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熱傷(やけど)

熱傷 やけど

熱傷(やけど、burn)とは、熱、化学物質、電気、放射線などの影響で皮膚やその他の組織がダメージを受ける状態のことです。

日常生活での事故、職場での怪我、さらには自然災害など、さまざまな状況で発生する可能性があり、熱傷の程度は軽度から重度にわたり、損傷の深さによって治療戦略が異なります。

初期対応から回復期にわたる適切なケアが、患者さんの健康と生活の質の維持にとても大切です。

この記事では熱傷について詳しく解説していきます。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

熱傷(やけど)の分類、症状

熱傷の病型は、主に深さによって以下のように分類されます。

引用元:https://jsprs.or.jp/general/disease/kega_kizuato/yakedo/yakedo.html
  1. Ⅰ度熱傷(ED: epidermal burn):表皮内の熱傷。皮膚の赤み、むくみが生じ、痛みは強いですが、数日で治癒し、傷跡も残らないことがほとんど。
  2. 浅達性Ⅱ度熱傷(SDB: superficial dermal burn):真皮浅層の熱傷。皮膚の赤みやむくみの他、水疱(水ぶくれ)が生じ、鋭い痛みを伴う。1~2週間ほどでほとんど跡を残さずに治癒することが多いですが、色素沈着を生じることが。
  3. 深達性Ⅱ度熱傷(DDB: deep dermal burn):真皮深層の熱傷。赤み、むくみ、水疱を生じ、体毛や汗腺などの皮膚付属器や神経終末も障害されるため、痛みはSDBより強くなる。概ね3~4週間で治癒しますが、瘢痕形成することが多い。
  4. Ⅲ度熱傷(DB: deep burn):皮下組織まで及ぶ熱傷。水疱は形成せず、血管が傷害を受けた結果、皮膚は白色や黒色に。知覚神経が傷害されるためほとんど痛みを感じることはない。

    治癒までに1ヶ月以上を要し、肥厚性瘢痕(ケロイド)や瘢痕拘縮(ひきつれ)が生じるリスクが高まる。
  5. Ⅳ度熱傷皮膚を超えて筋肉や骨、内臓にまで損傷が及ぶ深度の熱傷。非常に重篤な状態で、通常の治療では治癒が難しいため、この記事では詳しく言及しませんが、大きな外科的処置や切断が必要となることも。
I度II度(SDB / DDB)Ⅲ度
損傷レベル表皮より浅い表皮、真皮皮膚全層・皮下組織
症状(外見)乾燥、赤み湿潤、赤み、むくみ、水疱乾燥(黒色・白色)硬化、炭化
症状(自覚)痛み、熱感痛み (SDB>DDB)無痛、感覚なし
治癒期間数日1-4週間1ヶ月以上
傷跡残る場合と残らない場合がある

熱傷(やけど)の原因

熱傷の発生頻度は10歳未満の幼小児が多く、熱湯などの高温が原因で起こりますが、その他にも原因は多岐に渡ります。

  • 高温物質への露出:火や熱湯、高温の油、蒸気など、高温の物質に皮膚が露出することが一般的な原因。
  • 低温物質への露出:ホットカーペットや湯たんぽ、こたつなどに長時間あたっているとできる熱傷も。一見軽症でも熱傷が意外と深くまで到達しており、治癒に時間がかかることが。糖尿病の患者さんや高齢の方に多く見られる。
  • 直射日光:強い日差しに長時間さらされることで、露出した皮膚にやけどを引き起こすことが。日焼けとも呼ばれ、皮膚細胞のDNAにダメージを与えることで、炎症反応や長期的な皮膚の変化を引き起こす。
  • 化学物質:酸やアルカリといった化学物質が皮膚に触れることにより、化学的なやけどが生じることが。時間をかけて深部に到達し、皮膚や深部組織の壊死を引き起こす。
  • 電気の通電:電流が体を通過することによる電気やけどは、皮膚損傷が小さく、一見軽症ですが、筋肉や血管、神経など内部組織にも重大な損傷を広く与える可能性が。
  • 摩擦による熱傷:皮膚が激しく摩擦されることによって生じる熱傷もあり、これは運動中や事故時に見られる。

