ペルテス病

ペルテス病(Legg-Calve-Perthes disease)とは、主に3~12歳の小児期に発生する股関節の骨の疾患です。

股関節の球形の部分である大腿骨頭の血流が一時的に減少して骨の成長を阻害し、股関節の痛みや歩行時の不快感によって日常生活に影響を与える場合があります。

特に5~7歳の男の子に多く見られ、明確な原因は特定されていません。

この記事では、ペルテス病の症状や原因、検査方法、治療方法などを詳しく解説します。

目次

ペルテス病の進行分類

ペルテス病は、進行過程によって初期(壊死期)、断片化期、再骨化期、リモデリング期の4つの段階に分類されます。

初期(壊死期)

ペルテス病の最初の段階では、大腿骨頭の特に軟骨下骨が梗塞し、骨核の成長が止まります。

梗塞した骨は軟化し、軟骨下骨折に続発する関節腔の拡大を特徴とするWaldenström徴候が見られ、これが最も初期のX線学的徴候です。

断片化期

血流障害により、大腿骨頭の骨組織が壊死して体内に再吸収されます。

再骨化期

壊死した骨組織が徐々に再生し始める期間です。

骨芽細胞の働きにより大腿骨骨端が再形成され、X線検査で変化を確認できます。

リモデリング期

骨組織の再建が進行する最終段階で、新しい大腿骨頭は肥大したり扁平になったりします。

その他の分類法

予後を予測し、適切な治療を決定するために、罹患部位と領域を考慮した分類が利用される場合もあります。

Catterall分類

1971年にCatterallが提唱した分類では、骨端病変の程度により4つのグレードに分けられます。

タイプI0~25%
タイプII25~50%
タイプIII50%以上
タイプIV100%
Herring分類

最も新しいのが1992年に提唱されたHerringの分類で、大腿骨頭の潰れ具合によって3つの群に分けられます。

A群全高が保たれている
B群潰れた高さが50%未満
C群潰れた高さが50%以上

Herring分類の予測的価値は、病気の初期ほど高いです。

また最近では、B群とC群の間に、側方支柱が狭く、骨化が不十分であるか、高さが50%維持されている第4群が提唱されました。

ペルテス病の症状

小児に発症しやすいペルテス病は、特に股関節に影響を及ぼし、痛みや不快感、歩行障害、可動域の制限などの症状を引き起こします。

症状説明
痛みと不快感腰、殿部、股関節、太もも、膝に発生する痛み
歩行障害足を引きずる、片足をかばう歩行
可動域の制限股関節の内旋や外旋の制限
筋肉の萎縮大腿部や臀部の筋肉の使用減少
股関節の変形大腿骨頭の変形
疲労感早い段階での疲れや活動制限

痛みと不快感

腰や殿部、股関節、太もも、膝に痛みが生じ、特に殿部に集中しやすいのが特徴です。症状が進行すると活動中に痛みが増し、多くの場合は安静時に和らぎます。

また、子供が不快感を訴えるときは、痛みと直接関連していない場合もあります。

歩行障害

痛みが原因で足を引きずる、片足をかばうなど歩行時の異常が見られ、急性期には反張膝になったり、慢性期には骨盤が傾くトレンデレンブルグ歩行※1を呈したりします。

※1 トレンデレンブルグ歩行:股関節外転筋の筋力低下によって引き起こされる異常な歩行です。股関節外転筋は、股関節を外側に回転させる筋肉群です。これらの筋肉が弱くなると、歩行中に骨盤が反対側に傾いてしまいます。

また、病状が進行すると、歩行のバランスが崩れるおそれもあります。

可動域の制限

内旋や外旋(股関節を内側や外側に回す動き)がしづらくなり、日常生活に影響を与える場合があります。

筋肉の萎縮

股関節周囲の筋肉が使用されなくなると、主に大腿部や臀部の筋肉に萎縮が見られます。

股関節の変形

ペルテス病が進行すると、股関節の大腿骨頭が変形する場合があります。

疲労感

症状が進行するほど慢性的な痛みや不快感により疲労感が増し、疲れやすくなります。

ペルテス病の原因

ペルテス病は5~7歳の子供に多く見られ、男児に多く発症します(男女比4:1~5:1)。

罹患例の10~20%は両側性で、明確な原因はいまだ特定されていません。

血流障害や遺伝的要因の影響で特発的に発症する場合もあれば、外傷や感染症などほかの要因が関係している場合もあります。

また、患者の50%に血栓症が見られ、最大75%に何らかの凝固障害が見られます。

原因説明
血流障害大腿骨頭への血流不足が骨組織の破壊を引き起こす
遺伝的要因家族歴や遺伝的要素が病気の発症に関与する可能性がある
感染症HIV感染により股関節の血管壊死が生じる可能性がある
生活習慣・環境因子運動不足や栄養不足、受動喫煙がリスクを高める
内分泌因子成長ホルモンや甲状腺ホルモンの異常が骨の成長と修復に影響を与える
過剰な圧力股関節に過剰な力が加わると変形が生じるおそれがある

