女性型脱毛症(FPHL: female pattern hair loss /FAGA: female androgenic alopecia)とは、加齢とともに認められる女性特有の脱毛症状で、頭髪の薄毛や分布の変化を特徴とします。
多くの女性にとって薄毛は大きな心理的ストレスとなり、その影響は単に外見上のものにとどまりません。
この記事では女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の原因や治療法などについて詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の病型
女性型脱毛症は、女性の頭皮の薄毛のことで、典型的なパターンは前頭部や分け目から徐々に髪が細くなり、地肌が目立つようになるものです。
重度になると脱毛の範囲が広がっていきます。
病型分類としてよく用いられるものには
- Ludwig分類(Ⅰ〜Ⅲ型):頭頂部の薄毛の程度に基づいて3つのグレードに分類
- Olsen分類(Ⅰ〜Ⅲ型):前頭部の進行により焦点を当てた分類
- Sinclair分類(1〜5型):正中部の毛髪密度を5段階に分類
の3つがあり、いずれも進行具合に沿って数字が大きくなっていきます。以前はLudwig分類が用いられることが多かったものの、今はSinclair分類が広く用いられるように。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の症状
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)では、特に頭頂部や前頭部の毛髪が細くボリュームが減少し、地肌が見えやすくなるのが特徴です。
初期の段階で分け目の広がりが目立ち始め、症状が進行するにつれて頭皮がより明瞭に見えるようになります。女性型脱毛症の進行は緩やかで、数年にわたって少しづつ症状が顕著に。
薄毛が進行すると分け目などの頭皮が見えやすくなり、見た目の問題から心理的苦痛を伴うことがあります。
また、症状の進行とともに、髪質の変化が見られることも。髪が細く、柔らかくなり、以前のようなボリュームや強度が失われ、スタイリングやヘアアレンジに影響があります。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の原因
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)は、いくつかの要因によって起こります。
遺伝的要因
女性型脱毛症は遺伝的傾向が強く、家族歴があると発症リスクが高まります。特に母方の家族に脱毛症がある場合、影響を受けやすいです。
ホルモン変動
ホルモンの変動も女性型脱毛症の原因として知られていて、アンドロゲンという男性ホルモンが大きく関係し、アンドロゲンに感受性の高い受容体が前頭部や頭頂部に多く発現するとされています。
その他の要因
ストレス、栄養不足、特定の医薬品の使用なども、発症に関係がある可能性があり、これらの要因は、体内のホルモンバランスや毛髪の成長サイクルに影響を与えることがあります。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の検査・チェック方法
女性型脱毛症(FPHL/ FAGA)は、特徴的な臨床所見から比較的容易に診断は可能ですが、同じく脱毛が起こる鑑別疾患には以下のようなものが挙げられます。
- 円形脱毛症
- 粃糠性脱毛症
- 内分泌疾患や膠原病に伴う脱毛
- トリコチロマニア(抜毛症)
- 牽引性脱毛症
- 瘢痕性脱毛症
- 医原性脱毛症(抗がん剤など)
これらの疾患との鑑別のために、補助的に検査が行われることがあります。
ダーモスコピー
頭皮の毛の詳細を確認することで、円形脱毛症など他の脱毛疾患との鑑別を行います。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)と円形脱毛症での所見の違い
女性型脱毛症 | 円形脱毛症 |
---|---|
軟毛化 | 感嘆符毛(短く折れた毛) |
太さが不揃い | 黒点 |
切れ毛 |
血液検査
他の疾患が原因で脱毛が起こることもあり、鑑別のために、血液検査で甲状腺や鉄、フェリチンなどの値をチェックすることがあります。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療方法
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療には、現時点でFDAに承認されているのはミノキシジルの外用薬のみです。他に、これまでの研究で有効だと考えられている薬がいくつかあります。
ミノキシジル外用薬
ミノキシジルは、もともと降圧薬として使用されていた薬で、副作用として発毛を認めたことから女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療に使用されています。
