爪白癬(爪水虫 onychomycosis)とは、主に足の母趾爪に認める真菌感染症です。
爪白癬は足白癬から発生することが多く、爪の白濁、肥厚といった症状をもたらします。
この記事では、爪白癬の基本的な特徴や治療法などについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
爪白癬(爪水虫)の原因・病型
白癬(爪水虫)の原因
爪白癬(つめはくせん)は、広義の爪真菌症(onychomycosis)によっておこる疾患の一つです。
爪真菌症のうち最も頻度が多いのが爪白癬で、足白癬と同様、トリコフィトン属のT.rubrumが主な原因菌ですが、他にT.mentagrophytesやEpidermophyton floccosumといった皮膚糸状菌が原因となることも。
爪真菌症には、他に爪カンジダ症やアスペルギウスなどの腐生菌性のカビが原因のこともあり、主に爪甲、爪床またはその両方に寄生し、爪に変化をもたらします。
爪白癬(爪水虫)の病型
爪白癬が90%以上を占める爪真菌症は、5つの病型に分類されます。
爪真菌症の病型
病型 | 感染部位 | 特徴説明 |
---|---|---|
遠位側縁部爪甲下爪真菌症 (distal and lateral subungual onychomycosis :DLSO) | 爪先や側縁 | 最も頻度が高い(90%以上) |
表在性白色爪真菌症(superficial white onychomycosis: SWO) | 爪甲の表面 | 点状の白濁を認め剥がれやすい |
近位爪甲下爪真菌症(proximal subungual onychomycosis: PSO) | 爪の根元 | 爪の根元から広がり免疫不全患者でよく見られるが、まれ |
全層性爪真菌症(endonyx onychomycosis: EO) | 爪全体 | 爪全体が感染し、爪の肥厚は見られないことが多い |
全異栄養性爪真菌症(total dystrophic onychomycosis: TDO) | 爪全体 | 長年の感染によって爪が崩壊 |
多くのケースでDLSOまたはPSOとSWOの組み合わせを認め、T. rubrumやT. mentagrophytesが原因菌であることがほとんどですが、全層性爪真菌症だけはT. violaceumとT. soudanenseの2菌種です。
症状が異なるだけでなく、治療効果もSWOが治療に反応が高いのに、TDOでは反応が悪いというように病型によって異なります。
爪白癬(爪水虫)の症状
爪白癬(爪水虫)は、足白癬から続いて起こることが多く、特に角化型足白癬の併発を多くのケースで認めます。
爪白癬の一般的な症状
爪白癬の症状
- 爪の変色:爪が白っぽくなったり、黄色くなる。
- 爪の肥厚:感染した爪は、通常よりも厚くなることが。
- 爪の形状の変化:爪が曲がったり、変形したりすることも。
- 爪のもろさ:爪がもろくなり、簡単に割れたり欠ける。
- 爪の周囲の痛みや不快感:感染した爪周辺が痛むことが。
爪白癬(爪水虫)のリスクファクター
爪白癬は、主にトリコフィトン属の真菌によって引き起こされる爪の感染症で、感染のリスクを高める要因がいくつかあります。
感染リスクを高める要因
- 高齢: 爪白癬の有病率は高齢ほど高くなり、70歳以上では約半数で爪白癬を認める。末梢循環の低下や免疫の低下、足の衛生管理の不十分さ、高頻度な爪の外傷などが原因。
- 遺伝的素因: 爪白癬の発生には家族性があり、どちらか一方の親が爪白癬だと、リスクが高い。
- 糖尿病: 糖尿病の患者は爪感染の抵抗力が低下し、爪白癬のリスクが高まる。
- 末梢血管疾患: 末梢循環障害があると、下肢への酸素や栄養の供給が不十分となり、爪真菌症の発症や進行を促す他、爪の発育も妨げ再発の爪白癬の発症・再発ともにリスクが高まる。
- 免疫の低下: 免疫不全患者は爪白癬の有病率が高く、AIDS患者では、PSO(近位爪甲下爪真菌症)が多い。PSOを診たら免疫不全が背景にないかどうかを疑う必要が。
- スポーツやフィットネス:水泳や使用する靴との関連が特に強く、他にプールやジムなど、多くの人が利用する湿った環境も感染リスクを高める。
- 足の衛生状態の不十分さ: 気密性の高い靴を履いた状態で足を清潔に保たないと、感染のリスクがあがる。
- 爪の外傷:傷から菌が侵入しやすくなり、発症リスクが高まる。
生活環境や健康状態に注意し、公共の場所では足の保護と衛生に気を付けることが大切です。
爪白癬(爪水虫)の診断方法
爪に異常が起こる疾患には爪白癬などの爪真菌症の他に、次のようなものがあります。
爪白癬の鑑別疾患
疾患名 | 説明 |
---|---|
掌蹠膿疱症 | 手のひらや足の裏に小膿疱が多発し、爪の変形を伴うことも |
尋常性乾癬 | 慢性炎症疾患で爪の点状陥凹や変形を認めることが |
