円形脱毛症(alopecia areata)とは、主に頭皮にはっきりとした境界のある円形の脱毛斑を特徴とする疾患です。
あらゆる年齢で発症し、原因はまだ完全には解明されていませんが、自己免疫反応が関与すると考えられています。
脱毛斑は突然現れるため、心理的なストレスの原因にも。
この記事では、円形脱毛症の症状や原因、治療法など詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
円形脱毛症の症状・病型
円形脱毛症の症状
円形脱毛症は急速に進行する1つまたは複数の円形(または楕円形)の脱毛斑を認めることが特徴です。
アメリカでの研究では、有病率は一般人口の約0.1-0.2%で、子どもや若者の間の発生率はやや高くなっています。
男女差は明らかではなく、男性ではひげの脱毛を認めたり後頭部の脱毛が多発するなど、性別によって多少症状が異なる傾向が。
脱毛斑に加えて、一部の患者さんでは指や足の爪に小さなくぼみ(陥凹)が見られることもあります。まれに痒みを伴うこともありますが、通常自覚症状はありません。
円形脱毛症の病型
円形脱毛症の病型は、脱毛の範囲によっていくつかのタイプに分類されます。
ガイドラインに基づいた分類
- 通常型:脱毛斑の数や範囲がある程度限局されているタイプで、ほとんどの方が通常型で、脱毛斑が単発の場合(単発型)と複数の場合(多発型)にさらに分類。
- 全頭型:脱毛が頭皮全体に認めるタイプで、多発型の脱毛が進行することが多い。
- 汎発型:脱毛が頭皮にとどまらず、眉毛、まつ毛やひげなど、他の毛が影響を受けることがあり、重篤な場合全身に及ぶことも。
- 蛇行型:頭皮の生え際が帯状に脱毛するタイプ。
円形脱毛症の原因・リスクファクター
円形脱毛症の発症原因は完全に解明されていませんが、これまでにいくつかのリスクファクターが報告されています。
まず一つは遺伝で、親が円形脱毛症になったことがあると発症するリスクが高いです。
また、円形脱毛症は他の自己免疫疾患と強い関連性があり、橋本病などの甲状腺疾患や関節リウマチなどと合併しやすいことが知られています。
円形脱毛症が毛包組織に対する自己免疫疾患だと考えられているためです。
そして、高頻度で合併するのはアトピー性皮膚炎で、円形脱毛症のリスクファクターとされています。
「ストレスで円形脱毛症になった」という方が多く、環境要因も円形脱毛症の発症に影響があり、精神的なストレス以外にも身体的なストレスも要因に。
さらに、特定のウイルス感染やアレルゲンに対する暴露が、発症の引き金になる可能性が指摘されていますが、一つの原因で起こるのではなく、遺伝的な素因に加えて環境的な要因が加わることによって発症するのではないかとされています。
円形脱毛症のリスクファクター
原因 | 説明 |
---|---|
遺伝 | 家族歴があるとかかりやすくなる |
自己免疫疾患 | 甲状腺疾患や関節リウマチなど |
アトピー性皮膚炎 | 合併例が特に多い |
ストレス | 心理的、身体的ストレスによる影響 |
感染症 | ウイルス暴露によって発症する可能性 |
円形脱毛症の診断・チェック方法
円形脱毛症は、特徴的な所見によって視診のみで診断できるケースが多いです。この時、眉毛やまつ毛、ひげなど頭髪以外の脱毛や、爪の異常がないかをチェックし病型も判断することに。
視診に加えてプルテスト(pull test)と言って、毛髪を少し引っ張り簡単に抜けるかどうかも確認し、簡単に抜ける場合はまだ脱毛の活動性が高い一つの指標となります。
また、診断の補助には問診が重要です。
- 家族歴の有無
- 他の自己免疫疾患の有無
- アトピー性皮膚炎の既往
- アレルギー歴
など、診察の際は詳細に伺います。
円形脱毛症の検査
視診や問診に加えて、他の検査も必要に応じて行うことがあります。ダーモスコピーは侵襲性も低く、簡単に使える検査方法です。
- ダーモスコピー:円形脱毛症では「感嘆符毛」と言って短く折れた毛や、黒点、切れ毛などを認める。
- 血液検査:円形脱毛症によって他の自己免疫疾患が発見されるケースもあり、例えば甲状腺疾患などが疑われる際には採血によって自己抗体を調べたり、甲状腺の検査が行われる。
鑑別疾患
円形脱毛症は他の脱毛疾患と鑑別が必要なことがあります。
- 休止期脱毛:産後など身体に大きなストレスがかかった後に起こる脱毛症で、休止期脱毛では円形の脱毛斑ではなく頭皮全体が薄くなることから円形脱毛症と鑑別。
- 男性型脱毛症(androgenic alopecia:AGA):AGAでは進行が円形脱毛症と比べると緩やかで、局所ではなく頭皮全体の毛髪が細く少なくなる点が異なる。
- トリコチロマニア:頭部を擦ったり、アトピー性皮膚炎などの痒みで掻くことで生じる脱毛症。プルテストやダーモスコピーなどによって鑑別。
- その他:頭部白癬、毛孔性扁平苔癬、慢性皮膚エリテマトーデスなどでも脱毛を起こす。
円形脱毛症の治療方法と治療薬
円形脱毛症の中でも比較的軽度な単発性の脱毛症は、自然治癒する例が少なくなく、通常数ヶ月程度で発毛を認めることが多いです。
一方で、脱毛斑が拡大したり他の部位にもできたりと進行する例もあり、自然に治るからとそのままにしておくのは注意が必要です。
円形脱毛症の治療法
円形脱毛症の治療には外用薬から内服薬、注射薬と多岐に渡り、患者さんの病型や年齢などによって選ばれます。ここではガイドラインに沿ってそれぞれの治療法について解説していきましょう。
軽度の場合
ステロイド外用薬:
免疫反応を抑制する副腎皮質ステロイドの塗り薬は、円形脱毛症でまず試される治療法です。ガイドラインにおいても、通常型の場合、ステロイド外用薬は推奨度B(行うよう強く勧める)となっています。
