トレチノインとは、ビタミンAの一つで、肌細胞の再生を促すことで、シミやシワ、ニキビなど多くの皮膚トラブルに対して効果的に働きかけます。
ただし、トレチノインは同じくビタミンAの一種であるレチノールと比べて効果が高い反面、副作用も認めやすい傾向にあります。
この記事では、トレチノインについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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トレチノインの有効成分と効果、作用機序
トレチノインはビタミンAの一つであるレチノイン酸の全トランス型(オールトランスレチノイン酸)で、さまざまな用途に使用されている薬剤です。
有効成分
主要成分であるレチノイン酸はビタミンAの活性形態であり、皮膚の健康を維持するために不可欠な成分です。
ビタミンAにはレチノールなどいくつかの成分があります。トレチノインは医薬品に分類され、クリニックで0.025%〜0.2%の濃度で処方されることが一般的です。
化粧品に配合されるレチノールと比較すると活性は高く、0.025%のトレチノインが0.25%のレチノールと同等だと考えられています。
作用機序
トレチノインの皮膚細胞に対する作用機序
- 細胞分化の促進: 皮膚の新陳代謝であるターンオーバーを促し、皮膚細胞の正常な角化を導きます。
- 細胞再生の加速: 新しい皮膚細胞の生成を促すことで、古い細胞の剥離(ピーリング)を助けます。
- コラーゲン合成の促進: 真皮におけるコラーゲンの合成を促進し、皮膚の弾力性を高めます。
- ヒアルロン酸合成の促進: コラーゲンだけでなく、ムコ多糖であるヒアルロン酸の合成を促す作用があります。
効果
トレチノインの効果
- シミの改善: 皮膚のターンオーバーが促進されメラニンの排泄を促し、シミや色素沈着を減少させる効果があります。
- シワの改善: コラーゲンやヒアルロン酸の合成を促すことで肌の弾力性が高まり、シワを目立たなくします。
- ニキビの改善: 正常な角化を促し、毛穴の詰まりを改善し、ニキビができにくい状態に導きます。
- 皮膚の質感改善: 皮膚の質感を改善し、滑らかで健康的な外見をもたらします。
トレチノインの使用方法と注意点
トレチノインはさまざまな症状に有効な薬剤ですが、副作用で継続できない方もいらっしゃいます。ここでは、トレチノインの正しい使用方法と注意点について詳しく解説していきましょう。
使用方法
トレチノインは、1日1回、夜塗ることが推奨されています。
使用方法
- 清潔な肌に塗布する: 使用する前に、肌を優しく洗浄し、完全に乾かしてください。
- 少量を使用: 副作用を軽減するためには、使い始めは小豆大程度の量を患部に薄く塗布します。
- 点置きして塗り広げる: 塗布する範囲に何カ所かに分けて置き、それから塗り広げると均一に塗布できます。
- 定期的な使用: 効能を最大限に引き出すためには、継続的に使用することが大切です。使い始めは2〜3日に一度の頻度で使用し、状態を見ながら塗る頻度を上げていくと副作用も出にくく継続しやすくなります。
- 保湿剤の使用: トレチノインの前に保湿剤を塗ると、作用が軽減されます。もし乾燥が気になる場合は、トレチノインの後にさらに保湿剤を重ねてください。
注意点
トレチノイン使用時の注意点
- 日焼け止めの使用: トレチノインを使用している間は、日焼け止めを使用して肌を紫外線から保護することが重要。
- 他のスキンケア製品との併用: 他のスキンケア製品との併用時には、成分によって刺激が増す可能性があり、相互作用に注意。
- 妊娠中の使用禁止: 妊娠中や妊娠の可能性がある方は、トレチノインは使用できません。
トレチノインは正しく使用し、注意点を守ることで、安全かつ効果的に利用することができます。ご不明な点があれば、医師に相談してください。