扁平苔癬 | 爪に溝ができたり変色を認めることも |
厚硬爪甲 | 爪全体が厚く硬くなり、外傷が原因となることが多い |
これらの疾患と鑑別し、爪白癬と確定診断するためには検査が必要です。
爪白癬(爪水虫)の検査
爪白癬の診断に使用される主な検査方法
検査方法 | 説明 |
---|---|
直接顕微鏡検査(KOH法) | 爪のサンプルを顕微鏡で直接観察し、白癬菌を確認 |
培養検査 | 爪のサンプルを培養して、白癬菌の種類を特定 |
PCR検査(デルマクイック) | 爪のサンプルからDNAを抽出し、白癬菌の遺伝子を特定 |
デルマクイック(爪白癬)
爪白癬は直接鏡検(KOH法)によって診断されますが、補助的にデルマクイックが使用されることもあります。
デルマクイックはイムノクロマト法という抗原抗体反応を利用して菌の有無を確認する方法で、KOH法で陰性でも臨床的に強く爪白癬が疑われるケースなどが適応に。
デルマクイックは保険が適用されます。
爪白癬(爪水虫)の治療方法
爪白癬の治療は抗真菌薬が有効ですが、足白癬と異なり、爪白癬は内服治療が選択されることがあります。病変部が限定的で軽度であったり内服ができない場合は、外用薬を使用。
爪白癬の内服薬
爪白癬の治療に用いられる内服薬
治療薬 | 成分 | 用量用法 |
---|---|---|
ラミシール | テルビナフィン | 1回1錠125mgを1回、6ヶ月連日で内服 |
イトリゾール | イトラコナゾール | 1回2錠を2回(400mg/日)×1週間、その後3週間休薬を1サイクルとし、合計3サイクル |
ネイリンカプセル | ホスラブコナゾール | 1カプセル100mgを1回、12週間内服 |
爪白癬の外用薬
爪白癬で用いられる外用薬
治療薬 | 成分 | 用量用法 |
---|---|---|
クレナフィン | エフィナコナゾール | 1日1回爪全体に塗布 |
ルコナック | ルリコナゾール |
爪白癬(爪水虫)の治療期間
爪白癬(爪水虫)の治療期間は、内服薬だと6〜12ヶ月程度です。
治療期間に影響を与える因子
爪白癬の治療期間は、病型や治療法および個々の患者さんの症状によって大きく異なります。
- 病型: 頻度の高いDLSOやSWOは比較的治療に対して反応が高い一方で、TDOは反応が悪く完全治癒が難しいケースが多い。
- 治療法:外用の場合、内服よりも完全治癒率は低く、治療期間は長引く傾向。
- 患者の状態: 末梢循環不全や免疫不全を伴う基礎疾患があると治療に対する反応が乏しく、治療期間が長引くことが多い・
- 高齢: 加齢に伴い爪の生え変わりに時間がかかるため、治療期間は長くなる。
治療期間における注意点
爪白癬の治療期間中は、以下の点に注意が必要です。
- 定期的なフォローアップ:治療の効果を確認し、必要に応じて治療法を調整するために、定期的な診察が重要。
- 治療の継続:治療期間が長くなることが多いですが、指示された治療を正しく継続することが治療のポイント。
- 副作用のフォロー:経口治療薬を使用する場合、肝機能障害などの副作用に注意。
爪白癬の治療は忍耐が必要ですが、治療とケアで改善が期待できます。治療期間中は医師の指示に従い、定期的な診察を欠かさないようにしましょう。
薬の副作用や治療のデメリット
爪白癬(爪水虫)の薬の副作用
爪白癬の治療には、副作用が出ることもあります。
爪白癬治療の副作用
治療法 | 主な副作用 |
---|---|
抗真菌外用薬 | 皮膚の赤み、かゆみ、刺激感、接触皮膚炎 |
抗真菌内服薬 | 胃腸障害、肝機能の異常、皮膚反応 |
爪白癬治療のデメリット
爪白癬治療のデメリット
- 長期間の治療が必要:爪白癬は完治するまでに1年以上の治療が必要になり、患者さんによって通院や治療継続のハードルがあがる可能性。
- 再発のリスク:治療後も爪白癬は再発することがあり、継続的な予防策が必要。
- 治療のコスト:長期間の治療は経済的な負担となる可能性。
治療の副作用とデメリットへの対処法
爪白癬治療の副作用やデメリットに対処するための、注意点がいくつかあります。
- 副作用への対応:外用薬は、極力爪以外に塗布しない。爪周囲に薬がついたら、拭き取ることで副作用を軽減できる。
- 定期的な医師の診察:治療中は定期的に医師の診察を受け、定期的なフォロー採血や副作用の有無を確認。
- 生活習慣の見直し:再発を防ぐために洗浄し、患部を清潔に保つ生活習慣を心がける。
副作用が現れたときは、主治医に相談してください。
保険適用と治療費の目安について
爪白癬(爪水虫)の治療には、健康保険が適用されます。
主な治療薬の薬価
商品名 | 薬価 |
---|---|
クレナフィン(エフィナコナゾール) | 1,475.8円/g、1本3.56gなので約5,250円/本3割負担で約1576円/本 |
ルコナック(ルリコナゾール) | 764円/g、1本3.5gなので2,674円/本3割負担で802.2円/本 |