血流障害

股関節の大腿骨頭への血流が悪くなると、骨の細胞が壊死を起こし、骨組織が弱くなります。

血流不足の原因としては血栓症や線溶機能の低下などが考えられますが、完全には解明されていません。

遺伝的要因

家族歴や遺伝的な要因が影響してペルテス病が発症する可能性もあります。

第V因子異常分子(Factor V Leiden)や、ほかの遺伝性凝固異常症との関連が指摘されており、10%に家族性を認めます。

感染症

一部の研究では、HIVとの関連が示唆されており、HIV患者の最大5%が股関節の血管壊死を引き起こすといわれています。

生活習慣・環境因子

運動不足のほか、低い社会経済状況による栄養不足、受動喫煙がペルテス病のリスク要因となるケースがあります。

内分泌因子

成長ホルモンや甲状腺ホルモンの異常が、骨の成長と修復に影響を与えるといわれており、出生時体重2.5kg未満の男児や低身長が危険因子として認識されています。

過剰な圧力

力学的観点からは、大腿骨頭に加わる力が変形抵抗能力を上回ると、変形が生じます。

股関節は主要な荷重関節のひとつであるため、関節に加わる力の考慮が必要です。

ペルテス病の検査・チェック方法

ペルテス病の診断には、物理的検査や画像検査、血液検査などが用いられます。

検査方法説明
物理的検査歩行の観察、股関節の動きの範囲のチェック、触診
X線検査大腿骨頭の変形や異常の確認
MRI骨組織や周囲組織の詳細な確認
血液検査ほかの病気の可能性を排除するための検査

物理的検査

歩行の観察や股関節の可動域のチェック、患部の触診を行います。

ペルテス病の場合、股関節の内旋および外転の低下、大腿前内側および/または膝への回旋時痛、大腿および臀部筋の委縮、脚長不同などを認めます。

X線検査

X線検査は、大腿骨頭の変形やその他の異常、病気の進行状況を評価するのに有用です。

初期のレントゲン画像は正常ですが、進行すると関節腔の拡大(骨端軟骨肥大)、骨端の変化(小さく密に見える)「Crescent sign:前外側骨端の軟骨下放射線透過域(軟骨下骨折)などを認めます。

そして晩期になると、大腿骨頭の扁平化、断片化、骨硬化、変形性関節症性変化が見られます。

磁気共鳴画像法(MRI)

MRIでは、X線で捉えられる前の病変周囲の組織をより詳細に確認でき、適切な診断と迅速な治療に役立ちます。

また、血行再建や治癒の評価も可能です。

画像的には、T1強調画像(T1WI)における限定的な軟骨下線状低信号強度、またはT2強調画像(T2WI)における“double-line sign”として示されます。

血液検査

感染症や炎症性疾患が原因でペルテス病と同様の症状が起こる場合があり、血液検査はほかの病気を除外するのに有用です。

CTスキャン(コンピュータ断層撮影)

骨盤領域の詳細な断層画像を取得するために使用され、特に骨盤の骨の状態を評価する際に有用です。

CTスキャンはX線とコンピュータ技術を組み合わせた検査であり、骨の異常や変形を詳細に調べるのに役立ちます。

骨シンチグラフィー

骨シンチグラフィーは、骨盤領域の血行や代謝異常を検出するための放射線検査で、主に骨の変化や異常な部位の確認に使用されます。

ペルテス病の治療方法と治療薬について

ペルテス病の既存の治療法は、経過観察から、大腿骨や股関節の外科的処置まで多岐にわたります。

どの治療法も骨頭の変形、患側股関節の適合性、変形性股関節症の早期発症を予防するのが目的です。

項目説明
非外科的治療活動制限、物理療法を含む治療法
外科的治療重度の場合に骨切り手術や人工関節手術を行う
薬物療法非ステロイド性抗炎症薬(ロキソニン)の使用
リハビリテーション物理療法や運動療法を通じて股関節の機能を改善する