1日2回、脱毛斑より少し広めに、今後脱毛を生じる可能性がある部位や痒みを伴う部位にも。軟膏やクリームタイプ、ローションタイプがあり、頭髪部にはローションタイプが塗りやすく好まれます。
ステロイド注射薬:
ステロイドを注射する方法もあります。こちらもガイドラインでは推奨度Bで、比較的範囲が限局した単発型や多発型の成人に推奨されます。副作用として注入部の皮膚の菲薄化や萎縮などがあるため、子どもには適応となりません。
広範囲の場合や小児の場合
局所免疫療法:
薬剤(DPCPやSADBE)を直接脱毛部に塗る治療法で、化学物質によってかぶれを起こします。こちらもガイドラインにおいて推奨度Bとなっており、局所的に脱毛斑を認める方だけでなく全頭型や汎発型においても第一選択です。
ただし、保険は適用されず自費治療で、通常発毛を認めるまで1〜2週間に1度行います。ステロイドのような副作用がなく、年齢問わずお子さんも受けることができますが、反応が強いと水疱や痒みなどの湿疹症状が出ることも。
紫外線療法:
炎症を抑える目的で紫外線療法が選択されることもあります(推奨度C)。
内服薬
セファランチン:
抗アレルギー作用や血液幹細胞増加作用などによって血流を改善する効果が期待でき、日本では保険適用となっています(推奨度C)。
漢方薬:
柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方薬が、一部の患者さんに有効であったという報告があります。単独で処方されることはまずなく、治療の補助として併用されるケースが多いです。
バリシチニブ(オルミエント):
2022年6月に重度の円形脱毛症に対してバリシチニブ(商品名オルミエント)が保険適用となりました。
アメリカでも重度の円形脱毛症の成人患者に対して全身治療薬として初めてFDAの承認になり、円形脱毛症治療の「ゲームチェンジャー」だと言われています。
バリシチニブ(商品名オルミエント)はヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の一つであり、もともとは関節リウマチやアトピー性皮膚炎の治療などで用いられていた薬です。
細胞内のシグナル伝達経路を遮断し、炎症反応を抑えることによって効果を発揮。円形脱毛症では特にインターフェロンγとIL-15が関係していると考えられおり、これらのサイトカインなどによって毛包部で炎症が起こっています。
バリシチニブはサイトカインの活性を調整することで免疫細胞による毛根部の炎症を抑え、毛髪の成長が再開され、改善を促進。
バリシチニブは重度の円形脱毛症に対して適応で、「頭部全体の概ね50%以上に脱毛が見られ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与すること」とガイドラインに明記されています。
15歳以上でないと処方できないことから全例に適応となる薬ではありませんが、高い効果が期待され、9ヶ月内服後、脱毛面積が20%以下となった人が4割程度です。
円形脱毛症の最新の治療
アトピー性皮膚炎で処方されるデュピルマブ(商品名デュピクセント)が円形脱毛症に効果的だという報告がいくつかあります。
デュピルマブは炎症応答をブロックする薬で、アトピー性皮膚炎で炎症や痒みをもたらすインターロイキン4や13の活動を阻害することで効果を発揮。難治性の円形脱毛症に治療の選択肢が増える日も近いでしょう。
円形脱毛症の治療期間
円形脱毛症の治療期間は、脱毛の範囲、活動性、病型、患者さんの既往などによって大きく異なり、いずれの治療も時間がかかることが多く、患者さんには忍耐と継続的なケアが求められます。
治療期間の一般的な目安
円形脱毛症の治療期間
- 軽度から中等度の脱毛(通常型):治療開始から数ヶ月で改善が見られることが多いものの、完全な毛髪の再生には6ヶ月から1年程度かかることも。
- 重度の脱毛(全頭型や汎発型など):重度の場合、治療反応が得られるまでに1年以上かかることもあり、アトピー性皮膚炎などの既往がある方は治療に対して反応が悪く、治療期間が長くなる可能性。
薬の副作用や治療のデメリット
円形脱毛症の治療で用いられる薬には、副作用やデメリットも伴います。
薬物治療の副作用
円形脱毛症に用いられる主な治療薬の副作用
治療薬 | 主な副作用 |
---|---|
ステロイド外用:注射薬 | 皮膚の菲薄化、感染症 |
局所免疫療法 | 頭皮の刺激やかゆみ |
セファランチン | 胃腸症状、浮腫、めまい |
バリシチニブ(オルミエント) | 感染症、血球減少、肝機能障害 |
治療のデメリット
円形脱毛症の治療のデメリット
- 治療期間の長さ:脱毛の改善や毛髪の再生には時間がかかる。
- 治療費用:治療期間が長くなると、治療費用が高額になり、局所免疫療法など、一部の治療には保険が適用されない。
- 再発の可能性:治療により改善しても、再発するリスク。
保険適用の有無と治療費の目安について
円形脱毛症の治療には保険が適用されるものと適用されないものがあります。
保険適用 | 保険適用外 |
---|---|
ステロイド外用薬 | 局所免疫療法(DPCPやSADBE) |
ステロイド注射薬 | |
セファランチン内服 | |
バリシチニブ内服(オルミエント) | |
漢方薬 | |
紫外線療法 |
紫外線療法は1回につき340点の保険点数で、3割負担の場合1,020円です。
その他初診料、再診料などが別途かかります。詳しくはお問い合わせください。
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