ラミシール錠125mg(テルビナフィン) | 95.2円/錠、1ヶ月で約2,856円3割負担で約867円 |
イトリゾールカプセル50(イトラコナゾール) | 163.8円/錠、1ヶ月で約9,173円3割負担で約2,752円 |
ネイリンカプセル100(ホスラブコナゾール) | 814.8円/錠、1ヶ月で24,444円3割負担で約7,333円 |
また、足白癬で行われる検査にも保険が適用されます。
KOH法(真菌検査):61点(3割負担で183円)
デルマクイック(基本的に真菌検査が先行):233点(3割負担で699円)
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
日本皮膚科学会ガイドライン 日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019
山口英世. 爪真菌症-疫学, 病因, 臨床病型およびリスク因子-, 日本抗生物質学術協議会. 021; 74(3): 181-201.
Buckley D. Fungal and Yeast Infection of Skin, Hair and Nails. Textbook of Primary Care Dermatology. 2021:243-9.
Cash JC, Bruggemann AC. Tinea Corporis (Ringworm). Family Practice Guidelines. 2020 May 29;11(7):105.
Zusstone EM, Lipner SR. Assessment of Nail Content in the American Academy of Dermatology Patient Education Website. CUTIS. 2020 Aug 1;106(2):93-5.
Pendones-Ulerio J, Martins-Lopes M, García-Garrote F, Hernández-Calvo P, Yuste-Chaves M, Gutiérrez-Zufiaurre MN. Ringworm by Nannizzia nana: Clinical case and literature review. Enfermedades infecciosas y microbiologia clinica (English ed.). 2023 Mar 15.
Reddy A, Joseph N, Khan SP, Bhat S. A mycological study of clinically normal nails and waistbands and their role as sources of infection in patients with tinea corporis. Int J Res Dermatol. 2019 Apr;5:239-42.
Tirkey AS. Ringworms fondness towards steroid: A prospective study.
Maji HS, Chatterjee R, Das D, Maji S. Fungal infection: An unrecognized threat. InViral, parasitic, bacterial, and fungal infections 2023 Jan 1 (pp. 625-644). Academic Press.
Tsuboi R, Mochizuki T, Ito H, Kawano S, Suzuki Y, Naka W, Hata Y, Hamaguchi T, Maruyama R. Validation of a lateral flow immunochromatographic assay for tinea unguium diagnosis. The Journal of Dermatology. 2021 May;48(5):633-7.
Kalekhan FM, Asfiya A, Shenoy MM, Vishal B, Pinto M, Hegde SP. Role of tinea unguium and other factors in chronic and recurrent dermatophytosis: A case control study. Indian Dermatology Online Journal. 2020 Sep;11(5):747.
Sasagawa Y. Internal environment of footwear is a risk factor for tinea pedis. The Journal of Dermatology. 2019 Nov;46(11):940-6.