非外科的治療

ペルテス病の治療では、まず活動制限や物理療法などの非外科的治療が選択され、股関節への圧力の軽減と可動域の維持を目指します。

一般的に、股関節の可動域が完全で痛みがなく、CatterallのグレードIまたはII、SalterとThompsonのグループAでは外科的治療は必要ありません。

安静で状態が良くならないときは、入院して股関節を外転方向に牽引する治療法を行ったり、装具療法を行ったりします。

外科的治療

病状が進行した場合や、股関節の形状に重大な変形が見られる場合は、骨切り手術や人工関節手術(関節を適合させて安定させるための手術)が考慮されます。

また、骨頭変形がなく外転制限があると、股関節外転筋のリリースや人工股関節置換術を行う場合もあります。

薬物療法

痛みを軽減するために、ロキソニン(成分名:ロキソプロフェン)をはじめとした非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されるケースもあります。

リハビリテーション

股関節の可動域改善と筋力の維持を目指し、物理療法や運動療法が行われます。

特に外科的治療を受けたあとは、長期にわたるリハビリテーションが必要です。

ペルテス病の治療期間

ペルテス病の治療期間と予後は、年齢や病気の進行度、治療への反応によって約6か月~5年と、大きく異なります。

項目説明
治療期間長期にわたる可能性があり、子供の年齢や病気の進行度に依存
予後若年時の発症では予後良好、思春期の発症や両側性の場合は予後不良

治療期間

ペルテス病の治療期間は通常、数年にわたりますが、診断が早いほど治療の成功率は高まり、骨が成長途中である小さな子供(10歳以下)は回復が早い傾向があります。

治療の進行は、定期的な医学的評価(スタルバーグ分類などを使います)を通じて経過観察を行う必要があります。

壊死と断片化の段階は約6か月、再骨化段階は18か月から3年、そして最終段階は骨が成熟するまで続くのが一般的です。

また、ある研究では断片化期は約1年、再骨化期は3~5年としています。

予後

ペルテス病患者の40歳以降に見られる後遺症は少なく、長期予後は全体の60~80%で良好です。

ペルテス病の予後因子としては、発症・診断年齢、性別、股関節の可動域、分類などがあります。

一般的に、5~7歳の子供はそれ以上の年齢よりも予後が良好で、症状の早期改善が期待できます。

思春期の患者は予後不良で、特に女性は予後が悪い傾向があるといわれていますが、Guilleらの報告によると予後は男女でほぼ変わりません。

また、両側性の場合も予後が不良になりやすく、関節症性変化が進行して人工関節手術が必要となるケースもあります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

ペルテス病の治療である薬物療法や手術、物理療法は、副作用やデメリットを伴う場合があります。

治療法副作用・デメリット
薬物療法消化器系の問題、肝機能の問題、腎臓への影響
外科的治療感染リスク、手術部位の痛み、麻酔のリスク、回復期間の制限

薬物療法の副作用

ペルテス病の治療に用いられる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛みや炎症を軽減できる一方、消化器系の問題(胃痛や胃潰瘍など)、肝機能の問題、腎臓への影響などを引き起こすおそれがあります。

長期間の使用は副作用のリスクを高めるため、医師の指示のもとで服用する必要があります。

外科的治療のデメリット

手術のデメリットとしては感染、手術部位の痛み、麻酔によるリスク、および回復期間中の制限が挙げられます。

また、外科的治療は完全な回復を保証するものではなく、手術を受けたあともほかの治療が必要となるケースがあります。

手術後はリハビリテーションと定期的な通院が不可欠であるため、負担を感じる方も少なくありません。

さらに、ペルテス病に対する骨切り術や人工関節手術などを施行できる施設は限られている点もデメリットです。

保険適用の有無と治療費の目安について

ペルテス病の治療方法には、保険が適用されるものと保険適用外のものがあります。

治療法保険適用治療費
保存療法、薬物療法あり自己負担額が一定で、具体的な金額は病状や選択する治療法により異なる。小児の場合は助成金あり
装具使用あり装具の種類によっては保険が適用される
再生医療(PRP療法)なし1回あたりの注射の費用は数万円から数十万円

保険適用の治療

保存療法や薬物療法、手術は基本的に保険適用となり、一部の自己負担額で治療が可能です。

また、装具による治療も医療保険が適用される場合があります。

具体的には、保険医が疾病または負傷の治療上必要であると認めて患者に装具を装着させた場合に、患者が支払った装具購入に要した費用について、保険者はその費用の限度内で療養費の支給を行います※2

※2 厚生労働省│治療用装具療養費について

保険適用外の治療

保険適用外の治療には、一部の病院で行われている再生医療があります。全額自己負担となり、1回につき数万円から数十万円かかるのが一般的です。

具体的な費用や治療法については、各医療機関にお問い合わせください。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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