熱傷(やけど)の評価方法

熱傷の範囲が広いほど重症となります。損傷の範囲を正確に評価する必要があります。よく使用されているのは手掌法、9の法則、5の法則です。

  • 手掌法:てのひらの面積を全身の1%として計算。成人のみ適応。
  • 9の法則:体の部位を主に9の倍数で計算。成人のみ適応。
  • 5の法則:体の小さな幼児、乳児に合わせた算定法。

範囲をより詳細に決定するには Lund-Browderの公式が使用されることもあります。

引用元:https://www.derm-hokudai.jp/textbook-md/txtmd-13

補助的な診断法として、針刺法や抜毛法があります。針刺法は、注射針を軽く皮膚に刺して痛みを確認し、痛みが感じられる場合はⅡ度熱傷、感じられない場合はⅢ度熱傷と判断。

抜毛法では、毛を軽く引っ張って抜けやすいかを試し、簡単に抜ければⅡ度熱傷(DDB)~Ⅲ度熱傷であると判断が可能です。

その他、熱傷の深度を推定するより精度の高い方法として、臨床症状による分類に加え、レーザードプラ血流計測法やビデオマイクロスコープを併用することも選択肢の一つとしてガイドラインには挙げられています。

引用元:https://www.nature.com/articles/s41572-020-0145-5

さらに重症度は上記で評価した受傷面積と部位、やけどの深さ、患者さんの年齢などで総合的に評価し、重症度判定はArtzの重症度分類が用いられます。

Artzの重症度分類

重症(専門施設に要入院)中等症(一般病院に要入院)
①Ⅱ度+Ⅲ度 30%TBSA以上 (小児・高齢者20%TBSA以上)②Ⅲ度 10%TBSA以上 (小児・高齢者5%TBSA以上)③特殊部位のⅡ・Ⅲ度熱傷 ‥‥顔面・手指・足・会陰部④特殊な熱傷 ‥‥気道熱傷、電撃傷、化学熱傷⑤骨折や外傷の合併による重篤な症例①Ⅱ度+Ⅲ度 15~30%TBSA (小児・高齢者10~20%TBSA)②Ⅲ度 2~10%TBSA (小児・高齢者2~5%TBSA)
軽症(外来治療可)
①Ⅱ度+Ⅲ度 15%TBSA未満 (小児・高齢者10%TBSA未満)②Ⅲ度 2%TBSA未満

TBSA: total body surface area(全体表面積)

以上により、熱傷専門施設へ搬送するのか、一般病院なのか、外来治療が可能なのか、判断し、治療戦略を練ることが可能となります。

熱傷(やけど)の治療方法と治療薬

熱傷の応急処置

熱傷は、まず患部を冷却することが重要です。できるだけ早く、水道水などの流水を衣類の上から20~30分程度行います。これにより、患部の温度を下げ、熱による皮膚への損傷が進行することを防ぎ、さらに痛みが軽減されることに。

水疱がある場合はできる限り破らないようにし、熱傷部位はだんだん腫れてくるので、指輪などのアクセサリー類は早い段階で外します。

その後の治療

応急処置後の治療は重症度によって異なります。

I度・浅達性II度の場合

浅い熱傷は、湿潤環境を保つための軟膏(白色ワセリン(プロペト)、亜鉛華軟膏、ステロイド軟膏など)や熱傷専用の創傷被覆材で治療します。傷の中に表皮を作り出す基底細胞が残っていることが多いため、ここから表皮が再生。

順調に治癒すれば、瘢痕などの後遺症を残さないことが多いです。

注意すべき点は、傷が感染を起こした時で、細菌による創感染が起きると傷が深くなり、治癒までにより多くの時間がかかります。

治癒後に瘢痕(やけどのあと)や肥厚性瘢痕(皮膚のもりあがり)、拘縮(ひきつれ)などが起きる可能性が高くなるので、この場合は、創洗浄や抗菌力のある軟膏、抗生剤投与など、感染対策のための治療を行うことに。

深達性II度・Ⅲ度の場合

深い熱傷は入院治療が必要なことが多く、重症熱傷患者は最初に気道確保と輸液療法を行います。その他、創部の洗浄、デブリードマン(死んだ組織の除去)、感染予防、痛みの管理、体温管理、栄養管理などを行い、皮膚移植も検討します。

