルギー性鼻炎と特発性の慢性蕁麻疹については、12歳未満の小児を対象とした臨床試験を行なっていないため、使用することができません。
気管支喘息の6歳以上の小児を対象とした試験では、頭痛、発熱、上腹部痛の副作用が多く認められているため、慎重に使用する必要があります。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方は、一般に生理機能(腎機能、肝機能、免疫機能等)が低下しているため、注意が必要です。
ゾレア(オマリズマブ)の治療期間
ゾレアの治療期間は患者さんそれぞれの症状の強さや効き具合などによるので、決められた治療期間はありません。ただし、効果が認められない時に使用し続けることは推奨されていません。
ここでは適応となっている各疾患の一般的な目安となる治療期間について解説します。
気管支喘息
用法及び用量どおり、16週間の使用後も改善が見られないときには、漫然と使用を続けないようにしてください。
季節性アレルギー性鼻炎
原因となる花粉抗原の飛散期間中のみ投与することが添付文書に明記されています。
日本人を対象とした臨床試験では、本剤の12週以上の使用例はないため、12週を超えて継続して投与する際は、患者さんの状態を考慮し、継続する必要性を判断する必要があります。
慢性蕁麻疹
日本人を対象とした臨床試験では12週以降の使用例がないため、12週以降も継続して投与するときは、治療の有効性を評価し、検討します。
特に、用法及び用量どおりに12週間使用しても効果が見られない場合は、漫然と投与を続けず、使用の中止を検討することも。
また、海外の臨床試験は最長24週間で、この期間以上での投与の安全性は確立していません。
ゾレア(オマリズマブ)の副作用やデメリット
ゾレア(オマリズマブ)は慢性蕁麻疹などの治療に有効な薬剤ですが、他の医薬品同様、副作用やデメリットがあります。患者さんが治療を受ける際は、リスクを理解し、医師と十分に相談したうえで治療を進めてください。
ゾレアの主な副作用
ゾレアの使用によって発生する可能性がある頻度の高い副作用は、主に注射部位の反応です。
- 赤み
- かゆみ
- 熱感
- 皮膚の硬化
- 出血
また、重要な副作用としては、呼吸困難や血圧低下などを引き起こすアナフィラキシーショックです。アナフィラキシーショックが起こったときは、直ちに医療機関に連絡する必要があります。
その他、臨床症状で副作用として考えられるものに、頭痛、鼻咽頭炎、蕁麻疹なども。ただし、これらは一般的に軽度から中等度の副作用であり、多くの場合、時間が経つにつれて改善されます。
ゾレアのデメリット
ゾレア治療のデメリット
- 高価な治療薬であり、経済的な負担が大きい。
- 医療機関での注射が必要で、1ヶ月に一回の定期的な通院が求められる。気管支喘息、慢性蕁麻疹の方で、自己投与が可能なこともありますが、医師による慎重な判断が求められる。
- 全ての患者さんに効果があるわけではない。
- 投与中止によって、通常、遊離IgE濃度および症状が治療前の状態に戻る。
- 投与中は寄生虫に感染しやすいので、寄生虫感染のリスクが高い地域への旅行は推奨されない。
- 投与中にめまい、疲労、失神、傾眠があらわれることがあるため、自動車の運転など、危険を伴う機械の操作に従事するときには十分な注意が必要。
ゾレアの副作用とデメリット
カテゴリ | 項目 | 説明 |
---|---|---|
副作用 | 注射部位の反応 | 痛み、腫れ、発赤など |
頭痛 | 頻度の高い副作用の一つ | |
疲労感 | 治療を受ける患者によく見られる | |
主なデメリット | 治療コスト | 高価であり、経済的負担が大きくなる |
定期的な通院 | 注射のために医療機関への定期的な訪問が必要 | |
治療反応の個人差 | 全ての患者さんに効果的とは限らず、効果が見られないことも |
ゾレア(オマリズマブ)を用いた治療を検討する際は、これらの情報を十分に理解し、医師と共に治療の選択を行うことが大切です。
ゾレア(オマリズマブ)で効果がなかった場合
ゾレア(オマリズマブ)は多くの方に有効な治療薬ですが、すべての方に効果があるわけではありません。効果が見られなかったときは、他の治療法を検討する必要があります。
ここでは、ゾレアが効果を示さなかったときに検討される代替治療法について解説しましょう。
代替治療薬の選択肢
ゾレア以外にも、治療に用いられる薬剤はいくつかあり、患者さんの症状や病歴、既往症などに基づいて選択されます。
主な代替治療薬
代替治療薬 | 説明 |
---|---|
抗ヒスタミン薬 | 症状の緩和を目的とし日常的に使用され、いろいろな種類の中から選択 |
レボセチリジン・フェキソフェナジン | 第二世代の抗ヒスタミン薬で、より少ない副作用で症状の管理が期待 |
モンテルカスト | ロイコトリエン受容体拮抗薬で、アレルギー性疾患の治療に使用 |
シクロスポリン | 免疫抑制剤の一種で、重症の慢性蕁麻疹に対して使用されることが |
デュピルマブ | 重症のアトピー性皮膚炎や喘息に用いられるが、一部の蕁麻疹患者にも効果があるとされる生物学的製剤 |
ゾレア(オマリズマブ)で効果が得られなかった場合でも、これらの代替治療薬を選択することで、症状の改善や管理が可能です。
他の治療薬との併用禁忌
ゾレアと併用禁忌と指定されている薬剤は現在のところありません。
保険適用と薬価について
ゾレアは気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)、季節性アレルギー性鼻炎(既存治療で効果不十分な重症又は最重症患者に限る)、特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)に対して保険適用です。
気管支喘息や季節性アレルギー性鼻炎における治療では、ゾレアの使用量は初回投与前の血清中総IgE濃度および体重に基づき決定されるため、患者さんごとに治療費は異なり、さらに実際の支払額は、年齢や年収によって異なります。
また、特発性の慢性蕁麻疹における治療の場合、通常、1回300mgを4週間ごとに投与。窓口での支払額は、年齢や収入によって異なります。
ゾレア皮下注シリンジの薬価は75mgで14,812円、150mgで29,147円(2020年9月時点)です。
ゾレアによる治療を受ける際の医療費には、ゾレアの薬剤費以外にも診察や検査にかかる費用、通常抗ヒスタミン薬と併用して投与するため、それらの薬剤費も含まれます。
全ての合計額の3割または2割、1割に相当する窓口での支払い金額(自己負担額)が、高額療養費制度で年齢や所得に応じて定められた自己負担限度額を超えたときは、払い戻しの対象です。
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
添付文書 医療用医薬品:ゾレア https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068019
慢性蕁麻疹診療ガイドライン2018
ノバルティス ゾレアによる治療を受ける患者さんとそのご家族の方へ https://www.okusuri.novartis.co.jp/xolair
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