日光角化症(actinic keratosis: AK、老人性角化症 senile keratosis)とは、長期間の日光暴露によって生じる皮膚の前がん状態です。
主に顔、手の甲、頭皮など、日光にさらされやすい部位に発生し、痂皮(かひ かさぶた)を伴う不明瞭な赤みとして現れます。
日光角化症を放置すると、有棘細胞がんという皮膚がんへと進行するリスクがあるため、早期発見と対応が大切です。
この記事では、日光角化症の特徴、発生するメカニズム、および治療法について詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
日光角化症の原因・リスクファクター
日光角化症は、主に長期間にわたる紫外線(UV)への曝露が原因で発生。
紫外線は角化細胞のDNAに異常をきたし、表皮内で異常な増殖を認めますが、日光角化症では基底層は保たれており、上皮内がんに分類されます。
日光角化症のリスクファクター
日光角化症のリスクファクターとして、次のようなものが挙げられます
- 加齢:加齢に伴い、生涯の日光曝露の累積量は増えるので、高齢者に好発。
- 慢性の日光曝露歴:テニスなどの屋外でのスポーツや、農業など屋外の職業の方は日光角化症のリスクファクターに。
- 男性:女性よりも男性の方が日光角化症を認めやすい。
- 色白の人:色白の人はメラニン色素が少なく、紫外線によるDNA損傷を受けやすい傾向があり、赤道に近いオーストラリアは日光角化症の有病率がおよそ60%近いという報告も。
- 免疫抑制状態:化学療法を受けている方やAIDS患者さん、免疫抑制剤を投与されている方など、免疫が低下してる状態は日光角化症を引き起こしやすい。
- その他:日光角化症や基底細胞がんなどの皮膚悪性腫瘍の既往がある方は発生率も高い。また、光線過敏症(色素性乾皮症など)があると紫外線の影響を受けやすく、日光角化症が起きやすい。
日光角化症の症状
日光角化症は、長期にわたる紫外線の影響によって生じる皮膚の状態です。そのため顔面や手背などの露出部に好発します。
症状の特徴
日光角化症では、角化気味の紅色の面が現れます。鱗屑や痂皮を伴うことが多いため、紅斑がカバーされてしまうと老人性色素斑や脂漏性角化症といったシミと誤診されることも少なくありません。
ときに角化性の結節や突出(皮角)を認めることもあります。また、角化が進むと、ザラザラとした感触があるのが特徴です。
日光角化症の病型
日光角化症は病理学的所見によって、いくつかに分類されます。
- 紅斑型
- 色素沈着型
- 疣状型
- 皮角型
- 肥大型
このうち最も頻度が高いのは紅斑型です。
日光角化症の診断方法
日光角化症は、皮膚が紫外線の影響を受けやすい状態にあります。この状態を早期に発見し対応することが大切です。
ここでは、日光角化症の検査やチェック方法について解説していきます。
皮膚科での診断方法
日光角化症の診断では、視診に加えてダーモスコピーや皮膚生検などの検査が追加して行われます。
日光角化症の診断方法
方法 | 説明 |
---|---|
ダーモスコピー | 特殊な拡大鏡を使って皮膚表面の変化を観察 |
皮膚生検 | 病変の一部をくり抜き、細胞の変化を顕微鏡で確認 |
ダーモスコピー
日光角化症のダーモスコピーでは、毛細血管の増加を反映した淡紅色の偽ネットワークと、角化を伴う毛孔開大によって「strawberry pattern」という特徴的な所見を認めます。
病理所見
日光角化症の病理所見は病型によっても異なりますが、いずれも表皮基底層における異形性と、真皮の日光性弾力線維症(solar elastosis)を認めます。
日光角化症の治療方法と治療薬
日光角化症の治療には、外用療法から外科的切除までさまざまです。ここでは主要な治療法及び治療薬について説明します。
外用療法
外用療法は、日光角化症の治療において最も一般的に使用される方法の一つです。5-フルオロウラシルやイミキモドクリームなどの抗悪性腫瘍外用薬で異常細胞を除去します。
5-フルオロウラシルの場合、1日1〜2回、患部に塗布し、イミキモドクリームの場合は、週に3回を4週間塗布した後、4週間休薬し、効果が不十分である場合はもう4週間塗布。
日本ではイミキモドクリーム(ベセルナクリーム)が保険適用です。
- 5-フルオロウラシル(5-FU):異常な細胞のDNAを標的とし、破壊することで治療。
- イミキモドクリーム:免疫応答を誘発し、異常細胞を体の免疫システムが認識して除去。
凍結療法
凍結療法は、液体窒素を使用して、異常細胞を急速に凍結し破壊します。簡便な治療であるため、外用療法と並んでよく行われる治療方法です。
光線療法
光線療法は、特定の光源を使用して皮膚に光を当て、異常細胞を壊す方法です。この治療法は、通常、外用療法で効果がなかったときに検討されます。
光線力学療法(photo dynamic therapy: PDT)というものがあり、この方法では、まずアミノレブリン酸という感光剤を内服し、その後特定の波長の光を照射して異常細胞を破壊します。
日本では保険適用外の治療法です。
外科的治療
日光角化症の中でも角化傾向が強く、外用療法や凍結療法などで十分な効果が認められないときや真皮内への浸潤(有棘細胞がんへの移行)が疑われる場合には、外科的治療が選択されます。
断端が陰性の場合、100%治癒が可能ですが瘢痕や引きつれなどの副作用も。
日光角化症の治療期間
日光角化症の治療に要する期間は患者さんの状態や治療法によって異なります。
日光角化症の治療法の一般的な治療期間の目安
治療法 | 治療開始からの期間 |
---|---|
外用療法 | 1〜3ヶ月程度 |
凍結療法 | 即時から数週間程度(セッション数による) |
光線療法 | 数週間から数ヶ月 |
外科的除去 | 即時(傷の創傷治癒期間を除く) |
薬の副作用や治療のデメリット
日光角化症で行われる治療法には副作用やデメリットが伴います。
外用療法の副作用・デメリット
外用療法の副作用は比較的高頻度で起こりますが、症状は軽度のことがほとんどです。外用療法のデメリットとしては、完全に腫瘍がなくならない可能性もあることが挙げられます。
治療方法 | 副作用 |
---|---|
5-フルオロウラシルクリーム | 赤み、かゆみ、痛み、皮膚剥離 |
イミキモドクリーム(べセルナクリーム) | 使用部位の赤み、かゆみ、炎症、びらん |
凍結療法の副作用・デメリット
