上腕骨外側上顆炎(テニス肘)

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)(Lateral epicondylitis , Tennis elbow)とは、肘の外側から前腕にかけて痛みが出現する疾患で、人口の1~3%が罹患しているといわれています。

物をつかんだり、持ち上げたりする動作によって痛みが強まる特徴があり、多くの場合、安静時の痛みはありません。

テニスプレーヤーに多く見られることからテニス肘と名付けられましたが、テニスをしていない人にも発症する可能性はあります。

この記事では、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の症状や原因、治療法、治療費の目安について詳しく解説していきます。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の病期(ステージ分類)

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)には、7つのステージ分類があります。

軽度であれば自然に回復するケースがほとんどですが、進行すると痛みが増し、日常生活や睡眠に支障をきたす場合があります。

上腕骨外側上顆炎の臨床分類

段階各相の疼痛変化の説明
I活動後の軽度の疼痛、通常24時間以内に回復
II軽度の疼痛で活動後48時間以上経過し、活動中の疼痛はなく、ウォームアップエクササイズで軽快し、72時間以内に回復する。
III活動前および活動中の痛みが軽度で、活動に大きな悪影響はなく、ウォームアップ運動で部分的に緩和できる。
IV軽度の疼痛が日常生活動作に伴い、活動に悪影響を及ぼす。
V活動とは無関係の有害な痛みで、活動の遂行に大きな悪影響を及ぼすが、日常生活の活動を妨げることはない。痛みをコントロールするために完全な安静が必要である。
VI完全に安静にしているにもかかわらず痛みが持続し、日常生活の活動を妨げることがある。
VII安静時に一貫した痛みがあり、活動後に増悪し、睡眠が妨げられる。
第I相および第II相の痛みは、十分な注意と保護があれば、通常は自己制限可能である。
第III相および第IV相の痛みは、通常は何らかの非手術的治療が必要であり、第V~VII相の痛みは手術的治療を必要とする可能性が高い。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7222600/table/tab2/?report=objectonly

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の症状

上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)は、通称テニス肘といい、肘の外側部分に不快感や痛みをもたらすのが特徴です。

症状説明
外側上顆部の疼痛肘の外側部分に痛みが生じる。特に手首を動かすとき(伸展動作)に痛みが強まる
握力の低下手の握力が弱くなり、物を握る動作が困難となる
放散性痛痛みが肘から腕全体に広がる

通常安静時には痛みはありませんが、“伸展運動”によって痛みが誘発されるのが特徴で、物を持ち上げたり、握ったりする動作で痛みが強くなる傾向があります。

通常は30~50歳の男女が罹患し、性差はありません。

興味深いのが、アマチュアのテニスプレーヤーの50%がこの疾患に罹患していますが、プロテニスプレーヤーでは5%しか訴えがない点です。

外側上顆部の疼痛(Pain at the lateral epicondyle)

上腕骨外側上顆部(肘の外側)における疼痛は、伸筋群の過剰な使用による腱の微小断裂や炎症が原因で、特に日常的な反復運動を行う際、利き手に最も多く発症します。

また、一日2時間以上の肘や手首の屈曲/伸展の反復運動が最も重大な危険因子です。

握力の低下(Reduced grip strength)

最も一般的な機能制限は握力低下で、日常生活での物の持ち上げや握り動作が困難となるおそれがあります。

特に肉体労働に携わる場合、治療に対して抵抗性が高く予後がよくありません。

放散性痛(Radiating pain)

症状が進行すると、肘の外側から腕全体に痛みが広がり、腕の機能障害につながる場合があります。

侵害受容の閾値の低下と、中枢性感作があり、広範な痛覚過敏を示します。

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の原因

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の主な原因としては、反復運動、力の使いすぎ、不適切な姿勢や技術、年齢や肘の使用頻度が挙げられます。

反復する運動や負荷

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は名前のとおり、テニスや卓球のようなラケットスポーツをする人に多く見られます。

これは、手首や腕の反復運動により、肘の腱に負担がかかるためです。

また、工具を使用する作業や、パソコン作業など、肘を反復して使う作業が原因で発症するケースもあります。

反復運動を繰り返すと、橈側手根伸筋(とうそくしゅこんしんきん)をはじめとする前腕筋や手根伸筋に微小損傷が生じます。

過剰な力の使用

肘に過剰な力が加わると、腱や筋肉に負担がかかり、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)を引き起こす危険性があります。

とくに、重いものを頻繁に持ち上げる職業に従事している人は注意が必要です。

過負荷や使いすぎによる微小外傷は、コラーゲン線維の断裂や自然免疫系の活性化を引き起こす可能性があります。

不適切な姿勢や技術

スポーツや日常生活において、不適切な姿勢や技術で動作を行っていると、肘に不必要なストレスがかかり、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のリスクが高まります。