ミノキシジルには毛包の血管細胞にあるカリウムチャネルを遮断する作用があり、血管の拡張を促進し、頭皮局所の血流が増加。毛母細胞への酸素、血液、栄養素の供給が高まり、毛髪の成長が促されると考えられます。
日本ではドラッグストアでもミノキシジルの外用薬は販売されており、1〜5%の濃度が手に入り女性用は1%のみで、濃度が高い方が効果も高い傾向に。
海外では5%のミノキシジルフォームが女性型脱毛に用いられていますが、副作用として、かぶれなど皮膚の刺激症状を認めることもあります。
レチノイドの併用
これまでの研究で、トレチノインなどのレチノイドをミノキシジルと併用することによって発毛効果が高まることが分かっています。
5%のミノキシジル単独を1日2回と、5%ミノキシジルに0.01%トレチノインを併用して1日1回使用した場合では、同等の効果があり、1日2回併用するとさらに効果が高まるという報告が。
ローズマリーオイル
2%のミノキシジル外用とローズマリーオイルの発毛効果を比較したものがあり、3〜6ヶ月の使用後の効果は同等だったという結果が出ています。
小規模な研究であることと研究で用いられたミノキシジルが2%と比較的低濃度であることから、ローズマリーオイルがミノキシジルに代わって第一選択薬となる訳ではありません。
ミノキシジル外用薬とうまく併用することで発毛効果をより高める可能性があります。
ミノキシジル内服薬
ミノキシジルの内服薬については、男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版では非推奨となっていますが、これまでの研究で有効性が多く報告。
外用薬と比較して、多毛症や動悸、めまいなどの副作用を認めやすく、患者さんによっては内服が困難となるケースもありますが、外用薬よりも内服薬の方が、効果が高いという研究結果があります。
高い効果を求める患者さんには事前に十分相談したうえで処方することもありますが、副作用は用量が多いほど高まるため、2.5mgのミノキシジルタブレットを処方することが多いです。
その他
閉経後の女性に限っては、AGA(男性型脱毛症)で使用されるフィナステリド(5αリダクターゼ)の内服が有効だとされる研究がいくつかあります。
その他、抗アンドロゲン作用があるスピロノラクトンの内服やPRP(Platelet Rich Plasma)療法などが補助的治療として検討されることも。
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療期間
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療期間は、長期にわたることが一般的です。
治療期間は個人差が大きく、症状の進行度や治療方法によって変わりますが、効果を認めるまでには数ヶ月から1年程度かかることが多く、継続して治療を行うことで、徐々に髪の質の改善や脱毛の減少が期待できます。
予後に関する注意点
女性型脱毛症の治療は、早期に開始するほど効果的です。症状が進行すると、治療による改善が難しくなることがあります。薄毛や髪の質の変化に気づいたら、早めに専門医の診察を受けてください。
また、治療法はいずれも完全な治癒を保証するものではなく、治療を中止するとまた元の状態に戻る可能性があり、長期的な視点での管理が必要となります。
治療における重要なポイント
- 治療は長期戦であることを心得る。
- 効果を感じるまでには時間が必要。
- 治療の中断は予後に影響を及ぼすため、継続が重要。
薬の副作用や治療のデメリット
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療に用いられる薬剤には、副作用やデメリットがあります。
女性型脱毛症治療薬の副作用
女性型脱毛症治療の副作用
治療薬 | 主な副作用とデメリット |
---|---|
ミノキシジル外用 | 頭皮のかゆみや発赤、乾燥 |
ミノキシジル内服 | 動悸、めまい、多毛 |
スピロノラクトン内服 | 電解質異常の伴う倦怠感、脱力など、性欲減退、発疹、胃腸症状 |
治療のデメリット
女性型脱毛症の治療薬の使用には長期的なコミットメントが必要で、治療を中断すると、改善された症状が元に戻ることがあります。
また、治療薬の費用は保険適用外であることが多く、長期間にわたる経済的な負担を考慮する必要も。
保険適用の有無と治療費の目安について
女性型脱毛症(FPHL/FAGA)の治療はいずれも保険は適用されず、自費治療となります。
クリニックによっても治療費用は異なりますが、一般的な費用相場は1ヶ月あたり5000円〜15,000円程度です。
詳しくは直接お問い合わせください。
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