適応対象となる患者さん
トレチノインは以下の特徴を持つ患者さんに特に有効です。
- シミや色素沈着を持つ方: メラニンの過剰な生成によるシミや色素沈着を改善するのに効果的です。その際、ハイドロキノンなどの美白剤を併用すると、さらにその効果は高まります。
- 軽度から中等度の皮膚老化症状を持つ方: 細かいシワや肌の質感(キメ)の悪化など、軽度から中等度の皮膚老化症状を持つ方に特に適しています。
- ニキビがある方: 毛穴詰まりによるコメドから赤い炎症性ニキビまで、幅広いニキビに対してトレチノインは適応となります。
トレチノインの適応
特徴 | 説明 |
---|---|
シミや色素沈着を持つ方 | メラニンの過剰な生成に効果的 |
軽度から中等度の皮膚老化症状を持つ方 | 細かいシワや肌の質感改善に役立つ |
ニキビがある方 | 白ニキビや赤ニキビなどの改善効果あり |
トレチノインが適応しない患者さんの特徴
トレチノインは以下の特徴を持つ患者さんには適していません。
- 妊娠中の方: 妊娠中または妊娠の可能性のある方は使用できません。
- 過去にトレチノインに対する過敏症を示した方: 過去に使用時に過敏症を示した方は、再度の使用を避けるべきです。
- 敏感肌や皮膚疾患を持つ方: 皮膚に刺激を与える可能性があるため、敏感肌や酒さやアトピー性皮膚炎など、特定の皮膚疾患を持つ方が使用する際には注意が必要です。
トレチノインは、すべての方に適しているわけではありません。自己判断での使用は避け、専門医の診断と指導のもとで使用してください。
お子さま、ご高齢の方への使用
トレチノインをお子さまやご高齢の方へ使用する際には注意が必要です。
お子さまへの使用
お子さまに使用する場合の注意点
- 適応を十分に考慮: 皮膚が敏感で、トレチノインの使用は一般的には推奨されませんが、ニキビなど例外的に使用が必要な場合は、皮膚科医の厳密な指示に従う(9歳以上でトレチノイン(0.05%)の安全性は確認)。
- 低濃度からの開始を考慮: 使用が必要な場合、低濃度の製品から開始し、慎重に効果と反応を観察。
ご高齢者への使用
ご高齢者に使用する際の注意点
- 皮膚の薄さ: 高齢者の皮膚は薄く、敏感であるため、トレチノインの使用には慎重な検討が必要。
- 低濃度の製品の選択: 皮膚への影響を最小限に抑えるため、低濃度のトレチノインの使用が推奨。
- 定期的な皮膚のチェック: 使用中は定期的に皮膚の状態をチェックし、異常があれば直ちに使用を中止し、医師に相談。
トレチノインの治療期間
トレチノイン(一般名:レチノイン酸)の治療期間について押さえておくべきポイントを解説します。
トレチノイン治療の一般的な経過
トレチノインの一般的な経過
- 初期反応: 治療を開始して最初の1〜2数週間で、レチノイド反応と呼ばれる皮膚の刺激や皮剥け、赤みなどの症状を認めることがあります。通常これらの副作用は、1ヶ月程度で改善を認めることが多いです。
- 効果実感: 効果は、使用開始から約2〜3ヶ月後に徐々に現れ始めます。
- 長期使用: 最適な結果を得るためには、最低でも6ヶ月から1年は使用を継続してください。
トレチノインの効果は、使用する濃度によっても多少異なります。
トレチノインの長期使用については、最も長くて4年での報告ですが、特に副作用など問題になることはありません。
トレチノインの副作用やデメリット
トレチノインの使用に際しては、副作用やデメリットを理解し、適切な対処が必要です。
トレチノインの主な副作用
トレチノインの使用によって生じる可能性のある副作用
副作用 | 説明 |
---|---|
皮膚の赤み | 使用初期によく見られる反応 |
乾燥と皮むけ | 皮膚の乾燥による副作用 |
かゆみや刺激感 | 使用部位の不快感 |
日焼けのリスク増加 | 紫外線に対する皮膚の敏感化 |
トレチノイン使用時のデメリット
トレチノイン使用時のデメリット