年齢や使用頻度

加齢による筋肉や腱の弾力性低下も原因の一つで、特に40歳以降になると肘への負担が増加し、発症するリスクが高まります。

また、頻繁に肘を使う生活をしている場合、肘の組織が徐々にダメージを受け、症状が現れやすくなります。

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の検査・チェック方法

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の診断には、医師による臨床検査が必要です。

通常、画像診断は必要ありませんが、症状が標準的な治療に反応しない場合やほかの疾患が疑われる場合には、X線検査やMRI(磁気共鳴画像法)が行われることがあります。

そのほか、赤外線サーモグラフィやアイソトープ検査でも診断可能ですが、一般的ではありません。

検査方法目的
問診症状や生活習慣、再発回数などの確認
身体診察肘の痛みや可動域のチェック、疼痛誘発テストなど
X線検査骨の状態の確認、他疾患の除外
MRI検査腱や軟部組織の詳細な検査

問診

問診では、職業、手の優位性、日常生活における行動や習慣、症状の持続期間、過去の発症日、再発回数、誘発・増悪因子、治療法、タバコの使用などをお聞きします。

なかでも症状の持続期間と再発回数は、病期を決定する重要な因子です。

身体診察

身体検査では痛みや腫れ、可動域を確認します。

痛みの程度は軽度から重度まで個人差があり、持続的に痛かったり、時々だったりと間隔もさまざまです。

肘の外側部分(上腕骨外側上顆)を圧迫して痛みが誘発されるかどうかや、手首の伸展、中指の伸展、肘を伸ばした状態での前腕の挙上などの抵抗で、増悪する痛みがあるかどうかをチェックします。

中指伸筋の抵抗は、ECRB腱の選択的動員により肘関節痛を引き起こす可能性があり、肘の完全伸展と回内を伴う手関節伸筋の抵抗は、軽度から中等度の症例において疼痛を再現可能です。

理学検査

理学検査ではチェアテスト、Cozen’sテスト、Mill’sテストなどの特殊なテストが一般的に用いられます。

  1. チェアテスト:肩を内転させて肘を伸ばし、前腕を回内させた状態で椅子を持ち上げます。外側上顆の痛みは、外側上顆炎を示します。
  2. Cozen’sテスト:肘を伸ばして前腕を最大に回内し、手首を橈側外転させ、手を握りこぶしにした状態で座ります。その後、検査者は手関節を背屈させ、手関節を掌屈させます。
  3. Mill’sテスト:座位になり、肘を伸展させ、前腕を回内させます。その後、検査者は手首を受動的に掌屈させて伸筋を伸展させます。

X線検査

骨の状態を確認し、他の骨の問題が原因で症状が起きていないかを確認します。

まれに、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)が原因の小さな石灰化が観察されるケースがあります。

MRI(磁気共鳴画像法)

MRIでは、腱や軟部組織の状態を詳細に調べられます。

肘関節MRIの主な所見としては、腱と被膜の異常な肥厚、および総伸筋起始部内の信号強度の増大が挙げられ、2/3の患者で上腕骨外側上顆についている伸筋腱の肥厚が認められます。

また、MRIでは橈側手根伸筋の部分断裂や全層断裂を同定できます。

特別な検査

場合によっては、神経伝導速度検査や筋電図(EMG)検査などの特別な検査が必要です。

これらの検査は、痛みの原因が神経の問題であるかどうかを判断するのに役立ちます。

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のセルフチェック方法

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)かどうかは、セルフチェックでも判断できる場合があります。

自宅でのチェック方法
  • 肘の外側に圧力を加えると痛みが発生する
  • 手を握る、物を持ち上げるなどの動作で肘に痛みが生じる
  • 肘を曲げたり伸ばしたりする際に痛みがある

ただし、正確な診断を受け、早期に対処するためには医療機関での検査が重要です。

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の治療方法と治療薬について

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)には、決定的な治療法はありません。

症状や生活習慣に合わせて、活動性改善や物理療法、リハビリテーション、薬物療法などから治療方法を選択します。

ほかにも、装具療法、体外衝撃波治療、鍼治療、自己血注入法、多血小板血漿注入法なども治療の選択肢として挙げられます。

通常、治療目標は肘痛のコントロール、患肢の動作維持、握力と持久力の向上、患肢の正常な機能の回復、悪化や再発の阻止であり、色々な治療法の組み合わせが有効とされます。

活動性改善

肘を休めるほか、誘因となっている生活習慣を正して、そのような活動から離れるようにしましょう。

物理療法

温熱療法、超音波治療、電気刺激療法などが含まれます。

肘周辺の筋肉の強化と、柔軟性の向上を目的としており、痛みの軽減と機能の改善が期待できます。

リハビリテーション

筋力トレーニング、ストレッチ、モビライゼーションなど、筋肉の強化や可動域の改善を目指した運動療法が行われます。

伝統的には、手関節伸筋のストレッチングと強化を行いますが、近年では「エキセントリック(伸張性筋収縮)」エクササイズを行うのが通常です。

薬物療法

テニス肘の痛みと炎症を和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が広く用いられています。

また、症状が重い場合や、ほかの治療法で十分な効果を得られない場合は、コルチコステロイドの局所注射が考慮されます。

薬物療法は痛みと炎症を減少させるのに有効ですが、副作用やリスクが伴うため、長期間の使用には注意が必要です。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):ロキソプロフェン(成分名:ロキソニン)、アセトアミノフェン(商品名:カロナール)などがあります。
  • コルチコステロイドの局所注射:重症の場合に限り、トリアムシノロン(成分名:トリアムシノロンアセトニド)などの局所注射が行われます。