凍結療法の副作用は治療時の痛みやその後の赤みで、半数程度で認めます。液体窒素を当てる強度によっては水疱ができたり、瘢痕になることも。
光線療法(PDT)の副作用・デメリット
光線療法では、治療後の軽度の痛み、赤み、腫れを引き起こすことがあり、場合によっては感染のリスクを高める可能性も。
また、使用する薬剤(アミノレブリン酸)は太陽光線に対して感受性が高く、紫外線ダメージを受けやすいことがあります。
外科的治療の副作用・デメリット
手術によって確実に腫瘍を取り除く外科的治療は唯一、完全な治癒が可能ですが、瘢痕などのリスクもあり、特に高齢者に好発する日光角化症の場合、手術は侵襲性が高く受けられないこともあります。
保険適用の有無と治療費の目安について
日光角化症の診断で行われるダーモスコピーや皮膚生検はいずれも保険が適用。
一方、日光角化症で行われる治療には、保険が適用されるものとされないものがあります。
保険の適用の有無
保険適用あり | 保険適用なし |
---|---|
5-フルオロウラシルクリーム(5-FU)・イミキモドクリーム(べセルナクリーム)外用 | 光線療法(PDT) |
液体窒素 | |
外科的治療 |
イミキモドクリームの薬価は1098.9円/包で1クール分が3割負担の場合、約3956円です。
また、凍結療法の保険点数は
3箇所以下 210点
4箇所以上 270点
で当てる箇所に変わり、これ以外に、初診料及び再診料、検査料などが追加されます。
参考文献
Reinehr CP, Bakos RM. Actinic keratoses: review of clinical, dermoscopic, and therapeutic aspects. Anais Brasileiros de Dermatologia. 2020 Feb 3;94:637-57.
Dianzani C, Conforti C, Giuffrida R, Corneli P, di Meo N, Farinazzo E, Moret A, Magaton Rizzi G, Zalaudek I. Current therapies for actinic keratosis. International Journal of Dermatology. 2020 Jun;59(6):677-84.
Cramer P, Stockfleth E. Actinic keratosis: where do we stand and where is the future going to take us?. Expert Opinion on Emerging Drugs. 2020 Jan 2;25(1):49-58.
Eisen DB, Asgari MM, Bennett DD, Connolly SM, Dellavalle RP, Freeman EE, Goldenberg G, Leffell DJ, Peschin S, Sligh JE, Wu PA. Guidelines of care for the management of actinic keratosis. Journal of the American Academy of Dermatology. 2021 Oct 1;85(4):e209-33.
Worley B, Harikumar V, Reynolds K, Dirr MA, Christensen RE, Anvery N, Yi MD, Poon E, Alam M. Treatment of actinic keratosis: a systematic review. Archives of Dermatological Research. 2023 Jul;315(5):1099-108.
Del Regno L, Catapano S, Di Stefani A, Cappilli S, Peris K. A review of existing therapies for actinic keratosis: current status and future directions. American Journal of Clinical Dermatology. 2022 May;23(3):339-52.
Thomson J, Bewicke-Copley F, Anene CA, Gulati A, Nagano A, Purdie K, Inman GJ, Proby CM, Leigh IM, Harwood CA, Wang J. The genomic landscape of actinic keratosis. Journal of Investigative Dermatology. 2021 Jul 1;141(7):1664-74.
Bakshi A, Shafi R, Nelson J, Cantrell WC, Subhadarshani S, Andea A, Athar M, Elmets CA. The clinical course of actinic keratosis correlates with underlying molecular mechanisms. British Journal of Dermatology. 2020 Apr 1;182(4):995-1002.
Steeb T, Wessely A, Petzold A, Schmitz L, Dirschka T, Berking C, Heppt MV. How to assess the efficacy of interventions for actinic keratosis? A review with a focus on long-term results. Journal of Clinical Medicine. 2021 Oct 15;10(20):4736.
George CD, Lee T, Hollestein LM, Asgari MM, Nijsten T. Global epidemiology of actinic keratosis in the general population: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Dermatology. 2023 Oct 27:ljad371.