- 長期的な使用が必要: シミの改善には、数ヶ月から1年程度の長期的な使用が必要。
- 日常生活への影響: 副作用のため、日常生活に影響を及ぼすことも。
- 定期的な医師の診察が必要: 副作用の管理や治療の効果を評価するため、定期的な医師の診察が必要。
トレチノインの副作用やデメリットを理解し、適切に対処することが大切です。使用中に問題が生じた場合は、すぐに医師に相談しましょう。
トレチノインが使用できない場合
トレチノインは妊娠中や妊娠の可能性がある方は使用できません。また、敏感肌の方や皮膚疾患のある方も状態によっては使用が推奨されないことがあります。
ここでは、トレチノインが使用できない場合の代替治療法について解説しましょう。
シワに対するトレチノインの代替治療法
シワの改善効果がある成分には、トレチノイン以外にいくつか挙げられます。
- ナイアシンアミド
- ニールワン
- VEP-M(安定化ビタミンE誘導体)
これらの成分は妊娠中でも使用することが可能で、刺激もトレチノインより感じにくい傾向にあるため、刺激によって継続が難しい場合にも向いています。
シミに対するトレチノインの代替治療法
トレチノインはレチノイドとしてターンオーバーの促進を促すことでメラニンを減少し、シミや色素沈着を改善させる成分です。
いわゆる美白成分を持つ成分の中では、メラニンの生成を直接的に抑制するものが、一般的に効果が高いと考えられています。
メラニンの生成を抑制する成分
成分名 | 補足 |
---|---|
ハイドロキノン | 4〜5%はクリニックにて処方 |
アゼライン酸 | 20%の高濃度はクリニック専売 |
コウジ酸 | 化粧品にも配合 |
システアミン | 5%の高濃度はクリニック専売 |
アルブチン | 化粧品にも配合 |
老人性色素斑や雀卵斑などのシミは、レーザー治療やIPLの方が高い効果を認めます。それぞれ治療のデメリットもありますので、一度専門医と相談してください。
ニキビ治療に対するトレチノインの代替治療法
ニキビにおいて、トレチノインは保険が適用されません。
ニキビに保険が適用される外用薬
- アダパレン(ディフェリンゲル)
- 過酸化ベンゾイル(ベピオ)
- アダパレンと過酸化ベンゾイルの合剤(エピデュオ)
- 過酸化ベンゾイルと抗生剤(クリンダマイシン)の合剤(デュアック配合ゲル)
- 抗生剤外用(ダラシン、アクアチム、ゼビアックス)
中でもアダパレンは、トレチノインと同様レチノイド様作用を有する合成レチノイドで、トレチノインよりも副作用を認めにくい特徴があります。
いずれも妊娠中は使用することができません。妊娠中のニキビ治療では、アゼライン酸(保険適用外)や過酸化ベンゾイル、抗生剤の外用が推奨されます。
他の治療薬との併用禁忌
トレチノインは他の成分との併用には注意が必要です。
トレチノインと併用禁忌の成分
ニキビ治療で使われる過酸化ベンゾイルはトレチノインとの併用が禁忌されている成分です。過酸化ベンゾイルと併用することで皮膚の刺激が増すだけでなく、それぞれの効果が減弱する可能性が指摘されています。
トレチノインと併用注意の成分
トレチノインは、単独使用でも刺激が問題になることがありますが、以下の成分と併用するとより刺激が増す可能性があり、注意が必要です。
- サリチル酸やグリコール酸などのピーリング成分
- ビタミンC(特にアスコルビン酸)
- アルコール
- イオウ
トレチノインを使用する際は、刺激性が強まる組み合わせや、互いに効果を弱める可能性のある組み合わせは避けましょう。
安全で効果的な治療を行うためには、これらの情報を十分に理解し、使用する化粧品の成分にも注意してください。
保険適用について
トレチノインは保険が適用されず、自費での扱いとなります。
詳しくはお問い合わせください。
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