深いII度熱傷は、表皮を再生する基底細胞が減少してしまい、軟膏や創傷被覆材だけの治療では回復に時間がかかり、後遺症が残るリスクが高いです。

また、Ⅲ度熱傷は皮膚の血流がなくなり壊死状態となっています。壊死した皮膚は細菌感染の温床となるため、デブリードマン処置を行います。

この処置後は、肉芽組織の形成や上皮化を促すために湿潤環境を維持することが大切です。特に広範囲熱傷では早期のデブリードマンと植皮術が推奨されています。

瘢痕および拘縮を最小限にし、受傷部位の機能を維持するため、入院時から理学療法および作業療法を開始する必要も。 

引用元:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/

痛みの管理

熱傷は強い痛みを伴うため、治療には痛みの管理が不可欠です。

軽度~中等度の痛みにはアセトアミノフェン(カロナール、アセリオなど)やNSAIDs(ロキソニン、ロピオン)が使用され、重度の痛みには強力な鎮痛剤(オピオイド系鎮痛剤など)が必要になることがあります。

それぞれ使用する薬に応じた副作用も考えられますので、使用方法や使用期間については医師の指示を守りましょう。

長期的な治療のデメリット

熱傷は治癒するまでに時間がかかり、特に中等症~重度の場合は入院期間を含め、長期間にわたる治療が必要になることがあり、患者さんの日常生活に影響を及ぼし、心理的ストレスや社会的な隔離を引き起こすことがあります。

また、傷跡や色素沈着、皮膚の瘢痕化など、長期的な外見上の変化に悩まされることも。メンタルケアや治癒後の外見のケアも必要な治療の一部です。

不安なことやお悩みのことがある際は、遠慮なく医師やスタッフにご相談ください。

薬の副作用や治療のデメリット 

熱傷の治療薬とその副作用

熱傷の治療に用いられる薬剤には、いくつかの副作用があります。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): イブプロフェンやナプロキセンなどがあり、痛みや炎症を軽減。胃腸障害や腎機能障害を引き起こすリスク。
  • 鎮痛剤:パラセタモールやコデインなどがあり、痛みを緩和。過剰摂取による肝臓障害のリスク。
  • 局所麻酔薬:リドカインなどがあり、患部に直接塗布することで局所的な痛みをやわらげる。過敏症や皮膚刺激を引き起こすことが。
  • 抗生物質:感染予防のために使用。アレルギー反応や耐性菌の発生リスク。

熱傷の治療法のデメリット

熱傷の治療法には、デメリットもあります。

  • 外科手術: 重度の熱傷の場合に必要ですが、手術には出血、感染や麻酔に関するリスク。
  • 皮膚移植: 深刻な熱傷に対して行われることがあるものの、移植した皮膚が定着しないリスクや移植部位の感染リスク。

熱傷治療に伴う副作用・デメリット

治療薬/治療法副作用/デメリット
非ステロイド性抗炎症薬胃腸障害、腎機能障害
鎮痛剤肝障害、呼吸抑制(オピオイド系)
局所麻酔薬過敏症、皮膚刺激
抗生物質アレルギー反応、耐性菌の発生
外科手術感染リスク、麻酔リスク
皮膚移植移植皮膚の不定着、感染リスク

保険適用の有無と治療費の目安について

熱傷の治療では、健康保険が適用されるものと適応されないものがあります。

通常、初期治療で行われる軟膏処置などは保険が適用されますが、傷跡や色素沈着に対しては保険が適用されず、自費治療となることが多いです。

熱傷処置については、その範囲によって保険点数が異なります。

熱傷処置

100平方センチメートル未満 135点(3割負担で405円)

100平方センチメートル以上500平方センチメートル未満 146点(3割負担で438円)

500平方センチメートル以上3,000平方センチメートル未満 270点(3割負担で810円)

3,000平方センチメートル以上6,000平方センチメートル未満 504点(3割負担で1,512円)

6,000平方センチメートル以上 1,500点(3割負担で4,500円)

※初回の処置を行った日から起算して2月を経過するまでに行われた場合に限り算定が可能です。また、3,000平方センチメートル以上で6歳未満の乳幼児の場合は、乳幼児加算として5点加算。

この他に、初診料及び再診料などが別途かかります。詳しくはお問い合わせください。

参考文献

日本皮膚科学会ガイドライン 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン-6: 熱傷診療ガイドライン. 日皮会誌. 2017;127(8):1659-1687.

あたらしい皮膚科学 第3版 13章

日本形成外科学会HP. やけど(熱傷)

https://jsprs.or.jp/general/disease/kega_kizuato/yakedo/yakedo.html

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