手術

適切な非手術的治療が奏功せず、疼痛と機能障害が持続する場合には、外科的治療が選択肢となりえます。

外科的治療を必要とする患者の数は約4%~11%と推定されており、主に3つの外科的アプローチ、すなわち開腹法、経皮法、関節鏡下手術があります。

手術の焦点は、ECRB腱の修復を伴うか伴わないかを問わずECRBの変性部分の剥離で、文献上のエビデンスによると、これらの手技の結果は可もなく不可もなく良好です。

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の治療期間

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の治療期間は、症状が軽度の場合は数週間〜数か月が一般的ですが、重度の場合は半年以上かかるケースもあります。

再発を繰り返しながら数年かけて進行していく傾向があり、治療方法に関わらず、患者の20%が3~5年後(平均3.9年)に疼痛を報告しています。

症状の程度治療期間の目安
軽度数週間〜数ヶ月
中度数か月〜半年
重度半年以上

症状が軽度の場合は安静や物理療法、軽度の運動療法で改善するケースが多く、中度になると積極的なリハビリテーションや治療薬の使用などが必要となりなす。

重度の場合や慢性化している場合は長期的なリハビリテーションのほか、外科的治療が必要となるケースもあり、長い治療期間を要します。

治療期間に影響する要因

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の治療期間に影響を与える要因は、症状の重さや年齢、日常生活で肘をどのくらい使っているかなど多岐にわたります。

治療期間に影響する要因
  • 症状の重さや病状の進行度
  • 年齢や健康状態
  • 治療方法の種類や治療への反応
  • 日常生活における肘の使用頻度

人によって治療への反応が異なるほか、肘の使い方や生活習慣をどれだけ改善できるかによっても治療期間は変化します。

治療期間中は定期的に医師の診察を受け、治療の進捗を確認しながら、根気よく治療を続けましょう。

治療後の注意点

治療が終了し、症状が改善しても再発する可能性はあります。

再発を防ぐためには、反復運動を行うスポーツを控えたり、筋力トレーニングを継続したりと、予防策の維持が重要です。

特に、肘への過度な負担を避けると、再発防止につながります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の治療は、方法によっては副作用やデメリットを伴うため注意が必要です。

治療法副作用及びデメリット
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用胃腸の不調、心臓病リスクの増加
コルチコステロイド注射注射部位の痛み、腱の弱化
物理療法時間がかかる、継続が必要
外科手術感染リスク、長い回復期間が必要

薬物療法の副作用

非ステロイド性抗炎症薬(例:イブプロフェン、ロキソニン)や、コルチコステロイド(例:トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン)の局所注射は、長期使用により健康に害を及ぼすリスクがあります。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
    • 胃腸の不調、胃潰瘍、腎臓への影響などが報告されています。
    • 長期間の使用は、心臓病や脳卒中のリスクを高める危険性があります。
  • コルチコステロイド注射
    • 注射部位の痛みや感染のリスクがあります。
    • 長期的な使用により、皮膚が薄くなったり、腱の弱化を引き起こしたりするおそれがあります。

物理療法、理学療法、リハビリテーションのデメリット

物理療法や理学療法、リハビリテーションは、筋力と柔軟性の向上に役立ちますが、痛みや不快感を引き起こす場合があります。

また、定期的に通院する必要があり、治療を中断すると効果が半減しかねません。

外科手術のリスクとデメリット

手術には感染や出血、神経損傷のリスクが伴うほか、手術後の回復には長い時間が必要であり、一時的な機能障害や痛みが生じるおそれがあります。

日常生活への影響

テニス肘の予防や治療の一環として、生活習慣の見直しが必要となるケースがあります。

場合によっては、職業や趣味の活動を制限しなければならず、生活の質に影響を与える可能性があります。

保険適用の有無と治療費の目安について

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の治療は基本的に保険が適用されますが、一部の治療では保険適用外となります。

保険適用の治療

発生原因が明らかで、“急性の外傷”に該当する場合は、健康保険の対象です。

薬物療法や装具療法、コルチコステロイド注射のほか、手術治療も保険適応となります。

保険適用外の治療

体外衝撃波疼痛治療や多血小板血漿注入法(PRP療法)などは保険が適用されません。

費用は実施している医療機関により異なります。

 1か月あたりの治療費の目安

治療法保険適用1か月あたりの治療費の目安
薬物療法適用数千円程度
装具療法適用数千円程度
注射適用数千円程度

1か月あたりの治療費は、治療法や症状の重さによりますが、保険適用の治療であれば数千円程度の自己負担額が目安です。

一方、体外衝撃波治療やPRP療法などの保険適用外の治療は、数万円~10万円を超えるケースも珍しくありません。

ただし、これらはあくまで目安であり、症状や治療内容によって差があるため、保険適用の範囲や治療費を医師に確認し、自身の症状や予算に合った治療を選択してください。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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