手足口病(hand–foot–mouth disease)とは、主に小さなお子様によく見られる皮膚感染症の一つで、その名の通り、手のひらや足の裏、そして口腔内に赤みや水疱が現れます。
コクサッキーウイルスやエンテロウイルスが原因で起こり、夏から秋にかけて流行することが多いです。
感染力が強く、幼稚園や保育園などの集団生活を送る子どもたちの間で急速に広がることもあります。
この記事では手足口病について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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手足口病の原因
手足口病は、ウイルス性の皮膚感染症の一つです。
主な原因ウイルス
手足口病の主な原因は、エンテロウイルス属に属するウイルスです。このウイルス属にはさまざまな種類があり、特にコクサッキーウイルスA16とエンテロウイルス71が原因として多く報告されています。
感染経路
手足口病のウイルスは、接触感染で感染します。
感染経路
- 唾液、鼻水、咳やくしゃみによる飛沫
- 感染した人の便
- 感染した表面や物を触った後の手指
これらの経路を通じて、人の口内や消化器官に侵入し、症状を引き起こします。
ウイルスの特性
エンテロウイルスは手洗いや消毒によっても完全に除去することは難しいことも。
手足口病は、症状が現れる前後でウイルスを排出が始まり、改善してからもしばらくはウイルスの排泄が続きくため、予期せず他人に感染させてしまうことがあります。
手足口病の発生には季節性があり、多くの地域で春から夏、初秋にかけて発生し、気温の上昇とともにウイルスの活動が活発化するので、この時期には特に注意が必要です。
さらに、地域によって流行するウイルスの種類が異なることがあるため、住む地域の流行状況を把握することも大切になります。
手足口病の病型
手足口病は、原因ウイルスによって、経過や合併症が異なることがあります。頻度としてはエンテロウイルス71型とコクサッキーウイルスA16型が多いです。
コクサッキーウイルスA16は比較的軽症で済むことが多い一方で、コクサッキーウイルスA6では高熱や手足以外の皮膚症状を認めるなど重症化することがあります。
また、エンテロウイルス71ではまれに無菌性髄膜炎を合併することも。
ウイルス別の特徴
病型 | 症状・合併症の特徴 |
---|---|
エンテロウイルス71型 | まれに髄膜炎を合併することがある |
コクサッキーウイルスA16型 | 比較的軽症 |
コクサッキーウイルスA6型 | 症状が重症化しやすい |
コクサッキーウイルスA10型 | 比較的軽症 |
手足口病の症状
手足口病の症状は、2〜5日程度の潜伏期間を経て発熱や食欲不振といった一般的な感染症の徴候から始まることが多いです。
その後、特徴的な紅斑や水ぶくれ(水疱)が手のひら、足の裏、そして口内に現れます。成人で発症した場合は、全身症状がより強く出現することも。
手足口病で見られる症状
症状 | 詳細説明 |
---|---|
発熱 | 感染初期に見られることが多く、37.5°C以上の体温上昇 |
口内症状 | 口の中に痛みを伴う赤い発疹や水ぶくれが現れ、食事や飲水が困難に |
手足の発疹 | 手のひらや足の裏に赤い斑点や水ぶくれに発展することも |
咽頭痛 | 喉の痛みや不快感が現れ、特に食事時に不快感を感じることが多い |
食欲不振 | 全般的な不調や口内症状により、食欲が減退 |
手足口病の診断・チェック方法
通常、手足口病の検査は臨床的所見、すなわち視診によって行われ、検査を行うことはまずありません。
ただし、皮膚症状以外の高熱や嘔吐など全身症状が続くときは、髄膜炎の合併の可能性があるため、経過について慎重に問診を行います。
チェック方法
手足口病の自宅でのチェックする際の項目
- 症状の部位:手のひら、足の裏、口内に発疹や水疱が現れるので、これらの部位に発疹があるかをチェック。
- 水疱の初見:水疱の周りに赤みを伴う。
- 発熱の確認:発熱があるかどうかをチェックしますが、必ずしも発熱を伴うわけではない。
- 喉の痛みや食欲不振:口内に痛みを伴う発疹があるときは、飲み込む際の痛みや食欲不振が生じる。
これらの症状が該当するときは、手足口病の疑いがあるため、早めに医療機関を受診してください。
手足口病の治療方法
手足口病は、主にコクサッキーウイルスやエンテロウイルスによって引き起こされる感染症であり、ウイルスそのものに対する薬はありません。
それぞれ認める症状に対して対症療法が行われます。
対症療法
- 発熱や痛み:アセトアミノフェンやNSAIDsなどを用いて発熱や痛みの症状を緩和。
- 十分な水分補給:口内痛により飲食が困難な場合でも、脱水を防ぐために十分な水分補給が必要。
手足口病の治療期間
手足口病の治療に要する期間は患者さんの個別の状態によって異なりますが、一般的には症状が現れてから約1週間から10日間が目安です。
ただし、発疹や水疱が完全に治癒するまでにはもう少し時間がかかることがあります。
症状の経過
手足口病は潜伏期(ウイルスが感染してから症状発症までの期間)が2〜5日程度あります。
症状はさまざまで、一般的な経過とその期間は以下のとおりです。
- 倦怠感・発熱:感染2〜5日後で1〜2日認める
- 口内炎・手足の発疹:感染数日〜1週間後で7〜10日認める
- ウイルスの排泄:症状消失後2〜4週間続く
治療期間中の注意点
手足口病の治療期間中の注意点
- 症状が改善しても、ウイルスの排出は2〜4週間ほど続くため、他人への感染予防に努める。
- 熱がある間は十分な休養を取り、無理をしない。
- 口内炎による痛みが強いときは、刺激の少ない食事を心がける。
- 発疹や水疱は、無理に剥がしたり潰したりしない。
薬の副作用
対症療法として処方されるアセトアミノフェンには、胃腸の不快感や、ごくまれにアレルギー症状を引き起こす可能性があります。
保険適用の有無と治療費の目安について
手足口病の治療において、処方される薬には保険が適用され、15歳までのお子さんの医療費は無料です。
成人の方に対しては、適応される保険の割合に応じてお支払いいただく薬剤費が変わります。
解熱剤のロキソニンの場合、薬価は1錠(60mg)10.1円です。
薬剤費の他に、初診料あるいは再診料などがかかります。詳しくはお問い合わせください。
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